最終章 最後の終着駅

最終章_最後の終着駅

1.

 再生したレコードは終わりフジニアときさらぎの過去が明らかになった。レコードを見終わった****は自分の正体がきさらぎであることを知った。


 「そうだったんだ...私は...きさらぎだったんだ」


と****が呟くと姿がきさらぎの変わった。きさらぎの姿になった****をみた写真家を驚きの声をあげた。


 「****が元の姿に...」


姿が元に戻ったきさらぎは自分の体を見回し両手を見下ろした。きさらぎは狭間の世界と列車を見てこの世界は自身が書いた小説の世界であることに気が付いた。


 「やっぱりそうだ。さっきレコードで見た通り、ここは私が書いた小説の世界。じゃあ、今まで私が見ていた夢の世界は全て...」

 「きさらぎ...あの少女はあなたです。あなたの見ていた夢は生きていた時の記憶と車掌が繰り返した時に魂の記憶が入り混じった結果だと思います」

 「そうだったんだ...」


ときさらぎは言うと悲しそうにきさらぎを見つめるフジニアと目が合った。


 「...車掌..フジニア、フジニアだよね?」


ときさらぎはフジニアに近づくと名前を呼んだ。名前を呼ばれたフジニアは泣きそうな顔をしながら震える声で話しかけた。


 「きさらぎ...その名前で呼ばれたのは久しぶりです。怒らないのですか?俺...私はあなたの魂を縛り付け..また!あの時のように..本当は怖かったんです!あなたを失うのもあなたの残した一言を聞くのを...このレコードを見てもあなたの残した一言だけは知ることが聞くことが出来なかった...」


**

 「よろしいのですか?では流しますよ」

 「お願いします」


 フジニアは写真家に頼むとレコードが再生されきさらぎの過去が流れた。フジニアはいくらきさらぎの過去を再生してもきさらぎの残した最後の言葉を聞くことが出来なかった。きさらぎの言葉を何度も聞こうとしたがフジニアだけは聞こえなかった。


 「映像終わりましたがいかがいたしましょうか?」

 「...お願いします。もう一度お願いします」

 「分かりました。では再生します」


と魂写真家は言うと持っているランプを照らした。すると映像が戻り再び再生された。結局...きさらぎの言葉は聞こえなかった。


 数時間後、写真家から連絡を受けたマジシャンは幽霊列車のロビーを訪れた。


 「ありがとう写真家。今回も来てくれて」

 「いえ、これも仕事ですから...それに私ができるのはこのくらいですから」

 「すまないな本当に」

 「いえ...あの...車掌は...」

 「分かった。あとは任せて」


とマジシャンは言うとロビーから廊下に出て車掌室に向かおうとした。すると写真家は慌てて廊下に出た。


 「門番様!」

 「写真家?どうしたの慌てて」

 「門番様、私はもう見ていられません!車掌のやつれていく姿を見るのは!あの方を早く解放してあげてください!門番様、あなたも気づいているはずです。我々は彼女の声を聴くことが出来ますが車掌は彼女の声を聴くことができない。このままでは車掌も彼女の魂も持ちません!ですから...」

 「心配させてごめんね。分かった。あとは任せてよ」

 「はい...後はよろしくお願いします」


写真家は不安そうにマジシャンを見た後お辞儀をした後列車を後にした。マジシャンは写真家の後姿を見送った後車掌室に向かった。マジシャンは車掌室に行くと車掌室は電気がついておらず暗かった。ノックして部屋に入ったマジシャンは電気をつけると部屋の隅で蹲っている車掌を見つけた。

 「入りますよフジニア」

 「......」

 「部屋が暗い。どこにいますか?電気をつけますよ」

 「......」

 「フジニアは...そこにいたんですか」

 「......」


マジシャンはフジニアに話しかけるがフジニアは一向に答える気配がない。心配になったフジニアはしゃがみ込んでフジニアにもう一度話しかけた。


 「フジニア、大丈夫ですか?」


と聞くとフジニアはゆっくり顔を上げて言った。その顔は青ざめて暗く眼の下の隈が酷かった。


 「マジシャン...またダメだった。また聞こえなかった...きさらぎの言葉が...」

 「フジニア...やはり彼女をきさらぎさんの魂を成仏させましょう」


と言うとフジニアは弱弱しく顔を横に振った。


 「聞いてフジニア。このまま彼女の魂を成仏させないと君も危なし、彼女の魂も異形に飲み込まれてしまうことになる。そうなったら正しい過去と魂は入り交じり壊れてしまうよ。それでもいいのかい?」


と優しくフジニアに言うとフジニアは再び顔を横に振った。


 「よくない。でも...いったいどうしたらいい?きさらぎを成仏させたら俺は...また一人になっちゃうんだ。独りぼっちは嫌だ。苦しいのは寂しいのはもう嫌なんだ。こんなこと良くないのは分かってるのに...分かってるのに...」

 「フジニア...」

 「どうしても...どうしてもきさらぎの最後の言葉が聞きたくてずっとレコードを見返しても聞こえなくて...今はもう普通の言葉すら聞こえなくなって...カーナに貰ったこの酒薬を飲まないと見えないし、聞こえないんだ」


と肩を震えながら話すフジニアの背中を摩ったマジシャンは床に散らばった大量の酒薬を見た。


 「こんなに大量に...彼女の言葉と姿を見るためにこんなに飲んだのかい?無理は良くないよ。ねえフジニア、約束して欲しい。もし彼女が最後まで自分がきさらぎだと気づくことがなく彼女の駅になった時は彼女の魂を成仏させる。それでいいかい?」

 「マジシャン...うん」


フジニアは震えながら小さく頷いた。マジシャンに背中を摩られたフジニアは次第に涙が溢れ静かに泣いた。


 「...フジニア...今度こそ必ず君を..」


話を聞いていた堕天使は何かを呟いた後その場から立ち去った。

**


 フジニアはきさらぎに頭を下げて謝った。


 「すみません...あなたに謝りたくてずっと後悔していたんです。車用になってからずっと..あなたに打ち明けなければいけない。しかし打ち明けた後にあなたになんて言われるのが怖くて...最初は覚悟していたんです。あなたにどんなに罵られようと受け入れようっと。それなのに時が経つにつれて私は怖くなってしまいました。貴方の番になり魂を解放させないといけないのに...最低でしょう?私はあなたを縛り付けて死なせたのにまた縛り付けていたなんて...罵られて当然です」


と言うフジニアにきさらぎは話しかけた。


 「顔を上げてよフジニア。私は...」


フジニアは顔を下げていたのできさらぎの顔を見ることは出来ず身構えていた。きさらぎの言葉を最後まで聞こうとしていたその時だった。


 いつの間にか辺りは暗くなった。空には既に赤い月が登っていたが突然地獄の門が開いた。


 「まずい!」


いつ早く気づいた堕天使はその場がから飛び離れたが反応に遅れたフジニアときさらぎは間に合わなかった。


 「地獄の門が...まずい!このままじゃ、二人とも落ちるぞ!」


と堕天使は言い二人に近づこうとしたが地響きと飛び散る小石に遮られて近づくことが出来なかった。マジシャンも二人に近づこうとしたが中々近づくことが出来ない。フジニアはきさらぎの傍に駆け寄り地響きに耐えていたが地割れが起きてしまう。


 「な、何?うわっ!」

 「きさらぎ!間に合わない!」


落ちそうになったきさらぎを片手で抱きしめ、もう片方で耐えていた。フジニアはきさらぎを受け止める際に頭を片腕を強打し、出血していた。出血は垂れてきさらぎの顔にかかりフジニアが怪我をしていることに気が付いた。


 「くそ!このままじゃ!」

 「フジニア、私の手を離して!じゃないとフジニアが!」

 「嫌だ!絶対にこの手を離さない!もうきさらぎをお前を失うのは嫌なんだ!」

 「フジニア...私は...」

 「だから、絶対離さない!」

 「フジニア...」

 「くそおお!ああああああ!」


怪我の痛みと片手で崖を掴み耐えていたが限界が近づいていた。このままでは二人とも地獄に落ちてしまう。そうなる前にこの状況を打破しなければならないと考えている時マジシャンがやってきた。


 「すまない待ってろ!二人とも手を伸ばせ!」


マジシャンはそう言うと手を伸ばした。フジニアは抱きしめている片手の力を振り絞って片手をあげる。きさらぎは手を伸ばしマジシャンの手を掴もうとした。しかし、あと一歩の所で掴めず二人とも地獄に落ちてしまった。


 「う、うわああああああああ!」

 「きゃああああああああああ!」

 「フジニア!きさらぎ!」


地獄に落ちてしまった二人を助けようとしたマジシャンを引き留めたのは堕天使だった。


 「無駄だよ!地獄に落ちた者はもう助からない!」

 「そんなこと言っている場合か!この門は地獄に続いてるんだ。このままじゃ二人は地獄に落ちる。それだけじゃない。もしこれが閻魔に見られたり知られたりしたらそれこそ終わりなんだ!」

 「だったらどうするの!」

 「方法ならある。私は地獄の門番だ。地獄に使える者は地獄の門に落ちても地獄に落ちることは無い。私が行きます。だから退いてください」


と言うマジシャンの袖を掴み堕天使は引き留めた。


 「なんです?あなたに付き合うほど暇ではないんです。今すぐ行かないと二人を助けれないんです。だから!」

 「...てくれ」

 「はい?今なんて言いました?」

 「なら俺も連れ行ってくれ!」

 「連れて行ってっもあなただけ地獄に落ちるだけですよ!」

 「それでもいい!元々堕天して落ちた身だ。これ以上堕ちようがない。それに堕天したのは...自分から堕ちたから。それを受け入れられずに守るべき人をずっと傷つけていた。気づくのが怖くて逃げていた。それももう終わりだ。これはせめてもの償いだ。俺はやり方を間違えたんだ...だから連れて行ってくれ...頼む」


と頭を下げる堕天使にマジシャンはため息をはいた。


 「いいだろう。ただし離れるなよ。命の保証はできないからな」

 「いいのか?ありがとう」

 「礼はいい。行くぞ」


マジシャンは堕天使を連れて地獄の門へ入ると門は閉まった。


 その頃幽霊列車では取り残されたカーナ・グリン・ネムはロビーを座っていた。


 「遅いね二人とも。ねえカーナ、車掌もきさらぎも帰ってくるよね?」

 「そうね。帰って来てくれることを信じましょう」

 「それもそうだね!」


不安そうに外の荒野を見たカーナは深いため息をついた。フジニアときさらぎが列車を飛びだしてもう数時間が経過している。二人の安否が気になるがカーナとグリンたちはきさらぎが書いた小説の一部だ。二人はこの列車から出ることは出来ないのだ。きさらぎに何かあればカーナとグリンにも影響は来るのだ。きさらぎが死ねばカーナとグリンは死ぬ。二人に死の概念は無く恐怖は無い。ただ寂しさを感じるのだ。カーナは自分が入れた赤ワインを眺めているとネムは突然立ち上がった。


 「...行かなきゃ」

 「え?ネムどうしたの?」

 「今、喋った?」


混乱する二人を置いてネムは廊下に出て行った。


 「待ってネム!どこに行くの?」

 「***********」


ネムは突然何かを唱えると地獄の門が現れた。


 「それは...地獄の...」

 「な、なんで地獄の門が...いくら神様でもできないはずなのに...」

 「もしかしてネムの正体は...」

困惑する二人を置いてネムは門に触れると地獄の門が少しずつ開いた。

 「な、どうして...」

 「あなたは...」


扉の先を見たカーナとグリンは衝撃でその場から動けなくなってしまった。扉の先に立っていたのは***だった。


 地獄に落ちたフジニアが頭を強く打ち気を失っていた。目を覚めるとそこは燃える業火が広がっていた。息をするだけで肺がやられそうだった。


 「きさらぎを探さないと..きさらぎ、どこだ!」


フジニアはきさらぎを呼びながらきさらぎを探した。早くここから出ないといけない。ここに居ればきさらぎは手遅れになってしまう。


 「早く探さないといけなっ!なんだこれ!」


地獄に落とされた醜い罪人となった魂がフジニアの足元に絡みついた。


 「うっ、あがっ!離れろ!」


足元に絡みついた魂は熱く両脚は火傷を負った。フジニアは鎌を取り出し魂たちを引きはがした。引きはがしたフジニアが一息つくときさらぎの叫び声が聞こえた。


 「きさらぎ!待ってろ、今行く!」


フジニアは走って駆けつけるときさらぎの魂の触れられたようでやけどの跡がついていた。


 「きさらぎ、しっかりしろ!」

 「フジニア...私...」


弱っているきさらぎを抱きしめたフジニアは近づいてくる魂をたちを睨みつけた。睨まれた魂たちは居なくなりフジニアは一息ついた。


 「きさらぎ、もう大丈夫だ。ここから出るぞ早く!」


きさらぎの魂は不安定で消えそうになっていた。地獄に落ちたからだろう。フジニアはきさらぎを強く抱きしめる。早くここから出て魂を解放しないといけない。そう思ったフジニアはきさらぎを抱えて歩き出そうとした時だった。とてつもない威圧感に襲われたフジニアは冷汗をかいた。呼吸が浅くなる。


 「どこに行くのだ?」


と聞いたことがない低い声を発した声にフジニアは震えながら振り向いた。そこに立っていたのは閻魔だった。






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