九章 本は真実のみ語る

九章_本は真実のみ語る

1.

 「皆さん!迷惑をおかけしました。もう大丈夫です。私復活しました」

 「よかった~復活して~でも私たちっていうほど待っていないよね~」

 「確かにね~!待っていたのは一人くらいかしら~?」

 「え...酷い!」

 「まあまあ冗談言わない。車掌が泣いてるよ」

 「酷いです...あなただけですよ。心配してくれるのは...」

 「車掌...元気出して、ほら...よしよし」


 元気になった車掌だったがカーナたちの反応が冷たく傷ついていたので頭を撫でて慰めていると列車が止まりアナウンスが流れる。


 『え~貝瀬~貝瀬~列車が止まりま~す』

 「どうやら列車が止まったようですね。しかし...せっかく元気になった途端に仕事ですか...」

 「それが仕事なんだから仕方ないよ車掌!じゃあ僕~料理長室行こーと!」

 「私もバーに行かないと~」

 「...」


グリンは料理長室へ、カーナはバーに行きネムは無言で二人について行った。ロビーに残された車掌は二人の反応の冷たさに嘆いた。


 「早い!なんか..こう...もっと労ってくれてもいいのに...元気になったとたん皆が冷たい...悲しい...」

 「車掌...」

 「まあいいです!仕事しましょうか?」

 「それもそう..!!」


その時、乗客の部屋の方から激しく大きい聞こえてきた。ガタン!ドンドンガラガッシャン!パリーン!思わず車掌と顔を見合した。


 「「.....」」

 「なんか...すごい音がした」

 「そ、そうですね...心配ですし部屋を見て見ますか?」

 「行ってみよう。怪我をしているかもしれないし」


 乗客の部屋をノックしたが返事はなかった。


 「お客様?入りますよ」

 「...返事ないな」

 「...返事がないただのし..」

 「車掌!それを言うのもそれ以上もoutだ。色々と真顔で言うのも余計ダメだ」

 「何言ってるんですか?こんな顔です...真顔で言うのがダメならこれはどうですか?」

 「そんな顔をしてもだめ!ぴえんって顔をするな」


車掌は****にだけ見えるように変顔をしたがダメだしされた。


 「ダメですか?自信作だったのに...まあ取り上えず開けますよ?」


車掌がドアを開けると目の前に大量の本があふれ出てきた。


 「え...本...噓でしょ?うわあああああああああああああああああああああああ」

 「車掌!大丈夫?」


車掌が大量の本に流され助け出そうもどこにいるのか分からない。


 「車掌!どこにいるんだ」

 「ここ...です...だ...す」


声は聞こえているが埋もれていて上手く聞き取れず耳を澄ました。


 「ここです!だすけてください!」

 「聞こえた!車掌はここだ!」


聞こえてきた声を頼りに本を退かすと車掌の腕が出てきたので引っ張りあげた。


 「はあ...酷い目に合いました。本に流された時死ぬかと思いましたよ...」

 「お疲れ様...見つかってよかったよ。ところで乗客はどこに?」

 「...さい」

 「見当たりませんね?」

 「もしかして車掌みたいに埋もれていたりなんて...」

 「そんなわけ...わけ...ありますかも...」


冗談だと思い笑っていたがそんな気がした時近くから声が聞こえてきた。


 「...けてください」

 「これはもしかして...」

 「もしかしなくて...埋もれています!」

 「どこにいますか!」

 「ここ...す」

 「聞こえました!行きますよ、せーの!」


二人で声を頼りに何とか乗客の探し片腕が出てきたので引っ張り上げた。


 「だ、大丈夫ですか?」

 「は、はい!ありがとうございます」

 「でも...どうしてこんなことに?」

 「実は私の部屋は本に囲まれていまして、本の整理をしていたんです。高い所にある本を取ろうとしたら乗っていた台から落ちそうになってしまって咄嗟に本をつかんだんですがそれが良く分かったみたいで..案の定たくさん本が落ちてきてこのような有様に...本当にすみませんでした」

 「いえいえお客様が無事で何よりです」

 「だからあんなに大きい音がしたんだ。あの音は乗っていた台や割れたガラスの音だったんだ」

 「私はドジでおちょこちょいなところもありますがよろしくお願いします」


そう律儀に挨拶したが上から本が落ちてきて二人は心配になった。


 「い、痛い!」

 「あの...私は思ったことがあります」

 「奇遇...私も思ったことがあるよ」

 「あの乗客は凄く心配です」

 「本当に..上手くいく気がしない...大丈夫かな」


二人が言っている傍から乗客は転び、果たしてちゃんと前世を解明できるのかすこし不安になってきた...いやかなり不安になってきた。


 心配も残るこの乗客は司書のような服装と本が部屋に大量にあることから車掌は本関連の仕事をしていたと推測した。


 「あなたは司書のように本関係の仕事をしていたのではないですか?」

 「え?なぜ分かったんですか!」

 「この部屋は本が多く本に囲まれているようでまるで図書館を表すようだと思いました。またあなたの服装からもそうではないかと..」

 「それで分かったなんて凄いです!私なんかおっちょこちょいで~」

 「それは...見たら何となく分かります」

 「ガーン!やっぱり見たら分かりますか..」

 「うーん...とりあげず何から始めましょうか...」


車掌が乗客のペースにのせられそうになり****に助けを求めようとした時、ドアにつけられているベルが鳴り響いた。


 「ベルが鳴ってる。これは何?」

 「これはグリンが料理を出来たお知らせ..つまり合図みたいなものです」

 「そうなんだ。ただの飾りかと思った」

 「そんなわけないでしょう。ここにある物は全て意味があるのですよ」

 「そうなんだ」

 「はい。しかし...職務怠慢ですよ全く!本当なら毎駅に鳴るはずなのに..」

 「まあ..人にはペースがあるから」

 「グリンは異形ですよ」

 「...異形にもペースがあるんだ。きっと」

 「そうですね...はあ...この件はひとまず置いておきましょう。お客様、どうでしょう?お料理をお食べになられては?」

 「いいんですか?部屋だってこんなに散らかしちゃって...本だってもとに戻さないと」

 「大丈夫です。本は戻しておきますのでご心配なく..私と****が片付けておきますので」

 「え...車掌...」

 「ありがとうございます!」

 「え...私も...無視?」

 「場所は分かりますか?」

 「大丈夫です。ありがとうございます。行ってきます」

 「おーい!二人とも...」


車掌たちに乗客はお辞儀をした料理長室に向かう後姿を見届けた。部屋の片づけと本の整理を一緒にすると思っていなかった****は車掌を見たが無視される。乗客が部屋から出たあと車掌に本も渡された。


 「さあ、一緒に片付けましょうか?」

 「...はい」


半ば強制的に乗客の部屋の後片付けをさせられた。


 「えぇぇと...これがこっちで!」

 「違うそれはこっちだ。それは小説だから違う」

 「ここでしょうか?」

 「そう、そこだ!」

 「中々やっかいですね!」

 「まだ始めて二,三冊なんだけど...」

 「...」

 「もしかして車掌って片付けるの下手?」

 「...さあやりしょう!まだ二、三冊しか終わってませんから」

 「誤魔化した!」


本の番号と類似本など書架番号にも気をつけながら元の棚に戻るのが大変だった。せめてもの救いは壁に本の場所が開いてあったことだ。そのおかげで時間はかかったもののなんとか片付けることが出来た。


 「はあ...はあ...何とか終わりましたね」

 「大変だったけどなんとかできた...」


息を整えた二人は乗客の部屋を観察してみることにした。


 「綺麗ですね。清潔で何もない」

 「この部屋には本しかないのかもしれない」

 「...いや、案外そうは言えません」

 「どうしてそんなことが言えるの車掌?」

 「これを見てください」


車掌が指を指した所はゴミ箱だった。中には大量の睡眠薬とドクロマークの薬品は捨てられていた。


 「これは睡眠薬?何でこんな大量にあるんだろう。それにこのドクロマークの薬品は?」

 「おそらく毒物でしょう」

 「ど、毒物!なんでここに?」

 「わかりません。このドクロマークは死のマークを表します。乗客の本にも似たような本があるはずです」


車掌に言われた通りに薬品や毒に関する本からドクロマークは死を意味すること。捨てられていた薬品と睡眠薬は人が摂取すれば死に至ることが分かった。


 「でも...どうしてこんなものが...」

 「もしかしたら彼女はこの毒物で殺されたか、誰かを殺したかのどちらかのようですね」

 「でも...彼女が人を殺すようには見えなかったし、何かを隠している・隠し通せるような性格には見えなかった。彼女にそんな真似は出来るとはどうしても思えない」

 「...もしかしたら彼女のドジは演技なのかもしれません」

 「演技!どちらにしても気を付けてみた方がいいと思う」

 「とりあえず私たちもグリンたちの料理長室へ向かいましょう。何か起きてるかもしれませんし」

 「何でうれしそうなんだ?」


 二人で料理長室に向かうと中から誰かの叫び声が聞こえてきた。車掌と共に顔を見合わせドアを開けた。


 「グリン!大丈夫ですか!」

 「え...」

 「美味ーい!この料理本当に美味しよ!」

 「「ぎゃふん!」」


心配になりドアを開けると乗客がグリンも料理を食べて喜んでいるだけだった。


 「なんだ...何も起きてないみたいですね。心配して損しました」

 「だから何でうれしそうなんだ」

 「二人とも来てくれたの!見て見て、この人、僕の料理をこんなに食べてくれてね。しかもおいしいって言ってくれたの!」

 「よかったですね。グリン」

 「うん!」

 「美味しいー!おかわりください!」

 「「え?まだ食べるの?」」


その食べっぷりに車掌と****はドン引きした。料理長室は彼女が食べた皿が大量につまれもはや天井まで届く勢いだった。


 「ありがとう!こんなに食べてくれて僕嬉しいよ!」

 「ご馳走様でした」

 「す、すごいな...あんな細い体のどこに入るんだ。なんでそんなに食べられるんだ...」

 「私が知りたいくらいです」


喜ぶグリンを他に車掌と****は少し現実逃避をしていた。


 「車掌!大変よ」

 「カーナさん?どうしたんですか?」

 「出たのよ。車掌、来て遺体が出たわ」


しかし、慌てて料理長室に来たカーナによって直ぐに二人は現実に連れ戻された。


 カーナに案内されたのは乗客の部屋の廊下で遺体は案の定毒物で殺されていた。


 「酷いですね。毒が浸透している..どうやら即死でしょう」

 「でも、おかしい。毒物を入れられた形跡がない」

 「そうですね。この人は乗客ではありませんから大丈夫ですか問題は乗客です。彼女に関することがないもない」

 「彼女について分からないことだらけだ」

 「もう一度、彼女の部屋を調べてみましょう」

 「いいえ...その必要はないです」

 「「!!」」


後ろから声が聞こえ振り向くと乗客が立っていた。


 「いったい何時からそこに?」

 「ずっと前からそこにいました。お二人とも遺体を調べるのに集中していたので...着いてきて欲しい所があります。私の前世について」

 「...やはりあなたは罪を犯していない」

 「罪を犯していない?それって...」

 「やはり...隠していても分かってしまうのですね。そう、私は殺されたんです」

 「殺された?」

 「そのままです。私は死んでしまった記憶を一部だけ保持したままここにきたした」

 「なるほど...それであなたは助かったのですね。****には教えておきます。もし、この列車に乗る際に前世の記憶を持ったままこの列車に乗った場合、魂が耐えられなくて自殺・死んでしまいます。しかし、一部の記憶を持った状態で乗客が乗っても前世の出来事や自分がいかにして死んだのかは定かではないため、死んでしまうことは無いのです。もし仮に前世を思い出したとしても魂に何も影響はおきずこの場合も死ぬことはありません」

 「じゃあ、あなたはここに来る前から分かってたんだ」

 「はい。前世のことが不完全で確かめたかったのと、自分が死んだなんて信じたくなくてお二人ともに嘘をつきました。すみません...本当は私が証拠を集めていたんです」


 彼女に案内されたのは彼女の部屋だった。


 「信じたくなかったんです。自分が死んだことを...それに真実を知るのが怖かったんです。でも...調べていく内に後悔しました。私は信じていた夫に殺されたのだと気づいたんです。ここです」

 「ここ?ここはあなたの部屋で」

 「見ててください」


彼女は悲しそうに言うと本棚にある本を一冊動かした。すると本棚が動き出し隠し扉が現れる。


 「隠し扉!」

 「こっちです。暗いので足元気をつけてください」


彼女はそう言うとランプを持ち中へ入っていった。車掌たちも彼女の後ろについていく。階段を下りてスイッチを入れると地下室の明かりがついた。中にあったのは乗客の彼女が死んだ時の状況を再現する人形だった。彼女は夫に首を絞められ殺されていた。


 「!!」

 「これは...あなたが亡くなった時を再現する人形ですか」

 「はい」

 「酷い...じゃあ、まさかあの時に聞こえた音の正体って」

 「はい。この地下室から私が出てきた時の音です。確かめようとしたのが良くなかったんです。私の図書館には古い書物を守るために地下室がありました。私はそこで殺されていたんです。思い出した時は確信はなく、降りた時にこれを見て動揺しました。地下室から出て扉を閉める際に誤って本を掴んでしまったんです。ごめんなさい」


と、言い泣きながら頭を下げた。


 「あなたが謝ることじゃないです。顔を上げて」

 「貴方は悪くありません。悪いのはあなたを手にかけた夫です」

 「なんでこんなことになったのかはもう分かりません。でも...やっぱり最後まで愛した人だから..私もお二人と確認できてよかった。これでもう悔いはないです」

 「あなたの前世を解明できました。しかし...私も何もできずすみませんでした。でも、これであなたが少しでも幸せな死後になれることを祈っています」

 「...ありがとう」


と、言う乗客は笑ってお礼を言った。車掌は乗客の魂を自身の釜で天国へと導いた。車掌は何か思いつめたような顔をし、下を向いた。乗客が天国に行くのを見届けると足元に司書のバッジを見つけた。


 「名前は紙花文かみはなふみさん。幸せそうに笑っていたのに」

 「幸せとは悲しいものですね。彼女の魂を天国に送る時に彼女の記憶を見ました」


夫婦ともに司書として働いていたが経済的な問題が生じ夫婦は図書館を閉めるか閉めないかで揉めていた。ある時、カッとなった夫はあの毒物を使った。本に製本する際に微量に使う薬品だが彼女は体が弱くう直ぐ動けなくなった。その隙に殺されてしまった。


 「何も悪くなかったのに...」

 「...そうですね」

悲しみに触れることもなく列車はまた動き出した。

 「おや?列車が動き出しましたね」

 「部屋に戻る..」

 「そうですか?分かりました。私もバーに行くとしましょう。良く休んでくださいね」

 「うん。そうする」


自分の部屋に行く前に成仏した彼女の部屋に行くとメモが落ちていた。

 ;あなたが前世について悩んでいるのなら本を信じて見るのはどう?本は真実のみを写すから;


 「本は真実のみを写すなら...前世のことが分かるのかな」


乗客の部屋に落ちている本を見つけ表紙を見ると;真実を写す;書かれていた。手に取ると;本を開け;と文字が変わり開く。そこには血文字で【お前の死はなにものか?】と書かれていた。


 「自分の死..なんだろう...!!」


そう考えながら本を閉じた時一瞬だが何かが頭を過る。


 「来ないで!どうしてこんなことをするの?」


 見えない何かは武器を振り上げ殺そうとする。


 「いやああああああああ!」


叫び声と共に当たりいい面に血が広がっていく。襲った人物は動かなくなり死に殺されたのは夢に出てきた少女だった。


 「な、なんだ今の夢..分からない。あの少女は夢に出てきた..あの少女は私なのか?もしそうだとしたら私は...誰かに殺されたんだ」


****が前世について考えている時、車掌飲んでいたグラスが割れた。


 「グラスが...何か良くないことが...起きる気がする」


 それと同時時刻...マジシャンも異変に気付き堕天使も動こうとしていた。


 「さて..そろそろ頃合いかな...動こ~と」

 「そろそろ...あの駅が開かれる。そうなった時、対象者はやはり...BATENDはごめんだぞ、車掌」


不穏な空気が流れる中列車はまだ止まりそうにない。


『九章 本は真実のみ語る』(終)NEXT→ 『十章 過去は厄災を写す』

 

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