第6話 目覚ましい成長

 魔法を習得する過程で、もっともつまずく者が多いのが今カルスがやっている『魔法を体外に出す』行為じゃ。


 魔法を使うに充分な魔力を持つ者であれば、体に魔法を宿すことはそれほど難しくない。しかしその次の段階となると急に出来る者が減ってしまう。


 かくいう儂も今は『賢者ゴーリィ』などともてはやされておるが、若い頃は中々このステップをクリアすることが出来ず、苦労したものじゃ。


 言い訳にはならんが光魔法は他の魔法と比べて習得が難しいと言われておる。

 その原因は諸説あるが、儂は『光の精霊には気まぐれ者が多いから』だと思っておる。なんせ魔法の調子が悪い時は、精霊を褒めるようなことを言うと途端に調子が戻るからの。


 こんなこと他の魔法使いに言っても信じてもらえんじゃろう。


 じゃからカルスも時間がかかってしまうじゃろう。

 そう思っていたのだが……


「……なんじゃこれは」


 部屋に入った儂が見たのは、宙に浮かぶ無数の光の玉じゃった。

 それもただ数が多いだけではない。


 大きいのから小さいの。光が強いのに弱いの。

 元気に動き回ってるのもあればその場にとどまっているのもある。


 ……こんな風に自在に動かす方法を教えた覚えはないのじゃが。


「あ、師匠! おはようございます! 見てください、八個まで光の玉を出せるようになりました! 頑張れば十個はいけると思うんですけど、さすがに操作コントロールしきれなくなると思うんで八個で止めてます!」

「そ、そうか」


 いや八個でもやばいわ。

 そう言いかけて言葉を飲み込む。


 そもそも魔法を同時に複数動かすと言うのは訓練なしに出来るようなことではない。

 例えるなら左手と右手で別の図形を描くようなものじゃ。三個四個と増えれば足を使って絵を描くようなもの、特殊な訓練なしに出来ることはない。


「それを、こうも容易くやるか」


 才能がないと思っていたわけではない。

 しかしそれでも……規格外じゃ。年甲斐もなく胸が高鳴ってしまう。


 呪いを克服するために魔法を習うあの子にこんなことを思うのは不謹慎なのやもれしれぬ。

 しかしそれでも儂は期待してしまう。この子なら賢者、いやそれよりもっと上の存在になれるかもしれん、と――――。


「よし、では今日中に十個の光の玉を操作できるようにしよう。厳しくいくぞ?」

「はい! よろしくお願いいたします!」


 独学でここまでやっていたカルスにコツを教えると、見る見る間に彼は上達していってしまう。


 この子は本当に物覚えがいい。

 まるでスポンジのように教えたことを吸収してしまう。


 覚えなければ死んでしまうから、という理由ももちろんあるじゃろうが、それよりも楽しいのだと思う。学ぶことが――――何よりも。


 恵まれた者はどうしてもその上に胡座あぐらをかいてしまうが、この子にはそれがない。ひたすらに真っ直ぐで懸命でひたむき。それは魔法使いにとって何よりの『強み』となる。


「やれやれ、育てるこっちが試されてる気分じゃわい」


 誰に言うでもなくそう小さく呟いた儂は、見つけた原石を壊さぬよう、慎重に丁寧に指導するのだった。

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