第15話 魔法都市ラーザット
――――それから少しして、魔法都市ラーザット。
レディヴィア王国の端に位置するこの都市には世界中から魔法使いが集まり、日々魔法の研究に没頭している。
その地に訪れたのは一人の老人。彼もまた魔法使いであった。
大きな建物の前に来た老人は、建物の前にいた一人の男に出迎えられる。
「ゴーリィ様、よくぞいらっしゃいました。奥で会長がお待ちです」
「うむ」
老人は男について建物の中に入っていく。
この建物は魔術協会の本部だ。大陸中に魔術協会は根を張っているが、ここ魔法都市はその中枢なのだ。
「それにしても急にお呼びたてしてしまい申し訳ありません。会長は一度言い出したら聞きませんもので」
「……構いませんよ。それが私の仕事ですから」
「いやあそう言って頂けると助かります。あ、うちの娘がゴーリィ様のファンでして。もしよろしければ後でサインを頂いても大丈夫ですか?」
「は、はい。もちろん」
そう言って老人は愛想笑いをする。
サインを貰えるとわかった男は嬉しそうに礼を言う。
「……さ、着きました。会長は中でお待ちです。それではまた後ほど」
一人残された老人は少しためらいながらもその扉を開ける。
「失礼します」
部屋の中に入ると一人の若い男がそこにいた。いや男というより少年と言った方が近いか。
十代前半くらいの印象を受けるその美少年は、高そうな椅子に座りながら部屋に入ってきた人物に目を向ける。
「……来たね。待ちくたびれたよ」
そう言って楽しげに笑みを浮かべた人物こそ、魔術協会の長エミリア・リヒトーだ。
見た目こそ幼い中性的な少年だが、その年は百をゆうに超える。あらゆる魔法に精通し、『最強の魔法使い』と呼ばれている生ける伝説である。
彼は目の前に立つ人物をジロジロと見ると意地の悪そうな笑みを浮かべる。
「急に呼び立てて悪いねゴーリィ。ちょっと色々ゴチャついててね」
「……いえ。問題ありません」
彼は短くそう返すと、黙ってしまう。
部屋の中に気まずい沈黙が流れる。しばらくは楽しそうにニヤニヤと笑みを浮かべていたエミリアだが、急に興が削がれたのかつまらなそうな顔をする。
「……あのさあ。やるならもっとちゃんとやってくれないかな? 折角楽しくなってきたのに台無しだ」
「っ! な、何のことでしょうか!?」
「三文芝居はもう終わりだ。私に
エミリアはそう言って指を鳴らす。
すると突然ゴーリィの顔の表面がパリン! と音を立てて割れてしまう。そしてその中からなんとゴーリィの弟子であるマクベルの顔が出てきた。
自分の顔が戻ったことに気づいたマクベルは急いで顔を隠そうとするが、遅い。エミリアは彼の顔をばっちりと見てしまっていた。
「光の魔法『
『
しかしエミリアは超一流の魔法使い。わずかな魔力の揺らぎでそれを看破してしまった。
「君は確かゴーリィの弟子だったね。大方あいつの代わりとして授与式に参加しようとしたんだろうけど、そんな不正は見逃せないし見逃さない」
「ぐ……し、しかし!」
マクベルは反論しようとするが、その瞬間エミリアの体から膨大な魔力が放たれ、その圧によってマクベルの体は止まってしまう。
生物としての圧倒的な差。それは彼の対抗心など跡形もなく消しとばしてしまう。
「さて、聞かせてもらうか。式をすっ飛ばした不届き者は、何と言って私の命に背いたんだ?」
心底楽しそうに笑みを浮かべながら、魔術協会の長はそう尋ねる。
しかしマクベルがゴーリィより預かっていた、『バレた時に言え』と言われた言葉を聞き、その笑みは薄れることになる。
「えと、あの……『一昨日来やがれ若づくりジジイが』だ。そうです」
ピキリ、とエミリアの額に青筋が走る。
彼に年と
不穏な空気を感じ取ったマクベルは弁明しようとする。
「あ! 勘違いしないで下さいよ、もちろん私の言葉じゃないでs」
「ほう、上等じゃないか」
「ひぃ!」
部屋中に蔓延する禍々しい魔力。それをモロに浴びたマクベルはその場にうずくまる。なんなら少し漏らしている。
「いいね、そう来なくちゃつまらないよゴーリィ。また会える日が楽しみだ……!」
怒りか喜びか。エミリアは体を震わせながらそう呟くのだった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
[用語説明]
・魔術協会
大陸全土に根を張る巨大な組織。レディヴィア王国に本拠地である魔法都市を置いている。
活動は「魔法学園の運営」「魔法研究」「魔獣討伐」「魔道具作成」「賢者及び大賢者の管理」など多岐に渡る。
長い歴史と高い戦力を持つ協会は小さな国よりも大きな権力を持ち、一国の王の要望すら蹴ることがある。
『魔導の真髄』に辿り着くことを第一目標としているが、政治ゲームに精を出す者も多い。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます