??章 ****駅_最後の終着駅

2_6(レコード:06回想)

 「どうして...君は堕天しかけた天使に殺されるはずなのにどうして...生きてるんだ?」

 「あいつが...天使..いや堕天使が俺を助けてくれたんだ」

 「彼が...君を殺さず生かした...そんな馬鹿な」

 「奇跡は起きたよ...」


 悪魔はそう言うと空を見上げた。小悪魔の骸を抱えた悪魔は切なく悲しい表情をしていた。その顔は雨で濡れているのか涙を流しているのか利籐には分からなかった。悪魔は小悪魔の骸を床に寝かせるとこれまで起きたことを説明してくれた。


 「やめてくれ...頼む...天使...」

 「う、うう!俺を殺せ殺してくれ!」

 「無理だ!俺にはできない」

 「なら君を殺す!ここにいる死んだ小悪魔たちも全部!」

 「それはだめだ!」

 「なら俺を殺せ!じゃないと俺は...君を殺す!」


堕天しかけた天使は自身の羽で作り出した黒い剣で悪魔のことを刺そうとして悪魔はそれを止めようと必死だった。剣の矛先は心臓に行き両手で掴み悪魔の両手から血が流れる。


 「やめろ...こんなこと!」

 「うるさい!僕は君を殺す!」

 「お前はこんなことを...誰かを傷つけるような奴じゃな...っっ!!」


悪魔の心臓ではなく片腕に剣が深く刺さり悪魔の体に激痛が走る。


 「あがっ!ああああああ!」

 「痛いよね...?それは天使が異形を殺すための物だよ。本来なら白いけど僕はもう天使じゃないから...色が黒いんだ。黒くて助かったね。本当なら君は死んでたよ」

 「何で...」

 「何でだって!僕の本当の目的は君を殺す事だった!異形の中でも悪魔は負の象徴だ。悪魔は人だけでなく畏敬を襲う醜い生き物なんだ!君が生まれた時、僕も生まれたんだ。天使は悪魔と同時に生まれてくる。何故だか分かる?悪魔を殺すために天使が生まれるんだ!僕は君を殺すために生まれてきた。この森に立ち寄ったのも君と出会ったのも全て...君を殺すためだった!まさか小悪魔たちの罠にかかるとは思っていなかったけどね」

 『やはり...そうでしたか...』

 「気づいていたんだ。聖なる泉は」

 『はい。だってあなたは天使の中でも優秀で悪魔を多く葬ってきました。どの悪魔も凶暴で残虐な性格で多くの命を奪い殺してきたのです。そんな悪魔たちを退治してきたあなたがここに来た時は大変驚きました』

 「じゃ...じゃあ最初から全て知ってたのか?天使は俺を殺すためにここにきたのか...」

 「そのつもりだった。罠にかかって君に助けられたときは本気で死を覚悟したよ。僕はここで君に殺されるんだって思った...けど君は僕を殺さず僕を助けてくれた...僕は君を殺そうと思ったのに!」

 「天使...」

 「ずっとずっと殺そうとしたのに!君は優しくて...自分が死にかけているのに殺そうとしていた僕を助けて...あの時、僕は君が死んだと思ったよ。でも奇跡は起きた。君は死ななかった...おかしいだろ!悪魔だぞ!人や異形を苦しめる悪い奴だぞ!いらない、存在してはいけない異形なんだ!異形のはずなのに...君の傍にいて君の醜い悪魔の部分をひきずり出してやろうとしたのに!君を殺そうとしたのに!君を...だましていたのに...」

 「泣いてるのか...天使...」


悪魔の顔に天使の涙が零れ落ちる。


 「泣くなよ...俺のせいだったんだな」

 「違う!僕が悪いんだ!君のことを悪魔だと思って近づいて殺そうとしていたんだから...」

 「ごめんな...気づいてやれなくて...」


悪魔は掴んでいた両手を離した。悪魔の行動に戸惑う。


 「な、なんのつもりなんだ!」


悪魔は剣を心臓に寄せて天使の腕を掴んだ。


 「...いいよ。お前になら殺されてもいい」

 「君...何言って!」

 「俺のせいでお前はずっと傷ついて苦しんだ。だから...今度は俺がお前を救いたい。俺にはお前を殺すことはできないから...」

 「君は酷い奴だよ...」

 「...ごめんな」


悪魔はそういうと目を閉じた。聖なる泉が必死に呼び止めようとするが彼らは聞く耳を持たなかった。堕天しかけた天使は叫びながら自分と葛藤する。頭を抱えて大量の涙を流しながら剣を振り上げた。激しく地面にぶつかる音が響きと剣先は折れた。堕天しかけた天使は悪魔を殺すことが出来なかった。


 「くそおおおお!くそおおおおお!くそおおおお!うわああああああああああ」

 「かはっ!」


剣を放り投げて悪魔の首を絞める。悪魔は無抵抗で天使を見つめた。悪魔が死にかけ悪魔のことを食おうとした時、堕天しかけた天使は完全に堕天使になった。堕天使になったことで殺意が増し嚙みつこうとしたが悪魔の顔を見た際、悪魔と過ごした出来事を思い出す。堕天使は悪魔を食い殺す寸前でやめて悪魔から離れた。


 「やめだ...このまま心まで堕天使になってたまるか...」

 「天使...?」

 「僕はもうお前の知る奴じゃない。僕は堕天使だ。本当...君のせいだ。君のせいで決心が鈍った...」

 「堕天使...」


堕天使は黒き翼を広げた。この森から飛び去ろうとしている。


 「待ってくれ...」

 「ごめん...僕は行くよ。僕はこのまま君といたら小悪魔たちもこの森も君の殺しちゃう。君のことが殺したくて今も堪らないんだ。だからこのまま身も心まで堕ちる訳にはいかないんだ...最後まで一緒に居られなくてごめん...小悪魔たちを守れなくてごめん...君に嘘をついてごめん...今度会ったときは君を傷つけて最悪殺すと思う。だから...僕に殺されないで欲しい..」

 「堕天使...俺は...」

 「立ち上がらない方がいい。死にかけているから...僕は君を殺さない。あの人間の思う通りになんてさせるか...じゃあね...バイバイ」

 「待って!」


悪魔は手を伸ばすが堕天使が腕を掴むことは無くそのまま飛び去ってしまった。悪魔の腕は空気を掴み堕天使を引き留めることが出来なかった。悪魔が空を見上げると堕天使に羽が落ちてきた。その羽を掴んだ悪魔は涙が止まらず泣き続けた。悪魔が無く終えた数分後に利籐はやってきた。


 話を聞いていた利籐は驚きを隠せなかった。今まで過去を変えられることなど起きるはずがなかったからだ。


 「な、なんで...それでもあそこで悪魔の君を殺すはずなのに...」

 「俺にも分からない...もう何も..いや...俺は何もわかっていなかったのかもな...」

 「堕天使が殺さずに君を生かした。こんなこと初めてだ...奇跡は起きるのか?」

 「奇跡なんて起きない。起きているなら...こんなことになってない。小悪魔たちが死ぬこともないんだよ」

 「...!!」


利籐はそう言った悪魔を見た時に人間の死体を見つけた。


 「その人間たちは!」

 「知ってるのか?」

 「うん。その人間たちは骸人むくろと呼ばれる者たちだ。書生の中には書生の仕事が耐えられず改変してしまう者が現れる。改変した者は闇に落ち二度と戻っては来られない。殺戮と残虐のみを行うようになる。いわば人間のなれの果てだ」

 「そんなやつらがいるのか...死んだ小悪魔に聞いたんだ。あの爆発はこいつらに襲われたんだって」

 「骸人に...そんな話は無かった。知っているのは天使が堕天使になり悪魔の君を殺すという事だけだ。まさか、彼らが来るなんて...」

 「なんだ?」

 「これは...」


利籐がそう言った時、利籐の持っていた本が光輝きだし利籐と悪魔は光に吸い込まれた。二人を吸い込んだ本は光を失い地面に落ちた。


 本の中に吸い込まれた悪魔が目を開けると白い空間に立っていた。何もない空間に戸惑っていると利籐に声を掛けられた。


 「ここは本の中だよ」

 「本の中?」

 「そう。極稀に本の中に吸い込まれることがあるみたいだけど...まさか本当に吸い込まれるとは思わなかった。君は本当にすごいね。本が震えてるよ。こんなこと初めてだ。君の存在は奇跡としかいいようがない。本もこの未来を受け入れているようだ」

 「俺が奇跡?本が未来を受け入れている?」


悪魔は利籐のいう事が理解できず首を傾げた。利籐はその様子を見て微笑み腕を上げる。


 「ええ。本はどうやら教えてくれるようです。あの時起きた出来事を...あなたは辛いと思いますがどうか見てください。彼らの最後の勇姿を」

 「...分かった。本当は見たくないけど...俺も聞いただけだからあいつらがどんな風に死んだのか分からない。それにあいつらのことを殺して堕天使を傷つけた骸人とのことが知りたい。頼む利籐」

 「分かりました。本よ頼みます」


利籐の声に反応した本が答えるように目の前が一度暗くなると大きなスクリーンが現れレコードがスクリーンの中に入る。スクリーンが入ると画面が始まり再生という文字が出てくる。利籐と悪魔は頷き映像は始まった。

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