第4話 剣聖

 剣聖のジークさんは、レディヴィア王国所属の剣士ではないらしい。

 だけど大きな戦いの時には必ず呼ばれて、共に戦ってくれているらしい。


 ダミアン兄さんともその時に知り合い、仲良くなったらしい。豪快で男気ある兄さんは戦士と仲良くなるのが上手みたいだ。


 屋敷の入り口でそんな話をしていると、屋敷の中から師匠が出てくる。ちょっと喋り過ぎたかな?


「む? 何やら騒がしいと思えばジークではないか。なんじゃ戦でも起きるのか?」


 ジークさんを見た師匠は少し驚いたようにそう言う。どうやら二人は知り合いみたいだ。

 賢者と剣聖。正反対に見えるこの二つだけど、関わりがあるんだなあ。


「これはこれは。まさかゴーリィ殿に会えるとは思いませんでしたよ。貴方もダミアン殿下に呼ばれたのですか?」

「それは違う。儂はその子の師としてここにおる。あ、この事は他に漏らすなよ、色々と込み入ってるものでな」

「ほう。この子が……」


 ジークさんは僕のことを興味深そうに見つめる。

 うう、緊張する……。


「確かに深い魔力を感じるとは思いました。いい修行をしているようですね」

「それを言うならその子……お主の娘じゃろ? その子も中々良い闘気を持っておるじゃないか」


 師匠が指したのはクリスという赤髪の女の子だ。

 確かにこの子はなんというか……隙がない。周りに壁を作ってて人を寄せ付けない感じがする。


 なんだかおっかない子だ。


「クリスには女の子らしい生活をして貰いたかったのですが、当の本人は剣にしか興味がありませんでしてね。こんなに元気な子に育ってしまいました」


 恥ずかしそうにジークさんがそう言うと、クリスが反論する。


「ちょっとパパ。その考えは古いんじゃない? 今は女も強い時代なのよ。この前賢者になった人だって女性だったじゃない」

「はいはい、分かったから少し黙ってなさい。すみませんね、うるさい子で」


 ジークさんは申し訳なさそうに言う。

 いくらお父さんとはいえ、剣聖であるジークさんにあそこまで言うなんて凄いなあ。


「ところでジーク。着いて早々悪いが相手して貰って良いか? 実はさっきまで素振りしててな、まだ動き足りないんだ」


 兄さんがそう言うとジークさんは楽しげに笑みを浮かべる。


「こっちも馬車旅で溜まった鬱憤を晴らしたかった所だ。相手しようじゃないか」


 二人はバチバチと視線をぶつけ合いながら、庭の方へと向かってしまう。

 兄さんとジークさんの試合か……凄い面白そうだ。僕も着いていこう!



◇ ◇ ◇



「ふっ! はっ!」


 兄さんはとても速く、鋭くジークさんに模擬刀で斬りかかる。

 僕では目で追うのも難しい。だけどジークさんはそれを難なく躱してしまう。


「相変わらず鋭い太刀筋。王子にしておくには惜しいです」

「はは、そりゃどうも! 褒め言葉と受け取っておくぞ……っと!」


 確かに兄さんの太刀筋は鋭い。並の兵士よりずっと強いという話も頷ける。

 でもジークさんにはかすりもしない。やっぱり『剣聖』は格が違うんだ。


「どれ、折角ですから私も少し胸を貸して頂くとしますか」


 そう言ってジークさんは片手で剣を振るう。

 いや、振るっ『た』と言った方が正しい。なぜならその剣筋は僕の目には全く見えなかったからだ。模擬刀を左に構えたと思ったら、いつの間にか右側に振り抜かれていた。


 そして振り抜かれた瞬間、兄さんはものすごい勢いで吹き飛んだ。そして三回くらい地面をバウンドした後、なんとか着地する。

 だ、大丈夫なのあれ……?


「はは……! 相変わらず容赦がないなジーク! 王族である俺をそんなにぶっ叩けるのはお前くらいだ!」

「私は殿下を信頼してますからね。これくらいでへばるお方ではないと」

「ガハハ、嬉しいことを言ってくれる!」


 兄さんは笑いながらジークさんに向かっていく。どうやら体は大丈夫みたいだ。あんな吹っ飛ばされ方したら僕の体なんてバラバラになっちゃうだろうなあ……。


「それにしてもジークさん、本当に強い。太刀筋が全く見えないや」

「ふふん、そうでしょ。パパは凄いのよ」


 ……いつの間にか僕の隣にはジークさんの娘であるクリスさんがいた。

 彼女は父親が誉められて嬉しそうにドヤ顔している。パパっ子なのかな?


 ちなみにクリスさんは僕が王子だということを知らない。うっかりダミアン兄さんのことを『兄さん』と呼ばないように気をつけないと。


「ねえ」

「ひゃい!」


 考えことをしてる時に話しかけられ、変な声を出してしまった。案の定クリスさんは僕のことを変な奴を見る目で見ている。

 怪しまれないように自然に接すしないと……。


「ど、どうしたの?」

「それ。あんたも剣やるの?」


 クリスさんは僕が手に持ってる模擬刀を指差したのだった。

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