第8話 光の姫君
「うぅ、体がバキバキだ……」
悲鳴を上げる筋肉をさすりながら、僕はベッドの中に入る。
ダミアン兄さんの特訓は想像通り大変で、僕はたっぷりと扱かれてしまった。
戦士としての経験が豊富なだけあって、兄さんは僕の体力の限界を見極めていて、そのギリギリを突いてきていた。これならすぐ体が鍛えられそうだ。
「ふあ……今日はよく寝れそうだ……」
魔力も体力も減ってしまっている僕は、心地よい倦怠感に包まれながら深い眠りへと落ちていくのだった……。
◇ ◇ ◇
「すー、すー……ん……?」
月明かりが部屋を薄く照らす深夜。
僕は奇妙な感覚を覚え、目を覚ました。
「うぅ、眠い……」
油断したら閉じそうになる目を擦りながら、ゆっくりと体を起こす。
すると目の前にふよふよと浮く、光の玉が目に入った。
「へ?」
見た目は光魔法『
辺りを見回してみるけど、師匠もいない。じゃあいったい誰が?
緊張しながら光の玉を観察する。
その玉は一ヶ所に留まらず、僕の周りを行ったり来たりと忙しなく動く。まるで僕を観察しているみたいだ。
しばらくそうしていた光の玉は、満足したのか僕の正面に止まる。
そして一際大きな光を放ったかと思うと……急激に大きくなり、なんと人の形となった。
「……初めまして、人間さん。私の姿、見えてる?」
「――――っ!?」
突然の出来事に混乱し、言葉を失った僕は無言で首を縦に何度も振る。
それを見た謎の人は「よかった」と嬉しそうに笑う。
キラキラと輝く長い
彼女はふよふよと空中に浮かびながら僕のことをジッと見つめて離さない。
い、いったいこの人は何者なんだ……!?
「あの、貴女は?」
「ああごめんなさい。急に出てきてびっくりしちゃったよね」
彼女はそう言うと、仕切り直して自己紹介する。
「私の名前は『セレナ』。君についた光の精霊よ」
「えぇ!? せ、精霊って、あの!?」
彼女の思いもよらぬ言葉に、つい大声を出して驚いてしまう。
だ、だって精霊って見ることが出来ないはずなのに。なんでこんなにハッキリと見えて、しかも会話まで出来てるの????
突拍子がなさすぎて、彼女のことはまだ信頼できないけど……嘘をついてるようには見えない。ひとまずもうちょっと話してみてみるしかないか。
「えと……僕の名前はカルスと言います」
「それくらい知ってるわ。だって私は君が魔法を使い始めてからずっと側にいるんですもの」
そう言って彼女はくすくすと楽しそうに笑う。
本当に精霊なら確かにそうなるか。……いや、それはかなり恥ずかしいぞ? お風呂とかにもついてきてるのかな。
「安心して、お風呂の時とかは目をつぶってるから」
「来てはいるんだ……」
全く安心できない。
いやそんなことよりももっと聞かなきゃいけないことがたくさんある。
「貴女が普通の人間じゃないことは見れば分かります。それに貴女からは魔法を使うときに感じる不思議な力を感じる、精霊だとしてもおかしくはありません。
でももし本当に精霊なのでしたら、何で僕は貴女の姿が見えるんですか?」
「それは簡単。君が祝福を受けているからよ」
彼女はそう言うと僕の左胸を指差す。
祝福、と言われてもピンと来なかったけど、そこを指すということは答えは一つだ。
「それってこの『呪い』のことですか?」
「そ。私も詳しくは知らないけど、それを持って生まれた人は精霊のことを見ることが出来ることが多いらしいわ」
「そうなんだ……」
全く知らなかった。ていうか人間でそのことを知っている人はほとんどいないと思う。
僕みたいな生まれつき呪いを持つ人を『忌み子』と呼ぶけど、忌み子のほとんどは小さい内に死んでしまう。だから精霊が見えると言っても子どもの戯言だと信じて貰えないんだろうな。
まさか呪いのおかげで精霊とお話しできるなんて。師匠が知ったら驚くぞ。
「それで……セレナさんは何で僕の前に現れたんですか?」
「呼び捨てでいいわ、私もカルスって呼ぶから。魔法使いと精霊は一心同体なんだから距離があっちゃいけないでしょ?」
「わ、わかったよ、ええと……セレナ」
少し恥ずかしいけど呼び捨てで名前を呼ぶ。
するとセレナは満足そうに笑う。
「ふふ、なあにカルス? 何でも答えてあげる♪」
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