第11話 見えないものを見ようとして
『今夜は満天の星がよく見えます。皆さんもぜひ、外に出て星を眺めてみてはいかがでしょうか?』
「星ねぇ・・・・・・」
スマホでニュース動画を見ていると、ニュースキャスターがそう言った。
「どうせ東京の夜空なんて真っ黒だろ」
ただでさえ東京の空は汚いのに、星なんて見えるわけ無いだろ。
「どうする? 実ちゃんの地元に行く? 実ちゃんの地元は他の場所より田舎だし」
「東北を田舎呼ばわりするなよ。確かに私の住んでいる地域は絵に描いたような田舎だけど・・・・・・」
ていうかお前が休日に家にいるのがもう当たり前になってるな。
「じゃあ私の地元に来る?」
「お前の地元ってどこだよ」
「山形。果物が美味しいよ! この前親戚からさくらんぼ送られてきたけど食べる? ついでに将棋の駒」
さくらんぼと将棋の駒を手渡してきた。
「そいつはどうも。将棋の駒はいらんけど」
「えぇ~!? せっかく一緒に将棋ややろうと思ったのに!」
「お前と将棋するとすぐ勝つから面白くないんだよ!」
私は日菜にこれまでの勝負成績を突きつける。
『日菜0勝 実100勝』
「そんなことはおいといて、星を見に行こうよ!」
「自分に都合が悪くなった瞬間に話をそらすのやめろ。そして破るな」
・・・・・・コピーはいくらでもあるけどな。(50枚)
「ということで、ホームセンターに望遠鏡を買いに行きましょう!」
「さすがに無理だ」
外へ走り出しかけた日菜の裾を引っ張り阻止する。
「大丈夫だよ、そんな天文台にあるような望遠鏡を買うんじゃないんだから」
誰がそんなものを買うと言った。
「今時、外に出なくても家の中で天体観測できるグッズなんていくらでもあるぞ。ほら、こういうのもあるぞ」
日菜にネットショッピングの画面を見せる。
私もこういうのを検索するのは初めてだがな。
「・・・・・・何か面白くない!」
「お前は天体観測に何を求めているんだよ。彼氏か? 私が許さんぞ!」
穢れた獣共が、日菜に近づくことを想像しただけでも寒気と虫唾が走る。そして日菜と一緒に同棲・・・・・・あぁーー! イライラする!
「実ちゃんどうしたの!? 急に頭をかきむしって!」
「あぁ・・・・・・大丈夫だ・・・・・・ちょっと名も無き他人に殺意が芽生えただけだ」
「それは全然大丈夫じゃない!」
「・・・・・・話を戻そう。で、この中から選んでもらいたいんだが・・・・・・」
「だめ! ちゃんと外で生の星を見るの!」
「私の経済的負担も考えろよ・・・・・・まぁ、たまにはいいか」
「ほんと!? やったぁ!」
「・・・・・・」
かわいい。
「家電量販店行くぞ。ついでにそこで色々買ってくる」
「おっけー!」
家電量販店に来た。
「あれ? 今日は学園内のやつじゃないの?」
「たまには学園の外でも買い物したいんだよ。これじゃ休日も登校しているようなもんだろ?」
「たしかに」
早速、建物の中に入る。
「おぉ・・・・・・久々に来たな・・・・・・いつもは通販で済ませてたからな」
「たまには一緒に外出するのも良いでしょ?」
「確かにな。安く済むし」
「そっち!?」
「早く用事済ませるぞ。どんな望遠鏡が欲しいんだ」
「えっとね~、何か勝手に星を追いかけるものがあるらしいよ」
「なんだそれ?」
気になったのでスマホで検索してみる。
・・・・・・自動追尾機能付望遠鏡? 最近はそんなのもあるんだな・・・・・・この際たまには良いものを買ってやるのも良いかな。こいつは物を大事に扱う性格だし。
「ちなみにそれっていくらぐらいするんだ?」
「確か・・・・・・40000円ぐらいするかな」
「!?」
前言撤回で。さすがに無理だわ。いや、買えない訳じゃないんだよ? こいつ絶対こんなもの使いこなせるわけ無いだろ。
私のサブパソコンの中の一つを誤ってコンピューターウイルス大量にぶち込んでだめにするぐらいなんだぞ? 一応そのサブパソコンは直したけどさ。(二日かかった)
「さすがにやめてくれ。別に星を見る程度ならそんなものいらんだろ」
「えぇ~? 高い物を買ったほうが良いじゃん!」
「使いこなせなければ宝の持ち腐れだ」
「なにそれ? お宝が腐るの?」
「何で漢字変換できるのに意味が分からないんだよ」
馬鹿なのか大馬鹿なのか分からないやつだな。
「せめてもっと普通のやつにしてくれ。じゃないと死ぬんだよ(私の財布が)」
「そっか・・・・・・じゃあ一緒に見ようか」
「安いやつで頼む」
「こういうのとかどう?」
「へぇ~・・・・・・(正直どうでも)いいんじゃないか・・・・・・?」
ヤバい・・・・・・望遠鏡の違いが全然分からん・・・・・・ヘッドフォンとかのオーディオ機器だったら一発で違いが分かるのに・・・・・・
そもそも何が違うんだ? 星が見れればそれでいいんじゃないのか?
「ちなみになぜそれを?」
「ん~・・・・・・勘かな」
「勘かよ」
いや、こいつの勘を馬鹿にしちゃいけないからな・・・・・・こいつは物事や人の感情に対する勘が天才的に鋭いからな・・・・・・
ここは一つ、こいつの勘を信じてみるのもいいかもしれないな。
「それにするか?」
「うん!」
「じゃあそれをレジまで持っていけ」
「やったぁ! 実ちゃんありがとう!」
「いや・・・・・・気にするな」
なんだろう・・・・・・全国の親が子供のおねだりに弱い理由が今分かったよ・・・・・・仕方ないよな、こんなにかわいいんだもの。こんなかわいい子の顔を曇らせるわけにはいかねぇもんな・・・・・・
「感謝の気持ちは伝わったから、抱きつくのやめろ! みんな見てるだろ!」
「えへへ・・・・・・実ちゃんあったか~い」
「~~~~~!」
帰宅後
再び私の部屋に戻り、荷物を床に置く。
「ふぅ。とりあえず望遠鏡も買ったし、毛布も買ったね!」
「なぜ毛布を買ったのかいまだに理解できないのだが。家に毛布ぐらいあるってのに」
こいつが毛布を買いたいと言って聞かず、地面に寝転がってわめいて暴れたので仕方なく買ってやった。
「だって実ちゃんが持っている毛布小さいんだもん。あれじゃあ二人一緒に入れないでしょ?」
「何で一緒に入る前提?」
「今日は冷えるから一緒にあっため合おうかな~って」
「・・・・・・」
・・・・・・こんな事いったらかわいそうだけど、私万年からだが冷たいんだよね。だから一緒にくっつきあったら逆に寒くなると思うんだけど。
「じゃあ後は夜になるのを待つだけだね!」
「私は眠いから寝る」
深夜十一時。
「実ちゃん起きて! もう十一時だよ!」
「ふぁあ? ・・・・・・もうそんな時間か・・・・・・」
いつの間にかこんなに寝ていたのか・・・・・・やはり最近疲れが溜まっているのか?
「じゃあ外に出るか・・・・・・ちゃんと寒くないように何か羽織れよ・・・・・・」
「実ちゃん、ふらふらだけど・・・・・・」
「天体観測終わったらすぐに寝るから安心しろ」
「外に出るってベランダかい!」
「うるさい、真夜中だぞ」
日菜にチョップをくらわせる。
「何でベランダ? 公園とかに行こうよ」
「私たちみたいな未成年がこんな真夜中に出歩いたら、即行で補導されるぞ。まして、お前みたいな見た目の子供なんて結果は目に見えている」
「そんなものかな・・・・・・?」
「それよりほら、星が見えるぞ」
空に向かって指差す。都会でも意外と星って見えるんだな。
「ほんとだ! あ、せっかく望遠鏡買ってきたんだからこれ使おうよ!」
「確かにな。高かったんだから使わないともったいない。(29,800円)」
「おぉ~! 土星の輪が見えるよ!」
「星を見ろ」
いや、土星も星の一つか・・・・・・
「ほら、オリオン座が見えるぞ。で、あそこにはこいぬ座と、おおいぬ座だ。この三つでなんて言うか分かるか?」
「分からない!」
「ヒントは三角だ」
「う~ん・・・・・・あ! 『夏の大三角』」
今は冬だ馬鹿者。
「じゃあ、『バミューダトライアングル』!」
「それは海だ。ていうか何でそれ?」
「だって三角って言ったじゃん」
「まず場所が違うわ。答えは『冬の大三角』だ」
「そっか~・・・・・・実ちゃんはすごいね!」
「そ、そうか・・・・・・」
外は寒いのに、何故か私の頬が熱い。
「実ちゃん。来年も絶対一緒に見ようね」
「・・・・・・そうだな」
私たちは顔を合わせ、一緒に微笑んだ。
「そういえば、お前帰りどうするんだ?」
「あ・・・・・・すっかり忘れてた・・・・・・」
まぁ・・・・・・今だけは忘れておくか。今は星に集中しよう。
その後、日菜は私の部屋で一夜を過ごした。
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