三章 女優の確執
三章_女優の確執
1.
「どうすればよかったのか..もうわからないよ。私は一体なんのために生まれてきたの..」
泣き叫んだ少女は首を吊ろうと試みるが失敗しその場で泣き崩れた。少女は床に落ちていたカッターナイフを拾い手首に当てる。
「どうして...どうして死ねないの...私は!!」
切ろうとしたのを止めようとした時目が覚めた。
「夢か..何なんだろう。今のまただ。またあの女の子が出てくる夢だ」
自分がなぜその夢を見るのかわからなかった。少女は一体誰で何者のなのか。分かっていることは自分の前世と関係していることくらいだろう。自分は誰で彼女とどのような関係なのかは分からない。分かるとするらならばきっとその時は自分の前世を明かす時だから。
夢が気になり眠れずバーに行くことにした。ノックをして中に入るとカーナがいつもの通り自身の血で酒を作っていた。
「あら?どうしたの眠れないのかしら」
「そんなところ...」
「なら~そんな時は何か飲む?」
「せっかくだけど...いらない」
カーナは嬉しそうに聞いてきたがあいにく喉は乾いておらず断った。カーナは心配そうに聞いてきた。
「そう?大丈夫なの?グリンの料理も食べてないけど平気なの?」
「全然平気。お腹すいてないし」
「あら..そう?お腹がすいたりのどが乾いたらすぐ言ってね」
「ありがとうカーナ」
「いいのよ。それでここに来たのは何か理由があるんでしょ?お姉さんに話してごらん」
カーナは嬉しそうにカウンターから身を乗り出した。娯楽がないため眠れなかったり暇つぶしをするたびにバーを訪れるようになり、次第に気軽に話せる中になった。以前乗客のことで忠告やアドバイスもしてもらったこともあり相談するならカーナが適任だろう。グリンは知らなそうだし、車掌はふざけたり笑われそうだ。相談できるのはカーナしかいない。
「実は気分がすぐれなくて、夢を見るんだけどその夢に出てくる少女の夢が」
その話をするとカーナは動きを止めこれらを真剣に見つめていた。どうしたのか分からず声をかけるがすぐにいつもの様子に戻った。
「少女の夢を見るのね。うなされるのかしら?」
「そこまでじゃない。ただ夢の中にでてくる少女がとても悲しそうなんだ。可哀想で助けようと手を伸ばすんだ。そこで毎回目が覚めて」
「成程~。ならあの子にお願いしようかしら」
「あの子?」
「おいで~ネム!」
カーナが言うとドアの近くにつけられたベルが鳴りバーに誰かがやってきた。現れたのは悪魔のような尻尾に天使の羽を生やした小さな子ども?だった。体の半分が男の子でもう半分は女の子になっている。
「ウトウト...」
ネムと言われた人物は眠いのかウトウトして立てつくしている。どうしたらよいのか困っているとカーナがネムについて説明してくれた。
「紹介するわ!この子はネム。二人で一つの体を共有しているの。女の子が天使で男の子が悪魔の夢を糧とする小さな神様なの。大人が嫌いで車掌や私の言うことは基本聞いてくれないのよ。呼んでも滅多に来てくれないし...だけどグリンと仲が良くてよく遊んでるわ。でもこの子は夢の神様だから夢がないと今みたいに寝ちゃうのよ」
「そうなんだ。だから」
思い切ってネムに話しかけてみる。
「こんにちわ?なのかな..とりあえずネム君?ネムちゃん?えっとよろしくね」
そう言うとネムはじっとこちらを見た後お辞儀をしてどこかへ行ってしまった。
「え?行っちゃった?」
「ごめんね~。あの子は照れやなの。列車が止まれば起きると思うの。もう少し待ってね」
いいのか悪いのかよく分からない。夢の神様なら少女のことも分かるはずだ。列車が止まるまで待つことにした。すると列車が止まった。
『え~来須~来須~列車が止まりま~す』
と、アナウンスがなると同時にバーに遺体が現れた。
「まさかここに来るとは」
一瞬驚いたがすぐにこの異様な状況にも慣れた。遺体をみるとその遺体は女性だった。調べようとした時、乗客の男女二人組がやってきた。女性はお洒落な恰好で男性はそれと比べて冴えないスーツを着ていた。女性の乗客になにやらペコペコしている。
「いい加減にして!」
「すみません。しかし...」
その様子をカーナと二人で見て二人に聞こえぬように小さな声で話す。
「なにか揉めてる...」
「行ってみましょうか」
カーナと二人で話しかけようとするが乗客の女性が怖くて話しかけずらい。
「なんというか...気難しそうね」
「今回大丈夫かな...」
前回と違い今回の乗客は骨が折れそうだ...
2.
今回の乗客は温度差があり話しかけずらい。どうしようかと思ったとき女性の方がこちらに近づいてきた。
「貴方!」
「はっはい!」
「貴方は乗組員なの?」
「違います!」
「そうなの?」
いきなり話かけられ思わず敬語になった。急に何なんだ。びっくりした...と心の中でそう思う。てか何でこの人そんなに私のことじっと見てくるんだ。怖いし冷汗が止まらないんだが...
「確かに違うわね」
私のことを見つめていた彼女が離れた。思わず深いため息を吐いた。
「カーナ..これからどうし...っていない!」
「カーナ..一人だけ逃げたな!!」
静かだと思ったらいつの間にかカーナの姿はなく私を置いて逃げた。逃げたカーナに苛立っていると乗客の男性に声を掛けられた。
「あの...」
「えっと..あなたは確か前世を解明する乗客でしたよね。先ほどの女性と一緒に居た」
「はい。すみません..さきほどは彼女が」
「いえ..その...何と言いますか..気の強い方ですね」
「あ..ははは...彼女いつもあんな感じで...」
「いえ..大丈夫です。貴方は彼女の?」
「詳しくは分かりませんが彼女にはなぜか頭が上がらなくて...弟子かアシスタントでしょうか?」
「確かにそんな感じがして..あ!あの人」
乗客の男性と会話をしていた時に女性の乗客がネムに声を掛けていた。
「貴方!乗組員な..子供?眠いのかしら?」
どうするのだろうと観察していたらネムを抱えてカーナの元へ走っていた。
「あっ連れてちゃった。どうします?って居ない」
一連の動きを見ていた私は隣にいた乗客に話しかけたが既に居なかった。どうやら女性を追いかけたようだ。私もカーナの元へ行くとネムは寝ていて女性の乗客はカーナの酒で酔っていた。
「あんただったバーメイドだったのかい!このウイスキー最高だね~」
「それはどうも~これはおごりよ。ほら」
「ありがとさん。さあ~じゃんじゃん飲むわよ~」
「えっなんか..性格が違うような」
女性の乗客の態度の変化に戸惑った。どうやら彼女は酒を飲むと上機嫌になり性格が変わるようだ。グリンが作ったつまみを嬉しそうに食べながら男性の乗客に絡んでいる。男性は直ぐに酔ってしまった。
「巻き込まれてる..」
「彼はお酒が弱いけど彼女は強いのね」
「このウイスキー最高~」
「この人...死んでるんだよな?」
驚くほど元気な様子だった。
「どうやら彼女は酒で性格が変わるようですね。服から見てもセレブのようです」
「確かにそうだ。首につけている真珠が離れていても輝いて見えるし...」
いつの間に居たのか知らないが車掌はさりげなく酒を飲んでいる。相変わらずだなこの人。いや..人ではないのか。車掌の言うように彼女の首元には青く輝いている真珠がつけられている。
「何かわかりましたか?」
「全然...それから」
話の途中で男性の乗客が倒れてしまい車掌と二人で部屋まで運んだ。二人で何とか部屋のベットまで寝かせて一息ついた。
「しかし...お...重いですね..」
「しゅみましぇん」
「完全に酔ってる」
「とりあえずこれで大丈夫です。それでは戻りましょうか」
「そうですね」
車掌と共に男性の部屋出ていこうとした時に彼の言葉に耳を疑った。
「僕が上手く...彼女を殺せれば...」
「え...今なんて」
咄嗟に振り向く彼を見るが寝むっている。気のせいだろうか?分からない。立ち止まった私に車掌が声をかけた。
「どうかしましたか?」
「いや..何でもないです。ただの気のせいです..多分..」
私と車掌は彼の部屋を後にした。
3.
先ほどのことが気になりつつバーに戻った。女性の乗客は酔いつぶれカーナが部屋まで運んだようだ。カーナとグリンは女性の乗客について話しておりネムは何かを食べていた。
「あの後彼女も酔いつぶれたから運んでおいたわ」
「すご~い元気だったね!」
「そうだったんですか。少し見て見たかったです」
「パクパク」
「ネムは何を食べているだろう?」
食べている様子が気になり傍でも覗いてみると紫色の綿飴のようなものをナイフで刺して食べていた。美味しいのかと思いつつ見ていると車掌が説明してくれた。
「おや?ネムは起きたようですね。ネムは人の夢を食べるのが主食なのです。ですからこうして食べているわけですよ」
「そうなんだ」
「しばらくは腹も満たし前世探しに協力してくれると思いますよ」
「それは心強い」
私はそっとネムの頭を撫でた。ネムは気にせず食べていたがその様子を見ていた車掌は少し落ち込んでいた。
「なんで車掌は落ち込んでいるんですか?」
「どうして懐かれているのですか。私なんかものすごく嫌がられるし、無視されるのに」
「そうですか?こんなにいい子なのに?」
「それはあなただからですよ!!」
どうやらカーナの言っていたことは本当らしい。ネムは車掌やカーナに懐かず仲がいいのは子どものグリンだけなので懐かれたのが相当ショックだったのだろう。先ほどからこちらを羨ましそうに見てくる。
「貴方も同類だと思っていたのに...」
「なんか失礼なこと言ってないですか?」
「気にしちゃダメよ~」
同じように懐かれていないカーナにも言われる始末だ。可哀そうだと思ったがここは無視しようと決めた。その後ネムは食べ終わり手を広げてきた。どうやら自分に抱っこして欲しいらしく抱っこをした。ネムは相当嬉しかったようで頬をすり寄せ悪魔の尻尾は揺れていた。相変わらず車掌はその様子を見て嫉妬していたので無視してバーを出た。ネムはバーを出ると指を指す。その場所は乗客たちの部屋だった。
「どうしたの?」
「おや?何かわかったようですね」
「車掌!いつの間に」
「いつでしょう!なんて言うのは冗談ですがどうやら何か起きたようですね。ネムが指を指すと乗客の前世について変化が起きるのです」
「なら行ってみよう」
車掌に言われた通り乗客たちの部屋に行くと男性の部屋には首を吊った遺体と遺書が置いてあった。
「遺体が...」
「駅で現れる遺体は本来は一つですが場合によっては今回のように現れるケースもあるのです」
今回は前世と関連した遺体が出てきて驚いたが車掌の言うならそうなのだろう。現に当の本人は眠っている。自分の部屋に死に関する遺体があるのに肝が据わっているようにも思えた。結局調べたが何も分からず一度部屋で休むことにした。ひと眠りをして再びバーに行くとカーナから女性の乗客が亡くなったことを告げられた。
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