??章 ****駅_最後の終着駅

2_18(レコード:18醒める)

 森にはきさらぎや管理人や異形たちが居らず彼らを探した。名前を呼ぶと自分を呼ぶ声が遠くの方から聞こえてきた。


 「きさらぎ、管理人ここにい...」


フジニアは言いかけた時、そこにいたのは天使と小悪魔の異形たちであり、フジニアはここが”聖なる泉が残した夢”あることに気が付いた。


 「皆がここに?そうかここは夢か...」


とフジニアが言うと二匹の異形は首を傾げた。


 「夢ってなあに?そんなことより遊ぼうよ!」

 「遊ぼう!パパ、遊ぼう!」


と言いながらフジニアの腕を掴んで揺らした。


 「そうだな...遊ぼう」


フジニアが二匹にそう言うと二匹は嬉しそうに飛び跳ねた。その姿を見たフジは嬉しいはずなのにどこか物足りない寂しさを感じた。二匹と遊んでも天使や小悪魔の異形たちと話していてもなぜか心の底から楽しめない。フジニアはこの物足りなさと寂しさの正体は一体何なのかと考えていた時に”きさらぎのことが頭の中に浮かんだ”。フジニアはもう一度周囲を見てみたが管理人は愚かきさらぎすら居なかった。


 「きさらぎ...やっぱり夢か...じゃあ、きさらぎは居ないんだな」


とフジニアは無意識に呟きため息をついた。


 「「きさらぎ?きさらぎってだあれ?」」


と二匹がフジニアに聞いてきた。フジニアは思わず拍子抜けた声を出した。


 (俺、今の声に出てたのか?)


と心の中で驚いた。フジニアは二匹にきさらぎについてどう説明すればいいのか迷った。


 (ここは夢。二匹たちは俺の見てる夢...現実ではもう死んでいる。けど...きさらぎが人間だって言って二匹はどう思うだろう)


と悩んでいると天使や小悪魔の異形たち藻集まってきた。二匹は彼らに嬉しそうに話を振る。


 「「今からね、パパが”きさらぎ”について話してくれるんだ!」」


と言うと天使と小悪魔の異形たちは首を傾げた後顔を見合わせる。


 「「きさらぎって何?」」


と声をそろえて言うと同時にフジニアを見た。思わずフジニアは驚いたものの真剣にこちらを見つめる彼らの気持ちに答えるため彼らに向き合った。


 「そうだな。きさらぎについて皆に話しておかないとな。その前に...俺から大前提として聞いて欲しいことがある。きさらぎが人間であるということだ」


とフジニアが言うと一瞬だが天使の顔が険しくなったところをフジニアは見逃さなかった。フジニアを伺うように見つめる天使の方を向き話し続けた。


 「人間と聞いて嫌悪する者だろう。俺もそうだったから...」


と言うと天使はフジニアに尋ねた。


 「じゃあ...何で気が変わったの?」


 と天使は信じられないような眼差しで言う。フジニアは少し苦笑いをしながら話した。


 「話すと長いがいいか?」


とフジニアが聞くと天使だけでなく二匹や小悪魔の異形たちも頷いた。フジニアは笑うと少しづつきさらぎについて話始めた。もちろん彼らが死んでいる事を伏せて話した。初めは険しい顔で話を聞いていた天使も食い入るように話に耳を傾けた。


 「...そして俺はきさらぎと出会ったんだ」

 「.....いい人間と出会えてよかったね」

 「ああ...俺もきさらぎと出会わなかったらずっと人間が嫌いだった。きさらぎと出会えたから今の俺があるんだ...俺は凄く感謝してる。毎日楽しいんだ。あの日から色んなものを失って傷ついて泣いてきた人生だった。自分が何者なのかも居場所も無くて彷徨って泣いて皆と出会って...また失った俺にきさらぎは優しく寄り添ってくれたんだ。それが嬉しくて楽しくて...昔みたいに心の底から笑えるようになったんだ。失った傷や傷ついたこともたくさんあったけど...でも、きさらぎのおかげで前に進もうと思えたんだ」


とフジニアが言うと天使は嬉しそうだが少し寂しそうに笑った。


 「...そっか...その子が...きさらぎが君を変えて、支えてくれたんだね」

 「ああ、そうなんだ。だから..「良かった...これならもう安心だ」え?どうしたんだよ?」


フジニアが言いかけた時に天使は安心したように微笑んで言った。訳が分からない顔をして天使を見た。天使はフジニアと顔を合わず空を見上げ淡々と話し出す。


 「ずっと心配だったんだ。あの日...僕らが君を置いて行ってしまったあの時から。でももう大丈夫だ」

 「大丈夫ってなんだよ?」

 「覚えている?この世界は君の見ている夢で僕らは本物じゃない。本当の僕らは死んで堕天した。一人になってしまった君は絶望し傷ついた。聖なる泉が自分の命を使いこの森を再生させたことを...」

 「なんでそれを知って!」


フジニアは信じられず天使に詰め寄った。天使は冷静にフジニアに話続ける。


 「初めから知ってたよ。僕も...小悪魔の異形たちも...聖なる泉も全部...ごめんね。知らないふりをしたんだ。もし、本当の事を告げれば君が耐えられないと思ったんだ。だがら時が来るまで言わないことにした」

 「...時が来るっていつだよ...」


とフジニアが震えた声で言うと天使は言う。


 「君が前に進めた時だよ。今の君はきさらぎのおかげで前に進めてる。だから僕たちが居なくてももう大丈夫」

 「”僕たちが居なくてももう大丈夫”ってどういうことだよ!」


とフジニアが声を荒げて言う。取り乱すフジニアと対称に天使は落ち着いていた。天使はそんなフジニアを落ち着かせるように優しく伝えた。


 「落ち着いて...僕らの役目は君と夢の中で出会い君を支えて君が前に進めるまで傍にいる事だった。僕らは君が前に進めるように夢の中を通して支えてきた。君が前に進めば僕らの役目は終わる。次第に僕らの夢を見なくなるんだ。君は初めは夢を見たけどきさらぎと出会ってから僕らの夢をだんだんと見たくなったでしょ?」


と天使に言われたフジニアは首を縦に振り答える。


 「そうだ...初めは皆と夢の中で出会えて幸せだった。夢の中だけが皆と会える唯一の方法だったから...俺はそれだけで幸せだった。そしてきさらぎと出会って皆との夢を見なくなって...でも、今日は皆とまた夢で逢えたぞ!」


とフジニアは必至に言う。先ほどからずっと黙り話を聞いていた小悪魔の異形たちはフジニアに何かを伝えようとする。それに気づいたフジニアは消えそうな声で言った。


 「あ、あの...親分...俺たちは...」

 「まさか...会えないのか?もうみんなと会うことが出来ないのか!」

 「そうなんだ...今日でお別れなんだ。僕らの役目は終わりこの夢も終わる」


と天使はフジニアに告げた。フジニアは取り乱し反論する。


 「なんでだよ!なんでもう会えなくなるんだよ!俺はずっとみんなと一緒に居たい!夢の中でいいから皆とまた一緒にい..「それじゃダメなんだ!」!!」


天使が声を大声で叫び思わずフジニアは天使を見た。天使は冷静に話していたがよく見ると肩だけでなく声も震えていた。


 「天使...」

 「ごめん...ごめんね...急に取り乱したりして天使失格だ」

 「そんなことない!俺の方こそ反論してごめん...辛いのは皆も同じなのに...一人で先走って...」

 「ううん..本当に先走ったのは僕だよ。だってあの時、僕を君を守るはずなのに殺そうとした」

 「あれはお前のせいじゃない!利籐の本からお前が堕天して皆が襲われるところを見た。お前が堕天したのはあいつに羽を触られたからだ!天使も小悪魔たちもみんな俺を守るために傷ついて犠牲になったんだ。謝るなら俺の方だ!俺はずっとみんなに謝りたかった!俺のせいでごめん...ってずっと言いたかった...」


フジニアは頭を下げて謝り目からは涙が溢れて止まらなかった。


 (ずっと謝りたかった。皆に...非難されてもいい...お前のせいだと言われてもいい。でも...何も伝えられないでもう二度会えなくなるのは嫌だ...)


 「ごめん...みんなごめん...」


と言い続けるフジニアに天使や小悪魔たちはため息をつき近づいた。フジニアは傍まで来た彼らに身構えていた。


 「もう君は...」

 「親分...」

 「「パパ...」

 「っ...!」


彼らはフジニアを抱きしめた。フジニアは抱きしめられると思わず言葉が出なかった。


 「僕らが君を責めるわけないでしょ?聖なる泉にも言われたかもしれないけど僕らがこうなったのは君のせいじゃない。君がずっと後悔しているのは知ってたよ」

 「だから!俺は...」

 「聞いて...確かに僕らはあの時死んだ。生き残った君は僕らに償いたいと思っているけどそれは違うよ。思い出して...君は今まで僕らの死やそれ以上の苦しみ悲しむ後悔をしてきた。もういいじゃないか...君は幸せになっていいんだ。僕らもそれを望んでる。傍には居られないけどずっと見守ってるから」

 「親分...俺たちも同じ気持ちです。親分に出会う前は退屈でつまらない人生でした。でも、親分と出会えて毎日楽しかったです。二匹も親分と過ごせて幸せだったと思います。最後はあんな風になってしまいましたけど俺たちは後悔してません」

 「「パパ、僕たちパパの子供でよかった!」」

 「......」

 「「だって楽しかったもん!」」

 「俺も...たの...」


フジニアは彼らの言葉を聞いて上手く話すことが出来ず言葉がつっかえる。そんなフジニアに彼らは向き合ってフジニアが話す言葉を待つ。フジニアはゆっくりと話し出した。


 「俺も...楽しかったよ。皆と過ごした思い出は忘れられない..それはきさらぎと出会った今も変わらない。皆との大切な思い出...だからこそ後悔したんだ。今も後悔してる...きっとこの気持ちはこれからもしていくと思うんだ。でも、後悔して立ち止りたくはない。皆が俺にしてくれたことを俺が無駄にするわけにはいかないから...」

 「親分...」

 「「パパ...」」

 「...だからこそ悔しかった。皆と出会えたこの森で皆を失った。そして夢を通して皆と再会して...きさらぎと出会えたんだ」


天使は相槌を打ちながら聞きフジニアの背中を優しく撫でた。


 「うん...そっか、そっか...」

 「きさらぎと出会ってからまた楽しい日々が戻ってきて...嬉しかった半面怖かったんだ。皆との夢を見れなくなってきたことに俺は気づいたんだ。その時、皆との夢を見れなくなるんじゃないかと思い怖くなった。幸せになるのが怖い...皆と会えなくなるのならずっとこのままでもいいと思ったんだ。馬鹿だろ...俺...」

 「そんなことないよ...生きていれば傷ついたり失ったりすることもある。君みたいに傷ついたり失う恐怖を知っている者はそれらを恐れるのは当然だ。僕もそうだったから...」


と天使が言うとフジニアは信じられないものを見るよう顔をして天使を見る。天使は苦笑いをしながら言葉を続けた。


 「本当は僕も皆も君と別れたくはない。死ぬは怖い...けどあの時のように君を失う方がずっと怖いんだ。どんなに抗おうが僕らはあの時に死んだ。その事実は変わらないし、変えられない。けど...君は生きている。それなら僕らは最後くらい君のために命を使おうと思ったんだ。生き物には必ず始まりと終わりがあるだろう?僕らは君との出会いから始まったんだ。そして今、君との別れでそれを終わろうとしているだけなんだ。だから...僕らの死は君のせいじゃない。自然の摂理なんだよ」

 「自然の摂理?」

 「そう。僕らは出会い別れ死んでいく。だから僕らとこの夢で別れることは気にしないで...僕らは異形。異形は死んだら生まれ変わるんだ。もしかしたら今度は別の異形か人間に生まれ変わっているかもしれない」

 「生まれ変わる...天使、これは!」


 フジニアを抱きしめていた天使の体が光輝きだいした。驚いたフジニアだったが周囲を見回すとフジニア以外の異形・小悪魔の異形たちや二匹の異形の他に聖なる泉やこの森全体が光に覆われ始めた。


 「時間だね...君の夢が終わる。君が目を醒ますんだ」

 「俺が目を醒ます?」

 「そう、夢が醒めたら消えて忘れるでしょ?それと同じ。僕らは消える。君の夢は終わり君は目を醒ます」

 「そんな!俺はまだ...みんなに何も返せていないのに...ここで終わるのかよ!」


とフジニアは言うが天使は腕を掴んで言う。その顔や体は少しずつ消え始めている。


 「君は優しいね。君は気づいていないかもしれないけどもう十分僕らは貰ったよ。君と出会えたから僕らは変われることが出来た。君と過ごした日々は僕らも楽しくて大切な思い出だったんだよ。お礼を言うのは僕らの方だよ。ありがとう...」

 「親分...俺たちからも言わせてください。俺たちは親分の配下でよかったです。親分は時々怖くておっかない時もありましたが...「おい、そんなこと思ってたのかよ!」「こら!黙って聞く!」「はい...」ふふふ...懐かしいやり取りですね。あの頃に戻ったみたいだ。親分と出会ったあの日は俺らにとっても忘れられない思い出です」


思わずフジニアはツッコミを入れ、天使に怒られた。そのやり取りを見た小悪魔の異形たちは笑いながら話続ける。


 「初めはおっかなくて恐ろしい悪魔が来たと思いました。でも、そんなことなかった。親分は自分が死ぬと分かっていても誰かのために行動出る異形だから...その姿を見て心を奪われました。俺たちだったらきっと見捨ててしまうから...親分は凄く、心優しい異形なんだとその時痛感しました。自分たちとの違いを自覚することが出来て、あなたについていきたいと思ったんです」

 「「僕も、僕もだよ。パパ好き、好き!」」

 「そうか、皆ありがとな。二匹...俺も好きだぞ、ありがとう」


フジニアはそう言うと二匹の頭を撫でた。二匹は嬉しそうに笑うとフジニアに抱き着いた。


 「うわ!危ないぞ二人とも」

 「「ごめんパパ!ねえ、最後にお願いがあるの!」」

 「お願い?」

 「「そう、僕たちに名前を付けて!」」

 「名前を?」

 「うん、つけてつけて!」

 「...分かった」


フジニアは二匹を見て名前を考えた後、二匹に名付けた。


 「お前たちの名前はネムだ」

 「「ネム?」」

 「そう、この森で咲いている二つの花・ネリネとムラサキケマンから取ったんだ。ネリネの”また会う日を楽しみに”とムラサキシノブの”喜び”の意味を貰ったんだ。異形は死んだら生まれ変わるんだろう?」

 「「うん、そうだよ!」」

 「俺...ネムにまた会えること信じて待ってるからな」

 「「パパ...頑張るよ!生まれ変わったら絶対パパに会いに行くよ!」」

 「ああ、約束だぞ」

 「「うん!約束だね。パパ...ネムっていい名前ありがとう」」


と言うとネムは消えてしまった。ネムは幸せそうに笑っていた。消えたはずのネムのぬくもりが残り涙が溢れてくる。


 「親分...俺たちもそろそろ行きます」

 「そうか...今までありがとな」

 「はい!もしかしたら俺達は生まれ変わったら今度は人間になってたりして~」

 「それか、別の異形かもしれないな」

 「ありえますね...でも親分。俺たちは生まれ変わってもまた親分に会いに行きます!なんて言ったって俺たちは親分の配下で自慢の子分ですから!」

 「そうだな!お前たちは自慢の子分だった」

 「そう言ってもらえるだけで幸せです!親分...ありがとうございました!」


と元気に言い頭を下げて小悪魔の異形たちは消えていった。フジニアは森を見回すとほとんど消えかかっている。


 「森が...」

 「まるで...あの時みたいだね」

 「天使はこの森が再生されたことを知っていたのか?」

 「うん...堕天使になって飛んだ時に遠くからでも見えたよ。この森が消えて再生されたことを...」

 「そうか...」

 「...僕もそろそろ行くよ。この夢も終わりまでもうすぐだ...」

 「そうだな...」

 「浮かない顔だね。そんな暗い顔をしないで!僕は明るい君が好きだよ」

 「......」


下を向き何か言いたそうなフジニアに天使は言った。


 「僕の堕天の件は君のせいじゃないよ。それに...僕も君に謝らないといけない。君にずっと嘘をついていた。本当は君を殺す目的でここに来た。けど...君は悪魔だけど優しい異形だった。本当の悪魔は僕だったんだ。あの時もそれを嫌と言うほど痛感した。君が死ぬと...殺されると知らされた時...内心安堵した自分がいて許せなかった。僕の役目は君を殺すことだったから。君と過ごす内に情が出て死んでほしくないと殺したくないと思ってしまった。天使は常に冷静でなくてはならない。僕はその時点で迷いが生じた。それが堕天した本当の原因だ。でなければ羽に触れただけで天使は堕天しない。あれは僕の迷いと未熟さが引き起こした結果だよ。結局、人間や聖なる泉の言った通り君を殺そうとしたんだから...」

 「それこそお前のせいじゃない!あの時、俺は死を望んでた。皆が死んで何もかも失って、一人になるくらいならいっそのこと死んで楽になりたいって思ったんだ。それがいかに愚かなことか俺は分かってなかったんだ。だから...お前を救えなかった」


とフジニアは消えかかっている天使の肩に手を置き話す。必死に話すフジニアの姿を見た天使は悲しそうな笑みを浮かべた。


 「救えなかったか...君は優しいね...そんな君だから奇跡は起きたんだよ。もうそろそろ限界だ。僕は消える...けど心配しないで君はもう一人じゃない。君にはきさらぎが居る。まさか...人間に壊されて人間に救われることになるとは僕も思いもしなかった。これも”奇跡”なんだろうね。ねえ、最後にいいかな?」

 「なんだよ...」

 「最後に君の名前を教えて...」

 「名前を?」

 「うん。そのきさらぎが君に付けてくれた名前を」

 「...分かった。俺の名前は...フジニアだ」

 「...フジニアか...いい名前だね。君にピッタリだ。僕を助けてくれてありがとう。きさらぎのこと守ってあげてね」

 「ああ!」

 「ふふ...じゃあね...フジニア」


と言うと天使は微笑み消えていった。その笑みから微かに涙がこぼれ地面に落ちたが濡れることは無く涙の後も消えた。


 「もうすぐ...この夢も終わる...」


フジニアは目を閉じてこの夢で過ごした思い出を思い出した。


 (みんなと出会って今日までの思い出を絶対に忘れない。皆今まで...ありがとう)


すると聖なる泉の声が聞こえてきた。


 『良かった...これであなたも大丈夫...あなたも心を許せる友人や大切な人に出会えたんですね...』

 『ありがとう...さようなら...』

 「俺の方こそ...ありがとう、皆...」


フジニアはそう言うと森は完全に消え辺り一帯が光で包まれた。フジニアは目を閉じた。


 「フジニア...フジニア...フジニア!」

 「!!」


 フジニアは管理人の声で目が覚めた。周囲を見回すとこちらを心配そうに見つめる管理人が居た。


 「大丈夫?ずっと魘されているみたいだったから心配しました」

 「...夢を見てたんだ」

 「夢を?フジニア、悲しいのですか?目から涙が」

 「涙?」


フジニアは目元に触れると涙が溢れて止まらなかった。


 「怖い夢だったのですか?」

 「ううん...悲しくて寂しい夢だった」

 「そっか...フジニアにとって大切な夢だったんですね」

 「ああ...」


止まらない涙に目を強く擦るが管理人に止められる。


 「目が痛くなります。フジニア、泣きたい時は悲しい時は泣いていいんです」

 「管理人...俺...俺は...」

 「はい、ゆっくりでいいから話してください...」

 「昔の皆と会ったんだ...それから...それ...」


震えてうまく話せないフジニアの背中を摩りながら管理人は優しく相槌を打ち、フジニアは思いが溢れて泣き出した。それからフジニアと管理人は話し合った。


 「ごめん...ありがとう管理人」

 「もう大丈夫ですか?」

 「もう大丈夫だ!ダメだな俺は...きさらぎを助けに行ったのに助けるどころか傷ついて、今だって助けられて...」

 「そんなことないと思います。あなたはに行ききさらぎさんを守りました...あの時、あなたがいかなければ彼女は殺されていましたから」

 「そうかもしれないな...なあ?きさらぎの容態は?」

 「まだ目を醒ましていません。あれから一週間がたちます」

 「一週間!そんなに立っていたのか?」

 「はい。なかなか目を醒まさないあなたたちに心配しましたよ。このまま目を醒まさないかと思いましたよ!」

 「それは悪いことをしたな」


と言うと管理人は愚痴を言う。


 「全く...私の身にもなってくださいね!フジニアときさらぎに関わる記憶を改ざんし、あの日の出来事は雨の日の天候による被害に書き換えました。きさらぎさんの傷はもう大丈夫です。あなたにこれを渡しておきます」


と管理人に渡されたのはきさらぎに資料だった。


 「私の管轄では人間も管理する場合がありますから...知りたいでしょ?きさらぎを売った母親のことを」

 「ああ...ありがとな」


渡された資料を見たフジニアはきさらぎを頼むと森から出ようとして管理人に止められる。


 「やはり行くのですか?きさらぎさんの許可なくそんなことをすればどうなるのか分かっていますよね?最悪嫌われますよ」

 「それでもいい...俺はきさらぎを救いたい。これが俺のエゴだ。どの道こうしないときさらぎは救われない。きさらぎを救うにはこれしかないんだ」

 「...エゴですか。行ってください」


フジニアは管理人に礼を言うと森を向けてある場所に向かった。フジニアが去った森に一人残った管理人は小さな声で呟いた。


 「あなたのそう言う所が好きですよ...さて、私も手伝いますか」

と言うと管理人は本を広げた。すると霧が発生しどこかへ向かって行った。


 その日の夜とある村では突如発生した霧に覆われていた。しかし、ある一軒家に住み女性は気づいていなかった。


 「なんなのよ!あたしが何したって言うのよ!ってかあの子一体どこ行ったのよ!」

女性は酔い物に当たり散らしている。ドアがノックされたが女性は気づかず酒を飲み続けている。その時ドアがひとりでに開いた。


 「あれ?何でドアが開いて...閉めないとっ!!あんた誰よ!来ないで!」


女性はドアを閉めようが霧が部屋に入り周囲が見えなくなった時に顔は見えないが何かが近づいてくる。女性はそれと目があった。初めて見る悪魔に逃げようとするが追い詰めらる。


 「いや...来ないで...いやあああああああああああああ」


数分後に女性の叫ぶ声が村に響いた。村人が駆けつけると女性は既に死んでいた。体を大量に噛みつかれ食い殺されていた。村人は祟りと恐れたがドアが開いていたことから野犬に襲われたと結論づけた。


 「やっぱりまずい...これできさらぎは解放される」


女性を食い殺したフジニアはそう呟くと川で口を洗い森に帰った。


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