第10話 彼だけの上達法
セレナと話した次の日、僕はいつもの様に師匠と魔法の特訓をしていた。
「ではまず初めに『
「はい!」
右手に魔力を集中して、魔法の準備をする。
するとどこからともなく光の精霊であるセレナが現れて、ふよふよと近づいてくる。凄いそっちが気になるけど今は魔法に集中だ。
師匠にはセレナの姿は見えてないだろうし、反応したら変に思われてしまう。
気を取り直し、魔法を発動する。
「
その言葉を口にした途端、セレナは魔力が溜まっていた僕の右手を触る。
そして溜めていた魔力を吸い取ったかと思うと、今度は指先から光を出してそれを丸め、僕の右手の先に置いてくれた。
へえ……いつもは見えてなかったけど、こうやってたんだ。
「ん? どうしたカルス、ぼうっとして」
「あ、すみません! 集中します!」
「うむ。では次は光の玉を動かしてみい」
師匠の指示に従い、光の玉を動かす。
魔法とは魔法使いと精霊の共同作業だ。魔法使いが頭で念じたことを精霊が汲み取り、初めてそれは魔法に反映される。
だけど思っただけじゃ漠然としたことしか伝わらないから『呪文』を口にしないといけないのだ。
動かすくらいなら思っただけで伝わるけど、より詳細に的確に指示を出すときはそれを口にしたほうが早い。
「
光の玉が分かれて二つになる。
「
分かれた光の玉の片方がその場で回り出し、もう一つが少しづつ大きくなっていく。
……うん、いい感じだ。
師匠も満足そうに頷くと、手を叩き終了の合図を出す。
「うむ、それまで。『
「ありがとうございます!」
そう褒められるとお世辞でも嬉しい。
いつか他の同い年の魔法使いにも会ってみたいな。
「では次の魔法を教える。その名も『ラ・イジー』。人間の言葉にすると『光の刃』。光で出来た短刀を作り出し、攻撃する初級魔法じゃ。やってみい」
「はい。えーと……
手から光の粒子が出てナイフの形に……なりそうだったけど消えてしまう。
「あれ?」
「ほほ、まあ最初から出来たら苦労せんわ。形や効果が複雑になるほど魔法は難しくなる。光の玉と短刀では作りの複雑さが全然違う。そりゃ難易度も上がるというものじゃ」
「むむむ。これは苦労しそうだなあ」
どうしたら上手くいくかなと考えていると、セレナが僕の近くにポン! と現れた。
そして空中にふよふよと浮きながら僕にしか聞こえない声で尋ねてくる。
「ねえキミ。ナイフを作るのはいいんだけどさ、どんな形がちゃんと言ってくれないと困っちゃうな」
「え? ああ、そっか」
僕は頭の中にざっくりとナイフの形を想像していた。だからセレナがそれを読み取れなくて上手くいかなかったんだ。
「でも僕、ナイフに詳しくないんだよね。どうしたらいいんだろう?」
「何か手本になるものとかないの? それを見せてくれたら合わせるわ」
「……それでいいの?」
驚いた顔でそう尋ねると、セレナは「ええ、それが一番手っ取り早いでしょ?」と言う。
確かに手っ取り早いけど、そんな簡単な方法でいいんだ。ええと、ナイフなら机の中に……あった。
何年か前に兄さんに貰ったお土産だ。異国のナイフで変わった鉄を使ってるみたいだけど、見た目は一般的な物だ。これなら真似しやすい。
「じゃあセレナ、こんな形でお願い」
「オッケー。君もちゃんとこの形を頭に浮かべるのよ」
ナイフを触って実際にその大きさ、形を頭に入れる。
そしてそれをしっかりと
「
手の平から再び光の粒子が出て、今度はしっかりとしたナイフの形に固まる。
まだ細部の再現が甘いけど、しっかり刃も鋭い。これならちゃんと斬れると思う。
「見ましたか師匠! これなら……あ」
師匠は僕のことを怪しい人を見る目で見ていた。
そりゃそうだ。突然一人で話し始めるのだから不審に思って当然だ。
「……大丈夫か、カルス。何か変な物でも食べたのか? それとも毒でも盛られて幻覚を」
「ち、違うんです師匠! これには訳が!」
弁明しようとするけど師匠は話を聞いてくれない。
こうなったら本当のことを言うしかないか。まだ精霊のことをよく分かってないからもうちょっと後になってから言おうと思ってたけど、仕方ない。
「ごめんなさい師匠! 黙ってたんですけど、実は僕、精霊が見えるようになったんです!」
「何を言うかと思えば馬鹿なことを。では儂の精霊も見えると言うのか?」
「えと、それは見えないですけど……あ。セレナには見えるの?」
「へ? あのお爺さんに憑いてる精霊なら見えるわよ。金色の鷹みたいな精霊ね」
「金色の鷹? うーん、でもその情報だけじゃ信じてもらえないか」
師匠にも自分の精霊は見えてない。それを伝えた所で師匠には答え合わせのしようがないのだ。
だけど師匠は僕の言葉を聞いた途端、驚いた表情を浮かべる。
「金色の、鷹と言ったか? それは自分のことをなんと呼んどる?」
「えーと……イエニアという鷹みたいです。それがどうかしたんですか?」
セレナから聞いたことを師匠に伝える。
すると師匠は「そう……か」と呟いて椅子に腰を下ろす。
そしてしばらく沈黙した後、驚きの一言を口にした。
「イエニアは儂が幼少の頃、共に過ごした鷹の名じゃ。死に別れ随分と経つが……お主はずっと共におってくれたのじゃな」
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