??章 ****駅_最後の終着駅

2_24(レコード:24車掌)

 転生の間から転生したフジニアがふと目を開けると見知らぬ場所に立っていた。地面は荒れ果て花は枯れ果てていた。


 「何だここ...ここが管理人、今は違うか。マジシャンが言っていた狭間の世界なのか?それにしても不気味だ」


フジニアが周囲を見回すと廃れた駅があるだけで周辺には誰も居なかった。


 「マジシャン、マジシャンどこだ?」


と呼びかけるがマジシャンは地獄にいるためここには居ない。そのことを思い出したフジニアは渡された本を開いてマジシャンと交信ことにした。


 「マジシャン!マジシャン!聞こえるか?」

 『その声はフジニアですか?聞こえます。今どこにいますか?』

 「多分狭間の世界だと思う。俺が今いるのは廃れて駅名も書かれていない駅だよ」

 『廃れた駅...分かりました。直ぐそちらに向かいます。ですので待っていてください』

 「ああ、待ってる。マジシャン..」

 『どうしました?』

 「どうすればいいか分からなくて怖いから早く来て欲しい」

 『分かりました。今すぐそちらに向かいます』


と言うとマジシャンの声は聞こえなくなった。知らない場所で不安なフジニアは本を二つの本を抱えて近くにある椅子に腰かけた。すると人の気配がして振り向くとフジニアは驚いた。顔が見えない服だげが浮いた人間らしき人物が数名立っていたからだ。驚いたフジニアが見えておらずと戻っていた時遠くの方から列車がやってきた。


 「列車?どうしてここに列車が...」


現れるはずのない列車に驚いたフジニアだったが列車の名前が”幽霊列車”であることに気が付いた。


 「幽霊列車ってことはこの列車で魂を導くのか?」


と考えていた時に社員用のドアから派手なマジシャンの衣装を着た異形が出てきた。


 「遅くなりました。待たせてしまってすみませんフジニア」

 「いや、待ってないけどってその声はマジシャン!」

 「そうですよ。私も驚きました。きさらぎさんの小説のマジシャンがここまで派手とは思わず..」

 「俺も驚いたけど似合ってるぞマジシャン」

 「そうですか?ならいいんです。とにかく説明するので中に入ってください」

 「ああ...でも外にいる人間は?」

 「ああ、彼らですか?彼らは導く魂ですよ。彼らの魂を導くのが仕事ですがまずはフジニアの死神の仕事について改めて説明します」

 「頼む。えっとここからは居ればいいのか?」

 「そうです。ついてきてください」


とマジシャンに案内され列車内に入った。中は広々としており大変立派だった。


 「流石というできでしょうね。今から列車内を案内するので覚えてください」


フジニアはきさらぎが書いた小説と比較し列車内をすべて覚えた。


 「では次にこの列車のルールを説明します。きさらぎさんの書いた本を読んでいただけたら分かると思いますがこの列車は..」


と説明するマジシャンはフジニアに分かりやすく教えた。フジニアはきさらぎの小説とマジシャンの説明のおかげでルールを覚えることが出来た。


 「説明は以上になります。何か質問はありますか?フジニア」

 「...分からない。不安なんだ。今更かもしれないけど俺にできるかどうか...初めての仕事はマジシャンも一緒に乗客の前世を解明してくれるか?」


と不安そうに言うフジニアにマジシャンは肩に手を置いた。


 「いいですよ。初めて不安な気持ちは私も分かります。フジニアが安心できるまで共に魂を解明しましょう」

 「いいのか!ありがとうマジシャン!」

 「ええ、それじゃあやりましょう!前世探しを!」

 「ああ、やろう」

 「っとその前に..」


と意気込んだフジニアだったがマジシャンの一言にズッコケた。


 「マジシャン!」

 「すみません。あなたにこれを渡すのを忘れていました」


とマジシャンは言うと懐から帽子を取りだした。


 「それは?」

 「これは車掌の帽子です」

 「車掌の帽子?」

 「はい。あなたは今死神ですがここでは車掌です。あなたは車掌として職務を当たるのに必要な帽子です。しゃがんでください」

 「しゃがむ?こうか?」

 「はい。そうです」


言われた通りしゃがむとフジニアの頭に帽子が被さった。すると満足そうに笑ったマジシャンはフジニアに言った。


 「これでよし!よく似合っていますよフジニア」

 「え?」


ふと顔を上げるとフジニアは車掌の帽子だけでなく車掌の制服とマントを身に着けていた。


 「これで完了です。それが車掌の正装なので職務に当たる時はその恰好でお願いします」

 「これが車掌...何かかっこいい」

 「気に入っていただいて良かったです。あなたは悪魔から死神に転生し、魂を導くためにこの鎌を渡します」

 「この鎌は?」


手渡された鎌は黒く巨大な大鎌だった。


 「この鎌は死神専用の鎌で死者だけでなく生者の魂まで導くことが出来ます。ですので考えて使用するように。この鎌にはあなたの血液が含まれているのであなたの意志で取り出すことが出来ます」

 「本当か!」

 「やって見せ下さい」

 「分かった!」


フジニアはマジシャンに言われた通り試してみると鎌を取り出すことに成功した。


 「続けていればスムーズに無意識にできるようになりますよ」

 「そうか。今は難しいけどいずれは楽にできるようになるといいな」

 「そうですね。そろそろ...始めましょうか」

 「ああ!やろうマジシャン」


と二人は言うと乗客の魂を導きだ始めた。


 乗客の魂を導きだして数カ月がたった二人はきさらぎの小説に登場するバーメイドと料理長を招集することを決め、バーメイドのカーナと料理長のグリンを作り出した。二人はマジシャンの能力で状況を直ぐに把握した。

 「なるほど分かったわ~私の名前はカーナ。これからよろしくね!」

 「僕はグリンだよ。よろしくね!」

 「よろしくお願いします。車掌と申します」

 「よろしく!僕はマジシャンだよ」


と互いに自己紹介を済ませカーナとグリンを迎えて仕事にとりかかろうとした時にきさらぎの書いた小説から一人の子神が出てきた。フジニアとマジシャンは思いもしない出来事に驚いた。


 「君は一体...うん?その体天使と悪魔か?」

 「でも、体の半分が天使と悪魔で分かれるみたいだ。お前...名前は?」


とフジニアが聞くと子神はフジニアを見て答えた。


 「ネム...」

 「え?ネム?」

 「コクコク...名前...」

 「どうします?」

 「急に現れたけどきさらぎの小説を確認したら確かに子神が登場してる。名前は書かれている通りネムみたいだ。夢を食べることが出来る半分天使と悪魔の子神。天使が女の子で悪魔が男の子って書かれてる。俺とマジシャンが作り出したわけじゃないけど本から出てきたのならネムもこの列車に必要だってことだ」

 「そうですね。やることは少ないですがネムも加えた五人でこれから頑張りましょう!」

 「ああ、よろしくなネム」

 「コクコク...」


とネムは頷き改めてネムを加えた五人で乗客の前世の魂を導いた。


 一人で前世を解明できるようになりマジシャンは地獄に戻り門番として仕事に戻ることになって数年。マジシャンから堕天使のことを聞いた。堕天使は堕天して森を去った後に天使や異形の血を飲み一時的に天使の戻っていたらしい。だが吸血鬼と違い他の異形が異形の血を飲みことは禁忌に当たる。堕天使はそれが代行人に気づかれ捕縛されたらしい。地獄に連れていかれた堕天使がどうなったのかは分からずマジシャンに聞いても教えてはくれなかった。もし、堕天使ともう一度出会うことが出来たのなら話がしたいと考えていた時だった。彼女がついに...きさらぎがやってきた。


 「こんにちは」

 「こ、こんにちは...お客様...」


フジニアはぎこちなくきさらぎに挨拶を返した。きさらぎは他の乗客同様に魂を解明する乗客だ。過去を解明していないためフジニアのことは覚えているはずはなく乗る組員と同じようにフジニアに接した。運が良いのか悪いのかきさらぎの駅は最後まで残り乗客はきさらぎのみになった。フジニアはきさらぎの前世を解明しなければいけないことは理解しているが知られなくない、解明した良くないと言う心の中の葛藤とひそかに戦っていた。気晴らしにロビーを訪れた時にきさらぎは一人椅子に座っていた。寂しそうに座るきさらぎの姿を見たフジニアは傍に行き話しかけた。


 「お客様、どうしたんですか。このような場所でおひとり何をしていたのでしょうか?」

 「その声は車掌さん。すみません..少し一人になりたくて...」

 「そうでしたか。話しかけてすみません。私はお暇しましょう。何かあればお呼びください」


と言いお辞儀をしたフジニアはロビーから立ち去ろうとしたがきさらぎの袖を掴まれた。


 「お客様いかがいたしましたか?」

 「いかないで...」

 「え?」

 「一人になりたいって言ったけど本当は違うんです。寂しくて...車掌さんが良ければしばらく一緒に居てくれませんか?」

 「!!」


フジニアは驚いたと同時にきさらぎの言葉に顔が赤くなった。幸いにも帽子で顔が隠れていたので気づかれることは無かった。


 「あの...ごめんなさい。仕事に邪魔ですよね。ごめんなさい」

と謝るきさらぎの隣に腰かけた。

 「仕事の邪魔じゃないです」

 「え..いいんですか?」

 「はい。私もあなたとお話してみたいと思っていましたから」


とフジニアは言うときさらぎは笑った。その顔は黒く染まり見えることは無いがフジニアにははっきりと見えた。あの時と同じ生きていた時に見せてくれた笑みと全く同じものだった。きさらぎと話したフジニアは過去を思い出し平然を保ちながら湧き上がる想いを抑えるのに必死だった。傍で話しそうに話すきさらぎを見上げた。


 (それはずっと会いたかった人...謝りたくてすっと後悔した人だった。守りたい人だった。生きて欲しい人だった。死んでほしくない人だった。目の前で幸せそうに笑うきさらぎに真実を伝えなくてはならない。でも真実を伝えるのが怖い。罵られて嫌われてしまったら怖い。ましてやきさらぎが地獄になんて落ちてしまったら俺は怖い。きさらぎに真実を伝える訳にはいかない。きさらぎが前世を調べる前に証拠を集めなくては...)


 「すみません、きさらぎさん。やらなければいけないことを思い出したので行きますね」

 「そうですか。ここで待ってますからまた話しましょうね!」

 「はい。では...」


フジニアは顔下げて歩き入り口に立ち止りきさらぎの方へ顔を向けるときさらぎはフジニアに手を振っている。何も知らないきさらぎ。これからフジニアは許されないことをするとは知らないきさらぎを見つめたフジニアは涙を流しきさらぎに謝った。


 「きさらぎさん...」

 「はい?どうしたんですか、車掌さん」

 「あなたを失い事を恐れた僕を許してください...」

 「え?」

 「ごめん...きさらぎ」

 「え?待って車掌さんっていない」


と言い残しフジニアはロビーを去った。


 場面が切り替わりきさらぎの駅がやってきた。きさらぎは案の定自分の前世を知ろうと証拠を集めるが何もない。最後に車掌室を訪れた時に自分の前世の証拠が車掌室の机にあることに気づいたきさらぎは証拠を調べようとしたが調べることが出来なかった。ドアの入り口にフジニアが鎌を持ちきさらぎに近づくと魂から記憶を消して駅まで魂を戻しやり直した。


 「え?車掌さん..どうして...」

 「悪いがお前に思いだしてもらうわけにはいかないんだ」

 「そんな...どうして...」

 「ごめんな...きさらぎ」

 「フジ..ニア...」

 「!!きさら..」


意識が途切れかけ駅まで戻しかけたきさらぎの顔をフジニアは見ることが出来ず顔を下げているときさらぎはフジニアの名を呼び顔を上げた。しかしきさらぎは直ぐに消えてしまった。フジニアは自身がしてしまった行いを悔やみその場で崩れ落ち泣き叫んだ。


 (ごめん、ごめん、ごめん。悪いことだってことは分かってる。いけないことだってことは分かってる。でも、俺にはきさらぎの魂を成仏させることはできなかった)


きさらぎと居たい。魂を導けば魂は成仏する。成仏すればきさらぎは居なくなってしまうという恐怖の衝動にかられたフジニアは繰り返した。いつの間にか魂が乱れ口調やノイズのほかに彼女の魂は夢を見せて訴えている。このままではきさらぎの魂は形を保てなくなり消えてしまう。そのことに気づいたフジニアはきさらぎの魂を駅に飛ばした際に繰りかえすのを止めることにした。


 (繰り返すのはもうやめよう。このままじゃきさらぎは魂を導く以前に消えてしまう。今回で最後にしよう。それが例えどんな結果になったとしても受け入れよう)

 (今までとは違いだれずにここまで来た。このままうまくいければいい)

 (きさらぎの魂が揺らぎ始めた。急がないと魂のレコードが改変され過去と情報が入れ混じることになってしまう)

 (やられた!記憶のレコードがきさらぎに見られた。最悪だ!)

 (きさらぎが勘付いた。もう潮時なのかもしれない。これはいいチャンスかもしれない。きさらぎに話そう)

 (もうここまで来た。隠してはいられない。真実を伝えないと..)


フジニアはその思いできさらぎのレコードを見せた。


 「これが今まで隠してきた過去の全てです」

とフジニアが言ったと同時にレコードの映像は終わった。


『??章 ****駅_最後の終着駅』(終)→『最終章 最後の終着駅』

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