六章 終点

六章_終点

1.

 終点についた列車はアナウンスが流れて止まった。窓の外には終点と書かれた看板がありここがこの旅の終わりなんだと理解した。終点に着いた彼らは安堵し皆バーに集まった。


 「終点に着いたので今しばらく休憩です。前世で亡くなった魂が集まるまでは列車は止まるのです」

 「そうなのか...」

 「さあ!!休憩だ~休憩~」

 「お前はただ足を引っ張っただけだろ...」

 「そんなことないですよ~だ!」


そう言うマジシャンは車掌に足蹴りされてその場で転んだ。車掌に転ばされ文句を言おうとしたが無視され、車掌が何かを言うまで話しかけていた。一方カーナたちは食べ物や飲み物を用意して二人に渡していた。


 「皆に行き渡ったみたいだね!」

 「それじゃあ~乾杯」

 「「「「乾杯!」」」」

 「う~ん美味しい!!」

 「料理と酒はいいね~」

 「パクパク...」


カーナ、グリン、マジシャン、ネムはそれぞれ酒や料理を食べているが私は何故か食欲が無く喉も乾いていなかった。そのせいだろう。彼らが食べているのは眺めていたらグリンにどうして食べないのかと聞かれた。


 「不思議とこの列車に来た時からお腹はすかないし、喉も乾かないんだ」

 「もしかしたらこれも魂の影響かも知れませんね。魂が安定せずにこちらの物を口に入れると魂が消滅したりこちらの世界に引き込まれてしまったりするそうです。貴方の魂が自己防衛としても待っていると考えていいでしょう。魂が安定したり思い出したりした時に食べたくなると思いますよ」

 「そうか...それなら楽しみだな」


食べたり飲んだりすることは出来ないが見ているだけでも案外楽しくていつの間にか時間が過ぎていた。お開きになったが皆酒に酔いつぶれて床で寝ていたりカウンターに酔いつぶれていた。床に落ちた酒を片付けようとした時マジシャンに声をかけられた。彼と二人で話したことは無くて緊張したがすぐに打ち解けた。


 「ありがとう。あとはこれを片付けるだけか。車掌...起きろ~って寝てる。これは起きそうにないな~」

 「どうする?グリンとネムは仮眠室に寝かせてきたけど...車掌は?」

 「車掌の飲んだ大量の酒を片付けないと...僕が車掌を見てるから片付けてきてもらってもいい?」

 「いいよ。行ってくる」


 マジシャンに場所を聞いて倉庫へ向かい酒を片付けてバーへ戻ろうとした時【秘密】と書かれた箱を見つけた。その箱には袋が被されて何かを隠しているようだった。気になるが何が起きるか分からないのでそのまま戻ろうとした時、すきま風だろうか風が吹いて被さっていた袋が落ちて中身が露わになった。中に入っていたのは【夢に出てくる少女の人形と写真】で驚いた。


 「なんだこれ...どうしてこれが...」


と言ったと同時に後ろも車掌室のドアが開いた。入るなと言われていたが気になり中へ入った。車掌室に入ったその時車掌が目を覚ました。


 「......」


車掌は無言で立ち上がり廊下へ出てバーを後にした。


2.

 車掌室の中は薄暗い物の汚れておらず綺麗で埃一つなかった。室内を調べると驚きが隠せなかった。車掌室にあったのは夢に出てくる少女の写真や資料が大量に机に散りばめられていた。それだけでも衝撃を受けたが天井から何かが落ちてきて顔に当たる。手で触り気づいたが誰かの血が天井に垂れていた。誰の血かは分からないがぞっとして天井を見上げると何か文字が書かれているようだ。近くにあった懐中電灯で照らしてみると天井にはこう書かれていた。


【これは戒めだ。絶対に知られてはいけない。これを見られてはいけない。特に・・・には】


書かれていたが血や書いて時間が経っているせいもあり最後まで読むことは出来なかった。車掌は何かを隠している。それがあの夢と関係があるのだろうか...考えても何も分からなかった。


 「分からない...何なんだ一体。これからどうすれば...あれ?こんなところに日記なんてあったっけ?」


先程まで床には何も落ちていなかったはずだ。不審に思いながらも落ちていた日記を拾って読んだ。最初のページは破られていて読むことが出来ず読めたのは最後のページだった。


 『○○回目、また失敗してしまった。これをまたやり直さなくてはならない。これを・・・には知られるわけにはいかない』


 「**に知られてはいけないことってな..」

 「ここで何をしているのですか?」

 「!!」


驚いて振り向くと車掌が入り口に立っていた。咄嗟に日記を隠そうとしたが落としてしまった。車掌は沈黙の後深いため息をつき中へ入ってきた。


 「勝手に入って...その...車掌」

 「また..ですか」

 「え?またって」

 「今回は上手くいくと思ったのに...また振り出しですね」

 「何を言って...」


車掌の言うことが理解できなかった。また振り出しってことは前にも同じようなことが起きたのか。でもいつ...この列車に乗ったのは初めてで...


 【初めて...本当に?】


思えば前々から疑問だったことがある。何故か知らないはずなのに知っているような不思議な感覚が...この列車に乗る乗った時から..いや乗る前から薄々感じていた。違う...初めてじゃない。前にもこの列車に乗ったことがあるんだ。思い出せない...そう言えばどうしてあの駅のホームにいたのだろう。思い出せない思い出せない。ふと車掌を見ると鎌を取り出しこちらに迫って来ていた。


 「えっ...」

 「車掌...その鎌で何を...私を殺すの...か?」

 「いえ..忘れさせるだけです。」

 「忘れ..させる?」

 「貴方にはこれを知らせるわけにはいかない。さようなら..また始点の列車で会いましょう」


車掌はそう言うと鎌を振り下ろした。切られた時にうっすらとだけ昔の記憶を思い出した。思い出した記憶も車掌に鎌で切られるところだった。何が悪かったのか知られてはいけない事って何だったのだろう。もうわからない..意識を失う前に見たのは悲しそうにこちらを見つめる車掌の姿だった。


3.

 始点に送った車掌は落ちていた日記を拾いバーに戻ろうと立ち上がるとマジシャンがドア越しに立っていた。車掌はそのまま無言で立ち去ろうとしたがマジシャンに話しかけられる。


 「ねえ?また..忘れさせたの」

 「こうすることが一番いい」


と言う車掌の胸倉をつかんでマジシャンは叫んだ。


 「それは君の方じゃないか!知られたくないとはいえ見えない糸で縛るのは良くないぞ。かつての君が犯した過ちで救えなかった人間とはいえ!このままじゃ存在自体があやふやになって消えてしまうかもしれないんだ。君がわざとそう仕向けているから」

 「だからあの時にはじめましてと言ったのか?」

 「ああそうだ。再開したのに明らかにこちらを初めてみるようだったから。もう何回も会っているのに僕を見て初々しくて...」

 「だから敢えて試すような真似を」

 「忠告だ!これ以上続けると遅かれ早かれ魂に異常をきたす。早く伝えて辞めるんだ。それに魂は薄っすらとだが記憶は覚えている。お前のことを拒絶してもおかしくないんだ。それだけを言いに来た」

 「......」

 「早く準備して休んで列車を走らせらたらどうだ?僕は地獄へ戻る。それにこれから始点出会うんだろう...今度こそバレずに前世を明らかにしろ!いい加減覚悟を決めろ」


マジシャンは胸倉を掴んだ手をゆっくりと離して地獄へ戻っていった。しばらく車掌はその場から動けなかった。


 「お前にできても僕にはないんだよ..覚悟か。前世を知られればきっと後悔するのは...」


車掌はそう呟いて列車を動かす準備に取り掛かり列車はまた動き出した。


4.

 「ごめんなさい。来世は幸せになれると信じて...」


 と言った少女が二階から飛び降りて目が覚めた。目が覚めると列車のベルが鳴る。ここはどこなのか分からず周囲を見回した。荒れ果てた大地や赤い月が空高く昇っており駅にいた乗客たちは皆顔が黒く染まり服だけが浮いているように見えた。


 「顔が見えないなんて...変なの」


と言った時列車がやってきて多くの人が列車に乗っていく。このままこの駅にもいる訳にもいかず列車に乗ることにした。


 「列車?どうしてこんなところに...待っていてもしょうがない。乗ってみるか...」


列車に乗ろうとしたその時何かを忘れている気がして立ち止った。なぜのなのかは分からないがこの先に行ってはいけないような気がした。この列車に乗っていいのかと考えていたがここに留まりたくもなく列車に乗車した。


 これが全ての始まりだとも知らずに...列車の乗客は皆顔が分からず服だけが浮いており変だと思ったがどこか懐かしく感じたのは何故だろう。訳も分からず歩いていると同じように顔が黒く染まり分からないメイド服を着た人に案内される。案内された先はロビーだった。ロビーには多くの乗客が既に居て何かを待っている様子だった。少しすると車掌が現れて語りだした。


 「それではお待ちいただいた皆様車掌でございます。皆様の前世でのご活動お疲れさまでした。今しばらくお待ちください。当駅から乗車いただいた皆様は五名。つまり、当駅から五駅の旅へお連れ致します。皆様各駅にてご準備ください。駅に着くまでしばしお時間がかかります。それではお寛ぎください」


 と言い車掌はロビーを後にした。車掌には他の人と違いちゃんと顔が見えていた。肌は青白く片目は隠れていて不気味だ。車掌が言っていた前世の活動って何なんだ?そんなことを考えながら歩いていると先ほどのメイドに部屋を案内された。中に入り周りを見ると鏡が無く外の景色を見たが暗くて分からなかった。


 「ここが自分の部屋か...何もないな…暇だ。鏡とか何もないんだ。乗客は顔が見えないから置いてないとか?案内されたのはいいけどこれからどうしよう...変だな...初めてなのに懐かしい気がする」


ベットに腰掛けていた時誰かがドアをノックした。返事をすると入ってきたのは車掌だった。たわいもない話をした後この列車について聞くと列車は止まりアナウンスが流れた。


 『え~大倉~大倉~列車が止まりま~す』


アナウンスが鳴った後に悲鳴が聞こえ急いで駆けつけた。ロビーに行くと女性が死んでいた。殺人事件が起きた思ったがそうではなく前世を解明を解明するのに必要なことであることが分かった。車掌にこの列車について説明を受け乗客の前世を解明することとなる。


 「_というわけです。我々で皆様の前世を解明しましょう!」

 「それが..この列車...」

 「おわかりいただきましたか?」

 「はい」

 「それでは参りましょう!前世探しです!」


とんでもないことに巻き込まれてしまった。だが巻き込まれてしまったものは仕方がない。前世探しをするしかない。私は始める前に車掌にどうしても聞きたいことがあり話しかけた。


 「車掌、一つ聞いてもいいですか?」

 「何でしょうか?」

 「ここに初めて来たはずなのに初めてじゃない気がするんだ」

 「...初めてじゃないとはどういう?」

 「前から...この列車のことも車掌...あなたのことも知っていた気がする。どこか懐かしく感じる気がして...」


と言うと車掌は一瞬だが驚いたように見えたが直ぐに真顔になり嬉しそうに言った。


 「さあ?それはどうでしょう...あなたの前世を解明したら分かりますよ。きっと...」


車掌は帽子を被り直してどこかへ行ってしまった。


 「全ての前世を解明するまで終わらないか...なら解明しよう。この懐かしさの原因はきっと前世にある。必ず明らかに...」


言葉を壁越しで聞いていた車掌は笑ってその場を後にした。


 そして...バーで自らの血で飲み物を出すカーナや変わり者のマジシャン、ゾンビでやんちゃなグリン、眠たがりな子神のネムと出会うことになるのは知る由もなかった。前世のことも..列車は進み続ける前世を明らかにする限り...


『六章 終点』(終)NEXT→ 『七章 異世界の異変』




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