七章 異世界の異変
七章_異世界の異変
「ねえ?なにしてるの?」
「何もしていない。ただここにいるだけだ。ここで一人..湖に映る景色を見るのが好きなんだ。ただ...それだけだ。君は?」
「道に迷っちゃって...あなたは?」
「逃げ出してきたんだ。何もかも嫌になって...そんな時にここへ来るんだ」
「そうなの?なら私に話して」
「なんで初対面のお前に話せなくちゃならないんだ?」
「ならこうしようよ!手を出して?」
「手を?出したけど何をするんだ」
「こうするの!」
「??...なんで手を握ったんだ?」
「知らないの!?まあ見てて...はい!これで私とあなたはお友達~ね!」
「友達?なんだそれは?」
「友達はねすごいんだよ。一緒に遊んだり話したりするのが友達なんだ。だから私とあなたはお友達!だから話してあなたのことを」
「友達...分かったよ」
それはたわいもない時間だった。時の流れを忘れて_いつの間にか朝日ではなく空は夕立が昇っていた。
「まずいな夕日が登りあたりが暗くなる。もうこんなに遅い。近くまで送ってやるからついてこい」
「送ってくれるの?ありがとう!」
「なんか調子狂うな...」
戸惑いながら案内すること数分。村の近くに付き再び声を掛けた。
「着いたぞ。ここまでくれば大丈夫だろう」
「ありがとう!送ってくれて」
「別にいい...この先に進めば村に着く。さあ行けよ。もう遅くなるぞ」
少女は頷くと村に向かって走り出した。少女の後姿を見ていると立ち止りこちらに向かって走ってきた。
「どうした。帰るじゃなかったのか?」
「思いだしたの。大切なことを聞くのを忘れてた!」
「大切なこと?」
「そうなの。」
少女はそう言うとこちらに向き合った。大切な事とは一体なんなのだろうか。少女の意図が分からず少女を見る。大切なことは何かと身構えていたがそれは以外なもので内心拍子抜けた。
「ねえ?あなたの名前は?」
「え、名前?」
「そう。あなたの名前を教えて!」
「.....」
「何で黙るの!」
「いや...名前なんて聞かれると思わなくて...俺の名前は****だ」
「いい名前ね。私の名前は****だよ。また来るね約束だよ~****」
「ああ気をつけて帰ろよ」
少女は嬉しそうに手を振ると村まで帰っていった。少女の後ろ姿が見えなくなるまで見続けた。
「また会おうなんて約束したの...初めてだ」
約束などしたことがなく不思議な気持ちに包まれながら****は森へ入っていった。
「...車...車..掌...車掌...車掌!」
「!!」
誰かに呼ばれている気がする。大声で名前を呼ばれて目が覚めた。
「車掌...大丈夫?」
「すみません。どうやらいつのまにか寝ていたようで...寝ていて話を聞いていませんでした」
私がそう言うとあなたは笑った。貴方は心配そうにしていたがいつものように軽く誤魔化した。これは誰にも知られてはいけない記憶。カーナ達乗組員ましてや貴方には絶対に...
「大丈夫です。ただ少し...昔を思い出していただけですから」
「そう?ならいいけど」
しかし...なぜ思い出す。もう封印したはずの忌まわしい古い記憶が。あなたを遠目から見ると魂が不安定になりどんどん壊れかけている。もう無理なのかもしれない。今回しかないだろう。壊れていく魂を見ると以前マジシャンに言われた言葉が頭の強く過った。
「忠告だ!これ以上続けると遅かれ早かれ魂に異常をきたす。早く伝えて辞めるんだ。それに魂は薄っすらとだが記憶は覚えている。お前のことを拒絶してもおかしくないんだ。いい加減覚悟を決めろ」
マジシャンの言葉通りこのままでは...でも私には覚悟がない。今もこうしているうちに恐怖でどうにかなりそうだった。私はその気持ちを隠すように帽子を深く被り平然と歩きだした。
一方地獄ではある異変が起きていた。マジシャンと閻魔は地獄の処理に追われていた。地獄で発生した侵食と言われる毒素が地獄を蝕んでいたからだ。
「まずいな...これはもしかしたら...此処も侵食してきている」
マジシャンは糸で侵食を切り落としため息をついた。この侵食と言われる毒素が地獄で発生するケースは珍しい。マジシャンは一度閻魔と連絡を取った。
「閻魔聞こえるか?俺だ...この侵食普通じゃない。どうする?」
「とりあえず今は抑えている状況だ。引き続き抑えるべきだろうな...原因は分かるか?」
「分からない..今は調べているがこれほどの侵食だ。何かが起きそうな気がする。嫌なことが起きなきゃいいが」
「...侵食が地獄に起こる時..さらなる厄災が降りかかるだろう..か。そうならないと良いが」
「そうだな。今調べてはいる」
「そうかなら良い。ワシは戻りこの侵食を止めておく。後はと頼むぞ」
「ああ。了解した」
直ぐ閻魔によって侵食は抑えられマジシャンは一息ついた。侵食が起きたが言い伝えのように厄災が起こらず車掌たちが無事に前世を解明できれば良いが...
「ちゃんと仕事をしろ車掌。でないとあの子はこのままだと...地獄に落ちるぞ」
マジシャンはそう呟いた時ある異変に気付いた。閻魔に連絡を取る前に異変が起きた場所へ向かう。そこは大罪を犯し地獄で罪を償うに値しない者が送られる墓場と言われている地獄の牢獄。そこを守る小悪魔たちが倒れていた。
「おい、しっかりしろ!何があった」
「やつが...危機に収容していたあいつが脱走しました」
「それって...まさか!」
マジシャンは収容している牢獄の一つを確認すると拘束している手錠や足枷が破壊されていた。ここに収容していた大罪人は最も危険とされ厳重に収容されていたはずだった。先ほどの侵食による騒ぎに応じて逃げたのだ。マジシャンはすぐさま閻魔に連絡を入れ糸を使って足取りを追うとその行先は幽霊列車だった。
「まずい。あいつが向かっているのは幽霊列車だ。急いでいかないと大変なことに...最悪殺される。あいつの狙いはおそらく...車掌だ」
マジシャンは地獄から幽霊列車に向かった。
同時刻_ある人物はは飛び遠くから幽霊列車を見つめていた。片手片足には引きちぎった手錠が付き手首からは少量の血が垂れている。双翼の翼は黒く染まりかつてあったはずの天使のわっかは無残にもない。外から様子を目的の人物を見つけ不敵に笑うと幽霊列車に向っていった。
「見つけた...****」
車掌は廊下を歩いていたが誰かに呼ばれている気がして立ち止り辺りを見回した。誰もおらず気のせいだと思い車掌はまた歩きだした。数分後激しい風が吹き裏口のドアが開いた。音に気づいたグリンが駆けつけてドアを閉めた。
「あれ?大きな音がしたような...もしかしてどこか開いてる?」
「やっぱり開いてる。締めとこう~と!あれ?今なんかいたような...気のせいかな。料理長室にいこう~と」
窓が汚れていて汚れを落としグリンは料理長室へ戻るとその人物は姿を見せた。
「危なかった...バレるかと思ったけどバレなくてよかった。さあて~ここが幽霊列車の中なんだね...という事はあいつもいるのかな?まああいいや。用があるのは****だから。さて...始めようか」
指を鳴らすと黒い霧が当たりを包みこんでいく。ここまで上手くいくなんて今日は付いている。地獄で発生した浸食のおかげで監獄を脱出できただけでなく幽霊列車に忍び込めるなんて。余韻に浸りながら列車内を歩いていると二人の人間がやってきた。前世を明らかにする乗客ともう一人。もう一人の姿を見て今日は本当に付いていると確信した。
「****を探そうか。一体どこに...」
「..ならここを探し..て..誰?」
「お前は...あの時の...」
****を奪った最も嫌いな人間と再会するなんて思いもせず笑いが抑えられない。
「僕はなんて...幸運何だろう。二度もお前に会えるなんて」
「あの...なに..痛!」
「黙れ!」
驚いた様子でこちらを見る。どうやら僕のことは覚えていないようだ。その事実にこいつに対する怒りが湧きあげてくる。気づけばこいつの首を掴んで首を絞めていた。抵抗して腕に爪が食い込だ。僕はむかついて腕を離す。掴み宙に浮いていたそいつを床に下すとせき込みこちらを睨んでいた。
「ざまあないな~あの時と同じだな」
そいつの髪を掴んだが意識が飛びかけていてほとんど聞いていなかった。掴んだ髪を下すとそいつは意識を失った。一度踏みつけて嘲笑うと黒い霧が廊下を包み込み乗客は気を失った。霧に当てられたこいつは意識を失いながら震えていた。その様子を見て笑みがこぼれた時だった。突然後ろからドアが開き誰かが駆け寄ってきた。その人物は焦りこいつの名前を呼び僕を見て驚きが隠せなかった。僕は追い打ちをかけるように彼の名前を呼んで微笑んだ。
「やあ~!こんにちは****。ああそうか!今は車掌なんだっけ~?久しぶりに会いに来たよ...親友」
嫌な予感がした。当たらねばいいと思っていたが嫌な予感に限って的中してしまう。列車内の光景を見た時あり得ない状況に驚愕し同時に戦慄した。夢であって欲しいと願うが目の前の光景は決して夢ではない。目の前にいる人物に話しかけられ夢ではないと突き付けられた。
「やあ~!こんにちは****。ああそうか!今は車掌なんだっけ~?久しぶりに会いに来たよ...親友」
と言い目の前で微笑む彼の笑顔はほほえみではなく嘲笑っているように見えた。彼の笑みから目線を外すと彼に踏まれている人物に目が行った。
「その子を離せ!その足をどけろ。ここは前世を明かし死後の道見定める場所だ。お前が立ち入っていい場所じゃないんだ!今すぐ出ていけ」
「ええ~~~。」
「...」
「もう~そんなに怒らないでよ~あの時以来なんだからさ~。ねえ?親友」
なぜここにかれがいる。...目の前にいるはずのない招かれざる乗客に車掌は驚きを隠せなかった。彼_堕天使を。 事の始まりは車掌と堕天使が再開する数時間前に遡る。
車掌と堕天使が再開する数時間前_車掌は乗客の前世を解明するため動いていた。
何度繰り返したのだろう...その数は数えきれないほどだった。やり直しもいつかは効かなくなってしまう。例の件...あの扉が開く前に終わらせなければならない。なぜこの列車ができたのか、その意味も無くなってしまう前に...焦っても仕方ない。この仕事をやり通すまでだ。始点に乗客がやってくる。貴方と共に...乗客を案内する。
「皆さん長旅お疲れでした」
説明するのも乗客たちに話すのも内心疲れる。耐えられるのは...あなたがいるからでした。なんとしても今回は必ずやり遂げようとしても思いとは裏腹に終点になると失敗する。必ずやり遂げると決めていたのに...
「もう失敗はしない..今回こそ必ず成功させる」
と誓った。列車はまだ止まらない。止まればまた事件が起きて、解決してやがて終点に...この時はそう思っていた。しかし終点になった時悲劇が起きるとは思わなかった。数分後_列車は止まりアナウンスが流れた。
『大倉~大倉~列車が止まりま~す』
この列車が止まると殺人事件が起きる。だが本当に殺されるわけではなく魂を借りているだけだ。今回も以前のようにあなたに声をかけた。ただイレギュラーだったのは私のことを微かに覚えていることだった。なら_今回にかけてみよう。この終点に。悲鳴が上がり乗客の一人とあなた以外は皆眠りについた。この列車や乗客のことを説明するとあなたは納得した。
「今回は大倉さんですか」
「なら解明しないといけないですね。手伝うとしても何をしたらいいですか?」
「そうですね。まずは現れた遺体から調べてみましょう」
「分かりました。それにしてもこのロビーに現われた遺体は酷い」
「そうですね...乗客の死後に関係する遺体ですから。場合によっては目視出来ないほどの遺体があります」
「そ.そうなんですね」
「まあ今回はまだましな方です。ちなみに遺体が現れるのはランダムなんです。なのでバーや料理長室にも現れる可能性があるのですよ。そこにも証拠があるので探してください」
「ランダムなんだ。調べるにしても遺体を見るなんて気分が悪い...乗客のあなたは大丈夫ですか?」
「い、いや...ただ...これは...夢だと思っている」
「夢って...大丈夫ですか?顔真っ青ですよ」
「だだだ大丈夫だ!」
「大丈夫か...?」
「そうですね...この調子ですと彼もしかしたら..」
「もしかしたら?」
「二人を見て気絶するかもしれません」
「二人???」
私が言ったことが分からないあなたは首を傾げた。現実逃避している乗客をつれてカーナさんのバーに向かった。カーナさん以外にグリンも居た。案の定二人を見た乗客は気を失った。
「もしもし~大丈夫?」
「ああ~目を覚ましたのね。良かったわ~」
「具合はどうで..」
「く、首があ、あ、あ、あ、あ、あ、もう...ダメ...」
「あ、また気を失った...大丈夫ですか?」
「起きないですね...」
首が取れた状態でグリンが振り向いたのでそれを見た乗客はまた気を失った。私とあなたがしゃがんで乗客の頬をつついたが顔は見えないので変化は分からずあまり意味ない気もした。乗客を再び寝かしてカーナさんから酒を貰い飲んでいると乗客は目を覚まし苦笑いをして気絶した。
「また気絶した!本当に大丈夫なのかなこの人...激しく倒れたけど」
「彼にはきつかったのでしょうか...」
「そんなに僕ら怖いかな~?」
「まあ、確かに死んだのに殺人事件が起こったり首が取れたゾンビや血を流して飲み物に変えて提供する私は...現実離れしているからかしら?おまけに彼、気絶しながら寝言言ってるわ~」
「これは夢だ...これは夢だ...これは現実じゃない...」
「本当だ...なんか悪夢にうなされている人に見える」
「しかし!彼が目を覚ました時それが変わることは無かった...アハハ~」
「グリン..笑い事じゃない気が」
「そうですね。どうしましょうか?彼を..あっ起きた」
乗客は目を覚まし辺りを見回すした。グリンの言ったように乗客は私たちに囲まれていることを理解し叫んだ。
「う、ううm...これは夢だ...きっと目を覚ませば...」
「どっどうも」
「おはようございます。よく眠れましたか?」
「...なんで変わってないんだ。クソッタレーー-----!!」
乗客は頭を抱えて悩んでいる様子で彼の前世を明らかにするにはまだまだ時間がかかりそうだ。現実逃避した彼は何とかこの状況を受け入れた。
「これは現実だ...現実...」
「現実という現実逃避をしていますね」
「大丈夫なのかな。無理もない気がするけど..取り上げず調べてみますか?」
あなたは乗客に声をかけて前世探しを始めた。二人がバーから出る様子を見て深いため息が出る。乗客たちを見るといつも思うことがある。人間とは罪深い生き物であるという事に。ここに来る者たちはまともな人間がいない。前世といえそれなりの理由で人は死ぬ...それがどんな理由かは関係ない事だがここに来る乗客たちのことを思うと思わず口がこぼれた。
「やはりまともな人間はいない。もはや彼もそうなのだろうか...」
「ダメよ~人を見かけで判断しちゃね~!考え事かしら?」
「...そうですね。カーナさん、貴方なら乗客の前世をどう見ますか?」
「どうもこうも分からないわ。私は飲み物を提供する妖夢だから」
「そうでしたね...」
「でも...そうね~アドバイスとしたらだけど私がなぜ彼らに飲み物を提供するのか分かるかしら?」
「それは...」
「仕事って言うのは無しよ。それは無し。それもあるけどそうじゃないわ。そうなると車掌だってそうでしょう?ただの仕事だけでこんなことをしているわけじゃない。私達にはそれぞれ目的がある。そのために互いに協力しているだけ...でしょ?」
「...そうですね。互いの目的のために私たちは協力しこうして集まった。全ては目的のためですから...」
「目的のため...ねえ」
カーナは深いため息を吐き飲んでいたグラスを手で軽く押した。退屈そうなカーナに対して車掌は真剣な表情でカーナを見た。
「退屈そうですね」
「ええ...退屈よ。所でさっきの答えを聞いていなかったのだけど..理由は分かりかしら?」
「さっきの答えですか?そうですね...カーナさん、あなたは選別しているのでしょう」
車掌に選別していると指摘されたカーナは分かりやすく驚いた。余裕そうな表情が一変し驚いた様子を見せたが直ぐにいつものように微笑みの表情を浮かべる。表情は驚く前と変わりないが面白いおもちゃを見つけた子供のように楽しそうだ。退屈さからではなく好奇心や興味から車掌の話しを聞いている。カーナは楽しそうに車掌に話しかけた。
「驚いたわ。まさかその答えが来るとは予想していなかったわ」
「そのわりには楽しそうですね」
「まあね~!さすが車掌ってことかしら」
「褒めていただいてありがとうございます」
「いいのよ。じゃあさっきの続き...選別っていうと?」
「分かりました。あくまで私の考えです」
車掌は酒を一飲みして深いため息をつき目を閉じた。目を閉じ再びため息をついてを開けて語りだした。
「あなたの血には乗客の前世の罪や行いから地獄か天国行きかと判別することが出来ます。あなたは自身の血を提供し飲ませることで判断することが可能です。カーナさんが提供した飲み物のグラスを持った時一瞬だけ色が変わりますよね?例えば...地獄は青で天国は黒色に変化します。私やグリンたちに入れたカクテルたちは無色でした。あなたが乗客に提供したカクテルを以前拝見した時一瞬でしたが色が変わりました。最初は見間違いだと思いましたが他の乗客にも同じことが起こり確信に変わりました」
「確信...面白いことを言うわね。それで...あなたは何が分かったのかしら?」
先程とは違いカーナの表情に笑みは無く辛辣な表情で車掌を見た。その笑みは冷酷で普通の人間なら背筋が凍り付いているだろう。しかし、ここ人間はいない。辛辣な表情を見せるカーナとは対象に冷静な表情を車掌は見せた。
「カーナさん、あなたは妖夢ですよね」
「そうよ。妖夢だけどそれと何が関係あるのかしら?」
「妖夢は本来、夢と人の記憶に詳しい特性をもっています。そのため、あなたは乗客たちの前世を解明する前から知っていたんですよ。」
「あなたの行う上での選別とは乗客の魂の行き先の確認ですね。本当に地獄か?天国か?乗客はどうして死んだのかを自身の血で確かめて確認したうえで我々に黙っている。例え乗客が地獄行きでも人を殺した殺人鬼でもはたまた善人や被害者であってもあなたは前世を解明するどころか手を貸したり差し伸べたりはしません。あなたはただ黙認している...違いますか?」
「黙認ね...嫌な言い方をするのね。確かにあなたの言う通り私はバーメイドよ?前世を解明するわけでないの。それが仕事でもない、しようとも思わないわ...残酷というならそうかも知れないわね」
「なら認めるんですね。あなたが選別をしていることを」
「そう思いたいならそう言うことにしておくわ~。でもね、車掌..その話だと意味が違ってくるんじゃない?あなたは選別と言ったけど話を聞くにそれは選別ではなく判別よ。それなら選別ではなく判別というのが正しいんじゃなくて?」
カーナの問いに車掌は間を開けた。その間車掌はカーナと目が合い数秒見つめ合った後目を反らして言った。
「私もはじめはそう思いました。あなたは判別をしていると。しかし...なぜか間違っていると感じたのです。これは判別ではなく別のものだと...そう思った瞬間、鳥肌が立ちましたよ。あなたには別の目的があるのではないかと...そう思っていた時でした。例の事件が起きたのは...」
「例の事件?」
例の事件とは、乗客の魂が抜かれていた事件のことだ。乗客の魂が抜かれたことはなく皆は騒然とした。魂が抜かれた乗客は直ぐに消え冥界送りとなった。魂が抜かれた乗客を目撃したのはグリン。グリンは声をかけたが反応は無く既に手遅れの状態だった。グリンが声をかけた時にカーナがいることに気が付きカーナにも声をかけた。その時のカーナは口元が血だらけでグリンが心配したものの怪我はしていなかった。車掌は駆けつけた時には乗客も冥界に行ってしまい何も分からなかった。
「カーナ、この件で聞きたいことがあります。以前一人の乗客が魂が抜けた状態で殺されていたのですが何か知りませんか?その乗客のカクテルは白いカクテルでしたが赤く染まりました。」
「赤く染まった...」
「それとこれは聞いた話しですがその乗客とあなたが話したのを最後に彼は殺されています。」
「車掌は私が彼を殺したと言いたいのかしら?」
「そうだと言ったらどうしますか?」
「......」
「それとずっとあなたに聞きたいことがあったんです...あなたはいつ食事をしましたか?」
「食事?」
「ずっと気になっていたのですよ。あなたはいつ食事をしているのだろうと。グリンに聞いてもあなたのことは知らないと言いていました。むしろ食べていないので心配していましたよ。それに...私が妖夢のことを知らないと思いましたか?」
車掌がそう言った時一瞬だがカーナの顔色が変わった。直ぐいつもも様子に戻っていたが車掌を伺っているようにも見える。
妖夢の食事は人の魂を食らうことを糧としている悪魔で一つの魂を食べると数百年は生きられると言われている。しかし妖夢は厄介な悪魔で暴食であるため多くの魂を食らう習性がある。そして妖夢は食べた魂の数に乗じて変化する。最上位の妖夢は刻印の入った角が生えると言われている。
「あなたは選別を通して乗客の魂を食べていますよね?」
「さあ~どうでしょうね」
「...まあいいです。この列車の中であなたが一番信用・信頼できませんから...」
「ええ~ひどいわ~」
車掌の言葉を軽く流して誤魔化すようにカーナは笑った。
しばらくバーでギスギスした空気が流れた。二人は無言で向き合っていたがカーナがため息をついて空気が変わった。
「もう~そんなに見たって何もでないわよ」
「えっそんなつもりじゃないんですが...」
「冗談よ。冗談~」
「あなたと話すと調子狂います」
「そんなことないでしょ~?それにあの子に感謝しないとね。私たちを作ってくれたくれたあの子にね?」
「...そうですね」
暗い顔をした車掌の頬をつつき弄った。カーナに弄られた車掌は対抗すると楽しそうにカーナは笑った。
「やめてください!」
「ごめんなさ。ついね~」
「もう!」
「もうしないわ。降参!」
「次やったらやり返しますよ」
「怖いわ~」
「絶対思ってない」
笑うカーナをに呆れた車掌は再び酒を飲んだ。カーナも傍にあるワインを飲むと車掌に言う。
「こんなことを言うのはがらじゃないけどいつまで続けるの?」
「時が来るまでです。まだ現れないその駅が現れるまで...」
「そう..」
「繰り返しを許していただいてありがとうございます」
「堅くならなくていいのよ。私たちも感謝しているから。あなたとあの子に...でもマジシャンの言う通りこのままいけばあの子は...」
「分かっています。しかし...これしか選択の余地がないんです」
「でもまあ~今はこの駅はあの子の駅ではないのだから安心して気楽にやって前世を解き明かしましょう」
そう言ったカーナは車掌の肩に手を置くといつもの酒を手渡した。
「はいこれ!いつもの必要でしょ」
「ありがとうございます」
「ねえ車掌。あの子との生きた記憶を留めておくのに必要な事とはいえ死神のあなたがこの酒薬を飲むのは良くないわ。知っていると思うけど妖夢の作る酒は死者には飲んでも何にも影響を出る事はなく娯楽として飲んだり楽しんだりすることが出来る。けど、特に畏敬の中でも死神は影響を受けやすい傾向にあるの。いくら死なないとはいってもこのままいけば消滅する危険さえある。あの子を助ける以前にあなたが死んでしまったら意味ないでしょ?そうなることは許さないから...それを言おうと思ったの」
「...」
「じゃあ...私は少し休むから貴方も頑張って!前世探し」
カーナはそう言い残しバーを出るとopenと掛けられた看板の向き変えcloseにした。看板を変えたカーナはバーを後にした。
「...分かりました。今度こそ...今度こそ終わらせます」
車掌は小さくそう呟いた。カーナに渡された酒薬を飲むと今まで飲みすぎて身体に毒を蓄積したせいか飲み始めた頃と比べて全身に激しい痛みを感じた。痛みでその場に蹲り痛みを必死に耐えた。
車掌が今まで飲んでいた酒はカーナが言った通り毒なのだ。このまま飲み続ければ更なる苦痛を味わいしまいには消滅さえしてしまう禁酒だ。車掌は早く乗客の前世を解明するためバーを後にした。
「ヒック...ヒック...」
だれかの泣き声が聞こえてくる。気になり声の方へいくと少女が泣いていた。
「どうしたんだ?泣いているのか」
声を掛けると泣いていた人物が顔を上げた。顔を上げると泣いていたのは見覚えもある少女だった。少女はこちらを見ると驚いて声を上げた。
「あなたは****」
「こんなところで何してるんだ?なんで泣いてるんだ?」
と言うと少女はまた泣き出してしまい慌てて声をかける。心配になり少女を見ると少女は答えた。
「どうしたんだよ!ど、どこか悪いのか?」
「実はね...私...」
少女が何かを言おうとした時ノイズが流れ我に返った。どうやらバーを出た後に倒れてしまったようだ。先ほど飲んだ酒薬の影響だろう。
「まさか...ここまで影響が出ているとは...早く終わらせないといけませんね。影響を受けたのがあの日の出来事とは...もしもあの時気づいていれば良かったのでしょうか****」
車掌はそう言いながら少女がつけていたミサンガを握りしめると廊下から慌てた様子でグリンが走ってやってきた。
「グリン?廊下は走らず静かにしてくれとあれほど行ったのに」
「ごめんね車掌。でも大変なんだよ!」
「??一体どうしたんですか藪から棒に」
「乗客たちが大変なんだ!二人が
「!!」
「なんだって...一体どうして...
「分かった。車掌も気をつけて」
グリンはそう言うとネムとカーナと連絡を取り車掌室へ向かった。グリンが車掌室へ向かう姿を見届た。車掌は釜を持ちグリンが言った場所へ向かうと厄身が一段と広がっていた。
「ここにも厄身が...今は二人の安否を確認しなければ」
意を決して二人がいる場所へ向かうと厄身に当てられ傷ついた二人が倒れていた。二人に声をかけ駆け寄ろうとした時一人の畏敬の存在に気が付いた。足で踏みつけにしている畏敬・堕天使は車掌に気づき声をかけた。
「やあ~!こんにちは****。ああそうか!今は車掌なんだっけ~?久しぶりに会いに来たよ」
「その子を離せ!その足をどけろ。ここは前世を明かし死後の道見定める場所だ。お前が立ち入っていい場所じゃないんだ!今すぐ出ていけ」
「もう~そんなに怒らないでよ~あの時以来なんだからさ~。ねえ?親友」
”親友”と堕天使に言われた車掌は昔の事を思い出していた。
「俺は***だから...が欲しい」
「ならこの森に住みなよ」
「いいのか?だって俺は****だから」
「だってもう君と僕は友達でしょ?」
「...ありがとうな」
「お前はなんでも知ってるんだな」
「天使にはな~んでもお見通し~だからね!」
「助けてくれてありがとう」
「当たり前だろ?だって俺達親友だからな」
これは記憶_そう古い過去の記憶だ。堕天使がまだ天使だった頃の記憶。優しくてよく笑うやつだった。嫌われ者の俺にも話しかけてくれる奴だった。でも罪を犯した。残酷で許されない罪を...駆けつけた時にはもう手遅れだった。美しい天使の羽は漆黒に染まり天使のわっかの閃光の輝きも失われ変わり果てた堕天使となっていた。
「****」
と名前を呼んだ堕天使は笑った。その笑みは天使とは違い優しいものではなく不気味で嘲笑うかのように見えた。
**
車掌と同様に堕天使も昔のことを思い出していたようだった。
「懐かしいな~あの時の君はとても不愛想でさ~。まあ今もそうだけど」
「...昔のことを世間話でもしに来たんじゃないだろ」
堕天使のことを警戒しながら車掌は言いその様子を見た堕天使は笑い、車掌の後ろに回り込んだ。
「!!」
「そんなに警戒しなくてもいいのに~」
「だて..」
「天使には何でもお見通し~ってあの時君に言ったよね」
「!!」
後ろに回り込んだ堕天使は車掌に耳元でそう呟いた瞬間だった。突然痛みを感じた車掌は釜を振り堕天使から距離を取る。確認すると右腹が刺されていた。正確にいうと堕天使に右腹を手で掴み取られ食い殺された。あいにく死なないが痛みは感じるため車掌は激しい痛みに耐えていた。
「...あの時は天使でも...今は..堕天使...だ...うっ..うぐ...」
痛みに耐える車掌に対し堕天使は笑いながら車掌の掴んだ右腹の一部を食べていた。
「うまいうまい!流石だ~君の肉はいいな~。その魂も実に美味しそうだ。ねえ?こいつも食べたら美味しいのかな~」
「!!」
「やめろ」
「いただきま~す!」
「やめろおおおおおおお!」
涎を垂らして手を伸ばし食おうとした堕天使を止めようとしたが食われた傷が広がり痛みで動けなくなってしまう。堕天使は車掌の様子を見て嘲う。堕天使の表情は不気味で顔中にこびり付き飛び散っていた。唇は飛び散った血が唇のように塗られている。しばらく車掌の様子を見ていた堕天使は踏みつけた足をどけて車掌に投げた。無事に車掌が受け止めたことを堕天使は確認するとため息をついた。
「一体何のつもりだ」
「いや、別に少し試したいことがあっただけだよ。久しぶりの再会なんだからこのくらいどうって事ないだろ?」
「お前はそうかもしれないが俺は..」
車掌は言うが堕天使に言われた言葉に言い返すことが出来なかった。
「俺はそうじゃないって言いたいの?君がそれを言うんだ~僕のことを裏切っておいてさ~。その点君はいいよね?生き延びてさ~僕なんかこんな姿に成り果てたっていうのに」
「!!」
「君は車掌になって優雅に魂で遊んでいるなんて信じられないよ。しかも彼女を連れてるなんて...彼女のためにここまでしてるんだろ?君がいくら頑張った所で彼女は覚えていないのにね」
「...」
「でもさ~マジシャンが言う通りもうすぐ門が開くみたいだよ?そうなったら君のそうだけど彼女もどうなるのかな~」
「...」
「今日はそれを言いに来たんだ~何が正しい事なのか君なら分かるよね」
「...」
「まあそんな顔をしないでよ。態々君に知らせてあげたんだからさ~」
「その為にあそこから出て俺に伝えるためにこんなことをしたのか...態々厄身を出して乗客たちを巻き込んで...列車をここまで澱みで汚し対象の乗客の魂を黒く染めようと!」
「怒らないで****」
反論したが堕天使になだめられて余計に腹が立ち言い返そうとした時にマジシャンの声が聞こえてきた。どうやらマジシャンが来てくれたようだ。
「車掌、車掌、どこだ!堕天使、いるんだろう!どこにいるんだ!」
「マジシャン!」
「ちっ、もう嗅ぎつけたのか...なら僕はもう行くよ」
「車掌の声!そこにいるのか」
車掌の声を聞いたマジシャンは車掌の元へ走り、堕天使はマジシャンが来る前に立ち去るため厄身を払った。厄身を払ったことで車内の淀みは解かれる。
「車掌、無事か。乗客たちが厄身に当てられて...車内もこんない淀んで...!!」
「マジシャン駆けつけるのが早いね~」
「貴様!堕天使、許さないぞ。もう逃がさない大人しく」
「悪いけど君の捕まる気はないよ~さようなら~じゃあね、マジシャン!」
「待って逃がすか!」
「僕を捕まえるよりもやらなきゃいけないことがあるんじゃない?」
「!!」
堕天使が顎を動かした時に車掌が倒れた。堕天使にやられた傷が相当ひどいのだろう。耐えられず倒れてしまったのだ。倒れた車掌から血が流れている。マジシャンが何度も呼びかけるが返事が返ってこない。焦るマジシャンとは裏腹に堕天使は余裕そうに笑った。
「車掌、車掌!!」
「また会おうね****」
「待て!消えた...くそ、逃がした!またあいつを探さないと」
堕天使は逃げるようにいなくなりマジシャンは堕天使が逃げたことを連絡した。
「ひとまずこれでいいとして...大丈夫か車掌!」
「ああ...大丈夫...っっ!!」
「大丈夫じゃないだろ」
「だけど...列車が...車内は淀みにやられ乗客たちは厄身にあてられてしまった。前世探しの者が黒く染まって...」
「考えるのは後だ。とりあえず今は少し休め。後のことは俺がやるから」
「でも、カーナたちに伝えないと」
「俺がやっておくからお前は休め」
「...分かった。後は頼みます」
マジシャンは車掌を連れてカーナたちに事情を説明した後、列車内に残っている淀みや当てられた厄身を払った。厄身を払うのに手を焼いたが片腕が負傷する程度で済んだ。
「やはり一筋縄ではいかないか...くそ..痛..なんと払うことが出来た...」
全てを浄化したマジシャンは片腕を抑えながらカーナの元へ行き自分も含めて休息を取る様に言った。カーナたちはそれぞれ休憩室で休み、マジシャンは車掌を車掌室で寝かせた後に休憩室に向かい一眠りすることにした。
6.
ひと眠りしたマジシャンは列車内の様子を確認するため仮眠室をあとにした。厄身に当てられた彼女はまだ目を覚ます様子はなく魘されていた。
「浄化したとはいえまだ魘されてるのか。なんとかしないと...それよりももう一人の乗客の方を何とかしなければ」
今は車掌は動ける状態ではなく前世を解明することは出来ないだろう。ならば、乗客には悪いが前世を証明するしか...そう考えている時、床に
薬品が落ちていた。
「何でこんなところに薬品が落ちているんだ?乗客の前世に関するものか?とにかくこちらで調べていく必要があるな」
マジシャンが薬品を調べていた時、カーナたちがやってきた。
「もういいのか?」
「ええ、一休みしたから」
「僕も!」
「コクコク...」
「なら良かった。今から乗客の前世について調べようと思う。車掌が解明できない今、乗客には悪いが前世を証明しようと思う」
「そう..分かったわ。私達でも出来ることがあれば言ってね」
「ああ、よろしく頼む。少し見てほしいものがあるんだ。この薬品を見てもらえな分かると思うがこれば禁薬なんだ」
「禁薬って?」
「禁じられた薬品のことを禁薬ていうのだけど...簡単にいうと決して使用してはいけない危険な代物なの」
「それってやばいんじゃ...」
「そうなんだ。この薬品は壊れているが使用された形跡があって...落ちた衝撃で壊れたのか破片が飛び散っているものや未使用なものがちらほらあって」
マジシャンが言うように廊下には大量の禁薬がある。
「これは何を意味するのかは不明だ」
「そうね。私たちも見てもらいたいものがあるの」
カーナはそう言うとバーにグリンとネムを残して倉庫へ向かった。倉庫のドアを開けるとマジシャンは驚いた。
「これを見てほしいの。これは乗客に関する遺体だと思うけど...」
「これは...なんだ...遺体とこれは..」
遺体と言うよりは死体だった。それはまるで残虐に斬りつけられ大量の血を流し人の変わり果てた姿といえるだろう。人と呼ぶべきなのかもう分からない。人であるが人と呼べない存在となっていた。人には無いものがありそれがまるで動物のようだった。
「これは蛇なのか...これだけじゃない。それ以外にも多くの動物の遺伝子が組み込まれている。これは...」
「キメラみたいよね。私もそう思ったわ。マジシャンに会う前に倉庫のドアが開いていたから閉めようとしたの。その時これを発見して...余りのひどさにグリンとネムには誤魔化したわ。この姿は二人には見せられるものではないから...」
マジシャンとカーナはバーへ行きカーナの話を聞いた。カーナは乗客について先ほどの遺体のことは二人に伏せながら調べた。
「この人、人を動物と組み合わせて非科学実験する研究者なんだ。ひどいよね」
渡されたメモを見るとグリンの言う通り人と動物の遺伝子を組み合わせてキメラを作っていることや実験前の人や動物の写真が記載されていた。
「これは酷い。この事件に対する記録やテープも残されているらしい。これは誰かに見せられる内容じゃないな」
「こうなの...気になる点があってこれ見てほしいの。この死体はどうやら女の子らしいの」
「!!」
「それもあの子によく似てるのよ」
カーナに言われた通り写真をよく見ると実験された少女は皆彼女に似ていた。
「それって...まずいんじゃ!」
「あの子が危ないわ」
「一度様子を見に行ったほうがいいな。今すぐ行って...?ネムどうした?」
ネムに裾を引っ張られたマジシャンはネムに声をかけた。ネムはマジシャンたちを見つめるとバーから出ていった。ネムの後についていく例の乗客は部屋からいなくなっていた。
「まずいよ!乗客がいない」
「急いで追いかけないとあの子が!」
「マジシャン?どうしたの」
「ボイスレコーダーが落ちてるんだ」
「「ボイスレコーダー」」
「どうしてこんなものが?」
「分からない。少し再生するぞ」
マジシャンは再生ボタンを押すと音声から乗客の声が聞こえた。
『忘れるな...例え忘れたとしてもこれは聞けば思い出す。お前は実験を果たさなくてはならない。例の目的のために..あと一歩の所で失敗した。しかし...諦めはしない。必ず...復活させる。どんな手を使っても...それが...奴が教えてくれた一つの方法だから...堕天使...』
音声はここで終わっていた。ボイスレコーダーは一度再生すると壊れる仕組みになっているようでもう一度聞こうとしたが聞くことが出来なかった。
「奴?それに方法って何なんだ。考えても意味がない...厄身に当てられた後に大方思い出したって所か...厄介だな。やっぱりあいつが絡んでいたのか..堕天使」
堕天使は列車から飛び去る際にマジシャンにだけ聞こえる声である言葉を言い残していた。
「マジシャン、君にだけ教えてあげる。予言するよ!近々面白いことが起こるってこと。僕は君たちを飛びっきりの素晴らしいショーに招待するよ。そのショーは僕のプレゼントだ。ただ一つ忠告すると...そのショーは少し過激で下手したら死んじゃうかもしれないから気を付けてね~」
「堕天使が言ったその言葉がずっと気になっていた。あの言葉は一体何なのかと...それが今分かった。早く助けに行かないと!」
マジシャンは乗客の部屋を後にして****の部屋まで走った。マジシャンが部屋に向かう同時刻に眠る彼女に一つの影が迫っていた。乗客は音を立てないようゆっくりドアを開けて忍びをより薬を嗅がせようとした時だった。誰かに声を掛けられた乗客が慌てて振り向いた。
「何をしようと...しているのですか?」
振り向くとそこにはけだるそうにこちらを見つめる車掌が立っていた。
「あなたは...一体何をしようとしているのですか?そのあなたの手に持っているものは何ですか?ここはあなたの部屋ではありませんよ..お部屋をお間違えならご案内いたしますが...」
先ほど目を覚ました車掌の傷は深く重傷だった。本来なら安静にしていないといけないが堕天使のことや何より乗客の前世のことなどやらなければいけない仕事がたくさんあり休んではいられなかった。高熱で傷口の痛みや倦怠感の襲われながら車掌室を後に様子を見に来た矢先だった。いつもならば冷静に判断することが出来る車掌だか自身の怪我のせいか乗客の手元に持っている注射器に気づかなかった。乗客に近づいた車掌は腕に注射器で薬品を打たれてしまう。
「お客様...何をなさ...る」
「それは毒物だ!死ね!こんなとこおさらばしてやる」
乗客は車掌を突き飛ばし****を引きずりながら列車の外に出た。直ぐ後にマジシャンたちが駆けつけ状況を話した。
「なっ乗客が列車の外に出ただと!まずい...これは巻き込まれるぞ」
「何がまずいの?巻き込まれるってどういう事!」
「そんなことより追いかけないと...不覚でした...何か薬品を打たれたらしくて...」
「これは毒物ね。普通の畏敬なら平気そうだけど...今の車掌は...とにかくこれを飲んでそうすれば」
「いいです」
「何言ってるの!飲まなかったら死なないとはいえ体に負担が」
「今は一刻を争うんです」
「でも!」
「いいんです!そうじゃないんんです...事態はそんな簡単じゃないんですよカーナ。このままだとまずいんです」
「何がまずいって言うの?」
「このままだと開くんですよ」
「開くって何が開くのよ」
カーナの質問にマジシャンが声を荒げて答えた。
「開くんだよ地獄の門が!赤い月登りし時、古たる地獄の門が開かれるという伝承がある。つまり赤い月が空にも上ると地獄の門が開くんだ」
「そうなったらそうなるの?」
「地獄に落とされることになるんだ...永遠に」
グリンはマジシャンの話を聞き空をみると赤い月が登っていることに気がついてしまった。
「それって...!!ね、ねえ...やばいよ!登り始めてる...月が!」
「まさかそんなはずは!!本当だわ登り始めてる」
「急ぐぞ!いいかカーナたちは此処で待ってろ。俺が今****を助け」
「マジシャン!車掌が!」
車掌は外に出ようとして慌ててマジシャンが止めたが聞く耳を持たなかった。
「何してるんだ車掌!お前が外に出たら」
「そんなのわかっています!しかし、なり振り構っていられない!」
マジシャンは地獄の門番のため列車の外に出たとしても何の問題もないが車掌は違う。ここは生死の狭間の世界だ。死神が立ち入っていい領域ではない。畏敬には対いる領域が存在し破ればその身が焼かれる激痛に襲われる。車掌はそのことを理解していたが赤い月が登り始めたのを見て覚悟を決めた。二人は走って追いかけたが車掌に激痛が襲う。
「車掌!」
「い、いいですから...大丈夫...ですから...」
「もうすぐだ!がんばれ」
「はい」
車掌は痛みに耐えマジシャンと共に再び走り出した。畏敬の領域とは違い役割も存在する。車掌は列車を任されているため列車から出ることが出来ない。それゆえに畏敬の領域と役割を一部破っているため二重の苦しみに耐えているのだ。マジシャンは自身の糸の能力を使い乗客に追いついた。
「そこまでだ!いい加減にしろ。自分が何をやったのか分かってるのか?とにかく今はいい...もう時間がない!早く手遅れになる前に列車に戻れ!」
「彼女を返してください!」
「もう遅いんだよ!こいつは連れて道ずれにしれ俺は」
「早くしないと月が!」
「逃げて二人とも!!月が」
グリンがそう叫んだ時、赤い月が登り終えて辺りが暗くなる。
「な、なんだ」
「ま、まずい!月が登った。逃げるぞ」
「彼女を離し...!地面が揺れて...」
突然地面が激しく揺れると地面が割れ始めた。するとそこから大量のマグマと共に血だらけで無数の手が伸びてきた。恐ろしいうめき声と共に乗客と****を連れて行こうとする。
「くそ!くるな!やめろ、やめろ!離せ!」
「このままだと****まで連れていかれてしまう!****!」
「おい!待て!」
乗客から****を奪い返し車掌は逃げようとする。しかし地獄から出た無数の手は車掌ごと呑み込もうとしていた。何とか振り払ったものの乗客に足を掴まれてしまう。
「お前も道ずれにしてやる」
「離せ...このままだと****まで地獄に..せめてあなただけでも...あっ...」
耐えきれず手を放してしまった車掌だったがその手をマジシャンが掴み二人を引き上げた。
「マジシャン!」
「諦めるな車掌!俺は地獄の門番でよかった。地獄の門番なら地獄に落ちても何の問題もない。地獄で働くことが俺の役割だからだ。見ろ...この手は俺を襲ってこない」
「本当だ...そうかマジシャンは地獄を管理する門番だから、マジシャンを地獄の落すことが出来ないんだ」
「そう言う事!せーのでふっぱるぞ!せーの!」
マジシャンは二人を引っ張り上げたあと乗客を蹴りひきはがした。引きはがされた乗客は無数の手に捕まり地獄に落ちていった。
「嫌だ!やめてくれ...嫌だあああああああああああああああああ」
地を這うような恐ろしい声が聞こえなくなったが無数の手は列車の傍まで来ようとしていた。マジシャンは二人を抱えて走り列車に入ると地面は元に戻り赤い月もいつの間にか消えていた。
一安心したマジシャンだったが車掌は倒れてしまった。
「助かった...」
「う...うぐ...」
「おい、しっかりしろ!車掌...気を失ってる。無理もないか...あの灼熱の痛みを一人で」
車掌を車掌室に****を部屋まで運ぶとカーナを呼んだ。カーナたちと話していると列車は再び動き出した。この列車にはもう前世を解明・証明する乗客はいない。彼の前世は明かされなかったが地獄に戻った時に確認することにした。今頃地獄に落とされ無数の罰を受けている頃だろう。罪を犯し地獄で殺されまた生き返るを繰り返すのだ。地獄に張っていた糸の記憶から先ほどの乗客の声が聞こえた。
「頼む殺さないでくれ!たの...ああああああああああああああ」
その声を聴いたマジシャンは窓から移る景色を見た。よく見ると地面が割れた場所に乗客の身分証明書が落ちていた。上杉苅谷と書かれていた。今までは自分が狩る側にいたが自分が狩られる側になるとは思わなかっただろう...地獄から再び声が聞こえた。
「もうやめてくれ!殺さないでくれええええええええええ」
その声を最後に乗客の声は聞こえなくなりいつの間にが証明書も消えていた。
「助けてくれと言った女の子をお前は殺しただろう」
マジシャンは誰にも聞こえない声で言った。列車の旅はまだ続く
『七章 異世界の異変』(終)NEXT→ 『八章 恋は人を狂わせる』
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