第12話 私たちのふるさと

「冬休みだ~~!」

「叫ぶな」

今日から冬休みだった私たちは、二人そろって実家に帰省していた。今は駅のホーム(東京駅)で新幹線を待っている。

「私たち、同じ東北出身だから途中まで一緒だね♪」

「何で新幹線で・・・・・・二人分の料金高かったんだぞ!」

「ごめんごめん、あとでちゃんとお金返すから」

それは絶対に金を返さない者が言うセリフだ。

「せっかく東京駅に来たんだし、何か買っていけばよかったのに。ご飯も結局コンビニのおにぎりじゃん。レストランあったのに」

「めんどくさいしいつでもこれるだろ。そして何だその荷物は」

私は日菜が背負っている大きなピンク色のリュックサックを指差す。

「親戚にご挨拶するときのお土産」

「お前何故かそういうところだけ律儀だよな」

「あ、新幹線来たよ」


自由席にしたので私たちは隣同士で座る。

「何か不思議な感覚だね。実ちゃんと二人で新幹線に乗るなんて。しかも席も隣同士だもん」

「お前から目を離すと何をするか分からないんだよ・・・・・・」

私は大きなため息を漏らす。せっかくの休みなのに何でこんなに疲れなきゃいけないんだよ・・・・・・

「そういえば何で学園の新幹線じゃないんだ? あれの方が早いような・・・・・・」

「学園の新幹線は学園内の移動専用なの。さすがに全国には行けるようになってないよ。全国に行けちゃったら、外部の人が入ってきちゃうからね」

「へ、へぇ・・・・・・」

学園内を新幹線で移動するって・・・・・・やっぱりとんでもなく広いんだな・・・・・・

「あれ? ご両親は?」

「あの馬鹿共は、私が渡した金で遊ばせてるよ。長期休みまで一緒にいられたらたまったもんじゃないないからね」

「何かごめん・・・・・・」

「いや、気にするな。それよりもう出発するぞ」

電車が動き出す。

「おぉ! 走った走った! 見て実ちゃん!」

「やかましい。お前は何歳児だ」

こいつはいつも幼い子供のようにはしゃぐな・・・・・・ほんとに同じ年の子供か?


「そして寝るんかい」

走行開始から30分。こいつはもう夢の中だ。

「お飲み物とお菓子はいかがですか?」

「おぉ、びっくりした。じゃあ私はコーヒーで。こいつは・・・・・・」

さすがに勝手に決めるのもかわいそうなので、日菜を起こすことにした。

「日菜、車内サービス来たぞ。何食べたい?」

肩を叩き、体を揺さぶりながら質問する。

「えぇ~?・・・・・・えっとね~実ちゃんが食べたい!」

「は?」

一体どんな夢見てんだよ。しかも寝癖もすごいし。

「板チョコ三枚お願いします。それとりんごジュース一つ」

「かしこまりました。990円になります」

車内販売高ぇな。

「ありがとうございました」

「どうも」

今日の教訓、車内販売は高い。

「よし。私も新幹線の旅を満喫するとしよう」

まずはスマホで写真を撮って、ツイッ○ーでつぶやいて・・・・・・

「やることねぇ・・・・・・」

いや、まだスマホゲームがある!

「バッテリー残量ねぇし・・・・・・」

さっきの写真を撮ったのと、ツイッ○ーでつぶやいたのを最後に、スマホの電源がオフになった。

「・・・・・・コーヒー飲むか・・・・・・」

あ、美味い。なかなかやるな。

「寝るか」

このままボーっとしているよりも寝たほうが絶対にいいだろ。最近不眠気味なのと、疲れが溜まって私の体がとんでもないことになってるんだよ。


『まもなく、白石蔵王駅に到着いたします。お乗換えのお客様はご注意ください』

寝ぼけながら起きた私は眼をこすりながら呟く。

「ん・・・・・・? もう山形か・・・・・・」

・・・・・・って日菜起こさないとヤバい!

「日菜、起きろ! 山形に着くぞ!」

「白石蔵王・・・・・・?」

「お前の降りる駅だろうが!」

「駅・・・・・・? あっ! 私すっかり寝てた!」

日菜は荷物を持ち、電車を降りた。

「じゃあ、私はここでお別れだけど、また一週間後ね」

「あぁ。じゃあまたな」

新幹線のドアが閉まり、私たちは手を振り別れた。


『まもなく、大曲に到着いたします』

やれやれ。やっと着いたか・・・・・・腰が痛いよ・・・・・・まぁそれはいつものことだけど。

キャリーケースを上の荷台から下ろし、キャリーケースを転がして電車を後にする。

「確か、ばあちゃんが迎えに来てくれるはずだが・・・・・・」

「みのちゃーん!」

この声は・・・・・・

「あぁ、ばあちゃん」

「みのちゃん久しぶりだね。また一段と大きくなったね~~!」

「そりゃどうも。疲れたから、早速車に乗っていい?」

「あぁ! ごめんね。じゃあ早速ばあちゃんの家に行こうか」

相変わらずやさしいな。家の馬鹿両親と違って。


祖母の車内

「みのちゃんは学校に行ってるの?」

「うん。最近通い始めた」

「あら~、やっと学校に行ってくれるようになったんだね。ばあちゃん、もう心配で心配で・・・・・・友達はできたの?」

「うーん・・・・・・まぁ、友達みたいな感じの人なら・・・・・・」


現在の当の本人。

「へっくし!」

「日菜ねーちゃんどうしたの? 風邪?」

「大丈夫だよ。さ、鬼ごっこの続きやろうか! 今度はお姉ちゃんが相手だぞ~!」

「わー! 逃げろ逃げろ!」

20人の親戚の子供たちと鬼ごっこをしていた。


「ただいまー」

「おっ、実ちゃんお帰り。久々だね」

「伯父さん」

伯父さんはテレビを見ており、祖父は新聞を読んでいた。

「実ちゃん、また大きくなったね。もう伯父さんとっくに越しちゃったかぁ」

・・・・・・毎度毎度思うけど、地元に帰省するたびに「大きくなったね」って言われるの何なの? 法律でもあるの?

「あれ? 弟と義姉さんは?」

「あいつらは置いてきたよ。そんなの聞かなくても分かるでしょ」

毎年一度も親戚めぐりしないんだから。それを言うなら私も同類だけど。

ま、一応電話でご挨拶ぐらいはしてるけどね。

「実ちゃんはいつまでこっちにいれるの?」

「一週間ぐらいかな。それまでにゆっくりと疲れを癒すとするよ」

「あぁ。ゆっくりしてね。ほんといつもいつも弟がごめんね」

「大丈夫だよ」

・・・・・・もうとっくに諦めてるから。期待もしてないし。

「そうそう、少し早いけどお年玉あげるよ。はい」

「ありがとう、伯父さん」


「実ちゃん、晩御飯できたよ」

「うん。今食べるよ」

床に寝転がってゲームをしていた私は起き上がり、台所へ行く。

家ではいつも自分で作って食べていたからな・・・・・・何か他人に作ってもらうって変な感じだな。

「実、夕食の前に来なさい」

「・・・・・・じいちゃん」

祖父に呼び出された。またいつものお小言だろうか。


祖父と私は向き合い、いつもどおりの重い空気が流れる。ちなみに、私は帰省するたびに祖父とこうやって一対一で会話するのだ。

「・・・・・・生活はどうだ」

「大丈夫だよ。一人で全部やっているから」

「そうか。・・・・・・学校はまだ行っていないのか」

「学校は・・・・・・一応行ってるよ」

「・・・・・・そうか。友達は出来たのか?」

「友達もどきなら出来たよ」

  

再び当の本人

「へっくし!」

「日菜ねーちゃんまたくしゃみ? 風邪でも引いたの~?」

「大丈夫だよ・・・・・・」

(何だろう・・・・・・帰省してからずっとくしゃみしてる気がする・・・・・・)

「日菜ちゃん、うちで取れたさくらんぼ食べるかい?」

「ありがとうございます。うん! 美味しい!」

「日菜ちゃんは何でも美味しそうに食べてくれるから作りがいがあるねぇ」


「もどきか・・・・・・まぁいいだろう。お前は本当にこっちに来なくていいのか?」

「え?」

「こっちに来れば、ご飯も好きなだけ食べられるし、あの馬鹿共の世話をしなくて済むんだぞ。それに小遣いだってやれるし、たくさん遊べるのだぞ?」

「うーん・・・・・・」

確かに私は、何度もこっちに住みたいと思った。伯父さんの子供になりたかったとも何度も思った。

ばあちゃんはやさしいし、作ってくれるご飯もとっても美味しい。

じいちゃんもかっこいいし、頼りになる人だ。

伯父さんも楽しいし、ずっと一緒に遊びたいと思ってる。


でも、私には大事な人がいる。

「うん。ありがとう、じいちゃん。でも、私はこっちには戻らないよ」

「・・・・・・そうか。本当にいいんだな?」

「うん。私には、大事な人がいるから。そばで見守ってなきゃ危ないし」

「・・・・・・分かった。お前の意思を尊重しよう。ただし、本当にいやになったらいつでもこっちに来いよ。お前にこれ以上つらい思いをさせたくないからな」

「・・・・・・うん」

「それさえ守れば、こっちから言うことはもう無い」

「うん。分かったよ」

「じゃあ晩御飯を食べよう。母さんが待ってるぞ」

「うん」


「お~! いぶりがっこじゃん!」

「お隣さんが分けてくださったんだよ。みのちゃんが帰ってくるのをずっと待ってたんだよ」

「ふーん。明日お隣さんにも挨拶に行くか」

私たち四人は、祖母が作った世界一美味しい料理で腹を満たした。


「ふぁ~・・・・・・寝るか」

私はふと、夜空を見上げた。

「綺麗だ・・・・・・」

・・・・・・ここにずっといたい。でも、私には待っている人がいる。

私は布団にもぐりこみ、とけるように眠りに堕ちた。

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