??章 ****駅_最後の終着駅

2_3(レコード:03家族)

 聖なる泉に映った生き物は死ぬ。それは異形も人間も変わりはない。聖なる泉に生き物が映ることなどここ百年起きていなかった。異形の森に人が来る。それだけで異例のことだ。何かの前触れなのかもしれない。森に人間を入れることが正しい事かは定かではない。何もできない聖なる泉はただ皆の無事を祈ることしかできなかった。悪魔が死ぬまで後...23時間


 聖なる泉に悪魔のことを告げられた天使は内心気が気ではなかった。目の前にいる人間のこともそうだが今は悪魔のことが気がかりだった。聖なる泉に告げられたのは悪魔が死ぬことのみ。いつなのか分からなければ防ぎようがなかった。人間を睨み続ける天使に小悪魔たちは声をかけた。


 「何してるんですか~天使さん?」

 「何もしてないよ」

 「そ~んな事言って~ずっと親分と利籐さんを見てますよね~」

 「見てないよ」

 「見てたじゃないですか~親分たちを睨みつけるように見て」

 「別に彼を見てたんじゃない。あの人間を見てたんだ」

 「人間って利籐さんですか?」

 「そうだよ。それ以外にこの森に人間なんかいないよ」

 「そうですね。親分たらすっかり利籐さんが気に入ったみたいで~今朝からずっと一緒ですもんね」

 「気に入ったんじゃない。あの人間のことが珍しくて気になるだけだ。あんなにくっつかなくたっていいのに...」


悪魔は利籐の傍で何かを話していた。厳密に言うと利籐の持っている本や持ち物に興味があり聞いているのだ。天使はその様子を見て何故かイラつきが抑えられなかった。それを見た小悪魔は察したのか天使の肩に手を置いた。


 「天使さん...人間の利籐さんに嫉妬...してますよね!」

 「してない!」

 「してますって!天使さんは親分のことが大好きなんですよ。だ、か、ら、人間の利籐さんに親分を取られて嫉妬しているんです!」

 「さっきから嫉妬嫉妬言わない!違うよ!僕は純粋に人間が」

 「何が違うんだ?」

 「だからっていつの間に!」

 「違うよ!僕は純粋にからだ...何を言ってたんだ?」

 「何でもないよ」

 「え?だって違うって...何が違うんだ?」

 「知らない!」

 「天使が言って..」

 「だから知らないってば!」


天使は悪魔に突然話しかけられて驚き飛び上がった。その様子を利籐に見られ笑われた天使は余計にイラついたが何とか誤魔化した。


 「面白いですね。あなたは」

 「イラっ...もう絶対教えないから!」

 「何が違うんだよ?教えろよ?」

 「知らない!」

 「なあ?天使?」

 「フンだ!人間の悪魔の馬鹿ー-!」

 「ええ...俺なんかしたか?」

 「親分...天使さんは繊細ってことですよ」

 「お前たちは何か知らないか?さっき天使と話してただろ?」

 「????」

 「????じゃなくて...」

 「????」

 「...分かるか!」


恥ずかしくなった天使は顔が赤くなりいてもたってもいられず顔を抑えて走り出した。小悪魔は天使のために悪魔に聞かれたが表情をアホずらにして誤魔化した。結局、悪魔は天使と小悪魔には誤魔化され、天使が嫉妬していたことは知らずに終わった。そのやり取りを遠くで見ていた利籐は本を開いて笑う。本には先ほどのやり取りが記載されており、書かれた行動 が終わるとその部分の文字に斜線が引かれていく。利籐は次に起きる出来事を確認するため本のページをめくると白紙で何も書かれていなかった。白紙を確認した利籐は口元だげ笑ったが誰も気づくことは無かった。悪魔が死ぬまで後...20時間


 異変に気付いたのは天使でもなく聖なる泉でもなく小悪魔だった。小悪魔達は幼い二匹の小悪魔が居なくなっていたことに気が付いた。


 「あれ?あの二匹どこ行ったんだ?」

 「いない...」

 「親分や天使さんに聞いてみたほうがいいのか?」

 「いや待て...親分と天使さんの手を煩わせる訳には...」

 「でも...この前もあの二匹が迷子になって小悪魔総出で探したし...」

 「でもその時親分のところに居たし...」

 「正確に言えば親分が二匹を見つけてくれたんだよね」

 「俺たちが言わなくても親分はちゃーんと俺たちを見てくれたんだもんな」


小悪魔たちはその時のことを思い出していた。これは数年前...小悪魔たちが悪魔の配下となって間の無い頃の話。小悪魔たちは悪魔の配下になったがまだ悪魔との関係は今よりも親密ではなかった。配下になり子分になったのはいいけれどどう関わっていけばいいのか分からなかった。


 「あの...親分...その...」

 「どうした?お前たち?」

 「いや...何か困ってる事とかありますか?」

 「特に無いな...」

 「そ、そうですか...ならいいんです」


小悪魔たちはそう言うと森の奥に歩いていき、その様子を見ていた天使と悪魔は顔を見合わせた。


 「ねえ?小悪魔たち最近元気ないね」

 「そうだな...どうしたんだ?」

 「でも驚いたよ。あの反抗的な小悪魔たちが君の配下になりたいなんてね」

 「俺も驚いた...まさかそう来るとは思わなかったから」

 「本当だよね!僕なんかさ~聖なる泉から飛び出した時に小悪魔たちがやってきて身構えていたらいきなり土下座してきたんだもん。聖なる泉と一緒に思わず変な声が出ちゃったよ」

 「それは見て見たかったな...」

 「あれからこの森も変わったよ。以前は小悪魔たちと敵対関係にあったし常に気を張っててさ。聖なる泉の所にいる時だけが安心できたから」

 「それは大変だったな...」

 「うん。でも僕は感謝してる。誰にも心を開かなかった小悪魔たちがが君に心を開いたし僕も命を助けられた。聖なる泉も君と出会えて変われたって言ってたからね。君が僕らを変えてくれたんだ」

 「...なんか照れるな」

 「ええ~照れてるの?」

 「いじるなよ...でも俺も感謝してる。お前らのおかげで居場所が出来たし...仲間も出来たから...俺も方こそありがとな」

 「どういたしまして!」


二人がそう言い笑いあっていると近くで泣き声が聞こえた。


 「泣き声?」

 「誰かが泣いてる?」

 「少し...見てくる」


悪魔は天使にそう言うと声のする方へ歩くとそこにいたのは幼い二匹の小悪魔だった。


 「お前たち...こんなところでどうしたんだ?」

 「え...」

 「親...びゅん...」

 「親...びゅん...」

 「こんなところでどうしたんだよ?」

 「「う、うわ~ん!怖かったよ!」」


悪魔に気づいた小悪魔たちは泣きついた。悪魔は抱き着いた二匹に驚いたが落とさないように抱きしめた。


 「うお!お前たち...いきなり抱き着いたら危ないぞ...こんなところでどうしたんだ?迷子になったのか?」

 「うん!」

 「みんなと一緒にいたんだけど...二人で蝶々を追いかけてたら...気づいたら皆とはぐれちゃって...」

 「迷子に...なっちゃって...それで...それでね...」

 「どうすればいいのか分からなくて...」

 「「だから...だからね...ごめんなさい」」


二匹の小悪魔は泣き出して謝り悪魔は二匹の頭を撫でた。二匹は怒られると思い悪魔を見た。


 「怒ってないの?」

 「親分...」

 「怒ってない..お前たちが無事ならそれでいい」

 「「親分!」」

 「でも、他の小悪魔達にはちゃんと謝るんだぞ...今頃お前たちを探している頃だと思うから」

 「うん!」

 「謝る!」

 「よし!いい子だ。じゃあ戻ろうか」


悪魔は二人を抱えて天使の所に戻ると事情を説明した。


 「成程!だから小悪魔たちは様子が変だったのかな」

 「そうかも知れない...俺は小悪魔たちの所に戻るな」

 「分かったよ!」


 天使と分かれて小悪魔たちの所に向かった。小悪魔たちは森中を探していた。


 「ここにもいない!」

 「別の所を探そう!」

 「あそこは?」

 「そこはもう見たぞ」

 「じゃあどこに行ったんだ?」

 「まさか二匹は聖なる泉に落ちて溺れたんじゃ!」

 「じゃあ今頃あいつらは...」

 「「ヤバい!急がないと!」」

 「もし、そうならあいつらは.....」

 「今から天使さんの所に行かないと!」

 「どうしよう!!!」


小悪魔たちは最悪な状況を想像し混乱状態だった。もはや取り返しがつかなくなる前に悪魔は声を掛けた。小悪魔たちはいっせいに振り向き悪魔がいることに驚きの声を上げた。


 「お、親分!いつの間に!」

 「さっきからここにいたぞ?」

 「え!マジですか?」

 「マジだがどうした?」

 「親分...その...」


小悪魔たちは二匹のことを言おうとしたが戸惑ってしまった。言っていいのか、頼っていいのかと思ってしまった。小悪魔たちの様子を見た悪魔はこの森に来る前の自分を思い出した。ぎこちなくて誰かに頼っていいのか不安になる。小悪魔たちが昔の自分と重なりあの時、自分自身が掛けてほしかった言葉を彼らにかけた。


 「迷惑なんかじゃない...」

 「え?」

 「誰かに何かを頼るのは怖いし...不安だよな。でも俺は誰かに頼ることは迷惑でも悪い事じゃない...困っているなら頼ってもいいんだ。俺にできる事ならなんでも協力する...」

 「親分...」

 「俺もそうだったから...孤独で悪魔ってだけで嫌われて傷ついて...お前たちと出会う前は何で生きてるんだろうって考えて生きてきた。俺が生まれてきた意味って何なんだろうって...答えがない答えを必死に探して...でも今は違うだろ?俺は誰かが配下になってくれたこともないし、これが始めてだからお前たちにも迷惑をかけることもあると思う。こんなやつ俺たちの求める親分じゃないって思う事もあるかもしれない」

 「そんなことないですよ!」

 「ありがとう。少しずつでいいから...俺に話してくれ」


悪魔はそう言うと小悪魔たちの頭を撫でた。小悪魔たちは悪魔の言葉を聞いて感動した。


 「頼ってもいいんだ...」

 「うん?なんか言ったか?」

 「何でもないです!実は親分、二匹の小悪魔が居なくなって」

 「それなら...」


悪魔が後ろに隠れている二匹に声をかけると二匹は恐る恐る声を顔を出した。


 「あああ!お前たち!」

 「あの...皆...」

 「その...」

 「二匹は蝶に夢中になって迷子になったみたいで泣いていたんだ...それで...」

 「「ごめんなさい...」」

 「心配したんだぞ!勝手に離れるなって言ったろうが!」

 「ごめんなさ..」


二匹は小悪魔たちに謝ると小悪魔たちは大きい声で怒鳴った。悪魔は驚き二匹は泣きそうになる。謝る二匹を小悪魔たちは強く抱きしめた。


 「皆...?」

 「心配したんだぞ...」

 「ごめん...なさい...」

 「無事でよかった...」


小悪魔たちは強く二匹を出来きしめると二匹は安心して泣き出した。二匹が泣き止むまで小悪魔たちは背中を摩り悪魔は傍で見届けた。


 「見つかってよかったな...お前たち」

 「はい!親分もありがとうございます!」

 「困ったら今みたいに頼ってくれよ...」

 「はい!」

 「「ありがとう...親びゅん!」」


二匹は無事見つかりこの出来事がおかげで小悪魔たちは悪魔を頼り心から信頼することが出来た。


 「でも本当によかったね。見つかって」

 「本当ですね。天使さんのおかげです」

 「僕は何もしてないよ」

 「相談に乗ってくれたじゃないですか」

 「そうだね。僕のアドバイスが役に立ったなら嬉しいよ」

 「はい!」


小悪魔は天使と寝転び話していた。悪魔のことで相談にしていた小悪魔たちだったが二匹の件でその悩みも解決した。天使に礼を言うと天使は笑った。


 「全然大丈夫だよ。それに...あの二匹がまさか懐くなんてね」

 「ほんとうですね。見てて微笑ましいです」


二人が見た先にいたのは横になって寝ている悪魔とその傍で眠る二匹の小悪魔たちだった。


 「最近二匹が親分のことをパパって呼ぶんですよ。何度も親分って言ってるのにパパだって言い張って」

 「まあまあ...可愛いじゃないか」

 「そうなんですけど...でっもまあ...いっか」

 「なんか彼らを見てたら眠くなってきたよ。皆もどう?」

 「そうですね。俺らも眠くなりました」


小悪魔たちと天使は悪魔の傍で横になり眠った。小悪魔たちは熟睡し気づけば暗くなり寝すぎたことを後悔した。


 「そんなこともあったっけ」

 「きっと二匹もあの時みたいに無事ですよ」

 「そうだな」

 「あの時みたいに探してやろう!」

 「パパ~って泣いてるかもしれないからな」

 「言えてる~探すか」

 「きっと...みつかる」


二匹が利籐に消されたことを知らない小悪魔たちは死んだ二匹を探した。悪魔が死ぬまで後...10時間

 

 



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