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「豪華なドレスはないが、娘が残したドレスがあったから、少し動けるならそれに着替えなさい」
「娘?」
「私のお母さん。私を産んで死んじゃったの」
いつの間に戻って来ていたのか、ラッシュの孫娘がリーリエのベッドの傍に座っていた。
「……そうなのね」
「前王時代の時に、ひどい圧迫をここらの地域は受けてな……その日食べるのもやっとのことだったんじゃ……。この子が生まれるころにはクノリス様が全土を統治してくださって」
国民からクノリスのことを聞くのは初めてだった。
「クノリス王はいい王ですか?」
「いい王だな。確実に前王に比べたら」
はっきりと言い切るラッシュに、リーリエは「それはよかったです」と優しく微笑んだ。
「ところで、あんたは何者なんだ?王宮で働いているにしては、随分と小汚い格好をしていたが」
「あの……私は」
隣国から女王になるために嫁いできた姫と身分を明かしてしまってもいいのだろうか。
リーリエが悩んでいた時だった。
馬の蹄の音と、馬車の音、人々の話し声が家の外から聞こえて、リーリエは身構えた。
ノルフ達が戻って来たと思ったのだ。
ノックの音が聞こえて、ラッシュは孫娘をリーリエが寝ているベッドの裏に隠した。
「何の用だ?」
ラッシュが低い声を出した。
「王宮の者だ。開けてもらおう」
威圧するような声色だったので、ラッシュは一瞬怯んだが「証拠を見せろ」と応戦した。
「じっちゃん、大丈夫かな……」
孫娘が心配そうに頭を上げて様子を見ようとしたので、リーリエは「隠れていようね」と囁いた。
「ラッシュじいさん!俺だよ!グラムだよ!この人らは王宮の人だ!」
ドアの外から、ラッシュの聞き覚えのある声が聞こえたらしい。
ラッシュは「分かった」と扉を開けた途端、部屋の中にものすごい剣幕でクノリスが乗り込んで来た。
クノリスはリーリエの姿を見つけると、驚いているラッシュを無視してリーリエのところへ駆け寄った。
***
「無事か……」
人目もはばからず、クノリスはリーリエを抱きしめる。
「無事です」
クノリスに抱きしめられた瞬間、張り詰めていた気持ちが緩み、瞳から涙がこぼれてきた。
あまりにクノリスが強く抱きしめるので、やけどをした箇所が痛み「あの……痛いです」とリーリエは少しだけクノリスから距離を取った。
クノリスは、リーリエの傷を見た瞬間、傷ついたような表情を浮かべた後、ものすごい形相で怒りをあらわにした。
「誰がやった?」
見たこともないほどクノリスが怒っているので、リーリエは驚いた。
「おじさん、こわい……」
ベッドの脇で二人のやり取りを見ていた、ラッシュの孫娘が泣きそうな声で言ったことで、クノリスは我に返ったようだ。
「こら!マッシュ。何と言うことを!」
クノリスが位の高い人間だと分かっているラッシュは、慌てて自分の孫娘、マッシュを回収し、クノリスに頭を下げた。
「大変申し訳ございません。まだ年端もいかない娘でございます。どうぞお許しを……」
「こちらこそ、取り乱してしまって、申し訳なかった。彼女を保護していただきまして、ありがとうございます。あなた方には存分に褒美を取らせます」
「とんでもございません!私はたまたま遭遇しただけでして」
今にも地面につきそうなほど、頭を下げてラッシュは首を横に振る。
「クノリス様。リーリエ様。馬車の準備が出来ましたのでそろそろ」
一人の兵士が、家の中に入って来て頭を下げた。
「え……まさか……あなたは……」
さっきまで「お前さん」と呼んでいたラッシュの顔が真っ青になった。
「彼女は、リーリエ姫。グランドール王国の姫君であり、私の妻、そしてこの国の女王になる女性だ」
「お姉ちゃんお姫様だったの?ドレスを何で着てないの?」
クノリスの説明に、マッシュが怪訝そうな表情で見ている。
確かにお姫様ときたら、ドレスというイメージなのだろう。
「こら!マッシュ!」
ラッシュの叱る声が、小屋の中に響き渡った。
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