十一章 最後の終着駅

十一章_最後の終着駅


 再生したレコードは終わりフジニアときさらぎの過去が明らかになった。レコードを見終わった****は自分の正体がきさらぎであることを知った。


 「そうだったんだ...私は...きさらぎだったんだ」


と****が呟くと姿がきさらぎの変わった。きさらぎの姿になった****をみた写真家を驚きの声をあげた。


 「****が元の姿に...」


姿が元に戻ったきさらぎは自分の体を見回し両手を見下ろした。きさらぎは狭間の世界と列車を見てこの世界は自身が書いた小説の世界であることに気が付いた。


 「やっぱりそうだ。さっきレコードで見た通り、ここは私が書いた小説の世界。じゃあ、今まで私が見ていた夢の世界は全て...」

 「きさらぎ...あの少女はあなたです。あなたの見ていた夢は生きていた時の記憶と車掌が繰り返した時に魂の記憶が入り混じった結果だと思います」

 「そうだったんだ...」


ときさらぎは言うと悲しそうにきさらぎを見つめるフジニアと目が合った。


 「...車掌..フジニア、フジニアだよね?」


ときさらぎはフジニアに近づくと名前を呼んだ。名前を呼ばれたフジニアは泣きそうな顔をしながら震える声で話しかけた。


 「きさらぎ...その名前で呼ばれたのは久しぶりです。怒らないのですか?俺...私はあなたの魂を縛り付け..また!あの時のように..本当は怖かったんです!あなたを失うのもあなたの残した一言を聞くのを...このレコードを見てもあなたの残した一言だけは知ることが聞くことが出来なかった...」


**

 「よろしいのですか?では流しますよ」

 「お願いします」


 フジニアは写真家に頼むとレコードが再生されきさらぎの過去が流れた。フジニアはいくらきさらぎの過去を再生してもきさらぎの残した最後の言葉を聞くことが出来なかった。きさらぎの言葉を何度も聞こうとしたがフジニアだけは聞こえなかった。


 「映像終わりましたがいかがいたしましょうか?」

 「...お願いします。もう一度お願いします」

 「分かりました。では再生します」


と魂写真家は言うと持っているランプを照らした。すると映像が戻り再び再生された。結局...きさらぎの言葉は聞こえなかった。


 数時間後、写真家から連絡を受けたマジシャンは幽霊列車のロビーを訪れた。


 「ありがとう写真家。今回も来てくれて」

 「いえ、これも仕事ですから...それに私ができるのはこのくらいですから」

 「すまないな本当に」

 「いえ...あの...車掌は...」

 「分かった。あとは任せて」


とマジシャンは言うとロビーから廊下に出て車掌室に向かおうとした。すると写真家は慌てて廊下に出た。


 「門番様!」

 「写真家?どうしたの慌てて」

 「門番様、私はもう見ていられません!車掌のやつれていく姿を見るのは!あの方を早く解放してあげてください!門番様、あなたも気づいているはずです。我々は彼女の声を聴くことが出来ますが車掌は彼女の声を聴くことができない。このままでは車掌も彼女の魂も持ちません!ですから...」

 「心配させてごめんね。分かった。あとは任せてよ」

 「はい...後はよろしくお願いします」


写真家は不安そうにマジシャンを見た後お辞儀をした後列車を後にした。マジシャンは写真家の後姿を見送った後車掌室に向かった。マジシャンは車掌室に行くと車掌室は電気がついておらず暗かった。ノックして部屋に入ったマジシャンは電気をつけると部屋の隅で蹲っている車掌を見つけた。

 「入りますよフジニア」

 「......」

 「部屋が暗い。どこにいますか?電気をつけますよ」

 「......」

 「フジニアは...そこにいたんですか」

 「......」


マジシャンはフジニアに話しかけるがフジニアは一向に答える気配がない。心配になったフジニアはしゃがみ込んでフジニアにもう一度話しかけた。


 「フジニア、大丈夫ですか?」


と聞くとフジニアはゆっくり顔を上げて言った。その顔は青ざめて暗く眼の下の隈が酷かった。


 「マジシャン...またダメだった。また聞こえなかった...きさらぎの言葉が...」

 「フジニア...やはり彼女をきさらぎさんの魂を成仏させましょう」


と言うとフジニアは弱弱しく顔を横に振った。


 「聞いてフジニア。このまま彼女の魂を成仏させないと君も危なし、彼女の魂も異形に飲み込まれてしまうことになる。そうなったら正しい過去と魂は入り交じり壊れてしまうよ。それでもいいのかい?」


と優しくフジニアに言うとフジニアは再び顔を横に振った。


 「よくない。でも...いったいどうしたらいい?きさらぎを成仏させたら俺は...また一人になっちゃうんだ。独りぼっちは嫌だ。苦しいのは寂しいのはもう嫌なんだ。こんなこと良くないのは分かってるのに...分かってるのに...」

 「フジニア...」

 「どうしても...どうしてもきさらぎの最後の言葉が聞きたくてずっとレコードを見返しても聞こえなくて...今はもう普通の言葉すら聞こえなくなって...カーナに貰ったこの酒薬を飲まないと見えないし、聞こえないんだ」


と肩を震えながら話すフジニアの背中を摩ったマジシャンは床に散らばった大量の酒薬を見た。


 「こんなに大量に...彼女の言葉と姿を見るためにこんなに飲んだのかい?無理は良くないよ。ねえフジニア、約束して欲しい。もし彼女が最後まで自分がきさらぎだと気づくことがなく彼女の駅になった時は彼女の魂を成仏させる。それでいいかい?」

 「マジシャン...うん」


フジニアは震えながら小さく頷いた。マジシャンに背中を摩られたフジニアは次第に涙が溢れ静かに泣いた。


 「...フジニア...今度こそ必ず君を..」


話を聞いていた堕天使は何かを呟いた後その場から立ち去った。

**


 フジニアはきさらぎに頭を下げて謝った。


 「すみません...あなたに謝りたくてずっと後悔していたんです。車用になってからずっと..あなたに打ち明けなければいけない。しかし打ち明けた後にあなたになんて言われるのが怖くて...最初は覚悟していたんです。あなたにどんなに罵られようと受け入れようっと。それなのに時が経つにつれて私は怖くなってしまいました。貴方の番になり魂を解放させないといけないのに...最低でしょう?私はあなたを縛り付けて死なせたのにまた縛り付けていたなんて...罵られて当然です」


と言うフジニアにきさらぎは話しかけた。


 「顔を上げてよフジニア。私は...」


フジニアは顔を下げていたのできさらぎの顔を見ることは出来ず身構えていた。きさらぎの言葉を最後まで聞こうとしていたその時だった。


 いつの間にか辺りは暗くなった。空には既に赤い月が登っていたが突然地獄の門が開いた。


 「まずい!」


いつ早く気づいた堕天使はその場がから飛び離れたが反応に遅れたフジニアときさらぎは間に合わなかった。


 「地獄の門が...まずい!このままじゃ、二人とも落ちるぞ!」


と堕天使は言い二人に近づこうとしたが地響きと飛び散る小石に遮られて近づくことが出来なかった。マジシャンも二人に近づこうとしたが中々近づくことが出来ない。フジニアはきさらぎの傍に駆け寄り地響きに耐えていたが地割れが起きてしまう。


 「な、何?うわっ!」

 「きさらぎ!間に合わない!」


落ちそうになったきさらぎを片手で抱きしめ、もう片方で耐えていた。フジニアはきさらぎを受け止める際に頭を片腕を強打し、出血していた。出血は垂れてきさらぎの顔にかかりフジニアが怪我をしていることに気が付いた。


 「くそ!このままじゃ!」

 「フジニア、私の手を離して!じゃないとフジニアが!」

 「嫌だ!絶対にこの手を離さない!もうきさらぎをお前を失うのは嫌なんだ!」

 「フジニア...私は...」

 「だから、絶対離さない!」

 「フジニア...」

 「くそおお!ああああああ!」


怪我の痛みと片手で崖を掴み耐えていたが限界が近づいていた。このままでは二人とも地獄に落ちてしまう。そうなる前にこの状況を打破しなければならないと考えている時マジシャンがやってきた。


 「すまない待ってろ!二人とも手を伸ばせ!」


マジシャンはそう言うと手を伸ばした。フジニアは抱きしめている片手の力を振り絞って片手をあげる。きさらぎは手を伸ばしマジシャンの手を掴もうとした。しかし、あと一歩の所で掴めず二人とも地獄に落ちてしまった。


 「う、うわああああああああ!」

 「きゃああああああああああ!」

 「フジニア!きさらぎ!」


地獄に落ちてしまった二人を助けようとしたマジシャンを引き留めたのは堕天使だった。


 「無駄だよ!地獄に落ちた者はもう助からない!」

 「そんなこと言っている場合か!この門は地獄に続いてるんだ。このままじゃ二人は地獄に落ちる。それだけじゃない。もしこれが閻魔に見られたり知られたりしたらそれこそ終わりなんだ!」

 「だったらどうするの!」

 「方法ならある。私は地獄の門番だ。地獄に使える者は地獄の門に落ちても地獄に落ちることは無い。私が行きます。だから退いてください」


と言うマジシャンの袖を掴み堕天使は引き留めた。


 「なんです?あなたに付き合うほど暇ではないんです。今すぐ行かないと二人を助けれないんです。だから!」

 「...てくれ」

 「はい?今なんて言いました?」

 「なら俺も連れ行ってくれ!」

 「連れて行ってっもあなただけ地獄に落ちるだけですよ!」

 「それでもいい!元々堕天して落ちた身だ。これ以上堕ちようがない。それに堕天したのは...自分から堕ちたから。それを受け入れられずに守るべき人をずっと傷つけていた。気づくのが怖くて逃げていた。それももう終わりだ。これはせめてもの償いだ。俺はやり方を間違えたんだ...だから連れて行ってくれ...頼む」


と頭を下げる堕天使にマジシャンはため息をはいた。


 「いいだろう。ただし離れるなよ。命の保証はできないからな」

 「いいのか?ありがとう」

 「礼はいい。行くぞ」


マジシャンは堕天使を連れて地獄の門へ入ると門は閉まった。


 その頃幽霊列車では取り残されたカーナ・グリン・ネムはロビーを座っていた。


 「遅いね二人とも。ねえカーナ、車掌もきさらぎも帰ってくるよね?」

 「そうね。帰って来てくれることを信じましょう」

 「それもそうだね!」


不安そうに外の荒野を見たカーナは深いため息をついた。フジニアときさらぎが列車を飛びだしてもう数時間が経過している。二人の安否が気になるがカーナとグリンたちはきさらぎが書いた小説の一部だ。二人はこの列車から出ることは出来ないのだ。きさらぎに何かあればカーナとグリンにも影響は来るのだ。きさらぎが死ねばカーナとグリンは死ぬ。二人に死の概念は無く恐怖は無い。ただ寂しさを感じるのだ。カーナは自分が入れた赤ワインを眺めているとネムは突然立ち上がった。


 「...行かなきゃ」

 「え?ネムどうしたの?」

 「今、喋った?」


混乱する二人を置いてネムは廊下に出て行った。


 「待ってネム!どこに行くの?」

 「***********」


ネムは突然何かを唱えると地獄の門が現れた。


 「それは...地獄の...」

 「な、なんで地獄の門が...いくら神様でもできないはずなのに...」

 「もしかしてネムの正体は...」

困惑する二人を置いてネムは門に触れると地獄の門が少しずつ開いた。

 「な、どうして...」

 「あなたは...」


扉の先を見たカーナとグリンは衝撃でその場から動けなくなってしまった。扉の先に立っていたのは***だった。


 地獄に落ちたフジニアが頭を強く打ち気を失っていた。目を覚めるとそこは燃える業火が広がっていた。息をするだけで肺がやられそうだった。


 「きさらぎを探さないと..きさらぎ、どこだ!」


フジニアはきさらぎを呼びながらきさらぎを探した。早くここから出ないといけない。ここに居ればきさらぎは手遅れになってしまう。


 「早く探さないといけなっ!なんだこれ!」


地獄に落とされた醜い罪人となった魂がフジニアの足元に絡みついた。


 「うっ、あがっ!離れろ!」


足元に絡みついた魂は熱く両脚は火傷を負った。フジニアは鎌を取り出し魂たちを引きはがした。引きはがしたフジニアが一息つくときさらぎの叫び声が聞こえた。


 「きさらぎ!待ってろ、今行く!」


フジニアは走って駆けつけるときさらぎの魂の触れられたようでやけどの跡がついていた。


 「きさらぎ、しっかりしろ!」

 「フジニア...私...」


弱っているきさらぎを抱きしめたフジニアは近づいてくる魂をたちを睨みつけた。睨まれた魂たちは居なくなりフジニアは一息ついた。


 「きさらぎ、もう大丈夫だ。ここから出るぞ早く!」


きさらぎの魂は不安定で消えそうになっていた。地獄に落ちたからだろう。フジニアはきさらぎを強く抱きしめる。早くここから出て魂を解放しないといけない。そう思ったフジニアはきさらぎを抱えて歩き出そうとした時だった。とてつもない威圧感に襲われたフジニアは冷汗をかいた。呼吸が浅くなる。


 「どこに行くのだ?」


と聞いたことがない低い声を発した声にフジニアは震えながら振り向いた。そこに立っていたのは閻魔だった。


 地獄の門から地獄に落ちたフジニアはきさらぎを見つけ出した。しかし息もつかの間最悪な出来事が起こった。


「どこに行くのだ?」


と言われたフジニアが後ろを振り返ると立っていたのは閻魔だった。目の前の閻魔に鳥肌が立ち震えが止まらない。フジニアは恐怖と戦いながらきさらぎを後ろに隠した。


 「な、何であなたがここに...閻魔」

 「様をつけぬか」

 「すみません...」

 「いや良い。それよりも私が聞きたい。ここは地獄だぞ、私がいるのは当然のことだ」

 「そうですよね..すみません」

 「私から良いか?なぜお前はここにいる?」

 「そ、それは...その...」


フジニアはこの状況をどうにかしようと必死であなたを悩ませていた。フジニアは閻魔にこの誤魔化そうとしたが閻魔の発した一言で凍り付いた。


 「お前のことは既に分かっている」

 「え...何も言っているんですか...何が分かって...」

 「そこにいる。お前の後ろに立っているきさらぎと言う人間についてだ。出てこい、悪いようにはしない」


と言う閻魔にフジニアは誤魔化そうとしたが聞く耳を持たなかった。きさらぎは必死に誤魔化そうとするフジニアの手を掴んだ。


 「...分かりました」

 「きさらぎ...」

 「ありがとう。閻魔さんもそう言ってるんだから大丈夫だよ」

 「...」


悔しそうに下唇を噛み下を向くフジニアにきさらぎは微笑むと閻魔の前に立った。


 「噂には聞いていたがお前がそうか。やはりお主の魂は縛られているようだな」


と閻魔は言うとフジニアを睨み見た。その視線に耐えられずフジニアは小さな声で言った。


 「はい...申し訳ございません...」

 「謝る必要などない。するだけ無意味だからだ」

 「......」


閻魔はしばらく考えた後きさらぎに視線を移し再びフジニアを見た。


 「死神よ。お主名前は?」

 「...フジニアです」

 「ほう、フジニアと言うのかよい名前だ」

 「俺の名前がいかがなさいましたか?」

 「...」


名前を聞いた閻魔は口に手を当てて何かを呟くとフジニアに言った。


 「フジニアよ。お主に命じる。その人間、きさらぎと言ったか?きさらぎの魂を地獄に落とせ」

 「!!」


きさらぎを地獄に落とせばきさらぎはどうなるのか...地獄に魂を落とすとはどういうことなのか...その意味を理解しているフジニアは絶望し弁解した。


 「お待ちください!きさらぎを地獄に...何故です!きさらぎは何も悪いことはしていません。彼女はただ列車にやってきた乗客です!

それに..」

 「黙れ!私に逆らうつもりか。いい訳などいらぬ。私は全て見ていたのだ。お主のこともその人のこともな」

 「全部見ていたっというのはどういう...」


訳が分からないと言うフジニアに閻魔は懐からベルを鳴らした。


 「お主たちも見たことがあるであろう?」


するとフジニアときさらぎの前にネムが現れた。


 「な、なんで...どうしてネムが...」

 「ネムは幽霊列車にいたはずじゃ...」

 「分からないと言った顔だな。お主たちにも分かるように教えてやる。このベルは私がネムを呼び出す時に使うものだ。私の力を説明していなかったな。私の力は想像力だ。自らが生み出すものは物だけでなく異形や人など命あるものも生み出せる」

 「それじゃあネムは...」

 「そう、ネムは私が作り生み出した子神だ。お前たちの噂は私の耳にも届いていた。お前が死神になる時に代行人が私に言ったのだ。門番はお主に弱い。監視役というより補佐役に尽くしてしまうだろうと。その際公平に監視する訳が必要だと言われたのだ。噂の審議を確かめるためにも監視役としてネムを作ったんだ。門番は気づいていないが門番の目を借りて小説の登場人物を拝見させてもらいあらかじめ作ったのだ」

 「じゃあ..あの時本から飛び出した時から俺たちを監視していたのですか?」

 「そうだ」

 「!!」

 「そ、そんな...」


閻魔に全て知られていたことを知ったフジニアは跪き、追い打ちをかけるよう閻魔は話し続けた。


 「お前たちの監視役にピッタリだっただろう?あの門番もネムの正体には気づかなかったからな。話がそれたか...本題に戻ろう。全て見せてもらったぞ。噂通りではなく、きちんと職務を全うしていると思ったらその人の子のことで失敗したな。お前はきさらぎの魂を何度も縛り付け職務を放棄していた」

 「それは...」


閻魔は跪いて絶望するフジニアの髪を掴み上げた。


 「顔を上げろフジニア。これはお前の罪だ。お前の手で地獄に落とせ!そうすれば後は直々に対処してやる」

 「しっしかし!地獄落したら彼女はどうなるのかあなただって分かるはずです!」

 「黙れ!魂をいじり縛り付けて尚地獄に落ちた者が天国に行けると本気で思っているのか!生前にお前と過ごしたこともあり天国には行けず地獄に来ることは決まっていたし、私の耳にも届いていた!もともと落ちる魂だったのだ。それを無下に彼女をここまで追い詰めたのはお前だ。だからせめてお前の手で送ってやれ...フジニア」

閻魔はそう言うと手を離すとフジニアの鎌を取りだし鎌を持たせた。閻魔はフジニアを立たせると背中を押した。背中を押されたフジニアはきさらぎと正面に立たされた。向き合ったきさらぎは震えるフジニアの手を掴み優しい声で微笑んだ。

 「きさらぎ...」

 「いいよ。フジニア」


 きさらぎを地獄に落とせと告げられたフジニアは死にそうな顔をしていた。手が震えて鎌を落としそうになる。そんなフジニアの手をきさらぎが掴み支えた。


 (きさらぎを地獄に落とす...そんなこと俺に出来るわけない...)


 「いいよ。フジニア...フジニアなら地獄に落とされてもいいよ」

 「きさらぎ...どうしてなんでそんなことを言うんだよ!」


と声を荒げるフジニアにはとは対照にきさらぎは冷静だった。自分がフジニアに地獄に落とされると言うのに。


 「そんな暗い顔をしないでフジニア。もともと覚悟はできてたの。思い出してからずっと...ここに来たのもそんな気がしてたんだ」

 「でも、地獄に落ちるんだぞ!落ちたらどんな目に合うのか分からないんだぞ」

 「それでもいいの。フジニアが導いてくれるなら私はそれでいいんだ。フジニアあなただからだよ。確かに地獄は怖い。けど後は閻魔さんが何とかしてくれるから大丈夫!私ね、フジニアと過ごした時間が悪いなんて思ってないよ。むしろ生前で幸福な時間だった。フジニアが居なかったら私はあの時死んでいたと思うから...あなたを巻き込んでしまってごめんなさい」


と謝るきさらぎにフジニアは言い返した。


 「そんなことない!俺がきさらぎを巻き込んだ。俺の...俺のせいで君は...」

 「泣かないでフジニア」


きさらぎは涙を流すフジニアの抱きしめた。抱きしめられたフジニアは涙が止まらず嗚咽しながらきさらぎだけに聞こえる声で言った。


 「ごめんきさらぎ..俺は..俺は...」

 「大丈夫。大丈夫だよフジニア。私は分かってるから」

 「きさらぎ...俺の方こそきさらぎと過ごした時間は幸せだった。名前を付けてくれた。フジニアって言われた時、初めは風変りに優しい人って何だよって思ったけど今はこの名前と意味で良かったって思ってる。それから俺と友達になってくれた。天使や小悪魔たちは家族で友達は初めてだった。傷つけられて奪われたのも人間だけど救われて希望をくれたのも人間だった。俺を救ってくれたのはきさらぎだった。君にたくさん救われたのに俺は酷いことを言ってごめん。俺は...きさらぎと出会えて本当に良かった。きさらぎと過ごした思い出は絶対に忘れない」

 「うん...うん...私も忘れないよフジニア」


きさらぎはフジニアの話に相槌を打った。


 「さよならは言わないよ」

 「ああ...」

 「フジニア...最後に聞いてほしいことがあるの。聞いてくれる?」

 「ああ...いいぜ」


その時きさらぎはフジニアだけに言った。今まで聞くことが出来なかった最後の言葉をフジニアは聞くことが出来った。互いに顔を見上げ笑い合ったあとフジニアは鎌を振り上げた。


 「ああ...聞こえたよ。きさらぎの言葉...俺の方こそ...ありがとう、きさらぎ」


フジニアはそう言うと鎌を振り下ろしきさらぎの魂を解放した。解放されたきさらぎの魂は光となって消えた。フジニアは見届けると鎌を落とし泣き崩れた。


 「フジニア!きさらぎ!」


 駆けつけたマジシャンは傍にいる閻魔と泣き崩れるフジニアを見て状況を理解した。


 「閻魔がどうしてここに...きさらぎの魂を解放したのか」

 「今、きさらぎの魂をフジニアが解放した所さ」

 「...そうか」


閻魔はフジニアを見た後にマジシャンに言う。


 「マジシャン、少しいいか?お前と話がある。この後の処分についてだ。その前にフジニアを安全な牢獄に入れてやれ」

 「閻魔...いいのか?」

 「ああ...ここは本来死神のくる所ではない。ここに居れば死神は弱り果て死んでしまう。確かお前が管理する地獄牢があったな。そこに頼めるか」

 「ああ、お安い御用だ。話はあとでもいいか?先にフジニアを安全な地獄牢に連れて行かないと」

 「分かった。私は此処で待っている。先に連れて行くがよい」

 「悪いな」


マジシャンは礼を言うと跪き正気を失っているフジニアの元へ向かった。フジニアの顔が見えるように目線を合わせて話しかける。


 「フジニア、大丈夫か?ここは危ない。いったんここから離れよう。ここはフジニアに良くない場所だ。俺が管理している地獄牢に行こう」

 「ああ...」

 「よし行くぞ。掴まれ」


マジシャンはフジニアに肩を貸して地獄牢に向かった。地獄牢に向かう道中でフジニアはマジシャンに話しかけた。


 「マジシャン...」

 「うん?どうした?」

 「俺...きさらぎの言葉...やっと聞けたよ」

 「...そうか。それはよかった。最後の言葉ずっと聞きたかったもんな」

 「うん..聞きたかった...」

 「彼女はなんて...どうだった?」

 「そうか...それは良かったな」

 「うん...良かった。本当に良かった...」

 「もう、フジニアは泣き虫だな。泣くなよー。ほら、着いたぞ」


地獄牢に着いたマジシャンは地獄牢の鍵を開けた。


 「安心しろフジニア。時間がある時は此処に来るからな」

 「...ねえマジシャン」

 「どうしたフジニア?」

 「俺はどうなるの?」

 「まだ分からない。けどきさらぎのた魂を解放し、君が居ないあの列車は消滅するだろう。残念だがきさらぎの魂を並行して作られたカーナとネムは列車と共に...君の処分もまだ分からない。君は閻魔の手によって消される可能系がある。でも、閻魔と話し合って最善のことは尽くすよ!」

 「そうか...ごめんなマジシャン。俺の身勝手な行動のせいで」

 「そんなことない!僕だって君の力になりたくて協力した。僕だって同罪だ!」

 「ありがとう...カーナとグリンにも悪いことしたな」

 「きっと二人なら分かってくれる」

 「そうならいいな...なあマジシャン」

 「何だいフジニア?」

 「俺...できたかな?立派に...きさらぎが書いた車掌みたいになれたのかな?」

 「なれたさ。これまでずっとやってきたんだろう?」

 「うん...そうだったらいいな。マジシャン...後は任せた。俺...もう疲れた...」

 「そうだね。ずっと頑張ったもんねゆっくり休んでね」


 気が抜けてその場に倒れそうになるフジニアを抱えたマジシャンは地獄牢に入った。地獄牢に置かれているベットにフジニアを寝かせた。


 「お疲れ様フジニア」

 「ありが..とう...マジシャン」


マジシャンはフジニアの頭を優しく撫でた後地獄牢を後にした。地獄牢のベットに横になるフジニアは撫でられた所に触れる。一息つくと今までのことを思い出し、苦しみや悲しみと後悔が溢れ両手で顔を隠した。


 「きさらぎ...きさらぎ...」


 (疲れた...疲れた...もう疲れたんだ...もう休もう...)


フジニアは地獄牢に入ってから数分後に眠りにつき、幽霊列車の消滅が確認された。


 フジニアがきさらぎの魂を解放した同時刻に幽霊列車では異変が起きていた。突然幽霊列車だけでなく狭間の世界そのものが消滅し始めたのだ。


 「列車が消えて...狭間の世界も!カーナ...これってやっぱり...」

 「車掌が魂を解放したようね」

 「それじゃあこの列車も..狭間の世界も..僕たちも消えるんだね」

 「そうね。グリンは怖くない?」

 「怖くないよって言ったら嘘になる。本当は怖いよ...消えたくない。でも...これでよかったんだ。きさらぎは僕たちを生みだしてくれたんだから!そのきさらぎの魂が解放されるのは嬉しい!こうなる運命だってことは薄々分かってたんだ。でも...消えちゃうのは寂しいよ」

 「そうね。まさかネムが閻魔様の作った神様だとは思わなかったわ。あの閻魔様が私たちに頭を下げたのよ。後は閻魔様に任せましょう」

 「そうだね!」

 「今度こそ二人が幸せになりますように...」


と言うとカーナは祈りグリンも真似をした。二人は祈りながら消えていった。


 地獄でも幽霊列車が消滅したことを閻魔とマジシャンは確認した。


 「例の列車が消滅したのを確認した」

 「そうか...カーナとグリンが...」

 「ママ...」


ネムは涙を流しながらきさらぎの魂を解放された場所に立ちその名を呼んだ。


 「ネム...」

 「あれは私が作り出したものだがもとはきさらぎの小説の登場人物だ。きさらぎが生みだした実の子供と言えるだろう。ネムからしてもきさらぎは母親だからな」

 「きさらぎも...フジニアも...ネムも...カーナやグリンも皆が救われる方法はないのか...」


とマジシャンが言う。閻魔は深く考えた後マジシャンに言った。


 「それなんだが皆を救う方法がある。あのフジニアの件で話がある。お前もいいか?」

 「本当か?それは構わないが...どうするつもりなんだ?」

 「それは...」

 「!!」


閻魔の話を聞いたマジシャンは頷きフジニアの処罰が決まった。


 フジニアの処罰が決まりマジシャンは地獄牢に向かった。地獄牢を開け中に入った。


 「フジニア..いいかな?」

 「ああ...」

 「君の処罰が決まった」

 「分かった。マジシャン...もう車掌じゃない。俺はただのフジニアでいい」

 「わかった。ついてきて欲しいフジニア。案内したい場所があるんだ」

 「分かった...」


フジニアは連れて来られた場所は見覚えがある場所だった。そこはまるで狭間の世界のようだった。


 「な、なんでここに...だってここはもう消滅したはずなのに...何で駅があるんだ?」

 「それは見てからのお楽しみ。ほら..きたよ」

 「!!」


マジシャンに指を指された方向には消えたはずの幽霊列車が事らに向っていた。


 「な、なんで!幽霊列車は消滅したはずなのに!」

 「驚きのはそれだけじゃないよ」

 「え...」


マジシャンはフジニアを揶揄うように笑うと列車は止まりドアが開いた。ドアが開き立っていたのは...


 「どうして生きて...きさらぎ...」

 「フジニア!会いたかった!」


魂を解放したはずのきさらぎだった。きさらぎはフジニアに抱き着いた。フジニアは状況が理解できなかった。


 「なっ...きさらぎ...」

 「閻魔さんとマジシャンたちが助けてくれたの!」

 「え?マジシャンたちが?」

 「混乱するのも無理はないよね。説明するよ。君の処分について」


**

 地獄では閻魔とマジシャンがふたりの処分について議論していた。


 「その魂をどうするつもりだ?」

 「私は前から考えていた。しかし、掟は掟。それを破ることは決して許されることではない。しかし、ネムを通して分かったことがある。子の魂は確かに地獄に落ちた。落ちるべき魂だった。しかし、もう罪は十分償えている。後は魂を成仏させるか転生させるか考えている」

 「魂の転生!それって...」

 「そうだ。このきさらぎの魂を異形として転生させようと考えている。しかし、それには代償がいる」

 「きさらぎの今までの記憶が全て失われる」

 「そうだ。しかしそうすれば..」

 「少しいいか閻魔?」

 「何だ門番よ」

 「お前はどっちかって言うと反対派だろ?なぜ二人にここまでする?」

 「見ていて救えない自分が歯痒い。ネムを通して二人を見ていた時に私は思った。確かに人と異形は関わってはいけない。しかし、手を取り合うことは出来るのではないかと思ったのだ。異形と人間の確執は今に始まったことではない。こうなってしまったのは私たちにある。だからせめてもの償いだ」

 「償いか...ならそれは俺が..」

 「ちょっと待って!」

 「「!!」」


マジシャンの言葉に誰かが被さる様に言い、閻魔とマジシャンは振り向くと堕天使が立っていた。


 「お主は堕天使。なぜここに」

 「お前...何で逃げなかった。フジニアが地獄牢に入れることになった時に狭間の世界に返しただろう」

 「こっそり君の陰に入ってた」

 「おい!」


マジシャンの静止を振り払って閻魔のもとに駆け寄った。


 「話は聞かせていただきました。きさらぎを異形に転生させるんですよね」

 「そうだ。その際に代償としてきさらぎは全ての記憶を失う。それが問題なのだ。記憶が無い二人に掛けるか。魂を成仏し生まれ変わるかに迷っている。私としても最後の願いのかなえてやりたいと言う気持ちもある。しかし...」

 「転生を選択すると代償がついてくる。ただの人間や異形ならこんなに悩むことは無いんだ。対象がきさらぎだがら俺も閻魔も悩んでる。もし、転生させるなら俺がその代償を引き受けようと思っている」

 「門番...それは許さぬ。お前のことは代行人から声がかかっている。お前は職務を果たしているが今回の処罰の関与を許すなとな。議論には参加していいがそれ以外は許可されていない」

 「代行人が...ちっ!」

 「なら、その代償に私の命を使ってください!」

 「!!」

 「堕天使...お主はその言葉に意味が分かっているのか?」


 堕天使は頷いた。その顔は真剣で閻魔もマジシャンも頷いた。


 魂は転生させるか・成仏させるかの二択を強いる。魂の成仏は異形も人間も同様に一度死に別の魂に生まれ変わり正を受けるのが魂の成仏である。対する魂の転生では成仏と異なる点がある。異形に関しては記憶が引き継がれ役目が変わるのみだが人間の場合は違う。本来、異形と人間は別の生き物であるため転生するのは代償が生じる。記憶が消失するのだ。きさらぎも例外ではなく記憶が消失する。それだけではなく魂が不安定だったせいか異形に転生してもこのままでは短命ですぐ死んでしまう可能性があるのだ。そうなっては意味がない。それ故に代償について悩んでいたのだ。


 それを堕天使が自らの命を使えて言ってきた。堕天使がきさらぎを救うと思えずマジシャンは聞いた。


 「それは本心か?それとも偽りか?」

 「この状況で嘘をついていると思ってるのか?」

 「念のためだ。お前は自分の命を使えと言ったよな。きさらぎのためじゃないだろ。自分のためか?それともフジニアのためか?」


と言うとマジシャンは糸を取り出し堕天使の首筋に当てた。堕天使は動じずマジシャンを真剣に見て答えた。


 「全部だよ。ずっと後悔してたんだ...あの時話しただろ。確かに職務を全うした。けどそれは大切な親友を傷つけるものだった。彼を救うどころか傷つけ殺そうとした。それが怖くて彼の前から去ったのに傍にいるきさらぎに嫉妬し傷つけた。勝手に嫉妬し裏切られたと思い堕天したのを誤魔化しながら二人の不幸を祈り、また傷つけた。彼は私を裏切っていなかった。それどころか私を救おうとしてくれたのに...裏切っていたのは私の方だった。きさらぎにレコードを見せてから自分の仕出かしたことに気が付いた。気づくのが遅すぎたんだ。自分のためでもあるけど二人のためでもある。私は二人に償いたい。もう一度だけ...親友を..きさらぎを救えるのなら例え死んだとしても構わない。お願いです。きさらぎを助けて下さい!」


 堕天使は土下座をして閻魔に頼んだ。辺りには緊張が漂う。ただでさえ今回の議論は長時間に及び、閻魔とマジシャンの空気は思い。それだけでなく堕天使が地獄に現れている時点で閻魔の逆鱗に触れている。ましてや閻魔に直談判するなど自殺行為に等しく”この場で殺してくれ”と言っているようなものだ。閻魔の鋭い視線に堕天使は呼吸が浅くなり気が遠のきそうになった時閻魔は言った。


 「いいだろう。その勇気と度胸に免じて許してやる」

 「...ありがとうございます」

 「礼など構わぬ。でも良いのか?命を落とすかもしれぬぞ」

 「構いません!お願いします」

 「お主の思い聞き届けた。これよりきさらぎの魂を異形に転生させる」


閻魔の命令によりきさらぎは記憶を失うことなく異形に転生することが出来た。堕天使は命は尽きたものの新たな生を受けて転生した。閻魔の力もあり堕天使ではなく天国へ魂を導く案内人となった。案内人となった堕天使の魂は天国へと運ばれた。転生したきさらぎの魂は安定し人型へとなった。


 「あれ...私は...ここは...?」


転生したばかりで意識がとぼけているようだった。きさらぎは地獄を見回し閻魔とネムとマジシャンを見ると今までの記憶を取り戻した。


 「そうだ。私はきさらぎだ!」


きさらぎは己の姿を見ると姿は人と似ているが人間ではないことに気が付いた。


 「私は人間じゃない?どういうこと?私はあの時魂が解放されたはずじゃ...」

 「その様子だと無事覚えているようで安心したぞ」

 「!!その声は閻魔さん」


声の聞こえてきた方へきさらぎが振り向くと閻魔が立っていた。


 「久しぶりだな、きさらぎ」

 「閻魔さんとマジシャンがいるってことはここは地獄ですか?」

 「そうだ。お前さんは魂はフジニアによって解放された。お主の魂を転生させるか、成仏させるか考えた。私と門番は転生させたかったがそれには代償がいる。お主の記憶が全て消えてしまうのだ。お前さんの魂をどうするのか悩んでいた時に堕天使がやってきた。親友とお主を救うために自らの命を捧げた。無事に転生を果たし、堕天使も案内人として転生し生まれ変わりを果たしたのだ」

 「そうだったんですね。ありがとうございます!」


ときさらぎが礼を言うと閻魔は手を横に振った。


 「礼を言うなら案内人にしてやってくれ。あいつが己の命をかけてお主を救った。礼なら案内人に言えばよい。私の仕事は終わった。門番、後に事はお前に任せるぞ」

 「ああ、任せてくれ。色々ありがとな閻魔」

 「気にするな。このツケは今後必ずしてもらいからな」

 「それは勘弁だな。まあー今回は色々してくれたしおごってやるか」

 「楽しみにしている。私は一足先に仕事に戻るとしよう。それではな、きさらぎ。もうここには来てはいかぬぞ」

 「はい。何から何まで本当にありがとうございました!閻魔さん!」


閻魔はきさらぎにそう言うと歩き出した。きさらぎは姿が見えるまで閻魔の名を呼び礼を言った。


 「なんか生まれ変わったって変な感じがする」

 「僕もマジシャンに転生した時はそうでした」

 「そうなの?」

 「はい。きさらぎさん僕はまたあなたに会えてよかったです」

 「私もあなたに会えてよかったマジシャン」


きさらぎはそう言うと改めて自分の姿を見回した。


 「慣れませんか?」

 「うん。ずっと人間だったから..そう言えばマジシャン。私は何の異形で役割は何なの?私とフジニアの処罰って一体何なの?」

 「それを説明しようと思っていました。お二人の処罰ときさらぎさんの異形についてお話します。まずはきさらぎさん。貴方の異形についてです。貴方の異形は...」


マジシャンはきさらぎの異形と二人の処罰について語った。

**


 「私はフジニアを支える役割としてヴァンパイアに転生したの!」

 「それじゃあ...」

 「そう!今まで通りフジニアは車掌としてこの幽霊列車で魂を導くこと。そしてきさらぎが補佐役として手伝うこと。それが君たち二人に与えられた処分だよ」

 「また車掌として...今度はきさらぎと一緒にできるのか...良かった...本当に良かった...」


 フジニアはそう言うと大声で泣き大量の涙を流した。泣き続けるフジニアの背中を優しくきさらぎは摩り、フジニアは弱弱しい力できさらぎを抱きしめた。フジニアは泣き止むと目元が赤く腫れてしまった。


 「もうー泣きすぎだよフジニア」

 「だって...これ夢じゃないよな?」

 「夢じゃないよ。ほら、私の手温かいでしょ?」

 「ああ...温かい」


きさらぎが握った手は温かくフジニアは落ち着きを取り戻した。


 「フジニア、ほおら屈んで!」


きさらぎに言われた通りフジニアは屈むときさらぎは帽子を被せた。すると車掌の姿に変わっていた。


 「似合ってるよフジニア!」

 「ありがとうきさらぎ。きさらぎも似合ってる」

 「ありがとう!」


きさらぎが被せた帽子は車掌の帽子だった。きさらぎも帽子を被り二人は車掌の姿に変わる。


 「似合ってるぞ二人とも。これで一件落着だな」

 「マジシャン!」

 「一時はどうなることかと思ったけど本当に良かった。きさらぎが居るからもう大丈夫だな」

 「マジシャン..」


すると列車の蒸気が上がり音が響いた。


 「そろそろ列車が動き出す時間だ。これでお別れだ。魂を導いてくれよ」

 「マジシャン...今まで本当にありがとう」

 「ありがとうございましたマジシャン!」

 「僕もだよ。二人に会えて毎日が楽しかった」


マジシャンはそう言うとフジニアときさらぎを抱きしめた。


 「フジニアを頼むよきさらぎ」

 「はい」

 「フジニア...きさらぎと共に幸せになれよ」

 「マジシャン...ありがとう」


三人は長く抱きしめ合い、列車の蒸気は更に強くなった。


 「そろそろ行った方がいい。列車が待ちきれないってさ」

 「そうだな。随分サボちゃったから仕事が山ずみだ。俺達行くよ」

 「行ってきます」

 「いってらっしゃい」


フジニアときさらぎは列車に乗り幽霊列車は動き出した。幽霊列車の姿が見えなくなるまでマジシャンは見届けた。


 「行ったか。これで良かったな...これからも頑張よフジニア、きさらぎ。さてーそろそろ俺も地獄に戻るか。やらなければいけない仕事がたくさんあるからな。仕事仕事~...これは必要ないな」


マジシャンは帽子を取った。元の地獄の門番の姿に戻ると帽子を使い地獄に消えた。


 幽霊列車内ではカーナとグリンとネムがロビーに座っていた。グリンとネムは二人を見つけると飛びついた。


 「きさらぎ~フジニア~!お帰り!」

 「ママ~!」

 「え?グリン、ネム?きゃあああ!」

 「ただいま。グリン、ネムってうわああ!」

 「二人ともフジニアときさらぎの事をずっと待ってたのよ。おかえりなさいフジニア。それからようこそ、きさらぎ」

 「よろしくねカーナ!」


きさらぎが転生したと同時に幽霊列車は復活し、カーナたちも元に戻った。ネムは役目を終えたが閻魔にきさらぎと共に居たいと告げた。閻魔一度ネムの魂を消しきさらぎの小説の登場人物のネムに作り替えた。ネムは生まれ変わり小説のネムとなった。フジニアたちはロビーで話していたが近くにあるベルが鳴った。


 「駅までもうそろそろだね」

 「さてと~駅ももうすぐ着きそうだし私はバーに戻るわ~ドリンクを作らないと。そうだ、フジニア。お酒飲む?」


カーナは一度背を向いたが振り向いてフジニアに聞いた。


 「いや、いい。もう飲まなくても聞こえるから」


フジニアの答えにカーナは微笑むと今度はきさらぎに聞いた。


 「ならきさらぎはどう?」

 「うん!カーナのドリンク飲んで見たいし、グリンの料理を食べてみたい!」


ときさらぎが言うとグリンは喜び元気よく飛び跳ねた。


 「本当!なら頑張って作るね僕!」

 「楽しみにしてるねカーナ、グリン!」

 「任せて!とびっきりいいものを作るから!」


二人はそういうとそれぞれの持ち場に戻っていった。残ったネムはきさらぎの向けて両手を広げた。きさらぎはネムを抱っこするとネムは喜び頬ずりした。


 「皆気合が入ってるな」

 「そうだね。あれ、どうしたのネム?」

 「抱っこして欲しいんじゃないか?」

 「抱っこ?やってみるね」

 「ママ~」

 「可愛いなネム。きさらぎに懐いてるな」

 「神様といえど子供だもん。大人に甘えたいよね」

 「そうだな。そろそろ俺たちも準備するか」

 「そうだね。私たちも仕事にとりかかろう」


ときさらぎが言いフジニアに向かい合った。


 「きさらぎ?」

 「フジニア聞いて欲しいの。今までの事ありがとう..それから...これからもよろしくね!」

 「ああ!こちらこそありがとう。これからもずっとずっっとよろしくなきさらぎ!」


二人は言い合うと手を取り合った。


 あの時から聞こえなかったその声をやっと聴くことが出来た。


 「もしも...生まれ変わることが出来るなら来世は異形として...フジニアと一緒にずっと一緒に居たい」


その言葉をやっと聴くことが出来た時、喜びと同時に奇跡でも起きない限り叶わない吐かない夢だっと知った。本来人は異形に転生することは出来ない。それこそ神や閻魔など地位が高い異形に限られる。でも、奇跡が起きさらぎは異形に転生しフジニアの傍にいてくれた。今日協力してくれた案内人に礼を言わなくてならないとフジニアは心の中で思った。


 「ねえフジニア」

 「うん?どうしたきさらぎ」

 「色んなことがあったけど案内人には感謝しないと...彼が居なかったら私は今ここにいないから」

 「そうだな...俺も礼がしたい」


フジニアと案内人は元々天使と悪魔の正反対の異形で他人から見れば歪な関係だった。敵対する異形が家族として友として傍にいる。俺たちは浮いた存在だった。罠にかかり襲われ死にかけている天使を助けたことから全ては始まった。天使は天使として職務を全うし異形たちに認められるようになった。でもそれも天使が堕天使になったことで壊れてしまった。フジニアはずっと後悔していた。堕天使になってしまったのは自分のせいだと。心の中では謝りたいと話がしたいと思っていたのにいざ前にすると上手く言えなかった。案内人に会うことが出来たらもう一度話がしたい。


 「見てフジニア!あれ...」

 「え?!!」

 「あの羽...きっと案内人だよ!」


きさらぎに言われた方の窓を見ると白い羽が集まり文字になっていた。


 【ありがとう】

 「ありがとう...ありがとうだって!」

 「案内人...」


フジニアは窓に近づいた。外から見える景色からは案内人の姿を見ることは出来なかった。しかしフジニアは羽の主が案内人だっと確信した。


 (案内人...俺は...こういう時何ていうんだろう。思いが溢れて上手く言葉にできない。嫌なことも苦しいこともあったけど案内人がいたから今の俺がある。案内人と出会ったから異形の皆と出会えた。きさらぎにも出会えてその優しさを知った。言葉が出てこなくて今は上手く言えないけどこれだけは言いたい)


 「こちらこそありがとな...案内人」


フジニアはそう言うと窓に手を当てた。それに答えるように文字となった白い羽は空高く昇って行った。


 「行っちゃったね」

 「ああ、そうだな。また会えるといいな」

 「フジニア、きっと会えるよ」

 「そうだといいな」


とフジニアが言った時列車から駅が見えた。遠くからだが顔の見えない前世の乗客たちが見える。


 「駅が見えた」

 「乗客たちも見える!よーし!これから頑張るぞ!」

 「「おー」」


ときさらぎは元気よく言うとネムとフジニアも片手をあげ小さな声で言った。


『最終章 最後の終着駅』(終)NEXT→『終章 最後の終着駅』








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