第11話 導きの翼

 師匠の口から出た言葉に、僕は驚いた。

 師匠に憑いてる精霊が、子どもの頃に仲良かった鳥だった? そんなこと本当にあるの?


「セレナ、精霊って精霊として生まれる訳じゃないの?」

「……強い思いを持った動物霊は、たまに精霊となることがあるわ。でもそれはレアケース、ほとんどの精霊は精霊として生を受けるわ」

「そうなんだ」


 だとしたら師匠に憑いている精霊は、本当に昔仲良かった動物なんだ。

 師匠はしばらく俯いた後、顔を起こして僕に尋ねてくる。


「カルス、聞いてくれぬか。イエニアは何か言っておらんかと」

「え、あ、はい。えっと、セレナお願い出来る?」


 セレナを通して金色の鷹、イエニアの言葉を師匠に伝える。

 正直この作業で一番大変なのはセレナだ。セレナはこの中で唯一人間と精霊の言葉を両方理解しているので、ただ伝えるだけじゃなくて『翻訳』する作業もいるからだ。


 セレナいわく、精霊で人間の言葉が喋れるのはほんの一部にしかいないらしい。これが出来るのも『精霊の姫』だからなのかな?


「えっと……『気づいてくれて嬉しい。立派な魔法使いになったなゴーリィ、誇らしく思うよ。これからもよろしく頼む』だ、そうです」

「……ふん。礼を言うのはこっちの方じゃわい」


 師匠は目元に涙を浮かべながら悪態をつく。

 そして何もない空間を見つめ、話しかける。


「こんなよぼよぼの爺でよければ、今後ともよろしく頼む。我が導きの翼よ」


 そう言って師匠は何もない空間をなでる。

 そこには確かに何もない。でも僕はそこに確かに金色に光る鳥の姿を感じたのだった。



◇ ◇ ◇



「……幼き頃、儂は病弱な少年であった。お主のように部屋から一歩も出ることが出来なかった」


 しばらく沈黙していた師匠は、突然そう切り出して来た。

 そんな時期があったなんて意外だ。

 

「窓から外を眺めることだけが儂の楽しみじゃった。そんなある日、儂は外で地面を這いずる一羽の雛を見つけた。自分とその雛を重ねた儂は、その雛を育てることにした」

「その雛がイエニアだったんですね」

「左様。イエニアは儂の最初の友だった。同じ時を過ごし、種族は違えどイエニアとは強い絆を育んだが……儂の体が元気になる少し前に、イエニアはやまいで亡くなってしまった。ゆえに儂は自分に光魔法の才があると知った時、それを病で苦しむ者のために使おうと決めたのだ」

「……そんなことがあったんですね」

「遠い、遠い記憶じゃ。その名を聞くまで思い出せなかったほどの昔話。じゃがイエニアは今も儂のそばにおってくれた。これほど嬉しいことはない」


 すごい話だ。

 師匠は五十年以上魔法使いをしていたはず。イエニアはその間ずっと師匠を陰ながら支えてたんだ。自分の存在が気づかれないと分かっていても。

 共に過ごした期間は数年だったけど、その絆は本物だったんだ。


 師匠は僕と目を合わせると、皺が深く刻まれた両手で僕の手を握る。


「ありがとうカルス。大切なことを思い出させてくれて。そして何より友の言葉を教えてくれて」

「そ、そんな。僕はセレナの言葉を伝えただけで……」

「それが出来る者が、果たして何人この大陸に存在することか。賢者ゴーリィの名に誓って断言する。お主は特別な人間じゃ」


 今までそんな事言われた事ないから、なんだかむずむずする。

 嬉しくて照れ臭くって。なんだか変な感じだ。


「しかし……その力は他の者には黙っていた方が賢明じゃろう。悲しいことじゃが、悪用しようとする輩は多勢おる」

「それはセレナ、えーと僕に憑いている精霊も言ってました。なので今のところ師匠以外に伝える気はありません」

「うむ、それでいいじゃろう。セレナ殿も感謝する、これからもカルスをよろしく頼む」


 そう言って師匠は僕の右側の空間に頭を下げる。

 ……ちなみにセレナはそこにはいない、通訳が疲れたのか僕の頭に顎を乗せてグデッとくつろいでる。わざわざ師匠にそれは伝えたりはしないけど。


「……少し時間を使いすぎたな、すまない。そろそろ特訓に戻るとしよう。よいな? カルス、そしてセレナよ」

「は、はい! よろしくお願いします!」


 魔法と精霊という不思議な存在に心惹かれながら、僕たち四人は暗くなるまでそれの探究に没頭するのだった。



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・みんなで埋めよう!精霊図鑑!(レア度付き)


【VR】

導きの翼 イエニア[光鷹]

金色の羽毛を持つ鷹。死した際は低位の動物霊に過ぎなかったが、友を想う気持ちが結実し、光の精霊へと昇華した。

友を陰ながら支えた続けた鷹は、長い時を過ごす中で上位精霊へと至った。

好きな食べ物は豚肉。


【N】

分たれぬ絆 イエニア[霊鷹]

少年が友とした一羽の鷹。

鷹は魂の存在となった時、輪廻の渦に還ることを拒んだ。

例えそれが自己満足だったしても、ただ一人の友人を見捨てることなど出来なかったから。

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