第13話 急変はノックと共に
「おいダミアン。貴様カルスに無茶なことさせてないだろうな? 返答によってはその首を刎ねさせて貰うぞ」
「俺がカルスにそんなことする訳ないだろうが。お前こそまたベタベタしてカルスを困らせたんじゃないだろうな?」
夕方。家族みんなで食事を取っていると、二人の兄さんが早速口喧嘩を始める。
二人は昔から犬猿の仲で、顔を合わせるとしょっちゅう喧嘩している。ただ普段の仕事ではちゃんと連携が取れているらしい。
性格の相性は悪いけど、仕事の相性はいいのかもしれないね。
「お前たち、いい加減にしなさい。カルスが困っているではないか」
言い争いを続ける二人にそう言ったのは僕の父上、つまるところこの国の国王だ。
厳しくも優しい父さんは国民からの信頼も厚くて、僕にとって自慢の父さんだ。
我が強い二人の兄さんも流石に父さんには口答え出来ない。しゅんと大人しくなると静かに食事に戻ってしまった。
「すまないなカルス、久しぶりの食事だというのに」
「僕は大丈夫ですよ父上。少しくらい賑やかな方が楽しいですから」
「はは! こりゃ大物だ。王位はカルスに継がせるのも面白いかもしれないな」
「ちょ、やめてくださいよ父上!」
お酒を飲んで気持ちよくなってるからなのか、父さんはとんでもないことを言い出す。言っていい冗談と駄目な冗談がある。
ほら、兄さんたちだって呆れて……
「カルスが国王? ふむ……それもいいかもしれないな! シリウスみたいな堅物に任せるよりはずっといい!」
「それはこっちの台詞だ。お前のような脳味噌が筋肉で出来ている奴に国を任せたら三日も持たない。その点カルスなら安心だ、私が補佐に就くしな」
駄目だこの兄たち、何とかしないと……。
そんな王族らしからぬ賑やかで騒がしい食事風景を、隣に座る母さんは楽しそうに眺めていた。
「いつ以来かしらねこんなに楽しい食事は。貴方のおかげよカルス」
「へ? 僕のおかげ?」
「ええ。ダミアンとシリウス、二人は小さい頃から仲が悪くて本当によく喧嘩したわ」
「でもそれって今も変わってなくないですか?」
そう聞くと母さんは「そうね」と言ってくすくすと笑う。いったいどういうことなんだ?
「確かに今も喧嘩はしてるけど、昔はもっと酷かったのよ。それこそ本当に命の取り合いをしてしまうのではないかと思うほどに。
でも貴方が生まれてから二人は変わった。誰よりも辛い境遇でも弱音を吐かず、そして誰にでも優しい貴方を見て二人は争うことの愚かさを知ってくれた。とても感謝してるわ」
「そんな、僕は何もしてないよ……」
なんだか恥ずかしくて頭をポリポリかく。
僕が優しくあれたのなら、それは周りのみんなが優しかったからだ。僕は何にも凄くはない。
でも僕みたいな半端者が兄さんたちに影響を与える事が出来たというならそれは、とても誇らしいことだと思った。
◇ ◇ ◇
楽しい食事の時間を過ごした僕は、その後師匠と会って少しだけ今日の復習をしていた。
午後はあまり修行が出来なかったらその分の穴埋めだ。師匠はあと一週間と少ししかここにいられない、時間は無駄に出来ない。
「ここを……こう、でしたっけ?」
「それではいかん。もちっとここは丁寧にだな……」
いつも通り魔法を教わっていると、部屋がノックされてまたシズクが入ってくる。
もう夜なのに珍しい、どうしたんだろ?
「夜分に失礼いたします。実はゴーリィ様にお客人が来てまして、ただいま玄関の方に待って頂いているのですが……何やら急いでいるご様子でした」
「儂に客人? いったい誰じゃ?」
「名前はマクベルとおっしゃってました。若い男性です」
「ほう、奴か。いったい何の用でこんな所に来たんじゃろうか」
どうやら師匠の知り合いみたいだ。
急いでるみたいだし、会ってもらった方がいいよね。
「僕は大丈夫なので会ってください」
「おお、すまない。ではお言葉に甘えて会ってくるとしよう。マクベルは儂の弟子の一人、カルスも会っておくといい」
「そうなんですね、じゃあ僕も行きます」
師匠と共に玄関に向かう。
そこには二十歳くらいの男の人が立っていた。あの人がマクベルだね。
確かにシズクの言う通り急いでるみたいで、周りをキョロキョロして落ち着かない。いったいどうしたんだろう?
「よく来たなマクベル。一体何用じゃ?」
「ご、ゴーリィ様! 良かった出会えて……じゃなくて、大変なんです!」
「何じゃやかましい。もう夜なんじゃから静かにせんか」
「それどころじゃないんですよ! 今すぐに私とここを発って魔法都市に向かってください、ゴーリィ様に召集がかかったんです!」
「召集じゃと?」
師匠は顔を曇らせる。
ど、どうしよう。師匠が行ってしまったら修行はどうなっちゃうの!?
「今からとはいくら何でも急過ぎるじゃろうが。
「会長のエミリア様です! 会長はもし期限内に来なければ『賢者』の座を剥奪するとまで言っておりました。お願いです、出発の準備を……!」
事態は急変する。
僕は目の前で道が閉ざされていくのを黙って見ている事しか出来なかった。
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