四章 マジシャンは語る
四章_マジシャンは語る
列車は進んでいるが景色は相変わらず荒れ果ては大地が広がっているだけで何も変化はない。車掌の話ではあと二駅らしいがその実感が湧かなかった。そろそろ自分の番が来てもいいのではないかと思う反面、なぜ自分の番が来ないのかという考えてしまう。普通の乗客とは違って対象の乗客じゃないのに眠ることは無い。そもそも自分の番が来るという事は自分が死んだということだ。その実感がわかない。この列車に乗ってくる乗客は少なからずその自覚がある。しかし..死んだ自覚がなく不思議でならなかった。
「きっとそのうち来るんだろうな..」
部屋で横になりながら考えていた。いつも間にか眠くなり気づけば目を閉じていた。またあの夢を見た。あの少女の夢を...
「約束だよ..必ずね...」
誰かに向かって幸せそうに話している様子だったが肝心な相手は見ることが出来なかった。少女は誰かと小指を伸ばして指切りをした。木の下で約束した少女は笑っているように見えた。不思議なことにその光景はどこかで見たことがあるような気がした。少女の約束...あれはいったい何だったのだろう。
「約束か...」
目が覚めてそう呟いた時ある異変に気付いた。自分の頬が濡れていることに気づいた。触るとそれは涙だった。
「なんで泣いているんだろう。悲しくなんかないのに...」
夢を見たせいか涙の理由は分からなかった。その涙はしばらく止まりそうになかった。溢れる涙を拭い続けた。数分達涙が収まり気分も落ち着いた。私は気分転換しようと思いロビーに向かった。ソファーに座ってしばらく景色を見ていると車掌がやってきた。
「おや?あなたこんなところにいるなんて珍しいですね」
「そうですか?」
「はい。お隣いいですか?」
「聞く前に座ってるし...いいですけど」
「本当ですか!では遠慮なく」
車掌はそう言うと思いっきり深くソファーに座ったので思わすツッコミを入れてしまった。
「ちょっと!遠慮なさすぎじゃあ」
「相変わらずこのソファーは座り心地最高です」
「無視!人の話しを聞いてない!」
「しかもこのソファーは綿なのでももこもこして最高ですよね~」
「おーい!!」
「まあまあ...座ってください」
「座ってますけど!」
「ぷっ...」
「あっ!今笑った?笑ったよね!」
「そんな...笑ってないで..くくく..」
「もう!」
気分転換をするためにロビーに来たはずなのにどっと疲れた。何もしたのか目的を忘れてそうになるほど呼吸を整えた。絡んできた車掌に一言言ってやろうと思い車掌を見た。車掌は何かを考えるように静かに座っていた。やたら静かだと思ったら外の景色を見ていたのか。黙っていたら絵になるくらい美人なのにもったいないな。
「列車はまだ進むのか..」
「そうですね。この列車の旅ももうすぐ終わることでしょう」
「終わったらどうする?」
「...それはお楽しみですよ。それまでにはあなたの前世を解明しているでしょうけど」
「それもそうか」
そうこうしていると列車が止まりアナウンスが流れた。
『え~大宮~大宮~列車が止まりま~す』
「おやおや、噂をすれば」
「大宮?誰だろう?違うな」
「では他の乗客ですね」
「前世を明らかにするか...」
そう言ったものの問題が起きた。確かに列車が止まったはずだ。しかし関連する遺体も乗客も突然消えてしまった。列車が止まったのに乗客が現れないのは何故だろう。
「おかしいですね。こんなことは無いはずです。あるとすれば...」
「あてが?」
「あっ!ここにいたのね~」
「カーナ、実は列車が止まったのに乗客が現れなくて何か知らない?」
「それなら車掌が知ってるわよ~。ほら」
「?」
列車内を隈なく探したが何も見つからず困った私は車掌と共にロビーに戻ってきた。ロビーの廊下で車掌とともに話しをしているとカーナ、グリンがやってきた。カーナの言ったように車掌の方を向くと車掌は鎌を出していた。
「車掌?車掌...え!!なんで鎌出して」
「危ないから下がったほうがいいわ」
「コクコク...」
「ってことはあの人だよね~」
「あの人?」
「彼は車掌の古い友人でね。彼は地...」
カーナが話していた時に車掌は天井を見ると何かを確信し天井に鎌を降り上げて穴を開けた。
「ええええええええええええ!!な、何して...」
思わず大声で叫んでしまったがその直後に誰かが天井から落ちてきた。
「ええええええええええええ!!な、何して...」
「って天井から何かが降ってきた!!」
堕ちてきた人物はノロノロ起き上がり立ち上がった。しかし天井に穴が開いた事とこの人物は落ちてきた事により埃が立ってしまい顔が見えなかった。カーナが窓を開けると埃は外に出ていきやっと目の前に人物を見ることが出来た。その人物は手を上げると大声で言った。
「サプライズ!どうだった?僕のトリッ...」
トリックという前に車掌が蹴り飛ばして立ち上がった所を殴った。
「車掌!何して...」
「痛いじゃないか!」
「仕事の邪魔をするな...だいたい遺体や乗客を隠してどうする」
「ごめんごめん~癖で!!」
「また叩くぞ」
「お~怖い怖い~」
車掌と謎の人物のやり取りはしばらく続いていた。その光景を見て固まっていた。よく分からない私にカーナたちが説明してくれた。
「何なんだ...あの人」
「あの人はマジシャンだよ~」
「マジシャン?」
「そうだよ。乗組員じゃないけど、よくこの列車に乗って悪戯してるんだ」
「という事は今回も悪戯して乗ったのね」
「そうです!適当にアナウンスをしたけど、列車は僕のイリュージョンで止めたよ」
「嘘つけ。ただレバー捻っただけだろ」
「バレたか。相変わらずつれないね~」
「レバーで止められるのか...」
列車を止めているのがレバーだとは思わず驚いた。この列車ってレバーで止められるらしいが車掌が止めている所は見たことがない。大方自動でも止めることが出来るのだろう。しかし事件が起きないのならこの駅ではどうなるんだろう。車掌と話しをしていたマジシャンがこちらに気づき話しかけてきた。
「なら今回は前世の乗客はどうなるんだ...」
「うん?君は誰だい?初めて見るね~」
「え、えっと...」
急に話を振られて答えるのに困っていると自分とマジシャンの間に車掌が立った。
「何してるのですか?あなたが急に話を振るから混乱してしまったんですよ」
「ごめんごめん~。君は面白いね。今回は僕が訪問者だから事件は起きないよ~気楽にいこうか!」
「行く前にお前が帰らないと進むものも進まん」
「いいじゃないか~このまま動かなくても~」
「...よし分かった。外へ放りこんでやる」
ハイテンションでこちらにガッツポーズをした前に対して、テンションが低い車掌は真顔だったが顔が引きつりマジシャンを外へ放りこもうとした。
「分かった、分かったから!!じょ、冗談だって」
「はあ...彼はこう見えて地獄の番人なんです」
ため息をした車掌はマジシャンについて説明していた。地獄の門番とも言われている彼は地獄を管理している。この列車で魂を地獄に送った後の魂たちを地獄に連れていきその罪を裁く仕事で閻魔の補佐もこなす。
「成程、すごい人なんだ」
「そんなことないよ~」
「彼は地獄の№2なんですよ。これでも」
「その言い方ひどくない~。まあそうだけどマジシャンでもあるよ。トリック好きなマジシャンさ。それに車掌と違うことがあるよ」
「何が違うんだ?」
「僕は君と違って~イケメンの唯一無二の地獄の門番だから~」
「おい!」
キラキラしたオーラを纏いながら車掌に言ったマジシャンに対して怒った車掌は彼を蹴り飛ばした。確かに少しマジシャンのセリフはイラッと来たが車掌が彼を列車から出したことで内心すっきりした。マジシャンが列車から出たことで再び列車が動き出した。
「大変なんだな。ま、まあ車掌もイケメンだと思うよ」
「無理して言わなくてもいいですよ」
「何で悲しそうんだ」
車掌は悲しげに下を向いた。もしかしてマジシャンに言われたことを気にしているのかもしれない。車掌に話しかけようとした時、マジシャンの声が聞こえて辺りを見回した。
「どこだ?」
「それはね~」
「マジシャンの声がするよ」
「窓を見たらわかるわ~」
カーナに言われた通り窓を見て見るとマジシャンは窓に張り付いていた。
「怖!!なんで張り付いて...」
「逆にすごいね~」
張り付いているマジシャンの口元をよく見るとマイクがついていた。先ほどの声もそのマイクから聞こえてきたものだろう。
「彼はね~モテたくてもモテないんだ~」
「イラっ!!そろそろいい加減黙れ...」
「あっ!あ~れ~~~~~~」
車掌はそう言いながら張り付いている窓を叩くとマジシャンの手は離れてどこかへ飛んで行った。
「どうやら空の彼方へ消えたようですね......ざまあ見ろ」
「今..小さいこえでざまあみろって言った?」
「(以外と車掌は根に持つタイプなんだな)」
と、口には出さなかったが心の中で思った。列車は動き続けて...そして...ようやく次が最後の駅になった。
『四章 マジシャンは語る』(終) NEXT→ 『五章 表と裏は紙一重』
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