??章 ****駅_最後の終着駅
2_21(レコード:21因果応報)
きさらぎと喧嘩をしたフジニアはきさらぎの元を去った。フジニアは月が綺麗に見える誰もいないビルの屋上に腰かけていた。
「はあ...最悪だ。全く笑えなくてつまらない喧嘩をした。きさらぎと喧嘩をしたの初めてだ...」
と言いながら顔を手で覆うフジニア。
「でも、きさらぎだって悪いんだからな!でも...俺も悪いか...」
「きさらぎに謝らないと...」
フジニアはビルから飛び降りるときさらぎの家に向かった。フジニアは向かう道中にきさらぎとの喧嘩を思い出した。
**
フジニアときさらぎの喧嘩のきっかけは些細な事だった。いつもならきっとくだらないと笑い飛ばすかもしれないたわいもない会話だったはずなのにいつの間にか二人は口論になった。二人はカッとなり何に怒ったのかその原因をすら覚えていなかった。二人は向き合い心の内を叫んだ。
「ねえ、一体何を隠してるのフジニア!私達友達でしょ?私に言えないの?」
ときさらぎが怒り口調で言い悲しげな顔をする。フジニアを訴えるきさらぎの言葉を聞きフジニアは言い返した。
「なんだよそれ...なら、お前だって...きさらぎだってそうだろ!俺にどうこう言う前にお前は...きさらぎは何隠してるんだよ!」
絶対にきさらぎに言わない冷めた口調で言ってしまった。後悔よりも怒りを感じたフジニアはきさらぎの胸倉を掴む。掴まれたきさらぎも動じずフジニアを睨み返した。
「なんだよその目...何睨んでんだよ!」
「睨んでるのはフジニアも同じでしょ?さっき私に何隠してるんだって言ったけどフジニアもそうでしょ!毎晩夜にこそこそ出かけて人を襲ってるでしょ!私...知ってるんだよ。最近この町で人が襲われてる噂聞いてるよ...それってフジニアのせいなんでしょ!」
「ああ...そうだよ。それが何だ...だから何だよ!」
「何で怒るの?人を襲ってあの森にいた時とは違うんだよ!この町に住む人はいい人だっていっぱいいるんだよ。その人たちを殺すの?」
ときさらぎはフジニアに訴える。フジニアはきさらぎに言われたことは理解しているがきさらぎに指摘されたくなく小さな声で言う。
「そんなこと...俺だって分かってんだよ...」
「じゃあ、なんで人を襲うの?フジ..「あの時と森にいる時とは違うんだよ!ここはあの時と違って人間は来ないから」..だからって襲うの?そんなの私を殺そうとした人たちと変わらないよ...」
ときさらぎに言われたフジニアは言葉を失った。きさらぎに言われなくなかった言葉を言われたフジニアは固まった。それに追い打ちをかけるようにきさらぎがフジニアに言う。
「...私の魂を喰らえばよかったのに」
「!!」
その一言でフジニアは時が止まったように感じた。フジニアをきさらぎの方を顔を向ける。きさらぎは下を向いて肩を震わしていた。
(今...きさらぎはなんて言った?俺に...自分の魂を喰らえばよかったって言ったのか?きさらぎの魂を...ふざけんなよ!)
「ああ...そうだなそうしてやるよ!」
「え...フジニア?」
フジニアはきさらぎを押し倒した。きさらぎは急な出来事に反応が遅れてしまった。フジニアに押し倒されフジニアはきさらぎを喰らおうとする。きさらぎ顔にフジニアの涎が数滴落ちる。フジニアがきさらぎの首元を噛もうとした時きさらぎは自分が殺されそうになった記憶を思い出した。
(あの時と同じ...違う...あの時とは違う..はずなのに...違う。こんなはずじゃない...私は...ただ...フジニアと一緒に居たかったのに...あの人達と違うと思ってたのに...)
取り乱したきさらぎは涙であふれる顔を腕で隠しながら呟いた。
「嘘つき...フジニアなんか...友達じゃない...」
「..きさ..」
「...フジニアとなんか出会わなければ良かった」
ときさらぎに最も言われなくない言葉を言われたフジニアは全身に鳥肌がたち毛が逆立った。フジニアは顔を上げ自身の唇を嚙み締めた。
「そうかよ!こっちだって、俺だってそうだ。お前となんか出会わなければ良かったよ!お前なんかどっか行っちまえ!死ねばいいんだ!」
「え...フジニア...」
フジニアの目の前に傷ついたきさらぎの顔が見える。フジニアは再びきさらぎの首元に顔を近づけた。
(こんなことするつもりじゃない。傷つけるつもりじゃない...俺は...俺は...なんで止まらないんだ...ただ...些細な事だったのに...きさらぎに謝らなきゃいけないのに...)
フジニアは静かに涙を流しながら思いとは裏腹に毒を吐く。
「お前なんか死ねばよかったんだ...あの時助けなきゃよかった...」
(違う..違う..違う...違う!俺はこんなことを言いたいわけじゃない!違う。違うのに!)
フジニアはきさらぎの首元を噛もうとした時、天使に殺されそうになった記憶を思い出した。その時の記憶が今の自分と重なりフジニアは全身に衝撃が襲う。
(同じだ。あの時の天使と俺は同じだ。天使は俺を俺はきさらぎを殺そうとした。天使は俺を守ろうとして俺を殺そうとした。俺もきさらぎを守ろうとしてきさらぎを殺そうとした...守るべきだったきさらぎを...俺は...)
真っ青な顔をしたフジニアはきさらぎを見下ろした。きさらぎは絶望し悲しげな顔でフジニアを見上げている。その姿は過去の自分と重なる。
(あの時の天使は...こんな気持ちだったのか)
溢れる後悔や苦しい感情を押し殺しきさらぎに謝った。
「悪かった!お、俺は...俺は...」
フジニアはきさらぎから退けようとしたがきさらぎはフジニアの頬を両手で掴むと首元に近づけた。
「いいの...ごめん..ごめんね...本当にごめんなさい。フジニア、私はあなたに迷惑かけてたみたい」
「そんなことない...違うんだ。俺が悪いから..俺も言い過ぎたしだからきさ..え?」
「そんな顔しないでフジニアは悪くないから...こんなつもりじゃなかったのにフジニアを傷つけた。ごめんね...今までありがとう...」
「何して...何言ってんだよ」
「私を食べたいならいいよ...フジニアなら私食べらえてもいいよ」
『...いいよ。お前になら殺されていい』
過去に自分と目の前のきさらぎの言葉が完全に重なった。
「俺は...」
何かを言われければならないと思いフジニアは頬を掴むきさらぎの両手を掴んだ。きさらぎの顔は見ることはできないが過去の自分のように震えていた。きさらぎを傷つけてしまったフジニアはきさらぎの両手を優しく頬から離した。
(俺はきさらぎを傷つけた...もうきさらぎの傍には居られない...)
フジニアはゆっくり立ち上がると窓の傍に立った。きさらぎも起き上がりフジニアを見るがフジニアはきさらぎに背を向けた。
「俺は...きさらぎの魂を食べない...」
「俺はきさらぎを傷つけた...俺達一度離れた方がいいのかもしれない...俺は出てくよ、きさらぎ」
「フジニア...あの...分かった。今までありがとう...さようなら...フジニア」
「......」
「フジ..!」
フジニアは何も言わず飛び去った。きさらぎがフジニアの名を呼ぼうとしたがフジニアに聞かれることもなかった。そこにあったのは暗い空とそこに浮かぶ月だけだった。
**
フジニアは思い出しため息が止まらない。あの時きささらに”さようなら”と言わなかったのは言えばもう会えない気がしたからだ。既にこの状況もよいとは言えない。飛び去った過去の天使と全く同じ行動をしたフジニアは頭を抱えた。
「結局俺も立場が違うだけでやってることは同じなのか...」
きさらぎの元を飛び出してから二日は立っていた。もう少しで一週間が終わりまた始まる。そう思っていたフジニアにその日は来なかった。
「見つけた」
「っ!」
突然背後から声が聞こえたフジニアは周囲を確認するが何もない。気のせいかと思った瞬間突然体を拘束された。
「え...何だこれ、しまった!」
フジニアは拘束を解こうとするが中々解けない。フジニアが拘束を解こうとすると異形たちが姿を現した。
「ついに見つけたぞ、悪魔」
「っ!あんた達は...」
姿を見せたのは代行人だった。動揺するフジニアを置いて代行人はのんきに二人で話し出した。
「まったく天使がモタモタするから俺たちが駆り出されただろうが..」
「そう言うなよ。別にいいだろう、人にはいや異形か。異形にはそれぞれペースと言うものがあるんだから」
「何言ってんだ。俺にも仕事があるんだよ。ったく直々に来てやったんだ。感謝しろよ全く!」
「はいはい。心から感謝してますー」
「おい?してないよな?お前は全く!だいたいお前の部下がやらかしたからお前とその後始末に俺が巻き込まれたんだぞ。それを分かってるのか?」
「はいはい。胸倉を掴むな。近いぞ、離れろ。ソーシャルデイスタンス。お前に告白されても毛ほども嬉しくない」
「話しを聞けや?全くお前の部下が優秀だったことも驚きなのに、その部下がやらかしたことに驚いて、お前が後始末することになって手を貸そうとした数分前の俺の気持ちを返せ!」
「それには感謝してる。同じ代行人の中で唯一の同期で俺のことを気にかけてくれるのはお前だけだからね」
「え...そんなこと言われたら照れるだろ」
「フフフ...照れてる!」
「おい!笑うな。こいつ...やっぱり手伝わなきゃよかった」
フジニアは目の前の光景に目で追う事しかできず反応に困った。二人のやり取りは止まらずフジニアはその隙に拘束を解こうとするが解けない。見えない力で押さえつけられているようだ。
「なんだこれ...くそ...解けない」
「当たり前だ。それは悪魔を弱らせる結界のようなものだ。悪魔のお前がどうこうできる代物ではない。お前はそこから一歩も動くことはできない」
「天使も天使だな。こいつと交流があるのか知らんが手を抜いてたな。まあいいか..今天使から連絡を受けた。ここに対象の人間を裁くために連れてきてもらう」
「彼を捕まえたし、一件落着かな」
「ったくこんなことならお前だけで足りるだろう」
「念のためだよ。相手は悪魔だし、報告によれば例の森の番人をやっていたから強いと思ったからな」
「よく言うよ。お前は異形の中で最も強いだろうが。悪魔でさお前を見たら死を選ぶのにな。俺が居てよかったな悪魔」
「え?」
代行人はそう言いながら指を指した。
「こいつは異形の中で最も強い異形なんだ。種族とか関係なしにな。お前を逃がした管理人はこいつの部下だよ。こいつは管理人を気に入ってたし生まれた時から育ててたからな。管理人が規則を破りお前を逃がしたって聞いた時は抑えるのに大変だったんだぞ。お前と人間を問答無用で殺しに行こうとするからな。だから俺が来たんだよ。でなきゃ今頃お前とその人間はあいつに殺され生き返されてまた殺される。魂が消えるまでの生き地獄を繰り返していただろうよ」
「生き地獄...」
「ああ、だから言ったろ?俺は巻き込まれたって...こいつが暴走して止める後始末をするのが俺の仕事だからな。その面倒ごとをこれ以上引き受けたくないんでね」
「これ以上...?」
「そう、管理人から聞いてないのか?過去にあいつの部下の管理人が”とある異形に巻き込まれた”時はこいつを止めるのに苦労したんだ。なりふり構わず異形と人間を殺そうとするから。危うく一部の世界が消えるところだった。あの時管理人が命懸けでこいつを呼び掛けてくれたおかげで何とかなったんだよ。だから今回のことがあってこいつの堪忍袋の緒が切れてな...ってこんなこと悪魔に言っても意味ないか」
と言う代行人は髪の毛をかいた。フジニアは代行人の言葉に背筋が凍りつき自身を睨む冷徹な笑みに恐怖した。
「...れは...俺は...」
(言葉が上手く出てこない...まずいまずいまずい。早くこいつらから逃げてきさらぎの所に行かないといけないのに!)
フジニアは代行人の圧に動けず息ができなくなりかけた時その圧を止めたのが傍にいた代行人だった。
「おい、やめておけ。お前の圧はあいつがもたない」
「...っち」
「舌打ちもだめだ。とにかく連れてくぞ」
代行人は拘束したフジニアの肩を掴んで言った。フジニアは代行人の会話を聞ききさらぎのことを思い出し慌てて弁解した。
「まっ待ってくれ!さっき対象に人間がどうかと言っていたな!それって...きさらぎのことなのか?」
「やはり知っていたのか...そうだ。お前の言う通りその人間、きさらぎと言ったか?そいつがお前と同じ処罰の対象者だ」
「きさらぎが...待ってくれ!俺ときさらぎはもう別れたしそもそもあいつは関係ないだろ!だいたいなんできさらぎが裁かれるんだよ!俺ときさらぎが一緒に居るだけで何がいけないんだ!」
「黙れ!」
「うぐっ!」
代行人はフジニアの髪の毛を乱暴に掴み上げた。
「つっ...離せ...」
「おい!関係ないわけないだろ?関係ならある...悪魔と取引をした又は契約をした人間は裁きの対象となる。お前の傍にいたあの人間...きさらぎのようにな」
「ちょっと待ってくれ!きさらぎとは何もないし、きさらぎには何もしてない!悪魔の取引だって悪魔の契約だってそうだ!俺はきさらぎの魂だって!”俺はきさらぎと友達になりたい”、”友達になってずっと一緒にいたい”って互いに思っていただけで!」
「それがどうした?」
「えっ?」
フジニアは代行人に発した一言に固まった。フジニアは恐る恐る代行人を見た。代行人は冷めたような目でフジニアを見下しながら言った。
「悪魔と人間が友達だと?言語道断だ。決して取引や契約をしなくたって友達になりたいと...ずっと一緒に居たいと思えばそれは取引や契約と何ら変わらない。その者を縛るんだ。悪魔が傍にいた人間の末路なんてそんなもの決まっているだろ。お前がその人間の人生を壊したんだ」
フジニアは代行人に言われた一言で絶望した。
(俺が壊した...きさらぎを...あの時...きさらぎと出会って...会いたいと約束して名前をつけてもらって友達なって...それから...あの時も...あの時も...俺が...きさらぎを...俺のせいで...俺がきさらぎを壊した)
「そっそんな...俺のせいだ...」
絶望したフジニアは気力を無くした。掴んでいたフジニアの髪を離すとフジニアは拘束されたままになる。そんなフジニアを見た代行人は憐れんで言った。
「お前は何とも哀れな悪魔だな...お前が無意識とはいえ縛り付けたせいでその寿命と人生が狂ったんだ」
「それってどういう...?」
「あの人間はお前と出会う前から死が決まっていた。お前と出会い死ぬはずだった。しかし...お前と出会い互いの思いから死の概念が狂い始めた。そして今まで生きていたんだ...しかし狂ったネジは直さなければならない。だからあの日...天使が人間の元にやってきてその縛りを解いた。縛りを解いたことで今まで止まっていたその歯車が動き出した。悪魔と過ごし死の概念から外れたため不幸なことが続いたのだ。お前との喧嘩もそうだろう。命のタイムリミットは一週間後だったはずだ」
「一週間後ってたしか...今日だな」
「今日ってことは...きさらぎはもう...死ぬ...」
追い打ちをかけるように話す代行人の言葉にフジニアは耐えきれなかった。絶望ときさらぎの死への衝撃が襲い悲鳴を上げて泣き叫んだ。泣き叫んだフジニアの声は出ず代行人のみ聞こえた。
「...本当に哀れな生き物だな」
とフジニアを見た代行人の一人が呟いた。
同時刻、きさらぎは学校の屋上にいた。その手には白いメモ用紙が握られていた。メモには”学校の屋上にこい”と書かれていた。呼び出されたきさらぎは少し気まずそうにフジニアを待っていた。
「はあ...学校にこいか...来ないなフジニア」
ときさらぎは屋上から見える景色を眺めていた時激しい風が吹き荒れた。
「風が...」
激しい風に目をつぶったきさらぎは風が止んで目を開けた。すると後ろから誰かが立っている気配がした。フジニアかと思ったきさらぎは振り向くとそこに立っていたのはフジニアではなかった。
「フジニア!え...」
「やっと見つけた...人間」
「あなたはあの時の!」
きさらぎが振り向いた先で立っていたのはフジニアはではなく天使だった。
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