八章 恋は人を狂わせる

八章_恋は人を狂わせる


 例の騒動から何とか立て直したものの車掌の傷は酷く車掌なしで動かなくてはならなかった。


 「とりあえず閻魔に報告しに行くが後は頼むぞ」

 「大丈夫、任せて!」

 「ウンウン!」

 「任せてマジシャン!」


マジシャンはカーナたちの顔を見た後、車掌の様子を一度確認し地獄へ戻っていた。マジシャンを見送った三人は一度バーへ戻った。


 「車掌がいなくて****も眠ったままなんてどうしよう」

 「車掌はしばらく目を覚まさないわ。列車の外の灼熱だけじゃないく毒物や堕天使の傷が酷くて今の状態では前世を解明できないから」

 「そうだね...ねえカーナ?車掌が二重に受けたあの灼熱は****の分の痛みを受けたからなの?」

 「別にそれだけじゃないけどあの灼熱は車掌一人で受けていたものよ。もし車掌があの子の分も灼熱の痛みを受けなかったら外に出た時点であの子の魂は焼け死んでしたと思うわ」

 「そうなんだ...」


地獄の門が出たのは乗客が外に出たからだ。前世を解明する乗客は外に出ても決して燃えることは無い。そのため乗客が燃えることは無かった。しかし、乗客とは違い車掌は車掌は列車から出ることは出来ない。車掌が列車から出ると今回のように灼熱の業火に体を焼かれる。車掌が深い傷を負ったのは列車を出たこともあるが****が関係している。乗客が****を連れて列車外に出たため****に影響がないよう痛みを肩代わりしたことが深い原因だ。


 「じゃあ外に出る前からその痛みに耐えていたんだね。車掌は」

 「ええ、そうね。それにあの子もあれ以来何故か眠ったままだし、どうしたものかしらね」

 「列車は動いているけど例のこともあるし...でも乗客も眠ってるし...このまま走る続けるだけなのかな」

 「...!」

 「ネムどうしたの?」


何かに気づいたネムは****の部屋に飛んでいきカーナたちもネムの後を追った。ネムは****の部屋を開けて中に入りカーナとグリンもドアを開けると布団から起き上がっている****がいた。


 「起きた!大丈夫?」

 「...!」

 「だ、大丈夫...だよ。えっと...一体何が起きたの?車掌は?」

 「実は...車掌は少し働く過ぎて休んでるのよ」

 「車掌が...そうなんだ。なら声をかけたほうが...」

 「ギュッ...」

 「ネム?」


ネムは何も言わず****を抱きしめた。ネムに抱きしめられて****は驚いたが頭を優しく撫でた。ネムを撫でている****と目が合ったカーナは屈んでネムの頭を撫でた。


 「ネムはきっと心配なのよ。私もね!だから一緒にいてあげて~車掌は働く過ぎて休んでいるだけだから気にしなくていいわ。車掌は眠るとなかなか起きないし起こされるととても不機嫌になるから部屋には入らない方がいいわ~」

 「そ、そうなんだ」

 「そうなの~車掌はね、ああ見えても大変らしくて書類が大量に溜まってて前に一度入ったことがあるの。そうしたら書類に押しつぶされて抜け出すのが大変だったし車掌にも怒られちゃって...それから私を含めた乗組員も車掌室に出入り禁止になったの~ごめんね」


済まなさそうに話すカーナに納得し、車掌の大変さを理解した。


 「いやいいんだ。車掌に聞きたいことがあったんだけどそれはまた今度でいいや。また元気になった時にするよ」 

 「そうね~それがいいわ!所で少し聞いてもいいかしら?車掌に何を聞こうとしたの?」

 「いや...たいしたことじゃにんだけど...断片的見えたんだ」

 「何を見えたの?」

 「自分が死んだときが」

 「え?」

 「...!」


****がそう言った時三人は一斉に****を見つめた。三人は驚き窓の外を見ていたグリンや撫でられていたネムを顔を上げる。三人の反応に****は不思議そうに首を傾げた。カーナは誤魔化すように話しかける。


 「な、何が見えたのかしら~」

 「見えたっていうか...違うと思うんだけど...あの時薄っすらと体が動かなくなる間隔があって...もしかしたら自分が死んだときなんじゃないかって思って...確か...誰かに押されてそれからまた場面が変わって...誰かの声がしたんだ。その時に薄っすらと影が見えたのが車掌に似てたんだ。その影は車掌にそっくりでさ何か知ってるのかな~なんて。何かの気のせいだよね、きっと」

 「「「......」」」

 「カーナ、グリン、ネム?どうしたの」


三人は****の話に一瞬動揺を隠せなかったが気づかれることはなかった。


 「な、なんでもないよ~でもそれ姿をみたわけじゃないんでしょ?」

 「そうなんだ。やっぱり違うよね」

 「...まだ列車が動いているし止まる気配がないからゆっくり休むといいわ~」

 「そうするよ。ありがとう」

 「じゃあ僕は持ち場に戻るね。ネムと一緒にいてね~」

 「私も倉庫を確認してから行くわ」


上手く誤魔化せた二人は****の部屋を後にして歩きカーナは廊下でグリンに話しかけた。


 「ねえグリン?あれってまさか」

 「僕も驚いたよ。でもまだバレる訳にはいかないけど...いずれは僕たちのことを...本当の僕たちの正体について明かさなきゃいけないのかな」

 「まだいいわ。まだその時じゃない...でも...今は休みましょう」


カーナはグリンと分かれた後車掌に室へ向かった。ドアを開けると車掌は魘されていた。


 「このままだと...何もかも失ってしまうわよ。あるべきものが亡くなる前に...気づかれてはいけない。車掌...だからもし、これで終われるのなら...いっそのこと...何でもないわ。ゆっくり休んで...おやすみなさい」


カーナはそう言うとドアを閉めた。ドアが閉められた車掌はゆっくり目を開けた。


 「時間が迫ってきている...でもまだ明かすわけには...それに...最後の終点の駅までは持たせなければ...あの...****駅までは...」


車掌は呟くとまた目を閉じて眠りについた。


 列車は進み続けているがまだ止まる気配はない。


 「列車は進んでいるみたいだけどどうなっているのかな?今頃地獄はきっと大騒ぎだな。こちらとしてはとても楽しいからいいんだけどさ~!」


堕天使は笑いながら傍にある水晶から様子を見ていた。先ほどの地獄の門が開いた件は厄身を通して堕天使が仕組んだことだった。


 「まさか諭しただけでここまで上手くいくなんて思わなかったな~!さて~君がモタモタしてると乗客の前世もそうだけど彼女の前世は一体どうなるのかな~まったく面白いね。退屈しないな~」


堕天使は水晶に映る車掌を見ながら楽しそうに笑った。

 

 その頃地獄では堕天使が言った通り大変な事態に見舞われていた。堕天使の逃亡、地獄の門が開いたことで地獄に送られた魂たちが揺らぎだしそれを抑える事、地獄に先ほど送られた元乗客の魂の処理に追われていた。


 「くそ!やらなきゃいけないことがやまずみだ。あの堕天使め...」


マジシャンもその処理に追われる作業を強いられ怒り、列車や車掌たちのことが気になり焦っていた。


 「だから、今大変なんだよ!門番様に言われただろ!」

 「動ける奴は誰でもいい手の空いてるやつから動いてくれ」

 「門番様こちらにご指示を」

 「そっちのほうは二組になって動いてくれ!」

 「「かしこまりました門番様!!」」

 「はあ...しかしきりがないな。よりによって何であいつが...こんな時に!」


マジシャンは地獄で働く悪魔たちに指示をしていた時に閻魔に話しかけられた。


 「少しいいか?お前に聞きたいことがある」

 「??なんだよ閻魔こんな時に」

 「実はな...さっき開いた地獄でのことだがこいつが分かるだろう?」

 「ああ...それがどうした?」


閻魔が手に持っていたのは先ほど無数の手から地獄に送られてきた元乗客の魂だったものだ。地獄で罰を受けたことでその魂が耐えられず肉片の塊となってしまった。それを見せた閻魔は続けて言う。


 「こいつは乗客で前世を解明し地獄に送るはずなのになぜこのような事態になっている。何か不具合でもあったのか?」

 「別にそんなことないさ...でもなんでそんなことを聞くんだ?」


マジシャンの話しを聞いた閻魔は地獄を見回して言った。


 「地獄にいる魂たちが騒いでいるんだ」


閻魔の言葉を聞いた時マジシャンは確信した。きっと地獄の魂たちが騒ぐ影響を与える魂は****だということに。しかし閻魔にこのことを明かすわけにはいかない。言ってしまえば閻魔は問答無用で地獄送りにしてしまうだろう。そうなれば車掌がしてきたことが無駄になってしまうからだ。マジシャンは何も知らないふりをした。


 「分からないな...こちらも原因を探してみるが」

 「そうか...ならお前に任せる...頼んだぞ」


その言葉を最後に閻魔はその場からいなくなりマジシャンは深いため息をついた。


 「まずいな。何とかしなければ...このままだと****が地獄行きになるのも確実で、気づかれるのも時間の問題だ。早く手を打たないと!人と死神が手を取り合うなんてことあってもいいわけが...」


マジシャンはその時一瞬だが過去の出来事を思い出したし言おうとした言葉を言うのを辞めた。


 「やめよう...そんなこと言うのは...例えイレギュラーでも...人と死神が手を組むことだって...できるかもしれない...」


マジシャンは地獄でやるべき仕事を終わらせて車掌たちの元へ急いだ。


 それは遠い昔の記憶だ。


 「あはははははは~来て来て」

 「お~い!待ってくれ」


声の主の二人は楽しそうにはしゃいでいた。


 「ねえねえ!これが星っていうんだよ」

 「そうなのか?」

 「そうなんだ!星にはね願いを叶える意味があるんだって!」

 「願いを叶えるか...なあ?もしも****だったら何を願うんだ?」

 「私はね*********」


その言葉は何と言ったのか分からなかった。


 「じゃあ?****は何を願うの?」

 「俺?俺は...」


あの時なんて答えたんだっけ...もう忘れてしまった。いつも一緒にいた。二人仲良くずっと一緒にいられると思っていた。しかし...それは叶うことは無かった。誰かに悲しそうに言われる度に一瞬だけ思いだす。何を抱きしめているのかは分からない...もう覚えていなかった。けれどこれだけは覚えている忘れられない記憶がある。


 「嘘つき...****なんか...友達じゃない...」

 「...フジニアとなんか出会わなければ良かった」

 「私を...殺して...」


 それは遠い遠い昔の忘れたい...忘れられない...悲しい戒めの記憶だった。


 「なら...私はあの時...一体どうしたらよかったのでしょうか」


と呟いた車掌は自身が一粒の涙を流していることに気が付かなかった。涙が零れ落ちた時車掌がそのことに気づき顔に手を当てると手は涙で濡れた。車掌が涙を拭った時にちょうど列車が止まりアナウンスが流れた。


 『え~上野~上野~列車が止まりま~す』


同時刻_部屋に戻ってきたカーナとグリンと共にアナウンスを聞いていた。


 「どうやら列車が止まったようね」

 「今回は上野駅か。列車が止まった訳だし遺体が出てくるはず」

 「ねえ?何か音がしない?」


グリンに言われた通り耳を澄ませるとポタポタと何かが落ちる音が聞こえてくる。


 「この音どこから聞こえてくるんだろう?」

 「何かが落ちてくるような音じゃない?」

 「??...!!」


ネムはあたりを見回すと何かに気づいたのか****のことを指さした。


 「ネム、****がどうしたの...って!****、頭どうしたの!いつの間に怪我をしたの」

 「何言ってるのカーナ。怪我なんて...え?これ血だ!」

 「見た感じ怪我はないわね」

 「うん。さっき目を覚ましはばかりだから怪我なんてないよ。これは私の血じゃない」

 「じゃあ誰の血なの?」

 「私の血じゃないってことは...まさか...!!」


恐る恐る天井を見ると天井に釘を打たれたように串刺しのように張りつけにされ頭から血を流している女性を見つけた。


 「うわあああああああああ!」

 「まさか...此処に現れるなんて...」


誰も乗客の前世に関係する遺体が現れるとは思っていなかった。あまりの出来事に驚きすぎたグリンは自身の上半身を置いて走り出し、置いて行かれた上半身はずっと叫び続けている。


 「うわあああああああああ!」

 「グリン!落ち着いて」

 「うわあああああああああ!」

 「これじゃあ埒が明かないわね~ネム、捕まえてきて~」

 「コクコク...」


頷いたネムはグリンを引きずりながら連れて戻り泣いて嫌がるグリンの体を元に戻した。グリンの体を元に戻している時****は遺体の様子を確認した。


 「この遺体笑ってる。苦しみや痛みどころかなぜだろう...とても幸せそうに見える。なんでなんだろう」

 「そうね~調べてみないとなんても言えないわね~」

 「コクコク...ガシ!」


会話をしながら逃げないようにグリンを捕まえている二人に感心した。


 「とりあえず探しに行くよ...証拠とか」

 「先に行っててくれる?グリンが逃げないようにするから」

 「...分かった。先に言ってるよ」

そう言って先に調べに行こうとしたがグリンに足を掴まれた。

 「お願いだよ~僕も、僕も連れてって~」

 「あなたは先にやることがあるでしょ!大人しくしなさい!」

 「ああああああああああ...カーナが怒った」

 「埒が明かない...じゃあねグリン」

 「置いてかないで~あああああああああああああ~」


グリンを無視して先へ急ぐことにした。車掌のことが気になったが車掌は現在休んでいる。廊下で車掌室の前を通り声をかけるべきか悩んだ。しかし疲れている車掌に声をかけるのもどうかと思ったがドアが少し開いていた。すきま風で合いたようだが暗くて中は見えなかった。気になり入ろうとも考えたが体が抵抗した。もしこの中に入ってしまえばもう戻ってこれない気がしてやめて代わりに声をかけた。


 「具合はどうかわからないけどゆっくり休んで...これから乗客の前世を明かすために調べようと思うんだ。列車がちょうど止まったから..ゆっくり休めたら気晴らしにきてほしい」


と言い車掌室を後にした。その言葉をドア越しに聞いていた車掌は立ち去る影を見守るしかなかった。


 「ここでドアを開いてくれれば良かったのになんて...思ってもいけないことを考えてしまった。もう少し...休もう。体がまだ怠い...この怠さが治るまで...」


車掌はため息をついた後にそう呟いて目を閉じた。


 乗客の前世について調べるためにロビーに向かった。前世と肝心の乗客を探すことにしたのだが...


 「なんじゃこりゃ!なんでロビーがこんなに散らかってるんだ?」


見知らぬ物がロビーに大量に置いてありよく見るとそれは人形だった。


 「人形?どうしてここに...」


ロビーに合ったものは全て人形だった。これは乗客の物なのだろうかと考えていた時に奥の方でコソコソと音が聞こえてきた。近づいてみると一つの人形が動いていて思わず叫んだ。


 「人、人形が動いてる!」

 「凄いでしょう?」

 「しゃ、喋った!!」


突然人形がこちらを向いたかと思えば喋り出した。あまりの衝撃に固まり動けずにいると人形が笑い出し後ろから人が出てきた。


 「すみません...あなたのリアクションが面白くて少しからかってしまいました」

 「もう驚かせないでくださいよ!本当に人形が喋ったのかと思いました」

 「それは申し訳ないですね」

 「ところでどうしてここに?」

 「それが私もよく分からなくて...ロビーに来てみれば大量の人形があったので面白可笑しく動かしてみたくなったのです」

 「成程...それでここにいたんですね」

 「はい。私は前世というものは分かりませんが出来ることなら協力させてください」

 「助かります」


彼は優しい好印象のイメージの男性で、服装は人形師のようだった。そのせいかどこか人形に詳しそうな雰囲気を醸し出していたが****は気づきことが出来なかった。この乗客の異常性に..この乗客は生きた人間を人形にする人形師であることに..


 「服装や大量な人形からして私は人形師でしょうか?」

 「何とも言えませんがその格好からしてそうなんじゃないかと思います」


人形を眺めていた時にカーナたちもロビーにやってきた。乗客は人形師の可能性があることや人形のことをカーナたちに説明した。カーナたちはよほど人形を気に入ったのか人形をもっと見て見たいと駄々をこねた。人形はもうないと思っていたが乗客の部屋にもあるらしくカーナたちとともに乗客の部屋へ向かった。部屋の中にはロビーと同じように人形がどこもかしこも置かれていた。


 「人形なんて凄いわね~これ、見てもいいかしら?」

 「いいんですか?ぜひ、どうぞ」

 「凄い!これかっこいい」

 「キラキラ...」


ネムとグリンは目を輝かせながら人形を見ており、カーナもアンティーク人形を見て感心している。


 「凄いわね~こんなに人形があるなんてやっぱりあなたは凄いわね~」

 「いえいえ、それほどでもないですよ」

 「でも一つ一つの人形が良くできてるし完成度が高い。しかもよく見るとまるで本物みたいだ。なんて言うか...人形が生きているみたいに見える」

 「もしかして~本当に生きている人形だったりして~」

 「こら、グリン。先ほどからすみません...生きている人形なんて言ってしまって」

 「いえいえ..それほどまでに素晴らしい人形ということでしょう!気にしないでください。誉め言葉ですから...ですがこの人形を見てください」


乗客は人形を見せるが人形は身動き一つ立てなかった。


 「そんなことないですよ。誉め言葉ですが動かない人形が動くには恐ろしい事ですよ。見てください...ほら、動かないでしょう」

 「よく考えれば動いたら怖いもんね~」

 「そうね~他にはどんな人形があるのかしら?」

 「それはですね!」

 「...!」

 「ネム?どうしたの」


ネムは乗客が見せた人形を見ていたが何かに気づいたろう。乗客の腕を突然掴んだ。


 「ガシ!コクコク...」

 「ネム?」


ネムに掴まれた乗客は何事かと思い指を指された所へ振り向いた。そこには血文字でkeepoutと書かれていた。


 「あの...これは何ですか?」

 「これは血文字かしら?赤く書かれて...」


カーナがその場所に触ろうとした時突然乗客が叫んだ。


 「それに触るな!」

 「「「「!!!!」」」」

 「すみません...急に大きい声を出してしまって...えっとそれに触れないでもらえませんか?」

 「ご、ごめんなさい」

 「いえ...」

 「あそこには一体何があるんだろう」


様子が急変した乗客に動揺したが直ぐに優しい雰囲気に戻った。触るなと言ったあの場所が気になったがその場所は結局調べることが出来なかった。乗客と共に別の場所を探す事になり全員で部屋を出た。ドアが閉まる時にドア越しに血文字【HELP!heisdevil!】が刻まれていたが誰もそれに気づかなかった。それを見た乗客は一瞬笑みがこぼれた。


 「他の場所を探してみたほうがいいのかもしれない」

 「それがいいですね」

 「それなんだけど、ごめんね」

 「ごめんなさい。私とグリンは一度仕事に戻るわ。仕込みを終えたらまた手伝うから」

 「そうなんですかご苦労様です」

 「何かあればネムがいてくれるから三人でお願いね」

 「コクコク...」

 「それじゃあいったんロビーに戻りますか」

 「そうですね。何か変わっているかもしれませんし」


 カーナとグリンは仕事に戻り三人はロビーにやってきたが何も変化はなかった。


 「探すとしても何を探しますか?」

 「ロビーに来てみたけど変化なしか...」

 「そのようですね」

 「...サッ!コクコク...」


乗客たちは気づかなかったがネムは床に何かのメモが落ちていることに気が付いた。そのメモには血文字で重要なことが書かれていたが一部を見ることが出来なかった。あの人形師に何かあると感じたネムはこっそり観察することにした。

【やつに関わるな!関わればその場で殺される。やつは人を*****人形師だ!】

と、メモに書かれていた。



 「...何やら厄介に人が来たものですね。人形師ですか...どうやらこの列車に来る乗客何やら怪しい人など碌な人がいないですね。そうは思いませんか?」

 「怪しいもそうだろ。どうするんだ?早くしないともまずいのはお前だぞ?」

 「そうですね..でも証拠がないと動けないのが痛い所ですよ」

 「まあ仕方ないか~!」

 「そのキャラ久しぶりに見ました..マジシャン」

 「だろ~!またやってやろうか~?」

 「イラっ...帰れ!」

 「やだ~帰らない~!」

 「イラっ..全く!」

 「それに~酷いな~急病人の見舞いに来てあげてるっていうのに~!」

 「余計に悪くなるわ!帰れ!だいだい...急病人のベットを占領して寝てるやつに言われたくない!」

 「へへへ~いいだろう!」

 「イラっ...元気になったら覚えとけよ...」

 「そりゃ~恐ろしいね。まあそれはおいといて...ねえ悪魔って知ってる?」

 「...そういうのはお前がよく知ってるだろう」

 「まあそうなんだけどさ~たまにいるんだよね~。本物のあくまではないけど潜んでいる悪魔がさ~」

 「本当悪魔はその人に住む心じゃないか?」

 「へー珍しくいい事言うね!」

 「イラっ...黙ってろ!」


そう悪魔は案外身近にいるものだ。例えばこんな風に..


 「なんであの串刺しにされた女性もそうだけど乗客の死んだ時の再現する遺体が出てこないのが不思議だ。それにあの乗客について何も出てこない。人形師であること以外何も知らない。本当にただの人形師なのかな..」


探しながらずっと気になっていた。ネムと一緒に探しているのに何も無く何も見つからなかった。こんなこと初めてで困りどうしようかと思った時ある一つの物が頭を過る。あそこを調べれば何かが出てくるかもしれないが止められてしまったし、現に彼はここにいる。もしも大事な物なら後で謝り、前世が分かるならいいのではないかと思いトイレに行くふりをして調べることにした。


 「何もありませんね...」

 「そうですね。あの...トイレに行ってきてもいいですか?」

 「どうぞ!私たちは大方調べたのでカーナさんのバーへ向かいます」

 「はい、ありがとうございます」


お辞儀をした後何食わぬ顔で部屋を出てから一目散に乗客の部屋まで向かった。


 「...まずいな」

 何かを感じ取ったマジシャンは暗い顔をした。

 「どうしたんだ?」

 「ねえ?車掌、この世で人間が堕ちやすいものって何だと思う」

 「それはなんだ?欲望とか、金とか、性欲とかの話か?」

 「ぷ、あははははは!」

 「おい笑うな!俺は何もおかしなこと言ってないぞ!」

 「だって...君が性欲って面白いし興奮する...あははははは」

 「イラっ...答えは何だよ。合ってるのか?」

 「違う違うそれはね~好奇心だよ!だってこういうでしょ?好奇心は人を殺すってさ」

 「それってどういう意味だ?」

 「知らなくていいよ~車掌はお子ちゃまだから~」

 「イラっ...おい!俺のどこがお子ちゃまだ!」

 「そこだよ~全く****の前だと大人しいのにね~」


だからね...決してしてはいけないよ。例えどんなに気になったとしても他人にやめろと言われたらそれを振り切って他人の秘密を知ってはいけない。なぜなら待っているのは破滅だけだから...



乗客の部屋にやってきた****は中に入りそれを見て鳥肌が立った。


 「よし開けるぞ」

 「な、なにこれ...!!」


****が驚いていた時、キィイイイ...と扉がゆっくり開いた。


 「え、ドアが開いて..」


恐る恐る後ろを振り向いた。立っていたのは...



 カランと音がして扉が開きカーナは顔を上げるとネムがバーに入ってきた。


 「あら?ネム一人、珍しいわね」

 「!!フルフル..」


ネムは首を振るがバーにいるのはネムだけで乗客はいなかった。ネムに乗客について聞かれたが乗客はバーには来ていない。共にバーに向かったはずが気づけばいなくなってしまったのだ。カーナに訳を話したが首を振られた。


 「なるほどね~でもここにいるのはあなただけよ。乗客なんて来てないわ」

 「!!」


ネムは事の重大さに気づき急いで車掌室に向かった。


 「え、ドアが開いて..」


 恐る恐る後ろを振り向いた。立っていたのは...乗客だった。


 「ああ~だから見るなって言ったのに...見ちゃったね~その中身...僕が剝製にした人形なんだ。トイレで遅いと思って来てみたらこんなことをしてくれてさ~気づいていなかったでしょう?僕が証拠を全て回収してたってこと」


そういいながら目の前で証拠を次々に落とされる。


 「さて~まだ確証はなかったんだけど...証拠を見て分かったよ。僕は人を生きたまま 人形にする人形師だってね!」


と、言った彼は不気味に微笑んだ。


 「何でこんなことを!人を生きたまま人形にするなんて」

 「君はこの芸術が分からないかな?僕は魅了されたのさ~人形に!精巧かつ傑作のあの素晴らしい作品にね!僕も作ろうと思ったんだよ」

 「いかれてる...」

 「酷い言い方だな。僕は魅了され人形に恋をしたのさ!」


乗客は側にある人形を掴みながら語った。


 「見てごらんよ!綺麗で穢れの知らない白い肌、健気で優しい瞳、繊細で気品のある艶やかな髪!素晴らしいだろう!よく言うじゃないか...恋は人を狂わせると。いい言葉だ!そうは思わないかい?」


いかれている...この乗客がここまで異常だと思いもしなかった。


 「狂ってる...何故そこまでしてあなたは人形にこだわるの?なぜそこまで魅了されたの!」

 「なら、教えてあげるよ。僕が人形と出会えた奇跡の話を」


乗客は人形の髪を触りながら話し始めた。


 **

 僕は今まではしがない人形師だった。しかしある時、魅力的な女性と出会うことが出来た。彼女は清く正しくて人形のように美しかった。そんな彼女に惹かれていった。


 「すみません、少しいいかしら?」

 「はい!どちらになさいますか?」


繊細で美しい彼女を好きになった。彼女とはそれっきりだったが彼女のことが忘れられなくなったんだ。そこで僕はあることに思いついたんだ。

【彼女のような素晴らしい人形を作ろう】と...しかし作っても作っても上手くいかなかった。そして僕は気づいたんだ。それは...


 「ちょっと待って...まさか」

 「そう!そのまさかだよ!僕は彼女を人形にすればいいと気づいたんだ!」


そこからはとても早かったよ。僕は彼女のことを徹底的に調べたんだ。そして...彼女のことを呼び出した。


 「あの...どなたですか?私をここに呼び出したのは?」


呼び出したのは古びて人里離れた小屋だった。女性は周りを見回すと何かが壁によっかかっていた。


 「あの...大丈夫ですか...!!に、人形!!」


軽く触れるとそれは倒れた。女性は心配になり声をかけたが返事はなくよく見るとそれは人形だった。


 「なんで...人形が...!!」


女性は小屋の中を見ると失敗した人形がたくさん置いてあった。


 「まさか...私を呼び出したのは...」


女性は何かに気づき不安になり立ち去ろうとした。その時、近くの箱にぶつかり箱が落ちると中から女性の写真が大量に出てきた。


 「ひぃ!ど、どうして...こんなのおかしい!早く出ないと!」


女性が慌てて小屋から出ようとした時、ドアが開いて人形師が入ってきた。


 「どこへ行くんですか?」

 「私は帰ります」


帰ろうとした女性の腕を掴んだ。女性は抵抗したがビクともしない。


 「離してください!」

 「それは無理ですね」

 「ど、どうして...ですか?」

 「なぜなら...今からあなたは生まれ変わるからです」

 「生まれ...変わる?」

 「そうです。生きたまま人形にね」

 「!!」


女性は怖くなりなんとか逃げ出そうとしたがドアは鍵が掛けられて逃げられなかった。抵抗する女性の足を引きずり人形師は椅子に座らせた。


 「さあ!生まれ変わる準備はいいですか?」

 「いや...人形になんてなりたくない!やめて...いやああああああああああああああ」


女性は泣き叫び抵抗したが抵抗むなしく人形師によって生きたまま剥製の人形にされてしまった。


 「なんて美しいんだ!素晴らしい...今までの人形よりも、最高傑作だ!」


人形師は喜んだ。生きたまま人形にされた女性の人形は瞳には一筋の雫が流れていた。それは女性が流した涙かそれとも古びた小屋の雨漏りかは定かではない...そこにいるのは狂った人形師のみであった。


 「これからも生きた人間を人形にしていこう!」


そして...それから多くの人間を生きたまま人形にして作ってきた。

**


 「これが僕の人形に魅了された答えさ!」

 「狂ってる...あなたはとことん狂ってる」

 「酷いな~でもそうかもしれないね。自分も生きたまま剥製にしたし~」

 「自分も生きたまま...剥製...に...」

 「僕は彼女たちと一緒になりたかったんだ~!そうそういいこと教えてあげる。ここにある人形は全て生きたまま人形にした子達なんだよ!」

 「なっ!これ全部...」


乗客にそう言われて思わず辺りを見回した。ここにある大量の人形は全て

いきたまま殺された人たち...生きていた人間...そう言われて鳥肌が止まらない。


 「特に~君たちが美しいと言ったのが最初に人形にした彼女で僕はとても嬉しかったよ!」

 「そ、そんな...」

 「そんな顔をしないでよ~!彼女は素晴らしいよね?君の後ろにあるその双子の人形があるだろう?」


乗客に言われて振り向くと確かに幼い双子の人形があった。年齢からして5,6歳前後...こんな子供まで手にかけるなんて...


 「その双子にも同じことを言ったんだ。そしたら片方は君と同じように僕を否定したよ。もう片方は泣いて喚いてたな~...でも彼女を見せたら急に震えだして大人しくなったんだ」

 「彼女って...まさか!」

 「君の想像通りだよ。剥製にした彼女...双子から見たら母親か?彼女を見せたら大人しくなって剥製もやりやすかったよ。最後の最後まで僕を否定した方は僕を睨みながら死んでいったな~」

 「......」


この男は狂っているだけじゃない...こいつは...ただの...悪魔だ。人の命を何とも思っていない。多くの人を人形にして幼い双子まで殺して...自分まで剥製にするなんて...一体どうしたら...乗客は目の前にいる。助けを呼ぶにもカーナたちは大丈夫なのだろうか。考えても分からない。この状況はまずい...


 「でも君に知られちゃったし」

 「なら生きたまま人形にする?」

 「いや?君はしないよ。少し眠ってもらう。この列車の乗組員は珍しくて、さぞいい人形になるんだろうね~」

 「そんなこと...させない!」


急いでドアを開けて部屋から出ようとした時だった。突然激しい電流が流れ耐えきれず倒れた。


 「君は馬鹿なのかな~?僕の前世を知っている君をみすみす逃がすと思う?ごめんごめん~このドアは改良してあるから僕が明けないと電流が流れる仕組みなんだ~」

 「う...うう...」

 「だからあの時は焦ったよ。僕が明けたからよかったけど~君たちが明けたらどうなっていただろうね~?」

 「もしも...あの時あなたじゃなく、カーナたちが触れていればその場でカーナたちを人形に..」

 「ご名答!正解だよ~」


目の前で乗客が通りすぎ止めようとしたが体が動かない。


 「ま、待って...」

 「それじゃあね!君が目を覚ます頃にはすべてが終わってるころさ...ここに乗組員たちの人形が置いてあるだろうね~...向かうべきはまずバーかな?カーナさんなら彼女のようにいい人形になってくれるだろうね~」


そう言うと部屋に鍵をかけてカーナのいるバーへ向かった。


 「か、カーナ...」


意識が途切れながらドアに向かい手を伸ばす。しかしギリギリで気を失った。失う瞬間誰かの声がしたがそれは一体誰だったんだろう?


 「全く...世話が焼けるね」


なんだろう...この人みたことがあるような気がする。意識を失う前にその影をぼんやりと見た。


 「ったく!なんでこんなことしなくちゃならないんだよ~全く!」


愚痴を言う堕天使にマジシャンは糸を喉元へ突き付ける。


 「ならまたあの牢獄に今すぐぶち込んで戻してやってもいいんだぞ」

 「よ、喜んでやらせていただきま~す!それで~誰を堕天させるの?」

 「何言ってるんだ?俺は別に堕天させろって言ってないぞ」

 「え?じゃあ何をするのさー」

 「お前なりのやり方でいいだろ?すきにしろ」

 「でも彼一応乗客だしー僕がやらなくても-」

 「お前がそれをいうか?前の乗客には厄身にしたくせに何言ってんだよ」

 「うう..そう言われると耳が痛い」

 「あいつは地獄行きだ。俺が送ろうと車掌が送ろうとお前が殺そうと対して変わらない。それにクズっぷりはお前と同じだろ」

 「酷いな~!一緒にしないでよー僕はあいつみたいに生きた人間を人形にする趣味は無いの~」


と堕天使は首を横に振るがその言葉がマジシャンの逆鱗にふれた。マジシャンは糸をまた突きつけるとドス黒い声で言う。


 「ならお前は生きた罪のない人間を死に追い詰め追いやり、異形の一人を大罪にする趣味は無いんだろう」


マジシャンは堕天使を睨みつけ笑っていたがその笑みは微笑ましいものではなく生き物を塵と見るようば冷たい眼差しだった。堕天使もどうように笑っていたが互いに相手を蔑んでいた。


 「ほんと~悪趣味だよね~!いいよ、こっちも少し気がかりだしなにより...目ざわりで癪に障るんだよね」


堕天使は****を抱き上げて部屋で寝かせた。部屋を出ると堕天使の黒炎の翼を掴み息を吹きかけると辺り一面が霧に覆われた。


 「これでよし!」

 「なるほど...あの霧はそうなってたのか」

 「凄いでしょ!」

 「凄くないし褒めてない...じゃあ頼むぞ」

 「了解ー!さて..過去の憂さ晴らしと行きますか」


乗客は焦っていた。突然の霧によって辺りが良く見えずなかなかバーへたどり着く無かった。


 「なぜだ!おかしい...歩いても歩いてもどうして同じ景色なんだ!これじゃあひとつも人形を作れないじゃないか!」


乗客は焦りまた同じ道を進んでいた時、突然扉が開いた。中は薄暗かったがカーナがいた。バーに着いたと安堵した乗客はカーナに声をかけたが返事はない。これをチャンスと思った乗客は痺れ薬を投与し倒れたカーナを生きたまま人形にした。


 「あはははははは!遂にやった!異形を生きたまま人形にできたんだ」

 「ねえ?なにがそんなに嬉しいの?僕にも教えてよ」

 「なっ!誰だ」


カーナを人形にしたことを喜んでいた乗客は見知らぬ声に驚き周囲を見回したが誰もいない。気のせいだと思ったが後ろから堕天使が現れた。


 「一体どこから!」

 「何言ってるの?ずっとここにいたよ?ねえ?何してるの?」

 「...」

 「??」


突然現れた堕天使に動揺したが乗客は堕天使も人形にしようと考え無防備な堕天使に痺れ薬を打ち込んだ。


 「な、何を」

 「痺れ薬さ!これで生きたまま人形になるんだ。君も馬鹿な奴だ、自分からなりに来るなんて」


倒れた堕天使を押し倒しそのまま人形にした。満足した乗客は立ちそろうとしたが人形なったはずの堕天使が突然起き上がり乗客の腕を掴んだ。


 「ねえ...待ってよ。僕はまだ何をしてるのかおしえてもらっていないし...生きたまま人形になってないけど?」

 「な、なぜだ!人形にしたはずなのにどうして動ける!なぜ生きたまま人形にならない!」

 「だって...僕人間じゃないしーそんな薬が効くと本気で思っていたのー?そんなもの効くわけがないじゃんー」

 「じゃあ...僕が人形にしたのは?」

 「ああーこれ?君が人形にしたのもほら」


堕天使が指を鳴らすとカーナが消えた。


 「これは...ま、幻!」

 「そう!僕が作ったんだー本当は本物の彼女でよかったんだけどーそうするとマジシャンが怒るから...僕が作った霧で偽物を作っておいたんだーどう?本物みたいだったでしょ?でもさー楽しーい?生きたまま人形にするのって?」

 「ああそうさ!楽しいぞ」

 「へーそんなに楽しいんだ。なら僕にしたくなっちゃったな~人を生きたまま人形に人形にするの...君がで試そうかな」

 「え...」

 「気づいてないの?君は最初から既にもう生きたまま人形になってたんだよ」


堕天使が霧を解いて乗客に指を指した瞬間乗客は生きたまま人形になった。


 「な、なんだこれ...」

 「それが生きたまま人形になる感覚だよ」

 「嫌だ!死にたくない...生きたまま人形になりたくない」


と言った乗客を堕天使は嘲笑った。


 「おかしいねー君。以前自分も剝製にしたくせに...そう言えば君はそう言って助けを求めた人間たちをどうしたんだっけ?何人そう言った人間たちを人形にしたのかなー」

 「そんな...うぐ...あがっ...あああああああああああああああああああ」

 「自業自得だねー!まあもう死んでるから関係ないかー」


堕天使は動かなくなった乗客にそういうと息を吹きかけた。すると乗客は消えてなくなり、足元には桐谷創きりえそうという名刺が落ちていた。乗客がいなくなったことで列車が動き出した。


 「よくやった。今回は見逃してやる」

 「地獄の門番さんがこんなことしていいの?」

 「言っただろ?今回はってな!俺は何も見ていないしお前は何もしていない。それでいいだろう?」

 「まあいいけどさー!だからあらかじめに乗組員たちを別の部屋下待機させたんだね。僕を使うことが彼らに見られないようにするために。あと彼らを守るために」

 「分かったならさっさといけ!」

 「おおー怖い!ハイハイーじゃあ行くよ。車掌によろしくね」


と、堕天使は言い残し消えた。


 「この列車で死ねばその人は地獄や天国にもいかずその存在自体が消えたことになる。あの乗客は我々の記憶では存在するが生きていた現世ではもう...」


車掌はそう呟くと車掌室から出て歩き出し、乗客の部屋を少し見つめたがとバーへ向かった。列車はまだ止まりそうもない。


『八章 恋は人を狂わせる』(終)NEXT→ 『本は真実のみ語る』

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