第14話 最悪な一報

「賢者の称号を剥奪されるってどういうことですか!?」


 混乱する中、僕はかろうじてそう尋ねることが出来た。

 マクベルという師匠の弟子はそれを説明してくれる。当然僕のことを知らないので「なんだこの子どもは?」という顔をしているが今は説明している場合じゃない!


「ゴーリィ様は魔法都市にて『大賢者』の称号を賜ることになっていた。本来であれば今から二週間後に授与式を行う予定だったのだが……その予定が急遽一週間ほど早まった。今すぐに出発しないと式に間に合わなくなってしまう」

「そんな……!」


 『大賢者』は賢者より上の称号で、超一流の魔法使いしかなれない。

 歴史の本に記されるほどの存在で、なれるのは魔法使いの中でも数千人に一人の割合。凄い栄誉ある称号だ。


 そんな存在に師匠がなれるのは祝福すべきことだけど、今から魔法都市に行くとなると僕の特訓は確実に見てもらえなくなる。

 魔法都市は遠いから一緒について行くことも無理だと思う。今は痛みが収まっているとは言え僕の体はまだ弱くて旅には耐えられないだろうから。


「それってどうにかならないんですか? それに来なかったら賢者の称号を剥奪するなんてあんまりじゃないですか!」

「……無駄じゃカルス。会長の言うことは絶対、覆ることはない」

「でもそんなことって……」


 あまりにも酷すぎる。偉ければ何をしてもいいわけじゃないはずだ。

 魔術協会ってそんなに酷い組織だったの……!?


「しかしいくら会長といえどこれほど無茶をするのは珍しい。マクベルよ、事の経緯は聞いておらんのじゃな?」


 師匠が尋ねると、マクベルさんはビクッ! と体を震わせる。


「す、すすすすみません。聞こうとは思ったのですが会長の圧に押され」

「謝らんでもよい。どうせ聞いたところでどうにかなるもんじゃなかろからの。それにしても……ふむ……どうしたものか……」


 師匠は困ったように目を伏せる。


 魔法都市に行けば僕の修行はつけられなくなる。どれくらいで帰ってこれるのかは分からないけど、もし半年以上かかってしまったら……『光の治癒ラ・ヒール』を使えない僕は呪いで死んでしまう。


 だけど魔法都市に行かなかったら大賢者になれないどころか、賢者の称号まで剥奪されてしまう。それは魔法使いにとって何より怖いことのはずだ。

 今までの地位や名誉に人脈、それに魔法を研究出来る設備を全て失うことになるんだから。


 師匠がいなくなったら明日にでも『光の治癒ラ・ヒール』の効果は切れて、僕は元の寝たきりの生活に戻っちゃうだろう。でも……


 僕はその選択を迷わなかった。


「行ってください師匠。僕は大丈夫ですから。師匠がいなくても『光の治癒ラ・ヒール』を完成させて見せます」

「カルス、お主……」


 まだ猶予は半年もある。

 寝たきりにはなっちゃうけど、それでも魔法の特訓は出来るはずだ。


「今の僕にはセレナっていう頼もしい仲間もいます。だから大丈夫です」


 不安がないわけじゃない。でも僕のせいで師匠が迷惑を受けてしまうのは絶対に嫌だ。

 

「だから……行って下さい。僕は大丈夫ですから。そして大賢者になって下さい!」


 僕はそう言い放ち、後ろに振り返る。そして逃げるように走り出す。


「おいカルス! 待たんか!」


 呼び止める声が聞こえた気もしたけど振り返らない。そうしたら決意が鈍ってしまう気がするから。


「……はあ、はあ」


 部屋に戻った僕は、ぎゅうっと痛む胸を押さえながらベッドに潜り込む。

 そして不安がこれ以上膨れないようにぎゅっと目を瞑って布団の中にうずくまる。


 またあの寝たきりの日々に戻るのは怖い。怖いけど……これでいいんだ。

 だって僕のために師匠の人生がめちゃくちゃになるなんて、絶対にあってはいけないことだから。


「さようなら師匠。お元気で……」


 僕の人生で初めて出来た師匠にお別れを言い、僕は深い眠りの中に落ちていくのだった。

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