第3話 客人
師匠が賢者の称号を剥奪されてから、僕は更に熱心に魔法の特訓をした。
『
それも全て二人の凄い師匠がいるおかげだ。
人間目線で魔法を教えてくれるゴーリィ師匠と、精霊目線で魔法を教えてくれるセレナ。二人が凄い親切に教えてくれるから僕は魔法を速く習得できる。
後は……謎に多い僕の魔力にも一応感謝は、してる。
そもそも呪われてなければこんなに多くはなかったはずだけど。
あ、そうそう。あっちの特訓ももちろん頑張っている。
「カルス! あと十本、頑張れ!」
「ひい……ひい……」
全身汗だくになりながら、必死に模擬刀を振るう。切れない刀身とはいえ重さは普通の剣と変わらない。寝たきり生活でスプーンより重いものは持ってなかった僕には重すぎる代物だ。
「きゅ、きゅう……じゅう!」
ノルマを達成した僕はそのまま地面に倒れ込む。
ひぃ……ひぃ……ちょっとスパルタ過ぎない?
「よくやったなカルス! よし、少し休憩するか」
「はひ……」
ダミアン兄さんの許しが出たのでその場に横になり呼吸を整える。
するとどこで控えていたのかシズクがすぐさま現れて僕に水の入ったコップを渡してくれる。
「……ありがと、助かるよ」
「いえ、当然です」
口に勢いよく入れた水はキンキンに冷えていた。
休憩タイミングを逆算して用意してたのかな? だとしたらスーパーメイド過ぎる。
「ふう、生き返った」
「お疲れのようですが大丈夫ですか? あまりこんを詰め過ぎない方が……」
シズクは心配そうな顔で尋ねてくる。
表情が薄くて薄情な印象を持たれがちだけど、本当はすごく優しい人なんだよね。
「ありがとシズク。でも大丈夫、体を動かすのは疲れるけど気持ちいいから」
「……そうですか。ですが辛くなったらすぐにお申しつけくださいね」
「うん」
シズクにお礼を言って兄さんのもとに近づく。
兄さんは僕の百倍は素振りしているはずなのに疲れているようには見えない。流石にここまでは無理だけど、もっと体力はつけたいな。
「……む。来たか」
屋敷の外を見ながら兄さんが呟く。
いったい何が来たんだろう。
そっちに視線を動かしてみると、遠くからゆっくりと一台の馬車が近づいて来た。
よくあんな遠くから気づけるなあ。何かコツとかあるのかな。それとも野生の勘?
「この車輪の音……ふふ、馬車を新調したな。この見栄っ張りめ」
「音で判別してたの!?」
僕には風の音しか聞こえないのに、兄さんは車輪の音の聴き比べまで出来るみたいだ。野生動物以上じゃない、それ?
「カルスも筋トレをすれば出来るようになるぞ。鼓膜も筋肉だからな」
「どんな本にも書いてないと思うよその事実……」
シリウス兄さんはよくダミアン兄さんのことを「筋肉馬鹿」と呼ぶけど、少しその気持ちが分かってしまった気がする。
いや尊敬はしてるよ、うん。
「まあ冗談は置いといて。あの馬車には俺の知り合いが乗っている。仕事仲間なんだが運よく休暇が被ってな、こっちに招待したんだ。いい奴だからカルスも仲良くしてやってくれ」
「そうだったんだ。会うのが楽しみだよ」
この屋敷には使用人と家族以外滅多に人は訪れない。
たまに来るお客さんに外の話を聞くのは僕の数少ない楽しみだ。
「そうだ。俺の仕事仲間の方は、カルスの事情……つまり王子だってことは知ってるが、もう一人の方はそれを知らないから気を付けてくれ」
「もう一人?」
どうやらお客さんは二人いるみたいだ。
それはいいけど、なんでもう一人には説明してないんだろ?
「それはだな……ってもう着いたか。じゃあそれは見てのお楽しみにしとくか。着いてきな」
馬車が屋敷の入り口前に着いたのを確認した兄さんはそっちに向かってしまう。急いで汗を拭き取った僕もその後に続く。
「……ふう。ようやく着いたか。馬車は狭くて好かん、歩いた方が速いしな」
そう言って降りてきたのは燃えるような赤い髪が特徴的な男の人だった。腰には剣を携えてるから剣士なのかな。
ぱっと見は普通の体格だけど、その体から滲み出る
「カルス、紹介しよう。俺の仕事仲間で『剣聖』のジークだ」
「え、剣聖!?」
兄さんの言った『剣聖』という言葉に僕は驚く。
それは一握りの剣士にしか与えられない称号だ。剣士版の『賢者』って言ったら分かりやすいかな。それだけ凄い称号なんだ。
「は、初めまして。お会い出来て嬉しいです」
「こちらこそ会えて嬉しいよ。なんせ君の話はダミアン殿下から話はよく聞いてるからね。一度会ってみたかったんだ」
……いったい兄さんは僕のことをどう話してるんだろうか。
普段の弟バカっぷりを見てると心配になる。
「そうだ。あの子も紹介しないといけないな。ほら、出てきなさい」
ジークさんが馬車の中にそう言うと、もう一人の人物が降りてくる。
「ここが目的地なのパパ? ふーん……中々広そうな屋敷ね」
降りてきたのはジークさんと同じ赤髪を持つ女の子だった。
歳は僕と同じくらいかな。凄い整った顔をしているけど……気が強そうな感じだ。正直苦手なタイプかもしれない。
ジークさんはその子を僕の前まで連れて来て、紹介してくれる。
「私の娘のクリスだ。少々お転婆だが仲良くしてやってくれると嬉しい」
「は、はい。えーと……僕はカルス、よろしくね」
そう挨拶すると、彼女は僕のことをジロジロと値踏みするように見る。そして、
「……弱そうな男ね。もっと鍛えた方がいいんじゃない?」
とても失礼なことを言われてしまった。父親であるジークさんはそんな態度の彼女を叱るけど、あんまり響いているようには見えない。
これは先が思いやれるね……はあ。
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