第13話 私たちのふるさと2
地元に帰省して二日目。
「やることねぇ・・・・・・」
私の地元は、絵に描いたような田舎で、場所は山の麓。大都会の東京とは訳が違う。
これでもましなほうだがな。夏のときなんて、虫刺されが酷くてたまったもんじゃないんだよ。
そう考えると、ゲーム機持って来てよかったな。
「みのちゃん、お友達来てるけど」
「は? 友達?」
地元に友達なんていない。だが、ばあちゃんが友だちと言うのなら相手が「友達」と名乗り出たのだろう。
・・・・・・まさか。
玄関のドアを開けると、見慣れた人物が立っていた。
「実ちゃん、ハロー!」
「やっぱりお前かよ・・・・・・ていうかどうやって来たんだ? 新幹線のチケットは取ってないし・・・・・・」
「寂しかったから来ちゃった。チケットの買い方も分からないから、走ってきたよ!」
「ブーッ!」
祖父が飲んでいたお茶を噴き出す。
「大丈夫ですか!?」
「お前のせいだよ」
伯父が玄関に来た。
「実ちゃん・・・・・・この人が君の友達・・・・・・?」
さすがに伯父も引いている。
「そうだよ・・・・・・」
「ちょっと変わった子なんだね・・・・・・」
「ちょっとじゃなくてかなり変わってるんだよ・・・・・・頭のネジが宇宙まで飛んでいってるんだよこいつは」
「あ、伯父さんこんにちは! お土産に家で取れたさくらんぼ持って来ました!」
「あ、それはどうもご丁寧に」
「さくらんぼって冬には栽培できないよな?」
「夏に採れていたのを保存しておいたんだよ」
だから前回さくらんぼ食べてたのか。
「寒いでしょ? とりあえず中に入っておいで」
「じゃあお邪魔しまーす」
「お茶でもどうぞ」
「ありがとうございます」
日菜はこたつに入り、ばあちゃんから受け取ったお茶をすする。
「「「「・・・・・・ん?」」」」
突然、この部屋にいる(日菜を除く)全員がとんでもないことに気付く。
「お前・・・・・・どうやってここが分かったんだ・・・・・・?」
「あぁそれはね、実ちゃんの痕跡をたどったら着いちゃった」
「痕跡?」
「うん。まず、実ちゃんのチケットには『大曲』って書いてあったから、大仙ってことは分かったでしょ?」
「だ、だとしても、ここは『湯沢』だぞ!? どうして湯沢って分かったんだ?」
「大曲に着いた後、どうしようかなって思ってたら、ガムが落ちてたから一つ食べたんだ。」
「落ちてるもん食うなよ・・・・・・」
「で、その味が実ちゃんがいつも食べてる『ブラックコーヒー』味だったんだよ。その味は天地学園でしか売っていない味だったから一発で分かったよ。そこから落ちていたガムの道をたどったらここに着いたってこと」
「どうりで何だか荷物軽いなって思ったよ・・・・・・」
「ちなみにここに来る途中で道の駅に寄ったんだけど、何かスマホで見て前から食べたかった『ババヘラアイス』っていうのを食べたかったんだけど、どこにも無かったんだ」
「ババヘラアイスは夏だ」
ちなみに、ババヘラアイスとは秋田県で露天で主に夏場に販売されているアイスのことで、『ババ』がヘラを使ってアイスを盛ることから名づけられたのだ。
「じゃあ夏になったら来ようね!」
「言っとくけど、この家、夏場はものすごく虫が来るからな? 虫刺されで眠れたもんじゃないぞ?」
「大丈夫だよ! 私の実家も同じだから!」
「そ、そうか・・・・・・」
日菜の実家を知らないからなんとも言えないが・・・・・・
「じゃあ今から私の実家に来る?」
「チケットすら持ってないんだぞ」
「今買えばいいじゃん」
「当日券は高いんだよ・・・・・・じいちゃん何してんだ?」
ポケットの中に手を入れ何かを探す祖父。取り出したのは、
「これで行ってきなさい」
「何で持ってんだよ!?」
新幹線のチケットだった。それも秋田から山形行きの。
「いや・・・・・・実は新幹線のチケットを集めるのが趣味なのでな。先週買って来たのだが、たまたま今日乗る日だったからな。使わないのももったいないし、是非役立ててくれ」
祖父はチケットを手渡した。
「そんなことってあるか・・・・・・?」
「やったじゃん! おじさんありがとう!」
「お前はすぐ人に抱きつく癖を何とかしろ」
そもそも人の祖父に抱きつくって何なんだよ。
「・・・・・・小遣いをやろう」
「わーい!」
「もらうな! そしてじいちゃんはあげるな!」
新幹線内
「まさか二日連続で新幹線に乗るとは・・・・・・」
「いいじゃん、楽しいし!」
「後でチケット代返さないとな・・・・・・」
その気になれば、チケット代の何百倍もの金を返せるけど。
「しかも買ってくれたチケットが・・・・・・グランクラスだったとは・・・・・・」
「ぐらんくらす? 何それ?」
「あー・・・・・・お前はまだ知らなくていい」
こいつにグランクラスを教えたら何かまずいことになる気がする。
「あれ? そういえばご飯が来ないけど・・・・・・」
「グランクラスに食事は無いんだよ」
『まもなく、「さくらんぼ東根」駅』
「着いたか・・・・・・」
私は思いっきり体を伸ばす。
「実ちゃん、ずっとゲームしかしてなかったじゃん」
「だって暇だったんだぞ。新幹線にずっと座っているのも結構つらいんだからな?」
「さようでございますか・・・・・・」
駅を出た。
「『東根』か・・・・・・」
周りを見渡してみる。何かさくらんぼを持った子供の像が設置されていた。
「どう? 面白いでしょ?」
「面白いって・・・・・・あと寒い」
「一応東北だからね。北国だし。・・・・・・さっそく家に戻ろっか」
「そうだな。お前の家族にもしっかりとご挨拶しないといけないし」
そう言うと日菜は手を挙げタクシーを呼んだ。
駅の目の前にタクシー乗り場があるのか・・・・・・便利だな。
「たっだいま~! それと友達連れてきたよ!」
私たちが来たのは、閑静な住宅街だった。
「おかえり、日菜おねーちゃん! そっちの大きいおねーちゃんはー?」
「私のお友達だよ」
「おねーちゃん、名前なんていうの?」
「実だ。よろしくな」
「おー! おねーちゃんかっこいい!」
うるさいな・・・・・・あと寒いし。山形でも結構雪降るんだな。
「あらあら、ひなのお友達? 寒いから早くあがってあがって」
「あ、じゃあお邪魔します」
とりあえず日菜の部屋に避難した。
「ごめんねー。親戚一同が集まっているから、子供達がうるさくて」
お前の見た目だと、あいつらと同類に見えるんだが・・・・・・
「お茶持って来るね」
「頼みます」
日菜の部屋を見渡してみる。
六畳ぐらいの部屋に、西側の窓際には白い学習机。その左側にはベッド。そして、北側にはクローゼット。
ベッドと学習机で結構なスペースとってんな。
「はい! 山形名物『いも煮』だよ!」
「ありがとうだけど、何で部屋でいも煮食わなきゃなんないの?」
しかも鍋ごと持ってきたし。
「下で食べると子供達がうるさいからね。ちょっといやかもしれないけどこっちで食べてね。あ、日本酒もあるよ?」
「飲むかぁ! 馬鹿者!」
「冗談だよ」
「まぁ、いただきます。・・・・・・美味い」
「でしょ~? いも煮は美味しいんだから!」
「東京に戻ったら作ってみるか」
「いいね! 私も手伝う! 山形県民を舐めないでね!」
「山形県民を舐めるつもりはないけど、お前には絶対に作らせない」
「何で!?」
「前も言っただろ。お前に作らせると100%酷い料理が出来上がってしまうんだよ!」
「そんな! 私だってインスタント料理ぐらいは作れるんだよ!」
「そんなの幼児以外全員作れるわ」
・・・・・・あぁ、何か楽しいな。
「今日、ここに泊まっていいか?」
「え? それはもちろんいいけど・・・・・・どうして?」
「・・・・・・なんとなく」
「おねーちゃんが増えたー!」
日菜の部屋のドアがものすごい勢いで開き、子供達が入ってきた。その数、10人超え。
「うわっ! びっくりした・・・・・・」
「君たち! 盗み聞きしちゃだめでしょ!」
日菜が腰に手を当て、子供達を叱る。
「あはは・・・・・・愉快ですこと・・・・・・」
「でもいいの? 狭いよ?」
「あー・・・・・・それはどうしようか」
「じゃあ私の部屋に泊まる?」
「え!?」
日菜の部屋で・・・・・・一晩過ごす・・・・・・
「実ちゃん!? 鼻血出てるよ!?」
「大丈夫だ・・・・・・興奮しただけだから・・・・・・」
「何に!?」
「気にするな。じゃあとりあえず、日菜の父さんと母さんに挨拶しなきゃな」
「ということで、実ちゃんが一晩お世話になります」
「わーい! 実おねーちゃん、何して遊ぶ?」
「遊ぶって・・・・・・」
早速子供達がわらわらと私の周りに集まってきた。
「実ちゃん、日菜と仲良くしてくれてありがとうね」
「こちらこそ、ありがとうございます」
「日菜は昔孤立していたからね・・・・・・このまま一人だったらどうしようって悩んでいたけど、実ちゃんみたいなお姉さんみたいな人が出来て安心したよ」
「お姉さん・・・・・・か」
「やがて、日菜と結婚して子供を作って、家族になるんだろうね」
「け、け、結婚!? 子供!?」
「それまでよろしくね」
「は、はい・・・・・・」
「やったー! 日菜おねーちゃんに彼女が出来たー!」
「あはは・・・・・・」
もしかして日菜の親族って、皆日菜みたいな人なのか・・・・・・?
私たちは同じ部屋で眠り、次の日に山形を出発し、一週間後に二人一緒の新幹線で東京に戻った。
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