五章 表と裏は紙一重
五章_表と裏は紙一重
これで最後に駅になった。今度こそ自分の番になるはずだ。しかし..列車は一向に止まる気配がない。窓から見える景色は相変わらず荒れ果てている荒野が広がっているだけ。今が夜なのかすら分からない。列車がトンネルを抜けると急に外が暗くなった気がした。
「いつ止まるんだろう。心配になってきた。少し..暗くなった?気がする。」
もしかすると今は夜で現実世界で言う所の真夜中か。外の景色を見ても寝れる気がしなかった。しぶしぶ部屋に戻り布団に入るといつの間にか寝てしまった。あの少女の夢だった。少女は後ろを向いている。少女に話しかけようとした時突然少女が振り向いた。
「貴方のせいで、貴方のせいで...私は死んだのよ。この人殺し!」
と言った少女の顔は血まみれで両目から大粒の涙を流していた。少女の顔に流れる血が涙と混ざり地面に落ちていく。その姿を見て鳥肌が立ち後ずさりしようとすると気づけば目が覚めていた。冷や汗が止まらず呼吸をし息を整えた。額に手を当てて夢の少女について考えた。
「一体何なんだ。訳が分からない..どうして毎回夢に出てくるんだろう」
考えても何も分からず寝ようとしたが寝付けなかった。気晴らしにバーへ向かった。
「あら~どうしたのかしら?今日はもう終わりよ」
「眠れなくて...この前に話した夢に出てくる少女の件で」
「分かったわ。少し待っててね、今ネムを連れてくるわ」
カーナはそう言うとネムを探しに行き入れ替わる様にグリンがやってきた。グリンにもカーナと同様に話をしていた時カーナがネムを連れて戻ってきた。
「...じゃあ眠れないんだ」
「そうなんだ」
「あ、カーナが戻ってきたみたいだね!」
「おまたせ~ネムにはもう事情を説明しているから大丈夫よ。ネムが一緒に寝て悪い夢を食べてくれるから安心して~」
「ネムってすごいんだよ。ネムは夢を食料にしてるから、安眠できるし悪い夢は食べてくれるんだよ」
「グリンは詳しいんだ」
「うん!よく一緒に寝てるから」
「そうなの?」
確かにネムを紹介された時に夢を糧としていると耳にしたが、グリンたちが言うような力があるとは思わなかった。もし本当にその力があるのなら試してみたい。カーナがネムに頼むとネムはこちらに飛び抱き着いてきた。
「ネム、一緒に寝てくれるか?」
「コクコク...」
「ありがとう。一緒に寝ようか」
ネムは喜び頷いた。ネムを抱っこして自身の部屋に戻ろうとした時、グリン腕を掴まれた。
「グリン?どうした」
「...るい」
「えっ?」
「ずる~い!僕も一緒に寝る~!!」
「グリンも一緒に寝る?」
「ム~!!僕も寝るの~寝る~!!」
駄々をこね始めたグリンを落ち着かせ三人で寝ることにした。
「分かった、分かったから。グリンも一緒で三人で寝よう」
「うん、やったー!!」
喜んで飛び跳ねたグリンを連れてカーナに礼を言い部屋に戻り三人で眠った。不思議と少女の夢は見ることは無く眠ることが出来た。
列車は進んでいるがまだ止まる気配がない。車掌はバーで酒を飲みながらカーナと会話していた。
「今回は長いですね」
「また酒~?好きね~」
「これがいいんですよ。それに...あれ?そういえば他の皆さんはどうしたのですか」
「ああ、それならあの子の所にいるわ。あの子と一緒にグリンとネムが寝てるのよ~」
「そうなんですね。それにしても二人が一緒で懐くのは珍しいですね」
「そうかしら?案外懐きやすいのかもしれないわね。私達には懐かないけど...」
「そ、そんなことないですよ」
「懐いてくれるのを気長に待つわ~」
「それがいいですね」
カーナとの会話が終わったその時列車も止まりアナウンスが流れる。
『え~滝川~滝川~列車が止まりま~す』
「今回で最後ですね」
「そうね~...しかしあの三人遅いわね~」
「少し待ってみましょうか?」
しばらく待ってみたが一向に来る気配がなく車掌たちは様子を見に行くと三人は眠っていた。車掌がドアを開けようとしたがドアは固く閉ざされていて開くことは無かった。
「寝てますか。あれドアが開かない..困りましたね。まさか寝ている状態で列車が駅に着くと他の乗客同様に眠りについてしまうとは...料理長が一緒に寝ているので今回は今までとは違うとして終わるまで寝ていますよ。という事は...」
「という事は...?」
「私が最初から最後までやらなければならないということですね」
「でもそれもともと車掌の仕事でしょ」
ため息をついた車掌に思わずカーナはつっこんだ。乗客の前世を明らかにするため振り向いた時、後ろに乗客が立っていて二人は驚いた。
「あの...」
「うわ、驚かさないでくださいよ」
「驚いてないでしょ」
「これでも驚いてます。それでどうしたのでしょうか?」
「実は...遺体があって」
「それで?」
バタンっと乗客が説明を聞く前に気絶して倒れてしまった。
「「え?」」
「どうしたのかしら?」
「もしかすると血を見るのがダメなタイプかも知れません」
「え~まさか。冗談よね」
「とりあえず話を聞くためにも起こしますよ」
カーナは車掌のいう事が信じていないのか乗客を起こしとわざと顔に血を塗って見せた。案の定カーナの顔を見た乗客は再び気絶してしまった。
「う~ん。あれ...?」
「目が覚めましたね。先ほどの話を」
「はい。えっと..」
「ねえ?」
「なんですか...えっ...うぎゃああああああああああああ!!」
「あ、あら~本当に気絶しちゃった」
「何してるんですか全く...責任取って手伝ってくださいね」
「分かったわ~」
カーナにウインクをされた車掌は内心不安しかなかった。
「大丈夫か不安です。お願いです。ダメもとでいいですから早く眼を覚ましてください」
車掌は部屋で眠っている三人の様子を覗き呟いた。三人は起きる気配がなく車掌は気絶をした乗客を介抱しつつ前世を明らかにするためにカーナと探索を始めた。
しかしどこを探しても何も変わらず見つからない。
「おかしいですね。なぜ何も見つからないのでしょう」
「そうね~彼は気絶したままだし」
車掌とカーナは困っていた時当然列車内に声が響きだす。
「フフフフフフフフフ...」
「ん?カーナさん。今気持ち悪い笑い声がしましたけど違いますよね?」
「この気持ち悪い笑い声は私じゃないわ~。もしかしたらと思って乗客を見たけど相変わらず気絶してるし」
「となるとこの気持ち悪い笑い声は彼しかいない」
声のする方へ二人が顔を向けると突然スポットライトが付きどこから出てきたか分からないがカラフルな紙吹雪が舞い散っている。その様子を見た車掌はつっこみ紙吹雪が床に落ちたのを見てイラついていた。車掌がイラついていることを知らないその人物は煙と共に現れた。その際、車掌たちは煙さでせき込み車掌の怒りが倍増する。その人物は両手を広げて登場しなぜが服がゴールドになっていた。
「それなら私にお任せを!みんなのアイドル、マジシャン参上!!」
「「......」」
驚いたよりも呆れた車掌はスルーしてカーナを連れてその場を離れようとした。
「どうだった車掌!渾身のマジックを!」
「......はあー。他を探しましょうか。ここになにもありりませんでしたし」
「え、聞いてる~?車掌さん。無視しないで~」
「そうね~ここには何もなかったわ」
「待って待って!!まさかスルーしないよね??」
「......」
「無視!!」
「...何も聞こえないわ~」
「その反応聞こえてますよね!!ねえねえ~悪かったって。せめてなんか言ってよ。悪かったから~」
その言葉を聞いた車掌立ち止った。車掌がマジシャンにふり向き話しかけた。
「なら...一言やる」
「な、何~?」
「まずはここは列車だ。分かってるのか...そのそのお前はそのスポットライトどっから持ってきたんだ。チャラチャラしてなんだその恰好は...ホストか。紙吹雪を飛ばすな...床が汚れた。だいたい...誰が掃除すると思って...」
「待って!全くもって一言じゃない」
「なんか言ったか...」
「何も言ってないです。すみません...」
車掌に散々怒られたマジシャンは正座させらた。車掌はマジシャンにもうしないように注意するとマジシャンは頷いた。
「もうするなよマジシャン」
「分かったもうしないよ。ところで何してるの?」
「切り替えの速さは呆れる。乗客の前世を調べているんだが何も出てこなくてな」
「ああ~それなら僕が手伝うよ!」
「何か知ってるのか?」
「うん。あっそうだった!僕が消していたんだごめんね~」
マジシャンはそう言うと指を鳴らした。すると乗客の前世を解明するものが現れマジシャンの服から落ちた。
「......おい!」
「あら~これはまずいわ」
カーナは察したのかマジシャンに車掌を近づけて自分は離れた。
「なんで離れるんですか、カーナさん。車、車掌怒ってる?ごめん...何か言ってよ」
「マジシャン...」
「な、なに?」
恐る恐る聞くと車掌は怒ってマジシャンをその場で投げ飛ばした。
「全部お前が悪いんじゃないか...馬鹿野郎」
「グヘッ...す、すみません...」
投げられて目を回したマジシャンを笑うカーナに声をかけた。
「茶番は終わりました。どうせ消えた時点でマジシャン登場だと思いましたよ」
「そうなんだ...」
「感心してないで行きますよ。そこのマジシャンを置いて解明しますよ。予定よりも時間がかかってしまいましたから」
「は~~~い」
カーナが長い返事をしたあとマジシャンの顔に落書きをした。その様子を見た車掌はため息をつきながら歩きだしカーナは直ぐその後をついていく。その数分後にマジシャンは目を覚まし車掌たちがいないと分かると急いで追いかけた。
「あ、あれ?車掌、カーナさんはいない...なんじゃこりゃ、猫の落書き!!とりあえず...急いで追いかけないと、待って~置いていかないで~!!前世を一緒に解明するのを手伝うから~」
こうして前世を解明するのに動き出すことが出来る車掌たちであった。
気絶した前世の乗客を調べてみることにした車掌たちは服装を確認した。彼は白衣を着て聴診器を身に着けており医者のようだった。
「聴診器に白衣か~。どうやら彼は医者みたいだね。何科までは分からないね~」
「なんで嬉しそうなんだ」
「別に~?」
「何で疑問形なんだよ...」
「さあ~?見た感じは分からないね~。乗客は置いといて...彼と関連のある遺体を確認しよう~車掌!」
「おい、引っ張るなよ」
車掌はマジシャンに引っ張られながらロビーへ向う。カーナが先にロビーへ行き遺体を調べていた。
「遺体はどう?」
「ロビーに遺体は置いてあったけど女の子だったわ」
「女の子?」
「そう、高校生くらいかしら」
乗客は年配の医者?のようで女子高校生とどんな関係があるのかは分からない。
「乗客の彼との関係は何でしょう?」
「娘かな~?」
「そうか?医者だったら担当した人じゃないか?」
「それも考えられるわね~」
「もう一つあるよ!」
「なんだマジシャン?」
「この子が買春してるの~」
「「......」」
マジシャンの一言でその場が氷つき車掌に殴られカーナがマジシャンから離れた。
「...ありえないわ」
「痛って!何するんだよ車掌」
「お前...その口を閉じろ...二度と喋るな。同じことを言えば俺がお前殺す」
「酷くない!!」
「それはお前だ...この世のすべての女子高生に謝れ」
「...分かったよ。ごめんなさい」
謝罪をしたマジシャンは再び調べ始め車掌はその様子を見て内心呆れる。
「あら?マジシャン、前世を解明するのに興味があるの?」
「そうなんだ。乗客の前世を解明すれば乗客も車掌たちも助かるし...」
「そうなんですか。感心しま..」
「それに一度やってみたかったんだ~これ。楽しそうだし~」
「へえー...そうですか、感心して損しました」
「感心してくれたの!!」
「話が進まん...」
車掌が自身に感心したと聞いたマジシャンは目を輝かせて見つめる。そんなマジシャンを無視してロビーを調べ始めた。ロビーには壊れた携帯電話と遺体があり乗客の部屋を調べることにした。車掌が乗客の部屋を入る際に一声かけたが、マジシャンがお構いなしにドアを開けた。
「寝ているのに思いっきり開ける奴があるか!!」
「でも大丈夫よ。彼寝てるわ」
「この人凄いね~もっと大きい音を立てても平気かな~?」
「どこから持ってきたんだお前!」
マジシャンはどこから出したか分からないがシンバルを取り出して鳴らそうして慌てて止めた。
「とりあえずこの部屋を調べて...うん?これはボイスレコーダーとメモ用紙かな。音が小さいけど確認してみないと...」
床に落ちていたメモ用紙とボイスレコーダーを聞いたマジシャンは態度が急変した。
「もしかして...ならやることはひとつ」
「マジシャン?どうした」
「今すぐ、この部屋から出て」
「なんで...どうして?まだ解明は」
「それはいいから!!早く、カーナさんを連れてここから離れて、この乗客の前世は僕が証明するから」
「ちょっと押さないで」
マジシャンは慌てて二人と部屋から追い出した。車掌に連絡が出来るよう自身の被っている帽子を渡す。マジシャンはグリンたちの様子を見に行くよう指示を出し眠る乗客の前世を調べて確信した。
「なぜ...あのようなことを」
「まだ何もわかってないわ~」
「もしかしたら...」
「車掌?マジシャンから連絡がきたわよ」
「マジシャンから?繋いでください」
カーナは言われた通りに連絡を繋ぐとマジシャンの声が響いた。
「ねえ?車掌...悪いけど今回の件は僕に任せてよ。こいつはだめだ」
「...お前がそういうことは前世の乗客は地獄行きなんだな」
「いや...大地獄。これからそっちも分かる様に情報を共有する。処罰はこちらでいい?」
「構わない..お前がそこまで言うならいい」
「ありがとう。それじゃあ目が覚めたらね。僕のショーを見ててね~...ってマジシャンたちは見えないか~。耳で聞いてね」
「やかましい...頼んだぞ」
そう言うと一度マジシャンからの通信は途切れた。カーナは不安にあり車掌に声をかけた。
「大丈夫なのかしら」
「大丈夫ですよ。なぜなら彼の本職は地獄の門番です。地獄で罪人を裁くことなら誰より得意ですから。彼が怒っているということは過去に後悔した例の事件と関わりがあるのかもしれない」
「例の事件ってまさか..あの!!」
「はい。それがマジシャンになった理由で私が車掌になった理由でもありますから。彼は怒ると例え身内や乗客でも容赦はしません。彼が前世の乗客を裁くと度を越えてやりすぎてしまい裁くどころではなくなってしまうのです。ですから彼は私に任せているんです。」
「今回の乗客はマジシャンが裁くみたいだけど大丈夫かしら...」
「心配ですね...派手にやりすぎるなよ。マジシャン」
車掌は年のために鎌を出してマジシャンのいる部屋を見つめた。
そうとは知らない乗客は目を覚ますと椅子に両手が縛られていることに気が付いた。辺りを見回すと薄暗く当たりも見えにくい。乗客は慌てて叫ぶと突然風が吹き近くのろうそくに火が付いた。不気味な空間に乗客は再び叫ぶ。
「一体何なんだ!!これは離せ!何でこんな目に合わなくちゃいけないんだ!!」
「何でかって...知りたいか?」
「誰だ!!」
後ろから声がした方へ首が動ける範囲で振り向くが誰もいなかった。しかし気のせいではない。確かに後ろから声がしたはずだ。後ろから声が..その時乗客はあることに気が付いた。乗客は壁に背がついているので後ろに人がいるはずがない。その事実に鳥肌が立った時何かが首元に当たっている感覚がする。それは鋭くまるで鎌のようだった。汗が止まらず震えていると、誰もいるはずがない後ろから声がした。その方へ顔を向けると黒い人型の影が立っている。黒い鎌を持ち不気味に笑うその姿は化け物そのものだ。
「何でか知りたいだろ?それはお前の犯した前世の罪だ。今からそれを証明する。そしてお前に裁きを与える...逃げるなよ」
乗客を睨んだマジシャンの顔は暗く不気味であった。
ドアの向こうを見つめていた車掌は前世の証明が始まるとため息をつきカーナに話しかけた。
「始まりましたね。マジシャンの前世の証明が」
「そうね。でも、どうして前世の証明なの?解明じゃなくて?」
「ここに前提として説明しておきます。乗客の前世を解明し、天国と地獄へ魂を正しい場所へと導くことが私・車掌です。それと対称にマジシャンは前世の証明をします。乗客の前世の罪や行いを証明し、地獄へと強制追放するのがマジシャンです。ただし、留意するのはマジシャンが前世を証明する場合は前世の行いに関係なく乗客の魂を地獄へと連行することです。そのためマジシャンが乗客の前世を証明することはありません。もしも、証明するとすればその乗客は前世で大罪を犯した罪人かあるいは彼の過去に関わる人物のどちらかです。そして今マジシャンが前世を証明しようとしている。カーナさん、これがどういうことか分かりますか?」
「え、どういうことなの?」
「地獄ですよ。まさにこれから行われることは...私も正直、彼の前世の証明は二度と見たくないです。あれはおぞましいものです」
車掌が言う通りこれから始まる前世の証明はまさに地獄そのものだった。
マジシャンのよる乗客の前世の証明が始まった。マジシャンは近くの椅子に腰掛けて乗客にある物を見せた。それは大量のカルテで患者たちの診断書。
「これからあんたの前世を証明する。まずは証拠から行くか」
「前世の証明?証拠...何を言って」
「誤魔化すならもっとうまくやれよ...っていても今のあんたは自分が何をやったのかすら覚えてないだろうけどな」
「私は何もしてない!!こんなことをされる言われはな..」
「ないっていう本気で思ってるのか?おめでたいやつだな本当に」
「そんなこ..あがっっ!!」
乗客は喉元に何かが当たり血が流れる。見えない何かに触れただけなのに激しい痛みに襲われた。しばらく悶えているとその様子を見ていたマジシャンは笑いながらあるものを見せた。白い糸だった。その糸を見せたマジシャンは頭蓋骨を取り出した。頭蓋骨に糸がふれた瞬間バラバラになり影も形も残らなくなった。まるで武器のようにも思えるほど細く鋭いのに軽く触れただけで骨まで砕くような糸だった。
「この糸すごいだろ?地獄ではよく罪人が逃げるからこの糸を使って殺すんだ。まあ、地獄に落ちた魂たちはいくら殺しても罪を償うまでは何度も蘇るからいいんだけど。あんたの喉元に触れたい糸もこれだ」
マジシャンに糸を見せられた乗客は恐怖からかまた暴れだし逃げようとするが逃げることは出来なかった。
「暴れるなよ。言ったろう?逃げるなって...それにあんたを拘束しているのもそうだけどこの部屋全体はこの糸が張り巡らされているから下手に動けば君...死ぬよ?それにまだ前世の証明すらしてないんだから...もう一度言う逃げるなよ」
マジシャンは乗客の顔を掴みそう言いながら微笑んだ。しかし、その笑みは冷酷で背筋が凍るものだった。
「そのじゃあ..始めようか。先ほどのカルテを見せた通りあんたは医者で精神科医だ。カルテからも精神外来と記載されているからな」
「私が...精神科医。なら...なぜこのような目に合わなくちゃいけないんだ」
「普通の精神科医なら俺もこんなことはしないさ。何故だと思う?問題はあんただよ。あんたの死が物語ってるんだ」
マジシャンはそう言うと乗客の目の前に今まで消していた乗客の死因となる遺体を見せた。乗客は気を失いそうになるがマジシャンはそれを許さなかった。乗客の髪を掴み遺体に顔を近づけて見せた。
「ひぃっ!!」
「いいからよく見ろ!!この死んでいるのが誰なのかを..」
「これは...私...なぜ私が...」
マジシャンが見せた遺体は自ら猛毒の薬品を飲み自殺した遺体だった。
「なぜ...私が...自殺を」
「まだ思い出さないようだな。なら最後まで教えてやる。これを見ろ!最初にあんたが気を失った女子高生の遺体だ」
「ひぃっ!!」
「この遺体はな...あんたの患者だったんだよ」
「私の患者のはずがない!彼女とはなんの関わりもない」
「そうか...なら聞かせてやる。あんたとの関係を」
マジシャンは車掌たちの元へ壊れたテープを送った。車掌がテープを受け取ると【直して】と文字が表記された。車掌はそのテープを直すとマジシャンの元へ戻っていく。
「これを直せばいいのか?」
「復元したわ~、飛んで行ったこど」
復元したテープを受け取ったマジシャンは録音された音声を再生した。
(音声データ:録音されていた内容は以下の通り)
「こんにちは、それでは診察をしましょうか」
「はい...お願いします」
乗客が患者に話しかけている音声が残されており他にも流したが不可解なところは何もなかった。乗客はその音声を聞いて自分はやはり関係ないと反論したがマジシャンがあるものを見せると動揺したようにおとなしくなった。
「なぜそれがここに...」
「さあ?なぜだと思う。これはあんたの携帯電話だよ。車掌たちにもあんたにもあえて分かる様に復元させたからね。携帯電話まで復元されているなんて思わなかっただろう?これを流したらどうなるんだろうな~」
「ま、待って!!私は...」
「何もしていないならこの音源を流したっていいよね?」
「おい、待っ..」
マジシャンは再生ボタンを押して音声が再生された。乗客は青ざめて下を向く。
「待たないよ?問題はここからなんだから...よ~く聞けよ。あんたが犯した罪をさ...」
(携帯電話:復元データ)
マジシャンは音量を上げて再生ボタンを押した。すると乗客と女子高生の会話がその場に流れた。
「離してください!!やめて...私は病気じゃありません」
「いや、君は治療が必要だよ。大丈夫...私が治療してあげるから」
「やめてください...いや...いやああああああああああ!!」
聞くに堪えず音声を消したマジシャンは携帯電話を踏みつけ破壊した。青ざめた乗客に一枚の写真を見せた。その写真には抵抗する女子高生を殴り倒している写真だった。
「これであんたが何をしたのかわかるよな?」
「....っ!!」
乗客は突然暴れだし拘束されたまま廊下へ飛び出した。体のあちこちが傷ついたが気にせず逃げようとする。マジシャンは追ってこず乗客は安堵したが目の前に不気味な門が現れて後ろから誰かに引っ張られた。引っ張っていたのはマジシャンだった。マジシャンは乗客を踏みつけながら彼のカルテを廊下にばら撒いた。
「おいおい..逃げるなって言っただろ?逃げなければよかったのに..あんたは逃げた。あんたは精神科医だがまともな仕事はせず適当に仕事をしていたみたいだな?同じ医学界でも目の敵にされていたんだろ?」
「ち、違う...」
「そうか?でもあんたは...それが気に食わなかった。だから診察に来た女子高生を襲って自分は逃げるように自殺した。罪を犯して償いもせず自殺するなんて万死に値する」
「違う!!私は悪いことはしていない。私はただ自分の欲を満たしたいだけだ」
「自分の欲を満たしたいだけで何も悪くないか...ずいぶんおめでたい奴だ。最後に聞きたいことがある。お前は*****の件の関係者か?」
「*****の件の関係者?そんなの知らないし知っていたとしても関係ないだ」
「そうか...もういい」
「え?」
「関係あっても無くてもどうだっていい...見つければいいだけの話だから。魂が黒く濁っていたからもしかしたらと思っただけだ。空振りならいい。*****の件と無関係でも。あんたは助けてくれとやめてくれと言った女子高生をどうした?」
青ざめる乗客をみてマジシャンは嘲笑った。
「それが答えだ。安心しろ。楽には死なせないしさせない。あんたは苦しみ生き続けろ、地獄でな。閻魔聞こえるか?そっちに罪人を送るせいぜい裁いてくれ」
「え、閻魔って...」
マジシャンは言うとどこからともなく低い声が聞こえてくる。その声は"わかった"と返事をした。その声の主はマジシャンに"門を開こう"と言うと同時に門が開いた。
「なんだこれ...」
「これは地獄の門だ...これで閻魔が犯した罪を裁いてくれる。自分の罪の重さを思い知りながら地獄で過ごすんだな...さようなら」
マジシャンは乗客に手を振ると拘束が解けて自由になるが地獄の門から出てきた鎖鎌に手足が絡みつき強制的に地獄に連行された。
「嫌だあああああああああああああああああ...」
「抵抗しない方が...ってもうしてるか。抵抗すればするほど自分の首を絞めるだけなのに...ああ、床が汚れた。車掌に怒られる...」
叫びながら抵抗するが身体中に鎖鎌が巻き付き血が流れる。巻き付かれた乗客は引きずられながら地獄の門に吸い込まれる。あと一歩のところで乗客を門に顔を挟めたマジシャンは笑い無言で蹴り落とした。蹴り落としたことで門が締まり消えた。門があった床には医師の資格書が落ちていた。資格書には黒木大河と記載され顔写真は乗客の血がこびり付いていた。
「堕ちろ......これで一件落着~。さて、やることやったしみんなの元へ帰えろう~と!!」
そう言ったマジシャンの頬に血が付いており指で唇に着けると笑った顔が塗られた血が垂れて不気味に見えた。マジシャンは満足したのか舌で血を舐めとり車掌たちの元へ戻り同時に列車が動き出した。
一方マジシャンと乗客のやり取りを聞いていた車掌たちは...
「そうだったのか...だからカーナさんを遠ざけたのか」
「マジシャンは乗客の前世があの時気づいて私たちを遠ざけたのね。マジシャンが地獄の門番として仕事をするときはあの子にも車掌にも見られなくないものね」
「......」
「あれ?また音声が聞こえるわ!!車掌、聞きましょう」
途切れ途切れだが聞こえてくる音声に耳を澄ましたが音声は切られてしまった。どうしたものかと二人で話していると突然意識を失った。
「...い..お~い...車掌、大丈夫か?」
「マジシャン...あれ?」
「驚いたよ。戻ってきたら寝てるんだもん。カーナさんと二人で車掌室まで運んだんだ」
「そうだったのか、悪いな...」
「いいよ。それに僕も悪いし...乗客の前世を証明したから今は列車が動いてる」
「そうか...いよいよ終点だな。三人が目を覚ます頃だ。三人の眠る部屋に行こう」
「いいよ。僕の聞きたいことがあるから」
車掌はカーナ、マジシャンを連れて三人の元へと向かった。
車掌たちが乗客の部屋に着くと三人は目を覚まし廊下を歩いていた。
「よく寝た~」
「コクコク...」
「そういえば乗客はどうなったんだ?」
「それなら~無事に終わって...ってそう言えば貴方は?」
「そうだよ!それが聞きたかったんだよ。だって終点だよ。もう事件は起きないはずなのに...こんなケースは初めてだよ」
「え?こういう場合どうしたらいい?」
「あなたは...魂が不安定のようですね」
「魂が不安定?」
「そうです。貴方はどうやら自分が何者なのか知らず分かっていないようですね。そのせいか魂が定まらず不安定になっているようです。それでは前世を解明する以前の問題です。しばらくは事件が起きるまで様子を見るしかないでしょう」
「なにか心当たりはある?」
「心当たりと言えば...夢を見るんだ」
「夢って具体的にどんな夢を?」
「女の子が出てくる夢で、ただの夢じゃないような気がして...それにどこか懐かしくて何かを知っているような気がするんだ。けど思い出せず分からないんだ」
「そうですか...もしかしたら夢が何かを伝えようとしているのかもしれもせん。それが分かれば前世を解明するための事件が起きると思います。」
「事件は起きるまで...それまでこの列車にいてもいいのか?」
「そうだね~。このケースは初めてだしどうしたらいいか迷うね。ねえ?こういうのはどうかな!ここは車掌の列車なんだし車掌に決めてもらおうよ」
「いいわね~」
「うんうん!」
「コクコク」
マジシャンの提案に三人が賛成し反応に困る車掌はため息をついた。
「そこ、うるさいですよ。すみませんねあの人たちは気にしなくていいです。事件が起きるまでは一緒に解明するのを手伝うと言うのはどうでしょうか?手伝うだけでのんびり休んでもらって構いませんし、部屋も同じ部屋を使ってもらっても構いません。どうですか?」
「自分にできることはこのくらいだし、何もしないのは癪に障る。前世の事件が起きるまではここで前世の解明の手伝いをするよ」
「ありがとうございます。これであなたもこの乗組員の一員ですね」
車掌はいいながら解明係と書かれたバッジを左肩につけた。
「似合ってるよ、よろしく」
「コクコク...」
「よろしくお願いね~」
「頼んだよ~」
「これからよろしく。車掌、カーナ、グリン、ネム、マジシャン」
とんでもないことに巻き込まれてしまったような気がする。この畏敬の世界で前世の解明を手伝うことになった。この列車がどこに向かうのかは分からないが彼らと共に旅を続けよう。自分の事件が起きるその時まで...
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