??章 ****駅_最後の終着駅
2_22(レコード:22亡骸)
きさらぎが振り向いた先で立っていたのはフジニアではなく天使だった。きさらぎは目の前に立つ天使に驚いた。
「あなたは...どうしてここに?」
「.....」
天使に聞いても一向に答えようとしなかった。答えない天使に困惑したきさらぎだったが立ち尽くすわけにもいかず天使に一声かけようとした時だった。天使は突然きさらぎの首を掴み絞めた。
「..せいだ..」
「え?なあに?」
「...まえのせいだ!お前のせいだ!」
「え?うぐっ...離し...して...」
急な出来事に反応が遅れてしまいきさらぎは抵抗したが首を絞める力は直なる。
「お前のせいだ。お前のせいで...あいつは!お前と出会ったせいで!あいつは処分されるんだ!お前さえ...お前さえいなければ良かったんだ!」
「息ができな...苦し...」
きさらぎは必死に抵抗していた時苦しさから涙がこぼれそうになる。すると顔に雫が落ち雨なのかと考えていたがそうではなかった。落ちてきた雫は雨で泣く天使の涙だった。天使はきさらぎを憎み同時に苦しそうな悲しげな顔をしていた。
「天使...さ...」
きさらぎは息が出来なくなり意識が飛びそうになった時その手は離された。きさらぎはその場で崩れ落ち首に手を当てて息を整えた。きさらぎは息を整えながら顔を上げると天使の他に見知らぬ異形が立っていた。
「知らない...異形の人...」
息を整えているきさらぎを無視した異形・代行人は天使を拘束し話しかけた。
「天使、一体ここで何をしている?」
「...」
「お前の役目は違うだろ?その人間を手にかけることではない。お前の仕事は終わったはずだが...」
「......」
「まあいい...仕事の邪魔だ。今すぐ去れ...」
と代行人は言うと天使は反抗せずに頷き、きさらぎに毒を吐き出すように言うとその場から飛び去った。
「全部...お前のせいだ...人間のことで処罰されるなんて馬鹿だよ...人間に傷つけられて壊されたのに人間を守るなんて...裏切者...親友だって信じてたのに...」
「天使...さん...」
きさらぎは飛び去った天使を見て声を掛けようとしたが既に天使の姿はなかった。天使を気に掛けたきさらぎだったが目の前には鎌を持った代行人がきさらぎを見つめていた。
「きさらぎっと言ったか?他人を心配するよりも己の心配をしたらどうだ?これを見たら分かるだろう。これからお前に裁きを与える」
「裁きを...」
「そうだ。無意識とはいえ悪魔と取引や契約に近しい縛りをした。それによりお前の寿命や人生を捻じ曲げた。その罪は重い...例え悪魔が何もしなくても悪魔の傍にいればその人間の寿命は尽きる。本来ならその場で死ぬのだが天使の加護により呪縛を解いて七日の命を与えた。最後に言いたいことはあるか?」
と鎌を突き付けられたきさらぎは酷く冷静で恐怖はなかった。代行人の話しを聞いたきさらぎは己の身に起こった悲劇の原因を知り納得した。
「そっか...あれはやっぱりあの時見えた数字は私の寿命だったのか...今まで起きていた酷いことは私のせいでこんなことに...なのに...でも...フジニアは...」
ときさらぎが言うと代行人は不思議な顔をしてきさらぎを見る。
「フジニア?」
「フジニアは私がつけた彼の名前です」
「お前は悪魔に名前を付けたのか?」
「はい..名前を付けた時フジニアは喜んでくれたんです。あの時は本当に嬉しかった。あの...お願いがあります。もしもフジニアに会えたら伝えて欲しいんです」
「...分かった。お前がこの後死んだ時にあいつにしっかりと伝える」
「ありがとうございます。フジニアにはこう伝えてください」
きさらぎは代行人に最後にそう伝えた。言い終えたきさらぎは覚悟を決めて目を閉じた。これから死ぬというのに怖くはなかった。
「お前の伝言確かに受け取った。あとのことは任せろ楽に終わらせてやる。いくぞ...それでは罪を決行する。裁きを今...」
と言うと代行人は釜を振り上げきさらぎを斬り付けた。不思議なことに痛みは何一つなかった。何故か込み上げてくる涙と共に体が浮き地面に向って落下した。その時、擦れていく視界の中でフジニアの姿が見えた。
(フジニア...夢みたい。フジニアの姿が見えるなんて...これはきっと私が見たい走馬灯なんだろうな...)
「きさらぎいいいいいいいいいいいいいい!」
必死にきさらぎの名前を叫び手を伸ばすフジニアにきさらぎは笑った。
「ごめんなさい...私は死んでしまう。あなたを残して死んでしまう...けど..もしも生まれ変われるのなら...生まれ変わることができるなら...あなたのように人ではなく異形として...来世は幸せになれると信じて...」
その一言を最後にきさらぎは死に絶えた。
数分前...代行人に捕縛されたフジニアは絶望し己を責めていた。
「そんな...俺のせいだ...俺の!」
「今からお前の罪を!!誰だ!」
「え?」
「なっ!嘘だろ」
代行人はフジニアの罪を裁くため連れて行こうとした時何者かが二人の間に入りフジニアの拘束を解いた。何者かはフジニアを庇うように前に立つとその姿を見た代行人とフジニアは驚きの声を上げる。
「どうしてお前が...何故ここにいる?管理人」
管理人の姿を見た代行人は声を荒げて怒鳴った。
「すみません。お話があります。彼を...フジニアを人間のきさらぎの所に行かせてあげてください!」
「っ!!そんなこと認められるか!だいたいお前はあそこで幽閉していたのに何故ここに来た!なぜ勝手な判断であそこから抜け出した!」
「それに関しては本当にすみません。ですが!」
「いいや...話しなどない。今すぐ戻れ管理人。今なら不問にしてやる。だから...」
「お願いです!代行人、いや...先生!彼の...フジニアの罪についてお話があります!」
「話なんてない!こいつは有罪で」
とフジニアを睨みつけながら話す代行人の腕ももう一人の代行人が掴んだ。
「いいだろう。聞かせてもらおう。おい、悪魔行け」
「え...で、でも」
「何勝手に判断してるんだ!そんなこと」
「いいから早く行け...もう手遅れかも知れないけどな」
「何してまだ話しは!」
「フジニア...行ってください」
「管理人...俺は...」
「行きなさい!」
「...あっありがとう!」
とフジニアは礼を言うときさらぎの元へと急いで向かった。
フジニアは急いできさらぎを探した。
「きさらぎ!どこだ、きさらぎ!あっいた!」
フジニアがきさらぎを見つけた時にはもう既にきさらぎは鎌で切られた直後だった。フジニアは落下するきさらぎを掴もうと必死に手を伸ばした。
「そんな...つっ...きさらぎいいいいいいいいいいいいいい!」
「!!お前...どうして...」
フジニアはきさらぎを掴んだが間に合わずきさらぎは既に死んでいた。突然現れたフジニアに代行人は身構えた物の直ぐに鎌を下した。
「切って...いや..最後くらいはいいか...」
代行人は呟きながら見下ろした。フジニアが泣き叫びきさらぎの名前を呼んでいた。その光景に一息ついた後代行人も屋上から飛び降りた。
「あああああああああああああ!」
「きさらぎ!きさらぎ!きさらぎ!きさらぎ!目を開けてくれよ!」
「死ぬんじゃねえよ!俺はまだきさらぎと仲直りしてないぞ...こんなのありかよ!」
「なあ...頼む!死ぬな死ぬな。きさらぎ!」
(きさらぎが死んだ。どんなに泣き叫んでも意味がない事くらい分かってる。分かってる...けど...叫ばずにはいられなかった)
どんなに叫んで名前を呼んでもきさらぎは答えない。笑ってフジニアの名前を呼んではくれない。なぜなら...きさらぎはもう死んでいるからだ。フジニアは理解はしたが心が追い付かなかった。必死に冷たくなるきさらぎの体温を逃がさないように優しく抱きしめた。フジニアはこの場から動きたくはなかったが罰を受けなくてならない。次第に代行人らが集まってきた。
「例の悪魔と人間だな?人間の方は死んでいるのか」
「......」
「答える気はないか。まあいい、一緒に来てもらおう」
「......」
フジニアは答えるままきさらぎをただ抱きしめていた。その場から動かないフジニアに嫌気が差したのか代行人がフジニアに触れた。しかしフジニアは一向に動こうとしない。
「お前...強情の悪魔だな」
「動け...ってビクともしないぞこいつ!」
「どうすんだよ。こいつを連れて行かないと処罰できないだろ?」
「とにかく連れて行かないと...なあ悪魔?俺たちはお前を処罰しないといけないんだ。そこに案内するから立ってくれないか?」
「......」
「おい!無視すんなよ」
「何やってもだめだなこいつ...なら人間の方でも先に連れて行くか?」
代行人の一人がそう言うと他の代行人たちも納得したのかきさらぎに触れようと手を伸ばした。すると今まで無気力だったフジニアがその手をに斬り潰した。
「さわ...な」
「うん?何か言ったか?」
「離せ...きさらぎに触るな!」
「いだああああああああああ!」
「てめえ!いきなり何すんだ!」
「やっぱり悪魔なんて無理だ!この場で殺そう!」
「「「そうだそうだ!」」」
と代行人たちは言うと鎌を取り出した。フジニアは代行人たちを鋭く睨む付けてきさらぎを守る様に構えた。
「こいつ!この悪魔は危険だ。殺せ!」
「どけ!触るな!きさらぎに近づくなあ!お前全員殺してやる!」
フジニアはそう言うと巨大化し漆黒の翼をばたつかせ牙を生やした。フジニアのおたけびは殺気も交じりその場を制した。その姿を見た代行人たちは恐怖に捕らわれ動けなくなってしまった。それからはもう地獄だった。暴れるフジニアを抑え死んでいるきさらぎと共に審議の間に連れて行かなければならないのだ。しかし、暴れ狂うフジニアを止めることが出来る異形はこの場には居なかった。暴れまわりきさらぎを守ろうとしたフジニアの体は傷つき体中から血が流れていた。このままではフジニアまで死んでしまう。そんなフジニアを止めたのは管理人だった。
「離せ!きさらぎに触るなあああああああああ!」
と言いながら代行人の行く手を拒んでいるフジニアに触れ管理人は優しく声を掛けた。
「もう大丈夫...落ち着いてフジニア」
「!!...その声は...管理人?」
フジニアがゆっくり振り向くと優しそうな表情で見つめる管理人が立っていた。
「管理人...どうして...」
「代行人と話を付けたんだ。もう大丈夫...私も一緒に罰を受けるから一緒に審議の間に行こう?」
と管理人は言うとフジニアはゆっくり頷き羽をしまい牙も元のサイズに戻った。
「...分かった。管理者が一緒なら行く」
「いい子ですね...フジニア」
管理人は言うとフジニアの頭を優しく撫で、死んだきさらぎの瞼に手を当てた。代行人たちは管理人が現れたことにも驚いたがフジニアが大人しくなったことにも驚きを隠せなかった。近くにいた代行人の一人が二人に手錠をかけ審議の間に連れて行った。フジニアはただ茫然と審議の間で行われている裁判を聞いているだけだった。
(きっと俺は殺される...重罪を犯したんだ...でもいいか...きさらぎはもういない。森に住んでいた異形たちだって...どうなったのか分からない...もういいや...疲れた...俺は死罪だ。きっと...そう思っていたのに俺に下された判決は違うものだった)
「罪状は以上だ。管理人並びに悪魔の地位を剥奪。管理人を地獄を管理し閻魔を補佐する職務、地獄の門番とする。対して悪魔は重罪を犯したとして魂を導く者の職務、死神とする。死した魂を導け!これにて両二名の審議を終了とする。解散!」
審議が終われば代行人や異形たちは興味がないからその場を去っていく。フジニアは自分の判決を信じられずその場から動けずにいると管理人が優しくフジニアに声を掛けた。
「フジニア、大丈夫?」
「ど...して...どうして...俺が死神に?普通は死罪になるはずなのに...」
「フジニア、そんなこと言わないで...確かに普通に行けばフジニアは死罪で僕も同様に極刑に処さるだろう」
「なら、どうして!」
「フジニアが死罪にならなかったのには理由がある。訳を話すから落ち着いて聞いて欲しい。実はね...あの時...」
管理人は数分前の出来事を思い出しながらフジニアに説明した。
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