??章 ****駅_最後の終着駅
2_19(レコード:19おかえりとただいま)
森に帰ってきたフジニアは眠るきさらぎの傍に横になった。
「きさらぎ...起きて...起きてよ...」
きさらぎの名を呼び眠るきさらぎの髪を摩っているときさらぎがゆっくりと目を開けた。
「ううん...あれ?私は...フジニア?」
きさらぎはゆっくりと顔を見渡すと傍にフジニアがいることに気が付いた。
「きさらぎ、俺が分かるか?良かった...本当に...このまま目を醒まさないかと思って心配したぞ」
「ごめんね...心配かけて...」
「いいんだ。きさらぎが無事ならそれでいい...もう居なくならないでくれ...あの時は本当に怖かった...きさらぎが殺されそうになっている時も...それから死にかけていた時も...ずっと怖かった...」
と言うフジニアの背中は震えていた。きさらぎはゆっくりと手を伸ばしフジニアの頬を撫でた。フジニアは片方の手でその手を握る。
「フジニア...ごめんね。助けてくれてありがとう...私...信じてたんだ...フジニアが助けに来てくれること...」
と言うきさらぎにフジニアは声を荒げて言う。
「なっ!何考えてんだよ、きさらぎ!それで俺が助けに来なかったら今頃お前は!殺されて死んでいたかもしれないんだぞ!」
「そうかもしれない...でもフジニア来てくれたよ」
「それは...」
「だってフジニアは優しいから...助けに来てくれた...」
と微笑むきさらぎにフジニアは涙腺が崩壊し涙が溢れた。きさらぎの話を聞いたフジニアは涙が止まらない。きさらぎはフジニアに感謝しているがフジニアはきさらぎに感謝されていい異形ではない。
(俺はきさらぎに感謝されていい異形じゃない。むしろ....逆だ。俺はきさらぎの母親を殺した。最低な異形だ。どんな理由があっても殺していいわけないのは分かっていた。きさらぎのためとはいえ...人を殺した。きさらぎの母親以外にも大勢殺した。きっと嫌われる。本当は話したくない...けど...これ以上嘘や本当のことは言わないのは嫌だ。約束したんだ...全てを話そう。それできさらぎが俺を拒むならこの手を話そう...)
フジニアはきさらぎに向き合うと深呼吸をして言った。
「きさらぎ...俺はきさらぎが思うほどいい異形なんかじゃないんだ。俺はお前に嘘をついてた。お前の知らない所で多くの人間を殺してその魂を喰らってきた。それからお前の母親をこの手で殺した。許されないことをしたんだ。だから...俺のことを嫌いになっていい。忘れてくれていい。そのくらいのことをしたんだ」
きさらぎは何も言わずじーとフジニアの目を見る。フジニアは怯むことなく続けた。
「だから俺とお前はもうこれ以上..「フジニア!」!!..きさらぎ?」
もうこれ以上そばにいるのを止めようと言いかけたフジニアだったがきさらぎが自分の名前を呼んだことで驚き肩がビクついた。きさらぎの名前を呼ぶときさらぎは静かなに涙を流しながらフジニアに抱き着いた。抱きしめたフジニアはどうすればいいのか分からず戸惑っていると今度はきさらぎがフジニアに話しかけた。その顔は見ることが出来なかったがフジニア同様に声が震えていた。
「やだ...いやだ...いやだ!フジニアと一緒に居られなくなるなんていやだ!私はずっと一緒に居たい!これからもずっと...いつまでも一緒に居たい!離れないで傍にいてよ、フジニア!」
「きさらぎ...だって俺は...お前といる資格ないし...それに俺は悪魔でお前は人間だ...」
「それが何だって言うの?一緒に居る資格?そんなの要らない!悪魔だから人間だから一緒に居れないの?私はそんなの気にしない!フジニアはフジニアでしょ?」
「きさらぎ...でも...いいのか...俺はお前と一緒に居ても..」
とフジニアが聞くときさらぎは強く握りしめた。
「いいの、いいんだよ..一緒に居ていいんだよフジニア」
「ありがとう...きさらぎ...」
「お礼をいうのは私の方だよ。ごめん、ごめんねフジニア。私も嘘をついてた。ここに来るねっていたのに来なかった」
「あれは儀式のせいで仕方なく!」
「優しいんだね...フジニアは。私ねフジニアが何かを隠していることはなんとなく気づいてたんだ。でも...聞けなかった。聞いたら何かが壊れてしまう気がして...」
「やっぱり気づいてたのか..」
「うん...でも、それでもいいんだ。フジニアは私の大切な友達だもん。誰でも言えない秘密くらいあるものだから..私もそうだったから...確かにお母さんが死んじゃったのは悲しい」
ときさらぎに言われたフジニアは何かを言おうとした。きさらぎは分かっていたように話し続ける。
「けど...フジニアよりも私は酷い人間だと思うの。だって...お母さんが死んじゃってホッとしている自分がいるんだもん。最低だよね。ずっと...ずっと怖かった。毎日殴られて蹴られて殺されるかと思った」
「最低な人間のわけないだろ!だってきさらぎは!」
きさらぎのことを強く抱きしめたフジニアがそう言うときさらぎはフジニアにしか聞こえない小さな声で言った。その時聞こえていた雑音が消えた。
「あの日...この森に来たこと覚えてる?」
「ああ、忘れるわけない!あの日、俺ときさらぎは出会ったんだ」
「そう、忘れられない私たちの思い出...本当はあの日...この森に来た時に私は悪魔に...フジニアに殺されるためにこの森に連れて来られたの」
「それって...どういうことだ?」
きさらぎの言葉に動揺するフジニアにきさらぎは話し続ける。
「私はいらない子供だった。だから殴られたり蹴られたりしてたの。私を殺そうとしていたし殺そうと思うほど憎かったと思う。でも、殺さなかった。私を殺したら罪に問われるから殺さず森に置き去りにしたの。仮にそれで私が死んでもフジニアが殺せば”自分は関わっていないから罪には問われない」
「でも、母親なら森に連れてきたって疑われるだろ?」
「ううん...きっと疑われない。この森は大人たちが興味本位で入ったりする森だし、疑われても私が勝手に入ったってことにされる」
「なんだよそれ...胸糞わりい」
「そうだね...森に置いて行かれた時迷子になって本当は怖かったの。でもフジニアと会えて怖くなくなった。初めの頃は怖くなかったけど殺されるんじゃないかって少し思ってた。今はフジニアと過ごしてそんな気持ちはなくなったんだ。でも、死なないお母さんは痺れを切らして私を売り飛ばして殺そうとした。それがあの儀式なの...」
「そうだったのか、それを俺が助けたのか」
「うん。大人たちはちょうどよかったみたい。死なない私を殺したいお母さんと儀式に生贄が欲しい村の人たちの意見が合致したみたい。そのせいで約束を破る羽目になっちゃった」
と言ったきさらぎは顔を上げると頭を下げてフジニアに謝った。
「ごめんなさい!私があなたを利用する形になって...本当にごめんなさい。私はフジニアを利用していたけどずっと一緒に居たい、友達でいたい気持ちは嘘なんかじゃない。」
「きさらぎ、頭を上げてくれ。話してくれてありがとう...俺はきさらぎが無事ならそれでいい。利用してたのは俺も同じだ」
「フジニア...もし、私を嫌いになったその時はフジニア...私を殺していいよ」
と言うときさらぎはゆっくりと顔を上げた。フジニアは肩を掴んで勢いよく言った。
「そんなこと言うな!俺がするわけないだろ。もういいんだ!聞いてくれ、たとえどんなことが会って俺たちはずっと一緒だ。どんな時もなにが合ったって」
「うん...うん...そうだね。私たちはずっと一緒だよ」
「おかえり...きさらぎ」
「ただいま...フジニア」
互いにフジニアときさらぎは小指を握り指切りをして誓い合った。それからフジニアときさらぎは向き合いながら座り互いの過去について話し合った。
互いの過去を話し合った二人は例の場所に来ていた。きさらぎは全ての墓に木の枝と花を置いた。
「ここがあいつらの墓なんだ」
「ここが...このお墓全部がフジニアの家族のみんななんだね」
「ああ...きさらぎ?何してるんだ?」
「お線香代わりにこの森の枝と花を供えたんだ」
「ありがとう、あいつらも喜ぶよ」
「少しでも、皆が供養できるといいと思って...フジニアの話しを聞いて皆がどんな異形なのか少しだけ分かった気がするの。できる事なら生きている彼らと会いたかった」
「そうだな、あいつら懐きやすいからきっといい友達になれたと思う。死んじまったのあの日のことはずっと後悔してる」
「フジニア...」
「...でも、あの出来事があったから俺は理解したこともある。異形や人間...悪魔がどういう存在なのか分からなかったんだ。分かっていたらあんなことになっていなかったのかもしれない。いや、これはいい訳だ。知っていたとしてもあの日の出来事を変えられるとは思えない...ただ一つだけいいことはあった」
「いいこと?」
「ああ...きさらぎに出会えたことだ」
「私に?」
きさらぎは首をかしげてフジニアを見る。フジニアは頷いた。
「きさらぎに出会わなかったら俺はずっと人間を恨んでた。今も人間は好きじゃない。でも嫌いでもない。きさらぎに感謝してる。俺はいい人間もいることやその優しさや温かさを知ることが出来た。ありがとうな...きさらぎ」
「フジニア...感謝するのは私の方だよ。私もあなたに助けられた。あの日...生きるのを諦めていた私を救ってくれたのはフジニアだよ。私もあなたに感謝してる。ありがとう、フジニア」
「俺たち同じだな」
「同じだね、フジニア」
きさらぎとフジニアは向き合うと互いの額を合わせた。そんな二人を風は優しく撫でた。きさらぎと目をつぶると彼らの声が聞こえた気がした。
「親分をよろしくお願いします...」
「彼女の事守ってあげてね...」
と天使と小悪魔たちの声が聞こえた二人は目を開け周りを見たが風が優しく吹いているだけだった。
「今...声が...」
「気のせいじゃないよな?」
「きっと優しい風が教えてくれたんだよ...きっと」
「そうだな...きっとそうだ」
二人は優しい風に吹かれながら空を見上げた。
「ああ...必ず守って見せる」
とフジニアが言うときさらぎは照れながら言う。
「フジニアのこと任せて!」
ときさらぎが言うとフジニアは照れ隠しなの顔を反らした。二人の言葉が届いたのか備えた花たちは風で静かに揺れると花びらが空に舞い綺麗な円を描いた。
「綺麗!」
「ああ、綺麗だ」
二人は空に舞い上がった花びらが風で飛んでいくまでその様子を見届けた。気づけば夕日が登っていた。
「もうこんな時間」
「今日はこのくらいにして帰ろうか」
と言い手を差し伸べるフジニア。
「うん!帰ろう、フジニア」
と言いフジニアの手を握るきさらぎ。二人は振り向いて言う。
「じゃあ、また来るな皆」
「またね!」
と言ったきさらぎはフジニアに連れられて歩き出そうとした時耳元で声が聞こえた。
「ありがとう...きさらぎ」
と聞こえたきさらぎは振り向いた時彼らが立っているように見えた。フジニアに声を掛けられたきさらぎはもう一度見るがそこには誰も立っておらず優しい風が頬を撫でるだけだった。
「きさらぎ?どうした?何かあったのか?」
「ううん...何でもない。行こう、フジニア」
「そうか?まあいいか。行こう、きさらぎ」
再び二人は歩き出した。きさらぎはフジニアに聞こえない小さな声で呟いた。
「私の方こそ...フジニアを守ってくれてありがとう」
その言葉は誰にも聞こえることなく優しい風が拾って行った。
運命とは残酷だと誰かが言った。それはまやかしではないことを彼らは知ることとなる。きさらぎと和解したフジニアは森の異形たちと休んでいた時だった。慌てた様子でやってきた管理人はきさらぎとフジニアを見るや否や二人の手を掴む。そんな管理人の様子に二人は訳を聞いた。管理人は途切れながら二人に伝えた。切羽詰まる様子に二人は身構える。フジニアは嫌な予感がしたがその予感は的中してしまった。
「大変です!フジニア、きさらぎさん!今すぐここから逃げてください!」
「管理人?何がどうしたんだよ。そんなに慌てて」
「管理人さん、落ち着いて!」
「これが...落ち着いていられますか!さあ、早く!フジニア...きさらぎさんを連れて離れてください!」
「離れるってどこだよ?それに何で逃げなきゃいけないんだ?俺ときさらぎに何か問題でも起きたのか?」
「聞いてください!あなたたちのことがばれたんです!私も迂闊でした!もうすぐ追手が来ます!その隙に...早く逃げてください!」
「俺たちのことがばれたのか...」
「すみません....このままだとフジニアもきさらぎさんも処罰されます!あなたは悪魔の異形を剥奪され拷問を受けるでしょう...異形と言えどフジニアは貴重な悪魔の異形です。拷問はされても殺されることは無いです。ですが、きさらぎさんは違います」
「きさらぎはどうなるんだよ!」
とフジニアが管理人の胸倉を掴むと管理人は震えたことで言った。
「きさらぎさんは...悪魔と関わった罪で処罰されます...最悪のケースは殺されます」
管理人の話を聞いたフジニアは焦り、きさらぎは顔色が真っ青になった。
「そんな!なら、急がないと!」
「殺される...」
震えるきさらぎの体を抱きしめるフジニア。話を聞いた異形たちも協力し二人を逃がすことを決めた。
「おれたちも協力する!」
「お前ら..」
「お前さんたちには色々してもらったからのう。その礼じゃ!」
「皆さんも協力してくれるんですか?ありがとうございます。私が時間を稼ぎますから森の異形たちはお二人をカバーしてください!」
「「「あいよ!/わかったわい」」」
と異形たちは声をそろえて言う。しかし、きさらぎは言う。
「そんなことしたら皆が、管理人さんだってただじゃ済まないよ!それに...この森はフジニアの大切な森だし、皆のお墓が!」
ときさらぎは言う。フジニアは自分の役目を思い出し顔色が悪くなる。
(そうだ。この森を離れることは皆との約束を破ることになる。でも、きさらぎを見捨てるなんて俺には...)
とフジニアが悩んでいると森の異形たちが言った。
「お前さんは行きなさい」
「でも...この森を守らないと...あいつらの墓だって」
「お前さんもう、充分この森を守ってくれたぞ。今度は我らの番じゃ。お前さんの大切な彼らの墓もこの森も必ず我らが守る。お前さんにはもう、他に守る相手がいるじゃろう?その人子の守っておやり」
話しを聞きながらフジニアはきさらぎのことを見た。フジニアが守りたいのはきさらぎだ。フジニアは目を閉じて一息つき小悪魔の異形に言う。
「お前...いいのか?」
「ああ、よい。後は我らに任せよ。ここでお前さんたちが捕まり処罰されてしまう方が我らは嫌じゃ。お前さんはこの森を出て生きてくれ」
「...ありがとう」
フジニアは頭を下げて礼を言うと小悪魔異形はその頭を摩った。
「急に撫でるなよ!」
「よいではないか。これで最後じゃぞ。じゃあな、きさらぎ...フジニア」
「初めて読んでくれたな。その名前...じゃあな!色々ありがとう」
「皆、ありがとう!」
と二人は言い手を振った。森の異形たちも手を振り替えす。二人は管理人と共に森を走った。
「ここまでくれば大丈夫です。二人には私が掛けた魔法があるので追手には気づかれることがないはずです。後はこの
「ありがとう、管理人」
「礼を言うのはこちらのほうです。今はまだ追手も来ませんが早い方がいいです。さあ、早く!」
と二人の背中を押していかせようとする管理人にきさらぎは聞いた。
「待って!私たちを逃がしたら管理人さんはどうなるの?」
「...私も処罰されるでしょう...大方クビが飛ぶ」
「そんな!なら、お前も一緒に!」
「それはできません。私は管理人です。あなたと共に行けばあなたの立場と罪が重くなります。悪魔が誑かしたと見なされてしまうのです。行ってください。この仕事をする上で覚悟はできています」
と真剣に話す管理人にきさらぎとフジニアは何も言えなかった。先ほどとは違い強く気高い風が吹き荒れる。
「私は職務よりもあなた方を選んだ。ただそれだけの事ですよ」
「管理人...」
「そう悲しい顔をしないでください。もしも、仕事を首になったらあなたの言う”マジシャン”にでもなりますかね」
「似合わね~...管理人、ありがとう」
「ありがとうございます。管理人さん」
二人は礼を言うと案内兎を追いかけて森を去った。二人が森を去った後きさらぎに貰ったクッキーを口にした。
「やはり美味しい。この味がもう食べれなくなってしまうと思うとやはり寂しいですね」
と管理人が言うと後ろから追手がやってきた。
「...あなたもそう思いませんか?」
「動くな!管理人。悪魔を逃がした挙句協力した罪、職務放棄と反逆した罪に問われている。お前をこの場で拘束する。一緒に来てもらうぞ」
「わかりました。行きましょう」
管理人は両手をあげると大人しく拘束された。
(私が出来るのは此処までです。逃げてください...この先お二人がどうなってしまうのか私には分かりません。ですがせめて、お二人の未来に光が指すことを祈っています)
と管理人は心の中で祈った。
審議の間に連れていかれた管理人の審議が始まった。管理人の裏切り行為は異形たちを驚愕させた。異形たちは口々に口を荒げて問い詰めるたが管理人は冷静に答えた。
「なぜだ!なぜこんなことをした!お前は今までこのような不祥事を起こすことは無かっただろう!あの、悪魔か?あの悪魔と人間に唆され誑かされたのか!どうなんだ管理人!」
「お二人は関係ありません。私の独断です。全て私の責任です」
「ならばなぜそのようなことをしたのだ!」
「お前は分かっていたはずだ。異形と人が手を取ればどうなるのかを!」
「待っているのは破滅だけだ!異形と人は相いれないと!」
異形たちは傍にある机を叩きつきて管理人を抗議する。
「それでも私は彼らを見て信じて見たくなったのです。彼らは...フジニアときさらぎは我々が思っているような規則のものとは違います。彼らは手を取り互いに支え合って生きているのです!彼らのように異形と人も相容れると言う少しの可能性を!」
と管理人がいうが異形たちの非難な声は収まらない。
「ふざけるな!そんなことが許されてたまるか!」
「穢れた汚らしい悪魔と欲深い醜い人間など言語道断だ!」
「罪人たちを名前で呼ぶなど重罪だ!」
「管理人は穢れた悪魔に洗脳され、人間に騙されているのだ!」
「管理人は人間の食物を口にしている。それでおかしくなったのだ!」
「早く、重罪人を捕まえよ!」
「いや、生かしておけぬ!殺せ」
「そうだ!あいつは悪魔だ!殺せばいい」
「殺せ!殺せ!」
殺せと非難の声で審議の間はあふれかえっていた。管理人は訴えたが聞く耳を持たない異形たちに絶望した。
(彼らは悪魔と言うだけでフジニアを否定し人間と言うだけできさらぎに嫌悪する。これではまるで差別と変わらないではないか)
彼らの言い分に絶望した管理人は彼らの声をただ聞いていた。彼らが黙秘をしている管理人に言った。
「なぜ黙っている。お前もなんか言ったらどうだ!この罪人が!」
と一人の異形が言う。管理人は堪忍袋の緒が切れて目の前にある机を両手で強く叩いた。ダン!と強く机が叩きつけられた音が審議の間に響き渡る。異形たちは管理人の行動に驚き固まった。異形たちは何も言わず管理人を見て背筋が凍った。異形たちはその場から動くことのできない恐怖に襲われた。管理人の冷徹の目が恐ろしかった。動き言葉を発すれば殺されると言う恐怖に駆られた異形たちはこの沈黙が終わるまで誰も言葉を発しなかった。この沈黙を破ったのが代行人だった。
「そこまでだ。ここは神聖な審議の間だ。管理人お前の行動はあるまじき行為だぞ」
「すみません...神聖な審議の間であるまじき行動でした」
「いや...よい」
「次はないからな?管理人...」
「はい。申し訳ありません」
「それからあんたらも?」
「...それでは審議のつづきをする」
審議の続きが行われたが異形たちは恐れたのか居心地が悪くなったのか全員出て行った。残ったのは処罰を受ける管理人と上司の代行人だけだった。
「すみません、代行人。こんな頼りない部下で...処罰は喜んでお受け致します」
「そうか。お前がその覚悟なら俺は何も言わん。それにもともと頼りない部下だ。それが問題児になった程度だ」
「酷いいい方しますね!」
「本音だからな。お前は善悪が分かる奴だからこんな問題は起こさないと思っていたが...以外と分からないもんだ」
「本当にすみません」
「何度も謝るな!したことは取り返えせない。お前も分かっているだろう?俺はお前がやったことが悪いとは言わねえ。でも良いとも言わねえ。お前が選んだ道だ。それで処罰されるならきちんと責任を取れ。まあ、今回はあの古臭い異形たちが騒いで煩かったからな。黙らせるのには丁度いいってもんだ」
「代行人...」
「まったく俺の部下は俺のいう事を無視して奇行に走るから困るんだよ。これで優秀な部下が一人減った」
「その...」
「そう気を落とすな。お前は自分のしたことが正しいと思っているなら最期まで突き通せ。今日からお前は俺の部下じゃない。好きにして自分のやりたいようにしろ」
「代行人...ありがとうございます!」
管理人は代行人に頭を下げる。代行人は管理人の頭を雑に摩ると言った。
「そう言うのやめろって言ってるだろ。馬鹿!」
「雑に頭を撫でないでくださいよー」
「いいだろ?これが上司として最後の仕事なんだからよー」
「だから、やめてくださいってもう!」
それから数分間頭を撫でられた管理人は疲れて深呼吸をした。
「ったく体力ねえなー」
「それとこれとは関係ないです」
「まあ、そうか。うん?もう来たか...」
代行人の元にきさらぎとフジニアについての連絡が届いた。代行人は話を聞くと後ろの扉を開けた。
「...そうか。今回の件...そちら側が引き受けるのか...ならお前に任せる」
「代行人?そちら側とは一体?」
「相手は人間とはいえもう一対は悪魔だ。俺は異形だから人間だから悪魔だからと差別するつもりはないが念の為だ。こちら側が依頼する前に連絡がきた。こちらも都合がいいしあちら側もメンツがあるんだろうな。だから頼むことにした...天使に」
「かしこまりました」
「そこの声...天使って...まさか!」
管理人は入り口に気配がして振り向くとそこにはあり得ない異形が立っていた。ただの天使ではなく”堕天したはずの天使”がそこに立っていた。フジニアの過去は以前聞いていたため堕天使になった天使と瓜二つだった。
「彼には執行人をやってもらう」
「執行人の天使を彼に...待ってください!彼らは!それにこの天使は!」
代行人に訴えようとした管理人の言葉を塞いだのは執行人の天使だった。
「安心してよ。僕は確かに執行人だけどむやみに殺したり裁いたりしないから!」
と言うと管理人の耳元でこう呟いた。
「それに僕は彼とは...フジニアとは仲良しだからね」
「!!」
管理人が何かを言おうとしたがその隙に天使は飛び去ってしまった。
「待って!行っちゃった...」
「他人の心配をしている暇じゃないだろ?管理人、お前の罪に関してはいったん保留にさせてもらう。その間は判断が決まるまでお前を幽閉する」
「分かりました...」
管理人は代行人の後に続いて牢屋へ向かった。代行人は審議の間を管理し罪人を見定める役割を持つ。罪を犯したものを代行人が見定めた後の役割を担うのが執行人の役割だが多くの場合天使に任された場合はその罪人は死罪となる。
管理人が幽閉された時、フジニアはきさらぎを連れて孤児院までやってきた。孤児院に着くと案内兎は可愛く鳴くと消えてしまった。消えた所に管理人のメモが落ちていた。
**
フジニアへ
もしもの時の場合のみ案内兎を通して君たちをこの安全な孤児院に案内する。ここは学校が近くにあり緑豊かな自然が多く環境も綺麗できさらぎに良いと思ったのでこの孤児院を選んだ。安全で善良な人間がいるから二人にぴったりだと思う。ここは異形が居ないし人間はフジニアの姿を見ることがないのでその点はフジニアも便利だろう。しかし、あまり人前にはでない方がいい。見える人には見えるし鏡やカメラなど映す道具は君の姿を映すことがある。普段はきさらぎの陰に居て二人の時は陰に居なくてもいい。夜は二人ともなるべく行動を控える事。異形は朝や昼間は人間の時間だから活発ではないが夜は異形の時間だ。追手に気づかれる場合があるし夜は人間もフジニアを見やすくなるので気を付けてくれ
追伸
フジニア、きさらぎのことを頼む。君たちには認識妨害を掛けてあるから追手には気づかれにくくなってるので安心してくれ。後は頼む
管理人より
**
「なんて書いてあったの?」
と聞いたきさらぎにフジニアは説明した。
「いいかきさらぎ。今日から大きくなるまでこの孤児院で過ごすんだ。管理人が手配してくれたみたいだ」
「管理人さんが!」
「ああ、俺もお前の傍にいる。一人の時は姿を見せるがそれ以外の時はお前の陰に隠れてお前を守る。俺が傍にいることは二人だけの秘密だぞ」
「分かった!約束だよ」
と言い二人は指切りをした。孤児院の入り口まで行くと疲れたのだろう。きさらぎは寝てしまった。フジニアも傍で眠っていたが足音が聞こえて慌ててきさらぎの陰の中へ入った。直ぐ後にドアが開き女性が顔を出した。
「誰かの話声が聞こえたような気がして...あら?女の子が倒れてる!早く運ばないと」
女性はきさらぎを孤児院へ運んだ。目を醒ましたきさらぎはこの孤児院で過ごすことになった。初めてのことに緊張する日々を送っていたきさらぎだったが学校に行き初めて友達が出来たり遊んだりと充実した毎日を送った。こうしてきさらぎはこの孤児院で過ごし大きくなりやがて里親が見つかった。
「今日からここがあなたの家よ。これからよろしくね、きさらぎ」
「よろしくよろしくお願いします!」
里親も見つかり里親先でも楽しく暮したきさらぎは高校生になった。しかし、それは突然崩れ始める。
「行ってきます!」
と元気良くきさらぎが言うと里親の母親も嬉しそうに手を振って言う。
「行ってらっしゃい!」
「行ってきますー!」
ともう一度元気よくきさらぎが言いながら手を振った。里親の母親の姿が見えなくなるときさらぎは周囲を見当たし誰もいないことを確認すると陰にいるフジニアに声を掛けた。
「誰もいないよフジニア!」
「そうみたいだな!行くかきさらぎ」
「うん。一緒に行こう!フジニア」
「おう!」
フジニアはきさらぎの陰から出ると一緒に学校まで向かった。その様子を執行人の天使に見られてしまった。
「いたいた...み~つけた!」
と執行人の天使は言うと不気味に笑った。
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