一章 気まぐれな殺人鬼

 一章_気まぐれな殺人鬼


 幽霊列車_それは乗客の前世を明らかにする列車である。前世を明らかにするまでは終わることはないという。しかし乗客の前世を明らかにするなんて一体どうすればよいのだろうか。乗客の前世を明らかにする方法を探さなければいけないのだが...全く見当がつかない。


 「前世を明らかにするには一体どうすれば」

 「......ダメだ。考えても何も浮かばない」


いくら考えたが何も浮かず頭を抱えた。なにも思いつかなかったがそもそも人の前世を解明したことがない。思いつかなくて当然と言えるだろう。だが解明するにしろ乗客の前世について知っているこの車掌おとこの聞くしかないのだが...見るからに何か怪しい。私は車掌を見上げたが目が合うと胡散臭い笑みを返された。


 「フフッお困りのようですね」

 「何笑ってるんですか...」

 「そんなに見つめられると照れてしまいますよ」

 「見てないです。そんなことより乗客の前世を解明する方法を教えてください」

 「顔を反らさなくてもいいではありませんか。フフッ申し訳ございません。少々おいたが過ぎましたね。」

 「......」


何も知らない私とは違い前世の解明について知っている車掌は余裕そうに笑う。その姿に目を細めて車掌をじっと見るが車掌は気にする様子はなく何処から取り出したのか分からないリモコンを取り出すと頭上からスクリーンが下りてきた。降りてきたスクリーンに困惑しているといつの間にか部屋が暗くなる。部屋が暗くなり気が抜けた声が出ると鼻で笑う車掌の声が聞こえて少し腹が立つ。何か言ってやろうかと思ったがスクリーンが付き目を細めると映像が流れた。


 「何これ?映像?」

 「乗客の前世の解明について分かりやすくまとめました。こちらを見てください」

 「え...あ..はい」


車掌の勢いに圧倒される。車掌は一息つくと前世の解明のヒントを話し出した。


 「それでは乗客の前世を解明する方法の手段を教えましょう。乗客の前世の解明について...乗客の部屋や各フロアもそうですが前世を明らかにするヒントはあちこちに散りばめられているものなんですよ」

 「そうなんですか?」

 「はい。このフロアに今はありませんが別のフロアには前世に関するヒントがあります。そのヒントを見つけ出し乗客に関する情報を収集します。その収集した情報を元に乗客の前世を解明するのです」

 「成程...それが乗客の前世を解明するヒントになるんですね」

 「はい」


車掌の話しを聞き乗客の前世の解明の仕方について理解することが出来た。ヒントを聞いた私は車掌を見る。車掌はスクリーン映像を消してしまい部屋が暗くなるとすぐに照明がついた。照明の明るさに目をつぶりゆっくりと瞼を開いたが目の前が何故が暗い。何故暗いのかと思い顔を近づけると何者かの手に触れた。


 「あれ?これは...手?」

手に触れると布のような手触りを感じた。この感触は手に付けている手袋だろう。手袋を着けていて私の目を隠そうとする人物は一人しかいない。


 「あの...車掌?車掌ですよね?手を離してください」

 「......」

 「車掌?聞こえていますか?」

 「...ですか」

 「え?なんて?」

 「ぎ...大丈夫ですか?」

 「え?えっと大丈夫ですよ。あの...車掌..手をどけてくれませんか?」

 「.....」


再び車掌に声をかけるが車掌は何も言わない。聞こえてないのだろうか?いや聞こえているはずだ。何も言わない車掌は私の言葉に少し反応した。何故車掌は何も言わないのだろう。いたずら?揶揄っているのだろうか?

いや..いたずらならこの反応は可笑しい。反応がない車掌に困っていると車掌は気づいたのか手を離した。


 「すみません。今手を離しますね」

 「あっはい」

 「すみませんね。まぶしいと思ったもので」

 「そうですか。てっきり悪戯かと」

 「...そんなことしませんよ。」

 「そうですか?」

 「怪しんでいる顔ですね...まあそれはさておいて先ほどの話のつづきですが...」


車掌は私の顔をじーと見た後話しを切り替えて話し続けた。


 「例えば彼の服装を見てください」

 「乗客の服装を?」


 今まで近くにいた乗客の存在を忘れていた。車掌との会話で忘れていたが乗客の前世を解明するのが目的だ。車掌に言われた通り乗客を見ると乗客は視線に気づきため息を吐いた。私と車掌の会話に上手く入れず困っていたのだろう。その証拠に表情は見えないが心なしか安心したように見える。乗客は相変わらず顔は見えないが服を着ており、服装は、目立ちにくいコートを羽織り帽子を被り肩にはカメラが掛けられている。この人の前世の職業は...


 「もしかして探偵?それかカメラマンとか?」

 「どうやらそのようですね。」

 「そうなんですか?私が探偵...」

 「まだそうと決まったわけではありません。しかし可能性が高いでしょう。」

 「なるほど...」


推測だが乗客の服装から彼の職業が探偵(仮)である可能性が高い。車掌の言葉に私と乗客は納得した。


 「当駅では前世で関わっている名前が駅の名前となるのです。」

 「だから三浦駅なのか」

 「私の身内か、私の死に関するのが三浦なのか」

 「それかあなた自身が三浦さんの場合もありますよ」

 「とにかく詳しく調べてみる必要がありますね」

 「そうで...」

 「なんですか?」


そうですねと言いかけた時車掌を見て思わず固まった。車掌はあろうことかお酒を飲んでいる。しかも大きい酒瓶だった。仕事中に何飲んでいるんだこの人は頭が可笑しいんじゃないかとと心の中でツッコミを入れる。私の考えていたことが分かったのか顔に出ていたのかは知らないが見透かされたように車掌に言われた。


 「私は仕事でこれを飲むのが普通ですから。あと...今頭がおかしいと思ったでしょ?」

 「ギクッ!!さ、さあ~とりあえず(仮の)三浦さん。あなたの前世を解明しましょう」

 「前世を解明するヒントは当列車内ならどこを探してもらっても構いません。」

 「どこでもいいんですか?入ってはいけない場所はないんですか?」

 「はい。基本的には」

 「基本的にってことは一応あるんですね...」

 「そうなんです。注意して欲しいのですが私が使用する車掌室には入らないでくださいね。」

 「入ったらどうするんですか?そこに何かあるんですか?」


車掌室のことを聞こうとしたが先に乗客が車掌に聞く。私自身も聞きたい内容だったため車掌の反応が気になった。入るなと言われれば入りたくなるのが人の性というものだ。乗客と私は車掌を見ると車掌は満面の笑みを浮かべた。


 「フフフ...知りたいですか?なら教えてあげます。車掌室には..」

 「「車掌室には...」」

 「車掌室には...フフフ...」

 「誤魔化した...」

 「ごまかして話す気ないですよね...」

 「そんなことないですよーおや?酒が無くなった..」

 「「え?酒?」」

 「すみませんが私は急用ができたのでそれでは~」

 「あっ逃げた!」


笑ってごまかした車掌は車掌室について話す気はなく飲んでいた酒が無くなったという理由でこの場を去った。あまりの速さに私と乗客はしばらくの間動けなかった。私と乗客は互いにぎこちなく顔を見合わせた。


 「えっええ...っとこれからどうしよう」

 「私はどうしたらいいでしょうか?」

 「と、とにかく探索してみましょうか。」

 「そうですね。」


ロビーに飾られていた社内の地図を見る。地図にはロビー、各乗客の部屋、バー、料理長室、仮眠室、車掌室が書かれておりその位置が細かく記されていた。気になるが入るなと言われた車掌室と今まで居たロビーを除いた各部屋を探索知ることにした。仮眠室は簡易的なベットがあるだけで何もない。次に各乗客たちの部屋を探索することにした。各乗客の部屋に着いた時廊下を見回して人の少なさに気が付いた。先程いたはずの乗客たちの姿が見えないのだ。


 「あれ?なんかおかしくありませんか?」

 「そう言えば乗客たちがいない。一体どこ消えたんだろう?」

 「それはね。対象の前世の乗客以外は眠くなちゃって寝ちゃうの。だけらあなたしかいないのよ。」

 「「えっ?うわっ?」」


突然後ろから話しかけられた私たちは驚いた。後ろに振り向くと女性が立っていた。緑色のドレスを纏い背中に翼、頭にはヤギのようなツノがあった。見るからに人間ではないだろう。彼女も車掌のように顔がある。女性は美しく化粧が施されていて美人という印象だった。


 「驚かせてごめんなさい。」

 「いえ...私も大きい声を上げてしまって..」

 「いいのよ。お互いにWIN-WINってことでいいかしら!」

 「はっはい!」


流石は美人というべきか。乗客は彼女のウインクに落ちた様だ。反応が違う。顔が見えず表情は分からないがきっと彼女に浮かれているのだろう。私は乗客の態度の差に冷静になり彼女を見た。


 「コホン...そうなんですね。だから乗客たちがいないんですね」

 「そうよ~!乗客たちの部屋を覗くと分かるわ。」


乗客の部屋を除くと後ろ姿だが乗客が横になり寝ている。試しに確認したが部屋は鍵がかかっていた。女性が言う通り乗客たちは深く眠り起きそうにない。


 「本当だ。どこの乗客も皆寝てる。深く寝ていて起きそうじゃないな..」

 「でしょう。私もよく眠るな~っと思うの。」

 「そうですよね!」


乗客が女性を肯定すると女性は不思議そうに私と乗客を見て首を傾げた。


 「あら?あなたは何故起きているのかしら。珍しい...不思議なことあるものね。」

 「えっ?今..なんて?」

 「いいのよ。気にしないでこちらの話だから。ねえ?あなたたちお酒飲む?」

 「「えっ?/はっ?お酒」」


 案内された場所はバーだった。バーにはたくさんの酒以外にもクラシックレコードが置いてありよさげな雰囲気を醸し出していた。


 「ようそこバーへ。私はここでバーメイドをしているカーナよ。よろしくね!」

 「「よろしくお願いします。」」

 「いい返事ね!そうだわ~せっかくだから何か入れるわ。何を飲みたい?」

 「あなたはどう?」

 「私は...」


乗客はカクテルをカーナに頼み私の番になった。私は何かを頼もうかと思ったが何故か喉が渇いておらず飲みたいとも思えなかった。周りにお酒以外にもフルーツや果実のジュースをあるがそれらにも惹かれることは無くやんわりと断った。カーナは少し残念そうだったが気にせず乗客のカクテルの準備を始めた。


 「そう..残念ね。ならまた今度。じゃあ今回はあなたのやつを作りましょう。あなたはカクテルよね」

 「はい。よろしくお願いします」


カーナはカウンター―の下から瓶とナイフを取り出した。満足そうに立つが肝心のドリンクが無い。


 「よし!準備できた。これから作るわよ~!」

 「これからカクテルを作るのか..あれ?後ろの酒から出すんじゃないんですか?」

 「いいえ。あれは別のやつなの」

 「えっ?なら飲めないんじゃ..」

 「いいから見てて!面白いから」


カーナはウインクすると自分の腕をナイフで切った。驚き思わず彼女を凝視してしまった。彼女は自分の腕を切ったのにもかかわらず平気そうに笑っていた。今...この人は何をした?自分の腕を切った?切ったのに笑ってる。こ..怖い。私は引き気味で彼女を見た。。彼女の腕をよく見るとカーナの血は変化していきカクテルとなった。


 「え、何をして...血が変わってく」

 「驚いた?私の血は特殊なの。血を変化させることが出来るのよ。私の仕事は乗客の飲みたい飲み物を血を変化させて提供する。それが私..バーメイドのカーナよ。よろしくね!!分からないことがあれば何でも言ってね!!」


とカーナはウインクをしたが血が変化したことが衝撃で戸惑い苦笑いした。戸惑うのに対し乗客は気にせずカクテルを飲んでいた。


 「のっ飲んでる...」

 「美味しいです!」

 「美味しいんだ...」


仕事中に酒を飲む車掌、自身の腕を切り酒として提供するカーナ。車掌は不明だがおそらくカーナと同様に人間ではないのだろう。人ではないからなのか変わり者が多い。


 「この人はまともかと思ってたけど車掌と同じで変わってる...気がする」


カーナは私の視線に気づいたのか頬に手を当てて嬉しそうに照れた。


 「そんなにみられると照れるわ~」

 「すみません...そっそうだ!カクテルは美味しかったですか?」

 「はい!とっても美味しかったです!」

 「ならよかったわ~!」


カーナは嬉しそうに手を合わせた。乗客がカクテルをもう一杯頼みその間バーを調べることにした。人通りバーを見たが特に何もなかった。


 「何もないか...探してもこれ以上意味ないか。そろそろ他の場所を探してみるか」

 「そろそろ行きますか?カクテルも飲んだし満足です」

 「あら?もう行くの?」

 「はい。お世話になりました」

 「は~い!また来てね~!」


カーナは笑って手を振り私たちがバーを出るまで見送ってくれた。バーを出た私たちは近くにある料理長室に向かうことに決めた。


 料理長室に着くが明かりはついているが誰もいなかった。


 「いない?明かりがついていたからてっきり誰かいると思ったのに」

 「そうですね...あっ!いい匂いがしますよ」

 「本当だ。これは料理?」


テーブルには料理が置いてあり白いシートを被されていた。乗客はシートを外した。美味しそうなたくさんの料理が机の上に並べられていた。二人で一つ一つ料理を見ていく。すると突然乗客が悲鳴を上げた。悲鳴の原因はとある皿にあった。その皿の上には誰かの生首が置いてあり私も悲鳴を上げ鳥肌が立った。


 「なっ生首!!」

 「そっそんな..生首なんてあるわけないですよ!!」

 「きっと本物じゃないはず...多分」

 「動き出したりなんて...」

 「物騒なことを言わないでください!本当に動き出したらどうす..え?今動いた?」


物騒なことを言う乗客に"動き出したらどうするんだ"と言いかけた時生首の向きが変わった。気のせいだろうか?


 「うっ...動いた?」

 「い、いや..そんなことな」


動き出した生首に私たちは固まり青ざめる。乗客は生首を指さし震えた声を出す。私も怖くなり苦笑いをした。気のせいであって欲しい。生首が動き出すことはあり得ないがそれを覆すように生首はゆっくり動き出した。ゴロゴロ...生首が動き出す姿を見た私たちは叫び声を上げた。


 「「うっ...動いたああああああああ!」」


私達は手を握り合い叫んでいると後ろから声をかけられた。恐る恐る振り向いていると首がない少年が経って居た。その姿を見て乗客は気を失った。私はかろうじて気絶しなかったが目の前の光景を理解できずにいた。首がない少年が目の前を歩いている。少年は生首を掴むと体にくっつけた。


 「これでよし!ごめんごめん。驚かせちゃった?」

 「あっ.いや..その何て言うか...驚いた。」

 「驚かせてごめんね。気絶しちゃった彼には申し訳ないな~。皆僕を初めて見るとだいたい驚いて気絶するから!」

 「あっははははは...」

 「あっ!そうだった。自己紹介がまだだったよね?僕の名前はグリン!僕はここで料理長を担当してるんだ!」

 「料理長ってことは料理できるんだ」

 「そうなんだ!料理は大の得意で何でも作れるんだけど少し問題があってさ」

 「問題?」

 「そうなんだよ~。僕は料理に夢中になるあまりによく自分の体を無くしちゃったり料理しちゃったりすることが多くて...さっきも驚かせてごめんね」

 「そっか。だから料理教室に来た時に明かりは付いていたのに誰も居なかったんだ」

 「そうなんだ。僕が自分の生首を探している時に二人が来たんだよ~。だからタイミングよくすれ違ったみたい!」

 「そうだったんだ」

 「うん!カーナから聞いてるよ。駅に止まったんでしょ?暇になったし料理のストック作ろうかな~ここは自由に調べてくれていいからね!!」

 「そう?ありがとう」

 「あれ?ねえ聞いてもいい?」

 「どうしたの?」

 「僕の腕知らない?」


今度は片腕を無くしたようだ。グリンの体は壊れやすいおもちゃのように見え確かに片方の腕が無くなっていた。私は周囲を見回そうとした時地面から何やら嫌な音がする。この音は何かが踏まれているような嫌な音だ。音のする方へ顔を向けるとグリンが片腕を踏んでいた。


 「踏んでるよ片腕」

 「本当だ!ありがとう!!これでまた料理が出来るよ!」


グリンは礼を言うと料理を作り始めた。完成したスープの中に心臓や片目が入っていて鍋の蓋を無言で閉めた。


 「あっ...ははは..やっぱり変わってる」


と真っ青な顔でため息を吐いた。気絶している乗客を起こす様子を通りかかった車掌は見かけて笑った。


 「フフフ...面白いことになりそうですね」


 料理長室を後にした私たちは前世を解明する乗客の部屋を調べるため再び各乗客の部屋へ向かう。相変わらず他の乗客たちは深く眠り起きる様子はない。ドアにはkeepoutの文字のレッテルが張られていて入ることはできないようになってる。部屋には入れないのでこれ以上見る必要はないだろう。乗客に案内してもらい彼の部屋に着いた。


 「とりあえず部屋の中に入ってみましょうか」

 「はい。今開けますね」


入る前に乗客に声を掛けて共に中へ入る。部屋の中は大量の資料やファイの他に本棚とホワイトボードが置かれていた。見るからに探偵を職に持つ者の部屋だろう。


 「さすが探偵だけあって資料や極秘ファイルがある」

 「そうですか?自覚がないですが...」

 「この数...凄いな。ここから探さないと...何か前世を解明するヒントがあるはずだ」


乗客と手分けして前世に関する資料やヒントを探し始めた。多くの資料を見ていると部屋から焦げ臭い匂いがしてとっさに窓を開けた。原因を探していると暖炉を見つけた。どうやら匂いのもとはこの暖炉のようだった。


 「なんでこの暖炉焦げ臭いんだろう。あれ何か?」

 「あの...」

 「はい。これは何でしょうか?」


暖炉を観察していた時に乗客に話かけられた。彼が指を指した所には、マネキンが四体置かれていた。それぞれのマネキンにはアルファベットのAからⅮの番号が振られていた。


 「なんでマネキンなんか?」

 「私の趣味なのでしょうか?」

 「さっ、さあ?」

 「だとしたら相当変わってますね。少し気持ち悪いですね~私の趣味」

 「...分からないですけどそうだったらすごいですね」

 「はい!」


急に何を言い出すかと思ったら趣味って..まだ仕事で使っているて言うならまだしも...趣味ってなんなんだ。他人の趣味をどうこう言いたくはないがこの人も相当変わってるのかもしれない。そんなことを考えていた時、床に落ちている写真を見つけた。落ちている写真を拾うと優しそうな女性が映っていた。写真に映る女性は見覚えがありよく見るとホワイトボードにつけられていた女性の写真と同じものだった。


 「なんでホワイトボードと同じ写真がここに...」


疑問に思い改めて資料を見てみると資料1と記されたファイルを見つけた。


 「何かがおかしい。これを見たら何かわかるのか。見てみよう。なっ!なんだこれ!」


中を開くと大量の焦点の合わない写真が大量に入っていて一部を落としてしまった。慌てて拾っていた時にファイルの内容に目を向ける。名前は黒く塗る潰されてはいるもののそれ以外の情報はすべて記載されていた。


 「おかしい..生年月日だけじゃなくて性別や体重も載ってる。この人何者なんだろう。探偵だったとしてもここまでやるのか」


探偵はききこみや調査をするのが仕事の職業だ。私は探偵についてあまり詳しくない。探偵にとってこれが普通なのか見分けがつかない。乗客の彼に気づかれないようにファイルを持ち出した。このまま乗客と共にいる気にもなれず乗客に声を掛け部屋から出る。出たもののどうすればいいのか分からずバーへ向かった。


 カーナは相変わらず自身の血を使い酒を作っていた。私がバーに来たことに気づくと手を振った。


 「いらっしゃい~。何か飲む?」

 「いえ..のどは乾いてなくて」

 「そう?まあ座って座って~」

 「いいんですか?」

 「ええ。私に何か聞きたいことがあるんじゃない?」

 「分かるんですか?」

 「私はこれでもバーメイドよ。乗客の話しや悩みを聞くのが得意なの。お姉さんに何でも相談していいわよ!」


カーナの言葉に甘えて乗客について相談することにした。カウンター席の近くにある椅子に座るとウインクをされる。


 「あの..少し聞いてもいいですか?」

 「ええいいわよ。何の相談かしら?」

 「これなんですけど」

 「これは何かしら?」

 「乗客の部屋にあったものなんですけど」


私は持っていたファイルをカーナに手渡した。カーナはファイルを見ると大人の余裕そうな表情から真剣な顔つきに変わった。


 「なんて言えばいいのかしら~?これはずいぶん変わった趣味の持ち主ね」

 「そうですよね。だってこんな大量の写真なんて...」

 「だってこれは盗撮だもの」

 「え...今なんて..盗撮?」

 「ええそうよ。これを見るに彼はストーカーの可能性があるわね。それにこの調べよう。異常だわ。資料1ということはその他にもあるって事かしら?」


と話すカーナの言葉に耳を疑った。乗客を探偵と疑わなかったがカーナの話を聞いてその可能性に気づいた。乗客が善人であり探偵であると思っていたが彼が本当にそうなのかなんて分からないのに..服装だけで疑わなかった。


 「ありがとうございます。もう一度調べてみます」


カーナに礼を言いバーを出ようとするとカーナに呼び止められた。


 「ちょっと待って~」

 「あの?何か?」

 「私からのアドバイスよ。アドバイスと言うより忠告っぽいけど聞いてくれる?」

 「はい?」

 「あまり前世を明かす乗客と一緒にいない方がいいわ」

 「どうして?」

 「危ないからよ」

 「危ない?」

 「前世を明かす乗客は信じない方がいいの。なぜなら調べていくと乗客の前世を知ることになるでしょ?その時に乗客が自分の前世を私達よりも早くわかることがあるの。そうなったら善人ならまだしも悪い人ならどうすると思う?」

 「どうって?」

 「例えば相手が殺人鬼だった場合どうする?」

 「えっ、えっと...」


カーナの問いに答えることが出来なかった。前世を明かす乗客が善人であるかなんて分からない。犯罪者である可能性だってある。その場合..私が傍に居れば辿り未来は一つだけ。カーナは私が気づいたことを悟り話し続けた。


 「この世界は言わば狭間な世界なの」

 「狭間の世界?」

 「そう。説明が難しいけどこの世界は地獄と天国に通じるいわば中間地点のようなものなの。狭間な世界ゆえに乗客が生前出来ていたこともこの世界で行うことが出来るの」

 「生前出来たことがでいるって具体的には何が」

 「殺人..つまり人殺しができるってこと」

 「殺人が...」

 「私達乗組員ならともかくあなたのような魂は狙われやすい。もし殺されたらそこで縛られてしまうの。気を付けた方がいいわ」

 「その事案あるんですか?」

 「あるわ」


カーナは言うと下を向いた。下を向いて話していたがカーナは直ぐに顔を上げた。


 「な~んてね。一度だけだし未遂だから大丈夫!でも今回はその前に彼が対処しちゃうかも。ここはね..ただの前世を明かすだけの列車じゃないの。明かした後が重要なの。そして...」

 「そして?」

 「後は彼がやってくれるわ」

 「彼?」


首を傾げた時に入り口に付けられたベルが鳴った。ベルを聞いたカーナは後片付けを始めた。


 「そろそろね。列車は動かないから好きな時に休めるの。あなたも休憩するといいわ。私も休むから」


カーナはそう言うとどこかへ行ってしまった。カーナがバーを出ると明かりも消え部屋が暗くなりバーを出た。バーに掛けられた看板を見ると【CLOSE】のロゴのものに変わっていた。カーナのように一度自分の部屋に戻りひと眠りすることにした。


 次の日かはたまた数分後なのかだろうか。ここでは時間が分からない。部屋にある時計は相変わらず止まったままだ。これでどうやって前世を明らかにすればいいのだろう。部屋を出るが乗客たちは眠っていた。


 「こんなに寝ていて大丈夫なのかな?」

 「それはご心配なく彼らは眠っている間記憶は一切ございません」

 「車掌..そうなんですか」

 「はい。」


車掌がいうのならばそうなんだろう。前世を解明する対象者ではないのだから眠り続けるのは当たり前か。ここまで眠れるなら少し羨ましい。


 「所で何かお分かりになりましたか?」

 「乗客と二人で調べた時に...」


車掌に質問されて答えようとしたとき彼の持っている酒に目が行った。先ほど見た酒瓶よりも大きい。


 「その...何で飲んでるんですか」

 「これですか?これは私のルーティンなので。何かご不満でも?」

 「いえ..なんか..その..仕事で飲んでいる人を見たのが初めてで」

 「ああ!皆しっかりしてますからね」

 「.....」


車掌は自慢げに言ったが"自分だけがちゃんとしてない"と言っているようなものだ。それに気づいたのかこちらを見てくる車掌から目を反らした。


 「!」

 「あのー...どうして顔を反らしたんですか?」

 「いっいやー...きっ気のせいですよー」

 「今..あなたは心の中で"ちゃんとしてない"と思いましたね」

 「べっ別に!何も..」

 「本当ですか?」

 「本当です...」


冷汗をかき顔を反らしながら言うと車掌は話を逸らすように酒を飲んだ。


 「そうですかならいいです。...やっぱり美味しですね~」

 「...まあ前世の乗客のことなら少しだけ分かったことが」

 「聞きましょうか」


私は車掌にこれまでの経緯を話した。乗客の部屋にあったファイル、マネキンや盗撮写真のことを伝えた。話しを聞いた車掌は思いあたる節があるのか何かを考えていた。


 「...なるほどそれは気味の悪い話しですね。状況や話しを聞くに彼は本当に探偵なのでしょうか?詳しく調べないといけませんね。」

 「もしも探偵じゃなかったとしたら...」

 「可能性の話しですよ。」


車掌は頷くと何かを思い出したのか手を叩いた。


 「そうだ!思い出しました。教えておきますね。調べると情報が更新されるんです。そして新たな証拠が出てきます」

 「なら新たな証拠が」

 「しかしその女性の資料の話を聞くと彼はもしかしたらこちら側(黒側)の人間なのかもしれません」


車掌はいいながら窓の外へ指を指した。窓の外の奥の景色は燃え盛る火山や荒れた大地が広がっていた。これはまるで...


 「地獄だ」

 「そうですね。地獄のように見えます」


心の中で思ったことが無意識に呟いていたため少し驚いた。車掌に言われた通り再び窓の外を見る。


 「あなたにはそう見えるのですね..」

 「?」

 「いえ...こちらの話です。話しを戻しましょうか。ここが狭間な世界であることは知っていますか?」

 「はい。カーナから聞きました。ここは狭間な世界。地獄と天国に通じるいわば中間地点。狭間な世界ゆえに前世での出来事を行うことが出来ると。食事や睡眠に限らず善い行いや悪い行いも全て...」

 「そうですか。既に知っていたのなら幸いです。お話しになった通りこの世界では前世の行いをすることが出来ます。それは善悪に限らずです。おっしゃる通りこの世界では悪い行いもすることが出来ます。殺人も」

 「......」

 「前世を明かす乗客が犯罪者であった場合最悪殺されます。殺されなくとも傷つけられる可能性もあります。我々も例外であはありません。」

 「...そうなんですか?」

 「はい。万が一すならない為にも彼の身元が分かるまで一緒に推理しましょう」

 「はい。よろしくお願いします」


前世を明かす乗客の正体が分からない以上単独で行動するよりも長けている車掌がいたほうが心強く危険もないから安心だろう。前世を明かす乗客が善人とは限らない。仮に殺人を犯すような人間もいる。


 「それでは参りましょう!!早速...」

 「??」

 「車掌?どうしたんですか?」


急に動かなくなった車掌を心配して声を掛ける。するといきなり顔を上げた。

 「車掌?どうしたんですか?体調でも悪く..」

 「!」

 「え?」

 「カーナさんのワインをもらいに!!」

 「.....」

 「急がねば!」

 「.....」


体調でも悪いのか心配した数秒を返してほしい。カーナの酒が飲みたいと車掌は何食わぬ顔でバーに走った。止めようとかと思ったが気力がなくなり黙って車掌の後をついて行った。


 「前世を明かすのはその後です!!行きましょう」

 「はあ...前言撤回この人頼りにならない」


本当に前世を解明できるのか不安になった瞬間だった。


7.

 私と車掌は前世を解明する乗客の部屋へと向かった。


 「ここが乗客の部屋ですか。入りますよ」

 「失礼します」


ノックをした後が返事はない。車掌と顔を見合わて車掌がドアを開ける。車掌に続けて私も中に入ると部屋中が血だらけだった。


 「なっなんだこれ!!部屋中血だらけ。乗客の彼は...血まみれで倒れてる。しっ..しっかり。しっかりしてください!」

 「落ち着いてよく見てください。彼はあそこにいます」

 「え?」


車掌に指を指された方向を見ると確かに彼は生きていた。彼が生きているのなら彼とそっくりはこの血まみれの彼は一体なんだ。恐る恐る見るとそれは人形だった。


 「これは人形?」

 「そうです。これは彼が死んだ状態を再現したものです」


と車掌は言う。人形をよく観察しておきたかったが乗客は急に取り乱した。


 「血が血が血が血が!!」

 「大丈夫です。落ち着いて」

 「これは発作ですね。」

 「とにかくいったん彼をバーへ運びましょう」

 「すっ..すみません」


落ち着かせるため一度バーへ運ぶことに決めた。乗客の背中を支えながら部屋を出ようとした時一瞬だが再現された場面を見た。そこには女性と乗客が血まみれで倒れていた。女性がナイフを持ち首ら辺を掻き切られているものだった。


 車掌と協力してバーへ彼を運んだ後車掌は乗客の部屋を調べていた。


 「成程..彼の死因は分かった。そしてその動機も..さて、最後に彼の本当の身分と偽りの身分はどれだ。これは...」


車掌は乗客の正体が分かると不敵に笑った。


一方バーでは落ち着いた乗客がカーナの酒を飲んでいた。


 「話は聞いたわ。それは気の毒だったわね」

 「僕は女性に首を掻き切られて殺されていたなんて...」

 「しかもあの出血...酷かったです」


 ショックを受けている乗客を慰めているとグリンがやってきた。


 「あら~?いらっしゃい!」

 「うん!来たよ~」

 「何飲むかしら~?」

 「ううんとね~飲みに来たんじゃなくて車掌からの伝言を届けに来たんだ~」

 「へ~そう。そうなのね~♪」

 「そう♪」


カーナとグリンは嬉しそうに話しをしていた。私は一瞬だったがグリンの話しを聞いたカーナの空気が変わったことにこの時は気づかなかった。


 「車掌がね~乗客の前世が分かったから~皆を呼び集めてくれ~だって」

 「そうなんですか!!」

 「前世が...なら行きましょう」

 「車掌はロビーにいるみたいだから先行ってて。後からすぐ行くから」

 「私もお店を一度締めるから二人で先に行っててくれる?」

 「分かりました。後でロビーに集合しましょう。行きましょうか」

 「はい」


カーナとグリンは二人に見送られた私たちはバーを出てロビーへ向かった。二人の気配が完全にしなくなった二人は楽しそうに仕度を始めた。


 「ねえカーナ!今回は吉と出るか凶と出るかどっちだと思う?」

 「私は...凶に出る方にかけるわ~」

 「僕もそう思う。車掌が直接僕を呼ぶ時は大抵前世の人間は悪い奴だから」

 「確かにそうね。それじゃ~賭けにならないわね~」

 「そうだね!でも最初から賭けにならないよ。この乗客は」


カーナとグリンが仕度を終えてロビーに付くと車掌が着ていた。二人が近くの椅子に座ったと同時に車掌は話し始めた。


 「お集まりいただいてありがとうございます。私直々に調べその他の方にも手伝ってもらい乗客の前世が分かりました」

 「それで僕の前世は一体なんですか?」

 「あなたの前世は気まぐれな殺人鬼です」

 「えっ彼が殺人鬼?」

 「殺人鬼...そんなわけないだろ!!僕は探偵だ。それに殺しなんて」

 「それはこれから明らかにしていきますよ。あなたの前世をね」

そう言った車掌は不気味に笑った。


 「正体が分かったのでここで一つ一つ明らかにしていきましょう」


 車掌は乗客の前世が分かり乗客と乗組員たちをロビーに集結させた。車掌が言うには彼は殺人鬼らしいのだ。でもただの殺人鬼ではなく【気まぐれな殺人鬼】だった。


 「でも気まぐれな殺人鬼ってどういう意味が?」

 「そうだ!私が殺人鬼?あり得ない!人殺しなんてするわけが」

 「あの時..彼の部屋を訪れたことを思い出してください。彼は首ら辺を切られていましたよね」

 「少ししか見てないですけど..彼は確かに首付近を切られていたはず」

 「...そうだ。確かに切られていたけどそれがどうした!」

 「では質問します。彼は何故首を切られていたのでしょう?」

 「はあ!何言って!」

 「それは...言われてみたらそうだ。普通はありえない。首を切られるなんてことあるはずがない..」


車掌に言われて気づいた。どうしてこんな簡単なことに気が付かなかったのだろう。首を切られるなんてことあり得ないはずだ。確かにどうしてそんなことになったんだろう。修羅場?恋のもつれ?仕事関係か?そんなこと考えていた時車掌にヒントを出された。


 「ならヒントを出しましょう。あなた既にもう答えを知っているはずです。あのように記載されているのですから」

 「記載?それってもしかしてあのファイルが」

 「そうです。私も拝見しました。そこにはアルファベットでA~Ⅾと記されていましたね。女性の隠し撮りの写真や個人情報まで多々ありました」

 「そうだ。このファイルは写真と焦点が合わないもので隠し撮りされた盗撮写真だった。カーナにも確認してもらったから間違いない」

 「かっ隠し撮りなんて一体何のためにやったって言うんだ!」

 「だから言ったでしょ?その女性を殺すためですよ」

 「!!」


図星だったのだろう乗客は車掌の発言に驚きくって掛かった。そんな乗客とは違い車掌は冷静に追い詰めていく。


 「殺人...あなたが...」

 「違うって言ってるだろ!」

 「往生際が悪いですね。」

 「彼が殺人鬼ならなぜ気まぐれな殺人鬼なんですか?」

 「.....」

 「ああ..それは彼が気分屋だからですよ。"殺す順番をその日の気分やランダムで決めていた"からです」

 「その証拠が一体どこに!」

 「証拠ならあります。このファイルと日記です」


車掌は全員に見えるように証拠を見せた。そこにはランダムで殺すことや情報を集めていることが記載されていた。


 「あなたは前世のヒントを探す内にこれらを見つけた。私たちよりも先にそのファイルと日記を読んで自分の正体に気づいてしまったのではないですか?しかし半信半疑だったのでは。我々が前世を暴くことを知っていて黙っていたのではありませんか?」

 「そんなことは無い!!」

 「いや...車掌の言う通りだと思う」

 「君...自分が何を言ってるのか分かってるのか?私は何も」

 「だってここに四人目の被害者の名前が記載されてて、その名前が三浦さんだから」

 「は...?」


車掌に見せられたファイルと日記を見て気づいた。この駅の名前と四人目の被害者の名前が同じだということに。私が指を指して指摘すると乗客は焦りはじめた。


 「あなたは確かに探偵でした。しかし...探偵という立場を利用して

女性を調べて殺していた殺人鬼です。しかし..あなたはミスを犯した。殺そうとした相手に反撃を許してしまったことですね」

 「だからあの時...首を搔き切られて殺されてたんだ」

 「違う!!そこまで言うならあのマネキンはどう説明するんだ」

 「始めに現れたあのマネキンはあなたが殺した女性を再現したものです。よく見ると刺された跡がありました」

 「くっ..!」

 「あなたの暖炉が焦げ臭いのは新聞を燃やしたからですよね。新聞の見出しにはきっとこうあるはずです。"女性ばかりを狙う殺人鬼死亡"とね」

 「くっ...」

 「もう言い逃れはできませんね。あなたは職としては探偵ですが裏では罪を犯し人を殺す気まぐれな殺人鬼です」

 「それがこの人の正体...前世」


前世を明らかにしたことで顔が見えた。20前後の若くて感じのよさそうな男だった。


 「そうだ...僕は女性を気まぐれで殺す殺人鬼だ」


自分の前世を思い出した彼はそう呟いた。


 「これで乗客の前世を解明することが出来ましたね」


 車掌はそう満足そうに言ったがこちらはそうはいかない。目の前に立っている乗客は殺人鬼だ。


 「解明したのはいいことだけどそのどうすれば!!それに相手は人殺人鬼ですよ」


焦りながら指を指しながら車掌に訴える。車掌は焦りもせず普通に相槌を打った。


 「そうですね~なら...!」

 「あ...車掌!」


グサッ...鈍い音がした。何かが刺されるような音が。一瞬の出来事で直ぐには理解できなかった。車掌が何かを言いかけた瞬間、乗客は懐から取り出したナイフで車掌を襲った。片腕を切られた。車掌は片腕を押さえながら乗客に向って言う。


 「やられましたね」

 「車掌!!大丈夫って...血が出ていない」


車掌の腕は確かに切られたはずだ。なのに傷一つなかった。


 「何故だ!!僕は確かに腕を切ったはずなのに。ナイフにも血がついてない」

 「当たり前ですよ。私は人ではなく異形の生き物ですからね。」

 「「え...?」」


乗客と共に驚いた私をおいて車掌は続けて話す。


 「それにしてもまさか車掌である私を殺そうとするとは...少々驚きですね」

 「異形の生き物だとそんな馬鹿な!!」

 「だって死神が人間のナイフごときで切られた程度で死ぬわけないじゃないですか」

 「し...死神!!」

 「ええ。言ってませんでしたね。私の正体は死神です。人の魂の前世を導きその魂に天罰を下す。それが死神である私の仕事です」

 「死神...」

 「驚かれましたか?」


車掌は不気味に笑った。その笑いは死神そのものだった。乗客はおびえた様子で車掌を見る。車掌は乗客をあざ笑うかのように笑うと片腕を上げた。するとそこから大釜が現れた。


 「ヒィッ!おっ大鎌!」

 「ですが...あなたは決してしてはいけない罪を犯しました。それが何かわかりますか?」

 「そんなの分かるわけないだろ!!」


すぐさま乗客は否定する。その様子を見た車掌が追い打ちをかけるように言った。


 「では教えてあげます。前世の魂がしてはいけないこと。それは...死神である私を傷つけることです」

 「じゃあ傷つけた彼は」

 「地獄に落ちるよ~」

 「ヒィっ!そ..そんな...」


グリンが言うと乗客は恐怖で震え出し追い打ちをかけるようにカーナも話し出す。


 「そうね~もともと前世で人を殺していたのだから地獄行は確定事項だったの~。でも...車掌を襲ったのだから話は別よ。彼には車掌直々に罰が下るわ~」

 「ど..どんな罰だよ!!」

 「それは..私直々にその魂を食らい地獄でも天国でも成仏できない亡霊になってもらいます」


そう言うと車掌は乗客に近づいた。乗客は慌ててロビーから逃げ出すがもつれてしまう。振り向くとすぐ傍に車掌が立っていた。


 「くっ来るな!!来るなよ!」

 「それはできない約束ですね。それでは...罪深きあなたの魂を食らいましょうか。あれ?なぜ逃げるのです」


逃げようとした乗客をみて車掌は大釜を近くに振り上げて止める。


 「嫌だ嫌だ。死にたくない死にたくない!!」


そう言い逃げ出そうとする乗客に車掌はため息をついた。


 「全く...あなたはとことん救いようがないですね。」


車掌は大釜を一度地面に下すと乗客を見下ろした。


 「この期に及んであなたは...ならば今から問う質問にお答え出来たら考えましょう」

 「みっ見逃してくれるのか?」

 「はあ...ならあなたにお聞きしましょうか?貴方はそうやって助けを求めた女性たちをどうしましたか?」

 「...え...っと...」

 「答えられるわけないですよね」


車掌の問いに乗客は何も言うことが出来なかった。なぜなら過去に助けを求める女性たちを自分は殺していたからだ。


 「そうです。あなたは殺したんです。罪のない多くの女性たちを...助けを求める女性たちを無視し惨たらしく殺害した。なら..あなたは狩る立場から狩られる立場になっても誰も助けてはくれませんよ。あなたはそうやって殺していたんですから...さようなら」


車掌はそう言うと大釜で乗客の両足を切った。切られたことで血が飛び散り車掌の顔にも返り血がつく。悲鳴をあげる乗客は動けずその場で暴れた。


 「あがっ!!」

 「暴れないでくださいよ。床が汚れるでしょ?さて、ではその魂を食らいましょうか」

 「ばっ化け物...」


死にかけている乗客が最後に見たのは不気味な化け物だった。その化け物は乗客の体を噛みつき喰らい付いた。


 「ぎゃああああああああああああああああ!やめてくれえええええええ!!」

 「痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!」


乗客の醜い悲鳴が響き渡り廊下や窓が血で染まった。


 「死んでいる魂も生きているときのように血を流すのですね。ご馳走様」


車掌はそう言うと口に着いた血を舐めた。


 「血が!血が!血が!」


乗客はそう言い続け消えてしまった。乗客が消えた床には名札が落ちていた。カーナにお教えてもらったが車掌が前世の天罰を下すと乗客の名前が分かるらしい。今回も天罰を下したからこれが現れたのだろう。


 「見苦しい所をお見せしましたね。ではこれで列車が動きます。それではまた旅を続けましょう」


 車掌がそう言うと同時に列車は動き出した。動き出すと乗客の遺体や血の跡や彼の部屋も何もかもが消えてなかったことにされたのだ。しばらくすると他の乗客たちは目を覚ましカーナたちも各々の仕事に戻った。一体今までは何だったのだろう。自分の前世はどのようなものなのか。考えたがこれは夢ではないことは確かだ。窓の外を見ていると謎の集団を見かけた。


 「あれは..あそこにいるのは?」

 「あれは亡霊たちの集団です」

 「亡霊ってことはさっきの彼は..」


車掌に聞くと車掌は黙って頷いた。


 「そうです。彼らは自分の罪を償わなければならない。死んでもなお成仏できずさまようのです。それが彼らの宿命です」

 「死んでもなお成仏できず魂がさまようなんて辛い」

 「それが彼らの選んだ道なのですから」


 車掌はそう言うとどこかへ行ってしまった。列車が亡霊たちを通りすぎる直後に先ほどの乗客の姿があった。骨となり変わり果てた姿を見て複雑な気持ちになった。確かに前世で殺人を犯したとしてもこんな姿になって永遠にさまようなんて...哀れに思えた。今まで自身が行った罰やツケが来たのだろう。しかし亡霊となった彼らはかつては人で乗客だった。存在を消され亡き者にされた彼らを見るとこの世界は変わっているのかもしれない...


『一章 気まぐれな殺人鬼』(終)NEXT→ 『二章 本当の家族』






 


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る