二章 本当の家族

二章_本当の家族 


 「助けて!私はこんなはずじゃなかった...」


 暗闇の中で少女が泣いていた。白髪でセーラー服を着ていた少女の顔は見えなかった。泣いている少女は誰かに向かって手を伸ばそうとしているように思えた。少女の伸ばす手を掴もうとした時目が覚めた。


 「はあはあ...何だったんだろうあの夢」


謎の少女が出ていた夢は何故かただの夢のようには思えなかった。しかしそれを気にする暇もなくに列車が止まった。どうやら駅に着いたようだ。


 「また始まるのか...」


というと同時にアナウンスが流れた。


 『え~旗本~旗本~列車が止まりま~す』


聞こえるアナウンスと共に乗客たちは各自の部屋で戻り眠ってしまった。私も二度寝しよう思ったが寝付けず眠るのを諦めた。部屋から出た私は行く当てもないためロビーへ向かった。


 ロビーに行くと車掌の他に乗客が三人いた。どうやら親子のようで幼い二人の女の子と母親が車掌と話しをしていた。


 「おや?いい所に来ましたね」

 「いい所?」

 「はい。アナウンスが鳴り列車が止まったことは知っていますか?」

 「先程ちょうど目が覚めた時に列車が止まってアナウンスを聞きました」

 「そのようですね。実はもうお気づきかもしれませんが今回前世を解明するのはこの方々です」

 「成程...今回は親子ですか」

 

私が親子を見ると母親は私と車掌にお辞儀をする。母親の真似をするかのように双子もお辞儀をした。双子につられて私と車掌も小さく頭を下げた。


 「そうなんです。よろしくお願いします。私たちの前世を解明してください」


 母親がもう一度お辞儀をすると傍にいた双子も口をそろえて言った。


 「お願いします」

 「お願いします」

 「かしこまりました。わたくし共で前世が解決できるように努めましょう」


 車掌がそう言うと双子は嬉しそうにロビーを走り回った。その様子を母親は楽しそうに見ている姿はなんだか切なくなる。


 「この親子が死んでしまったなんて悲しいな..」

 「そうですね。しかし前世を解明するのも仕事ですので」

 「そうですね...」

 「あなたは違いますけど」

 「!」

 「それでは...よろしくお願いしますね」


 車掌はそう言うとロビーから立ち去った。大方酒を飲みに行ったのだと思う。


 「あっ...カーナのバーに酒を飲みに逃げたな」


車掌の行動の速さに少々呆れるが親子の前世を明らかにするには何をすればいいのだろう。ロビーを見るといつの間にかグリンと遊んでいる。グリンの頭をボールにして蹴ったり腕をもったり遊んでいるらしいが本人はいいのやら。母親的にも子供的にもグリンの頭や腕は怖くはないのだろうか...


 「元気があり余ってるね。あ~」

 「わ~い!お兄ちゃん面白い!!」

 「頭だ頭だ~」

 「よ~し!僕の頭でサッカーだ!!」


 当の本人は楽しそうに遊んでいたが思わず言葉が口に出た。


 「いいのかあれ...」

 「本人が喜んでいるからいいんじゃない?」

 「いいんだ...」


戸惑う私とは対象にカーナは冷静に答えた。


 「何から何まですみません」

 「いいのよ~。これが私たちの仕事だから。ゆっくりしていいのよ~」

 「ありがとうございます。前世を解明してもらうだけでなくこの子達の面倒まで本当になにがないやら...」

 「困った時はお互い様です。」

 「ありがとう...助かるわ。自分たちの番になった時本当は不安だったの。でも少し和らいだわ。」

 「それは良かったわ~」

 「はい...私は前世のことは覚えていないけどこれだけははっきり覚えてるんです。私は子供が出来なくてこの子たちを養子に向かえたんです」

 「そうなんですか!」

 「はい。それ以外はこの子たちが私の娘であり、私が母親ということしか知らないの」

 「!」

 「そうなのね。教えてくれてありがとう。あなたは前世について全て思いだしたわけではないのね」


カーナの問いに母親は頷いた。前世を解明する乗客が前世探しの途中で思いだす場合は車掌から聞いたことがある。前世を調べる前から覚えている場合はどうなるのだろうか。この乗客は一部だけ覚えていた。その場合前世を解明するのに影響はあるのだろうか。私は不安になりカーナを見た。私の視線にカーナは気づく。


 「安心して大丈夫よ。前世を解明する乗客が一部の前世を覚えていたり思いだしても前世を解明するのに何の影響もないわ」

 「そうなんですか。それを聞いて安心しました」

 「だから安心して前世を解明していいのよ。」

 「それなら良かった。これで前世を安心してできそう」

 

私はカーナの話しを聞いて安堵したがその瞬間とある疑問が頭の中を過る。"一部ではなく全て思いだしたらどうなるのだろう"と...。カーナに聞こうとしたが母親の乗客の言葉に遮られた。


 「もし..「私は母親失格ですね」え?」

 「分からないんです。でもきっと後悔するのでしょうね。私ははなぜ死んだのか?この子たちは何故死ぬことになったのかと」


悲しそうに話す彼女の顔は残念ながら見ることは出来なかったが震える声や様子から子を思う紛れもない母親の姿を見た。本当に後悔しているのだろう。自分の手を強く握りしめている。その姿を見た私は何も言えなくなってしまった。しばらくすると遊び終えた双子はオレンジジュースを飲み疲れて寝てしまった。


 「寝ちゃったね。僕にもジュース!!」

 「はい。どうぞ」

 「ありがとう~。やっぱりカーナの出すジュースはおいしいな!」

 「それはどうも」

 「お疲れ様、グリン」


グリンがオレンジジュースを飲み一休みをした私たちは前世を解明するヒントを探すことにした。母親の乗客と共に前世を解明しようかとも考えたが双子のことをあるため一度親子の部屋に向かった。


 「ありがとうございます。この子達を運んでいただけて」

 「いえいえ。一人だと大変ですから」


 私は母親の乗客と双子を寝かせた。部屋は私と広さは変わらないが心なしか広く感じる。大きなベットやおもちゃが床に落ちていた。


 「散らかってすみません」

 「そんなことないですよ。楽しそうでなによりじゃないですか」

 「そうですね」


双子を起こさないよう二人で静かにヒントを探し始めた。机に飾られていた写真立てが目に入る。乗客の彼女も飾ってある写真立てを見ると手に取った。見ると相変わらず顔は見えないが楽しそうな親子が映っていた。


 「楽しそうですね」

 「ええ!顔は見えませんが可愛いですね」


親子を見ると母親は一般的な水玉模様のシャツにジーンズというラフな格好だった。双子も仲良くおそろいの紫と青のワンピースを見ている。仲がよさそうだった。乗客の彼女は眠る双子の頬に触れていて幸せそうだった。双子は彼女に任せて部屋を調べているとある新聞を見つけた。


 「赤子が攫われたなんて物騒な事件だな。無事だといいけど」


新聞には病院から赤子が誘拐されたという内容の記事の者だった。少し引っかかったのは赤子についての内容だった。記事には"○人の双子"と肝心な部分は暗く塗り潰されていた。人数は不明。他には何かないかと探していた時写真を見つけた。


 「これは写真だ。」

 「あれ...なんかおかしくないか」


写真を見るとどこか違和感があった。写真には双子が映っていた。何の変哲もない写真に見えたがよく見ると奥に人が映っていた。気になって他の写真を見て見るとやはり映っている。写真に写る人影に気を取られていた時あることに気づいた。


 「そういえば列車が止まったていうのに乗客と関連した人の遺体が出てきていない」


その異変に気付いた時背後から腹が鳴る音が響く。私が振り向くと乗客の母親は恥ずかしそうに私に言った。


 「すみません。お腹がすいたので料理長に料理を作ってもらいたいのですが...一緒に行ってもらえますか?」

 「いいですよ。案内しますね」

 「お願いします」


 二人でグリンのいる料理長室へ向かうとグリンはおらず部屋明かりがついていなかった。


 「暗いですね」

 「今明かりをつけますよ。ってどこにスイッチがあるんだ?」


 スイッチを探しているが中々見つからない。


 「どこにあるんだ?」

 「見つからないですね...痛い!!」

 「大丈夫ですか!!」

 「大丈夫です。何かにぶつかったみたいで...」

 「そうですか、ならよかった」


ドンと何かがぶつかる音が響いた。見えないせいか乗客の彼女は何かにぶつかったようだ。手探りで探しているとようやくスイッチを見つけた。すぐに電気がついて辺りが明るくなった。


 「電気付いたみたいです...ね」

 「はい。どうしました?」

 「うっ後ろに」


部屋が明るくなり母親の乗客を見ると"あるもの"が目に入り衝撃で動けなくなってしまった。私が恐る恐る指を指すと母親の乗客もゆっくりと振り返った。そこには首を吊っている遺体があった。


 「きゃあああああああああ」

 「ロビーじゃなくて...此処に遺体が...」


 自分たちが戦慄し動けずにいた時車掌が現れた。


 「やっと遺体が上がりましたか。遺体が現れるのは未知数ですから...でもこれで証拠が切り替わるころですね」

 「なら部屋にいけば何かが変わってるのかもしれない。一度戻ってみませんか?」

 「そうですね。では行ってみましょう」


 乗客の彼女にそう話しかけた時彼女はこう呟いていた。


 「この人どこかで...」

 「どうしたんで.」


 どうしたのかと聞こうとした時だった。ある場所から悲鳴が聞こえてきた。その場所は...


 「あの子達の部屋からです!!」

 「!」

 「急ぎましょう」


急いで駆けつけると泣いている双子たちがいた。傍には双子と母親が包丁で刺されて死んでいる人形が置いてあった。


 「「ママ!!」」

 「「怖いよ...」」

 「大丈夫よ~この子たちをバーで休ませます!!」


 双子は泣きついて彼女の元へ駆け寄り彼女は双子を抱えバーへ向かった。その場に残った車掌と二人で部屋を見た。


 「今回も酷いですね」

 「あの親子は刺されて殺されたんだ」

 「心臓一突きですか...」

 「え?」


車掌が言うようにこの親子は心臓を刺されて殺されていた。他にも調べてみたがそれ以上何も分からなかった。


 「親子が殺された動機と経緯が分からない」

 「そうですね。でも意外とどこかに散りばめられているのですよ」

 「そういうものなんですか?」


車掌が言うように小さなことが証拠に繋がるのだろう。今回は証拠が少なすぎだ。車掌は親子の映る写真を見ていた。


 「この写真は顔は見えませんが幸せそうなですね。あの親子のことですが父親はどうしたのでしょうか?」

 「確かにそれは聞いてなかったです」

 「まだ気分を害されてバーにいるのでしょうから私たちの行きましょうか。個人的にカーナさんに用がありますので...」

 「それって酒で..」

 「行きましょうか」

 「なんでそっぽを向くんですか!」


 車掌は目をそらしてごまかした。そんな車掌を横目で見つつバーに向かった。バーには親子がいたが双子は眠っていた。


 「あら?ちょうどこの子たちが寝たところよ」

 「そうなんですか。カーナさんいつものお願いします」

 「はい。どうぞ」

 「ありがとうございます。これですよこれ!これじゃないとやっていけませんから」


 そう言いながら酒を飲もうとする車掌の酒を取り上げた。


 「関係なく飲んでるでしょうが!」

 「ぎくっ...ぜっ前世について何か思い出しましたか?」

 「これと言って思い出せなくて」

 「誤魔化した...あっ!酒飲んでる...」


誤魔化した車掌に呆れていると不意を突かれて酒を奪われた。車掌はなにくわぬ顔で飲み腹が立つ。酒を飲んだ車掌は何もなかったかのように乗客の彼女に父親のことを聞いた。父親については何もわからないと言う。乗客の彼女は気まずそうにお辞儀をした後休むことにした。車掌が休憩室に彼女たちを案内した。車掌は戻ってくると何かを確信したように言った。


 「これではっきりしました。彼女たちに親はいません」

 「親はいないってどういう意味ですか?」

 「父親のことですよ。あの写真の撮り方はすべてあの母親が撮ったものでした」

 「だから...思い出せないのか」

 「でしょうね...厳密に言えば本当の家族はいないことになります」

 「本当の家族?」

 「乗客の前世が分かりました。あの親子をここへお願いします」


 車掌のアナウンスにより親子はロビーに集められた。


 「前世が分かったんですか!」

 「はい。あなた方親子の前世が分かりました。」

 「あなた方の前世を..あなたは双子を誘拐した誘拐犯で本当の親子でも母親でもありません」

 「何言ってるんですか!そんなわけ」

 「では..これから解明していきましょうか。貴方の罪の前世を」


 車掌はそう言うと乗客の前世について話し始めるのだった。


 「まず最初にこれを見てください。これをみればはっきりします」


 車掌が母親の乗客に見せたのは新聞紙だった。新聞には誘拐事件のことが記載されたいた。


 「確かにその新聞のように誘拐事件が起きて赤ちゃんが誘拐されたとか、攫われて現在も分からないと書かれています。それが何だっていうんですか」

 「この新聞には誘拐された赤ちゃんの人数が黒く塗られて消されているんです。おかしいと思いませんか?」

 「おかしい?どこがですか」

 「もし仮に攫われたとしましょう。一人攫われたら一人と書きますか?」

 「え?どういうことですか」


 乗客の彼女は車掌の言ったことが良く分からずカーナが車掌に代わり説明した。


 「分かりにくそうだから私が説明するわね。もし..一人の赤子が誘拐されるとして人数は書かないんじゃないかってこと」

 「そういうことです。人数が書かれるということは」

 「攫われた赤子の人数は複数人ってことですね」

 「で、でもそれだけじゃ証拠にならないわ!」

 「次にこの写真を見てください」


車掌が次に見せたのは人影が写りこんでいる例の写真だった。車掌が持つ写真には人影でなく奥に映っている人物の顔がはっきりと映っていた。その表情は不気味にこちらを睨んでいた。


 「この写真に写った睨みつけている女性は誘拐犯である貴方を睨んでいたのではないでしょうか?」

 「そんなわけないですよ!」

 「でもよく見てください。この女性と双子たちを見るとどこか似ていませんか?」


車掌に指摘されると乗客は態度が急変する。双子を誘拐していないと認めず反論する。もしも車掌の言うことが正しいならば三人が死んだ原因は納得がいく。


 「じゃあ!私達が刺されたのはこの人に殺されて」

 「厳密に言うと違います。これは私の推測ですがあなたはバレてしまったのではありませんか。そして殺してしまったと」

 「あなたは推測で誘拐犯にしたいんですか!」

 「ならなぜ...あなたの部屋には壊された携帯電話と整形した書類が捨てられていたのですか」


車掌はそれらを乗客に見せつけた。車掌は調べていた時に見つけたらしい。それを見せると母親の乗客は反論できなくなった。


 「貴方はあの時...自分たちの再現された人形をみて思い出してこれらを隠そうとしたんですよね」

 「でもどうして!見つからないところに隠したのに」

 「確かに私ならわかりませんでした。けど...この列車にはいるのですよ。体のあちこちをバラバラにして隅々調べることが出来る者が」


車掌はそう言ったときグリンがロビーにやってきて車掌にあるものを渡した。


 「車掌~おまたせ。言われた通り体をばらして車内調べたよ~。これが復元した携帯電話と整形した書類ね~」

 「ありがとうグリン」

 「成程...だから今回はグリンがいなかったんだ」

 「はい。あまりに証拠が出ないのでグリンに手伝ってもらいました」

 「なんで...」

 「彼は料理長ですが物を直して修理するのが得意なのですよ。その証拠に再生しますか。あなたが犯行に及んだ動機を」

 「ま、まって!」

 「はい、再生~」


グリンがボタンを押すと音声が響き渡った。


 『見つけたわよ。私たちの子供をかえして』

 『それはできません旗本さん』

 『誘拐して整形までして...許さないから!警察にはもう連絡したから貴方は終わりよ。覚悟しなさい!』


と言葉を最後に音声は終わった。


 「旗本さんってことは双子の本当の苗字がこの駅の名前だった」

 「......」

 「どうやらこれで白黒着いたようですね。あなたは双子を誘拐し顔を整形して逃亡した。しかしそれが本当の母親にばれてしまったのですね。そして双子を道ずれとして殺した」

 「子どもたちを養子に向えたのも嘘だったなんて..誘拐して道ずれに殺したなんて最低だ。なんでそんなこと!」


乗客にそう言うと乗客は叫んで反論した。


 「うるさい!貴方にはわからないわ!!子供を持ちたくても持てない母親の気持ちなんて!!」

 「分かりたくもないですね。貴方のような犯罪者の気持ちなど...この世にはあなたのように苦しむ女性がいるのは事実です。彼女たちが血を滲む努力をしていることもその大変さや彼女の願いをあなたは踏みにじったんです。」

 「あなたが誘拐した双子の母親はあなたと同じく不妊治療をしていました。やっとの思いで二人の女の子を身ごもったんです。あなたはその努力を辛さも知っているはずなのに踏みにじったんです。」

 「大罪を犯して双子を誘拐し母親と偽った。それだけでなくあの双子を道ずれに手にかけた。そのようなことはあってはならないのです。貴方を地獄に追放する」


 車掌はそう言って鎌を持ち彼女に振りかぶろうとした。しかし双子が庇うように立ち鎌を下した。


 「貴方たち..」

 「そこをどきなさい!」

 「いやだ!私たちのママよ」

 「ママを守るの!」

 「その人はあなた達の本当の親ではないのですよ。貴方たちを誘拐して本当の親に気づかれてあろうことかあなた達を殺したんです」

 「それでも私たちのママよ」

 「本当じゃないことくらい知ってたよ」

 「「「「「!」」」」」


その言葉を聞いてこの場にいた誰もが驚いて双子たちを見た。車掌は双子に真実を伝え退くように何度も説得するが双子は折れなかった。


 「「ママはこの人だもん。本当とか違うとか関係ないもん!!ママを連れて行かないで!!」」

 「...車掌」

 「貴方たちあぶないから下がって」

 「......」


車掌はそのやりとりを見て下を向き何かを考えた後深いため息をついた。


 「...わかりました。せめて痛みなく連れていきます。きちんと罪を償えば天国にいきこの子たちと会えますから」

 「ありがとうございます」


車掌は鎌をしまい魂を導き準備を始めた。親子は魂が別れるまで抱きしめ合っていた。母親は地獄に双子は天国にそれぞれの魂が送られていった。


 「なんか胸糞悪いっていうか...複雑な気持ちになりいました」

 「どんなに悪い人でも本当の親でなはく自分たちを誘拐した本人であっても子供にとってはそれが母親なのよ。母親を守ろうとする...それがあの親子なのよ」

 「本当の親子じゃなくても確かにあの親子は本当の家族だった。双子を守りたいと思うのは偽りじゃなかったと思う。たとえ嘘で固められた真実でも...」

 「.....」

 「車掌?」

 「私はそれが本当の親子だと思いません...それが例えどんなに形になろうとも...それでは列車が動きます。ご注意ください」


 カーナの言うことも車掌の言うこともどちらも分かる。どちらが正しくて間違っているわけではない。真剣に話すカーナと悲しそうな顔をする車掌がしばらく頭から離れずにいた。それを無にするように列車はまた動き出した。親子の部屋ではなくなった部屋の床に双子の名札と母親の免許証が落ちていた。


 「旗本千鶴と旗本千秋。母親が林千奈美か。確かに幸せそうに笑ってるな」


笑っている写真を見ると複雑な気持ちになってしまう。もし..罪を償ったら来世で本当に幸せになって本当の血のつながった家族になれるのだろうか...そんなことを消えていく写真たちを見て考えていた。どこまで続くかわからないこの列車は一体どこまで行くのだろう。終わりはあるのか?自分は一体どんな前世なのだろうか?その答えは自分の番にならないと分からない。

『二章 本当の家族』(終) NEXT→ 『三章 女優の確執』

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