五章 表と裏は紙一重

五章_表と裏は紙一重

1.

 これで最後に駅になった。今度こそ自分の番になるはずだ。しかし..列車は一向に止まる気配がない。窓から見える景色は相変わらず荒れ果てている荒野が広がっているだけ。今が夜なのかすら分からない。列車がトンネルを抜けると急に外が暗くなった気がした。


 「いつ止まるんだろう。心配になってきた。少し..暗くなった?気がする。」


もしかすると今は夜で現実世界で言う所の真夜中か。外の景色を見ても寝れる気がしなかった。しぶしぶ部屋に戻り布団に入るといつの間にか寝てしまった。あの少女の夢だった。少女は後ろを向いている。少女に話しかけようとした時突然少女が振り向いた。


 「貴方のせいで、貴方のせいで...私は死んだのよ。この人殺し!」


と言った少女の顔は血まみれで両目から大粒の涙を流していた。少女の顔に流れる血が涙と混ざり地面に落ちていく。その姿を見て鳥肌が立ち後ずさりしようとすると気づけば目が覚めていた。冷や汗が止まらず呼吸をし息を整えた。額に手を当てて夢の少女について考えた。


 「一体何なんだ。訳が分からない..どうして毎回夢に出てくるんだろう」


考えても何も分からず寝ようとしたが寝付けなかった。気晴らしにバーへ向かった。


 「あら~どうしたのかしら?今日はもう終わりよ」

 「眠れなくて...この前に話した夢に出てくる少女の件で」

 「分かったわ。少し待っててね、今ネムを連れてくるわ」


カーナはそう言うとネムを探しに行き入れ替わる様にグリンがやってきた。グリンにもカーナと同様に話をしていた時カーナがネムを連れて戻ってきた。


 「...じゃあ眠れないんだ」

 「そうなんだ」

 「あ、カーナが戻ってきたみたいだね!」

 「おまたせ~ネムにはもう事情を説明しているから大丈夫よ。ネムが一緒に寝て悪い夢を食べてくれるから安心して~」

 「ネムってすごいんだよ。ネムは夢を食料にしてるから、安眠できるし悪い夢は食べてくれるんだよ」

 「グリンは詳しいんだ」

 「うん!よく一緒に寝てるから」

 「そうなの?」


確かにネムを紹介された時に夢を糧としていると耳にしたが、グリンたちが言うような力があるとは思わなかった。もし本当にその力があるのなら試してみたい。カーナがネムに頼むとネムはこちらに飛び抱き着いてきた。


 「ネム、一緒に寝てくれるか?」

 「コクコク...」

 「ありがとう。一緒に寝ようか」


ネムは喜び頷いた。ネムを抱っこして自身の部屋に戻ろうとした時、グリン腕を掴まれた。


 「グリン?どうした」

 「...るい」

 「えっ?」

 「ずる~い!僕も一緒に寝る~!!」

 「グリンも一緒に寝る?」

 「ム~!!僕も寝るの~寝る~!!」


駄々をこね始めたグリンを落ち着かせ三人で寝ることにした。


 「分かった、分かったから。グリンも一緒で三人で寝よう」

 「うん、やったー!!」


喜んで飛び跳ねたグリンを連れてカーナに礼を言い部屋に戻り三人で眠った。不思議と少女の夢は見ることは無く眠ることが出来た。


2.

 列車は進んでいるがまだ止まる気配がない。車掌はバーで酒を飲みながらカーナと会話していた。


 「今回は長いですね」

 「また酒~?好きね~」

 「これがいいんですよ。それに...あれ?そういえば他の皆さんはどうしたのですか」

 「ああ、それならあの子の所にいるわ。あの子と一緒にグリンとネムが寝てるのよ~」

 「そうなんですね。それにしても二人が一緒で懐くのは珍しいですね」

 「そうかしら?案外懐きやすいのかもしれないわね。私達には懐かないけど...」

 「そ、そんなことないですよ」

 「懐いてくれるのを気長に待つわ~」

 「それがいいですね」


カーナとの会話が終わったその時列車も止まりアナウンスが流れる。


 『え~滝川~滝川~列車が止まりま~す』

 「今回で最後ですね」

 「そうね~...しかしあの三人遅いわね~」

 「少し待ってみましょうか?」


しばらく待ってみたが一向に来る気配がなく車掌たちは様子を見に行くと三人は眠っていた。車掌がドアを開けようとしたがドアは固く閉ざされていて開くことは無かった。


 「寝てますか。あれドアが開かない..困りましたね。まさか寝ている状態で列車が駅に着くと他の乗客同様に眠りについてしまうとは...料理長が一緒に寝ているので今回は今までとは違うとして終わるまで寝ていますよ。という事は...」

 「という事は...?」

 「私が最初から最後までやらなければならないということですね」

 「でもそれもともと車掌の仕事でしょ」


ため息をついた車掌に思わずカーナはつっこんだ。乗客の前世を明らかにするため振り向いた時、後ろに乗客が立っていて二人は驚いた。


 「あの...」

 「うわ、驚かさないでくださいよ」

 「驚いてないでしょ」

 「これでも驚いてます。それでどうしたのでしょうか?」

 「実は...遺体があって」

 「それで?」


バタンっと乗客が説明を聞く前に気絶して倒れてしまった。


 「「え?」」

 「どうしたのかしら?」

 「もしかすると血を見るのがダメなタイプかも知れません」

 「え~まさか。冗談よね」

 「とりあえず話を聞くためにも起こしますよ」


カーナは車掌のいう事が信じていないのか乗客を起こしとわざと顔に血を塗って見せた。案の定カーナの顔を見た乗客は再び気絶してしまった。


 「う~ん。あれ...?」

 「目が覚めましたね。先ほどの話を」

 「はい。えっと..」

 「ねえ?」

 「なんですか...えっ...うぎゃああああああああああああ!!」

 「あ、あら~本当に気絶しちゃった」

 「何してるんですか全く...責任取って手伝ってくださいね」

 「分かったわ~」


カーナにウインクをされた車掌は内心不安しかなかった。


「大丈夫か不安です。お願いです。ダメもとでいいですから早く眼を覚ましてください」


車掌は部屋で眠っている三人の様子を覗き呟いた。三人は起きる気配がなく車掌は気絶をした乗客を介抱しつつ前世を明らかにするためにカーナと探索を始めた。


2.

 しかしどこを探しても何も変わらず見つからない。


 「おかしいですね。なぜ何も見つからないのでしょう」

 「そうね~彼は気絶したままだし」


車掌とカーナは困っていた時当然列車内に声が響きだす。


 「フフフフフフフフフ...」

 「ん?カーナさん。今気持ち悪い笑い声がしましたけど違いますよね?」

 「この気持ち悪い笑い声は私じゃないわ~。もしかしたらと思って乗客を見たけど相変わらず気絶してるし」

 「となるとこの気持ち悪い笑い声は彼しかいない」


声のする方へ二人が顔を向けると突然スポットライトが付きどこから出てきたか分からないがカラフルな紙吹雪が舞い散っている。その様子を見た車掌はつっこみ紙吹雪が床に落ちたのを見てイラついていた。車掌がイラついていることを知らないその人物は煙と共に現れた。その際、車掌たちは煙さでせき込み車掌の怒りが倍増する。その人物は両手を広げて登場しなぜが服がゴールドになっていた。


 「それなら私にお任せを!みんなのアイドル、マジシャン参上!!」

 「「......」」


驚いたよりも呆れた車掌はスルーしてカーナを連れてその場を離れようとした。


 「どうだった車掌!渾身のマジックを!」

 「......はあー。他を探しましょうか。ここになにもありりませんでしたし」

 「え、聞いてる~?車掌さん。無視しないで~」

 「そうね~ここには何もなかったわ」

 「待って待って!!まさかスルーしないよね??」

 「......」

 「無視!!」

 「...何も聞こえないわ~」

 「その反応聞こえてますよね!!ねえねえ~悪かったって。せめてなんか言ってよ。悪かったから~」


その言葉を聞いた車掌立ち止った。車掌がマジシャンにふり向き話しかけた。


 「なら...一言やる」

 「な、何~?」

 「まずはここは列車だ。分かってるのか...そのそのお前はそのスポットライトどっから持ってきたんだ。チャラチャラしてなんだその恰好は...ホストか。紙吹雪を飛ばすな...床が汚れた。だいたい...誰が掃除すると思って...」

 「待って!全くもって一言じゃない」

 「なんか言ったか...」

 「何も言ってないです。すみません...」


車掌に散々怒られたマジシャンは正座させらた。車掌はマジシャンにもうしないように注意するとマジシャンは頷いた。


 「もうするなよマジシャン」

 「分かったもうしないよ。ところで何してるの?」

 「切り替えの速さは呆れる。乗客の前世を調べているんだが何も出てこなくてな」

 「ああ~それなら僕が手伝うよ!」

 「何か知ってるのか?」

 「うん。あっそうだった!僕が消していたんだごめんね~」


マジシャンはそう言うと指を鳴らした。すると乗客の前世を解明するものが現れマジシャンの服から落ちた。


 「......おい!」

 「あら~これはまずいわ」


カーナは察したのかマジシャンに車掌を近づけて自分は離れた。


 「なんで離れるんですか、カーナさん。車、車掌怒ってる?ごめん...何か言ってよ」

 「マジシャン...」

 「な、なに?」


恐る恐る聞くと車掌は怒ってマジシャンをその場で投げ飛ばした。


 「全部お前が悪いんじゃないか...馬鹿野郎」

 「グヘッ...す、すみません...」


投げられて目を回したマジシャンを笑うカーナに声をかけた。


 「茶番は終わりました。どうせ消えた時点でマジシャン登場だと思いましたよ」

 「そうなんだ...」

 「感心してないで行きますよ。そこのマジシャンを置いて解明しますよ。予定よりも時間がかかってしまいましたから」

 「は~~~い」


カーナが長い返事をしたあとマジシャンの顔に落書きをした。その様子を見た車掌はため息をつきながら歩きだしカーナは直ぐその後をついていく。その数分後にマジシャンは目を覚まし車掌たちがいないと分かると急いで追いかけた。


 「あ、あれ?車掌、カーナさんはいない...なんじゃこりゃ、猫の落書き!!とりあえず...急いで追いかけないと、待って~置いていかないで~!!前世を一緒に解明するのを手伝うから~」


こうして前世を解明するのに動き出すことが出来る車掌たちであった。

 

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