八章 恋は人を狂わせる

5.

 「何でこんなことを!人を生きたまま人形にするなんて」

 「君はこの芸術が分からないかな?僕は魅了されたのさ~人形に!精巧かつ傑作のあの素晴らしい作品にね!僕も作ろうと思ったんだよ」

 「いかれてる...」

 「酷い言い方だな。僕は魅了され人形に恋をしたのさ!」


乗客は側にある人形を掴みながら語った。


 「見てごらんよ!綺麗で穢れの知らない白い肌、健気で優しい瞳、繊細で気品のある艶やかな髪!素晴らしいだろう!よく言うじゃないか...恋は人を狂わせると。いい言葉だ!そうは思わないかい?」


いかれている...この乗客がここまで異常だと思いもしなかった。


 「狂ってる...何故そこまでしてあなたは人形にこだわるの?なぜそこまで魅了されたの!」

 「なら、教えてあげるよ。僕が人形と出会えた奇跡の話を」


乗客は人形の髪を触りながら話し始めた。


 **

 僕は今まではしがない人形師だった。しかしある時、魅力的な女性と出会うことが出来た。彼女は清く正しくて人形のように美しかった。そんな彼女に惹かれていった。


 「すみません、少しいいかしら?」

 「はい!どちらになさいますか?」


繊細で美しい彼女を好きになった。彼女とはそれっきりだったが彼女のことが忘れられなくなったんだ。そこで僕はあることに思いついたんだ。

【彼女のような素晴らしい人形を作ろう】と...しかし作っても作っても上手くいかなかった。そして僕は気づいたんだ。それは...


 「ちょっと待って...まさか」

 「そう!そのまさかだよ!僕は彼女を人形にすればいいと気づいたんだ!」


そこからはとても早かったよ。僕は彼女のことを徹底的に調べたんだ。そして...彼女のことを呼び出した。


 「あの...どなたですか?私をここに呼び出したのは?」


呼び出したのは古びて人里離れた小屋だった。女性は周りを見回すと何かが壁によっかかっていた。


 「あの...大丈夫ですか...!!に、人形!!」


軽く触れるとそれは倒れた。女性は心配になり声をかけたが返事はなくよく見るとそれは人形だった。


 「なんで...人形が...!!」


女性は小屋の中を見ると失敗した人形がたくさん置いてあった。


 「まさか...私を呼び出したのは...」


女性は何かに気づき不安になり立ち去ろうとした。その時、近くの箱にぶつかり箱が落ちると中から女性の写真が大量に出てきた。


 「ひぃ!ど、どうして...こんなのおかしい!早く出ないと!」


女性が慌てて小屋から出ようとした時、ドアが開いて人形師が入ってきた。


 「どこへ行くんですか?」

 「私は帰ります」


帰ろうとした女性の腕を掴んだ。女性は抵抗したがビクともしない。


 「離してください!」

 「それは無理ですね」

 「ど、どうして...ですか?」

 「なぜなら...今からあなたは生まれ変わるからです」

 「生まれ...変わる?」

 「そうです。生きたまま人形にね」

 「!!」


女性は怖くなりなんとか逃げ出そうとしたがドアは鍵が掛けられて逃げられなかった。抵抗する女性の足を引きずり人形師は椅子に座らせた。


 「さあ!生まれ変わる準備はいいですか?」

 「いや...人形になんてなりたくない!やめて...いやああああああああああああああ」


女性は泣き叫び抵抗したが抵抗むなしく人形師によって生きたまま剥製の人形にされてしまった。


 「なんて美しいんだ!素晴らしい...今までの人形よりも、最高傑作だ!」


人形師は喜んだ。生きたまま人形にされた女性の人形は瞳には一筋の雫が流れていた。それは女性が流した涙かそれとも古びた小屋の雨漏りかは定かではない...そこにいるのは狂った人形師のみであった。


 「これからも生きた人間を人形にしていこう!」


そして...それから多くの人間を生きたまま人形にして作ってきた。

**


 「これが僕の人形に魅了された答えさ!」

 「狂ってる...あなたはとことん狂ってる」

 「酷いな~でもそうかもしれないね。自分も生きたまま剥製にしたし~」

 「自分も生きたまま...剥製...に...」

 「僕は彼女たちと一緒になりたかったんだ~!そうそういいこと教えてあげる。ここにある人形は全て生きたまま人形にした子達なんだよ!」

 「なっ!これ全部...」


乗客にそう言われて思わず辺りを見回した。ここにある大量の人形は全て

いきたまま殺された人たち...生きていた人間...そう言われて鳥肌が止まらない。


 「特に~君たちが美しいと言ったのが最初に人形にした彼女で僕はとても嬉しかったよ!」

 「そ、そんな...」

 「そんな顔をしないでよ~!彼女は素晴らしいよね?君の後ろにあるその双子の人形があるだろう?」


乗客に言われて振り向くと確かに幼い双子の人形があった。年齢からして5,6歳前後...こんな子供まで手にかけるなんて...


 「その双子にも同じことを言ったんだ。そしたら片方は君と同じように僕を否定したよ。もう片方は泣いて喚いてたな~...でも彼女を見せたら急に震えだして大人しくなったんだ」

 「彼女って...まさか!」

 「君の想像通りだよ。剥製にした彼女...双子から見たら母親か?彼女を見せたら大人しくなって剥製もやりやすかったよ。最後の最後まで僕を否定した方は僕を睨みながら死んでいったな~」

 「......」


この男は狂っているだけじゃない...こいつは...ただの...悪魔だ。人の命を何とも思っていない。多くの人を人形にして幼い双子まで殺して...自分まで剥製にするなんて...一体どうしたら...乗客は目の前にいる。助けを呼ぶにもカーナたちは大丈夫なのだろうか。考えても分からない。この状況はまずい...


 「でも君に知られちゃったし」

 「なら生きたまま人形にする?」

 「いや?君はしないよ。少し眠ってもらう。この列車の乗組員は珍しくて、さぞいい人形になるんだろうね~」

 「そんなこと...させない!」


急いでドアを開けて部屋から出ようとした時だった。突然激しい電流が流れ耐えきれず倒れた。


 「君は馬鹿なのかな~?僕の前世を知っている君をみすみす逃がすと思う?ごめんごめん~このドアは改良してあるから僕が明けないと電流が流れる仕組みなんだ~」

 「う...うう...」

 「だからあの時は焦ったよ。僕が明けたからよかったけど~君たちが明けたらどうなっていただろうね~?」

 「もしも...あの時あなたじゃなく、カーナたちが触れていればその場でカーナたちを人形に..」

 「ご名答!正解だよ~」


目の前で乗客が通りすぎ止めようとしたが体が動かない。


 「ま、待って...」

 「それじゃあね!君が目を覚ます頃にはすべてが終わってるころさ...ここに乗組員たちの人形が置いてあるだろうね~...向かうべきはまずバーかな?カーナさんなら彼女のようにいい人形になってくれるだろうね~」


そう言うと部屋に鍵をかけてカーナのいるバーへ向かった。


 「か、カーナ...」


意識が途切れながらドアに向かい手を伸ばす。しかしギリギリで気を失った。失う瞬間誰かの声がしたがそれは一体誰だったんだろう?


 「全く...世話が焼けるね」


なんだろう...この人みたことがあるような気がする。意識を失う前にその影をぼんやりと見た。


6.

 「ったく!なんでこんなことしなくちゃならないんだよ~全く!」


愚痴を言う堕天使にマジシャンは糸を喉元へ突き付ける。


 「ならまたあの牢獄に今すぐぶち込んで戻してやってもいいんだぞ」

 「よ、喜んでやらせていただきま~す!それで~誰を堕天させるの?」

 「何言ってるんだ?俺は別に堕天させろって言ってないぞ」

 「え?じゃあ何をするのさー」

 「お前なりのやり方でいいだろ?すきにしろ」

 「でも彼一応乗客だしー僕がやらなくても-」

 「お前がそれをいうか?前の乗客には厄身にしたくせに何言ってんだよ」

 「うう..そう言われると耳が痛い」

 「あいつは地獄行きだ。俺が送ろうと車掌が送ろうとお前が殺そうと対して変わらない。それにクズっぷりはお前と同じだろ」

 「酷いな~!一緒にしないでよー僕はあいつみたいに生きた人間を人形にする趣味は無いの~」


と堕天使は首を横に振るがその言葉がマジシャンの逆鱗にふれた。マジシャンは糸をまた突きつけるとドス黒い声で言う。


 「ならお前は生きた罪のない人間を死に追い詰め追いやり、異形の一人を大罪にする趣味は無いんだろう」


マジシャンは堕天使を睨みつけ笑っていたがその笑みは微笑ましいものではなく生き物を塵と見るようば冷たい眼差しだった。堕天使もどうように笑っていたが互いに相手を蔑んでいた。


 「ほんと~悪趣味だよね~!いいよ、こっちも少し気がかりだしなにより...目ざわりで癪に障るんだよね」


堕天使は****を抱き上げて部屋で寝かせた。部屋を出ると堕天使の黒炎の翼を掴み息を吹きかけると辺り一面が霧に覆われた。


 「これでよし!」

 「なるほど...あの霧はそうなってたのか」

 「凄いでしょ!」

 「凄くないし褒めてない...じゃあ頼むぞ」

 「了解ー!さて..過去の憂さ晴らしと行きますか」


乗客は焦っていた。突然の霧によって辺りが良く見えずなかなかバーへたどり着く無かった。


 「なぜだ!おかしい...歩いても歩いてもどうして同じ景色なんだ!これじゃあひとつも人形を作れないじゃないか!」


乗客は焦りまた同じ道を進んでいた時、突然扉が開いた。中は薄暗かったがカーナがいた。バーに着いたと安堵した乗客はカーナに声をかけたが返事はない。これをチャンスと思った乗客は痺れ薬を投与し倒れたカーナを生きたまま人形にした。


 「あはははははは!遂にやった!異形を生きたまま人形にできたんだ」

 「ねえ?なにがそんなに嬉しいの?僕にも教えてよ」

 「なっ!誰だ」


カーナを人形にしたことを喜んでいた乗客は見知らぬ声に驚き周囲を見回したが誰もいない。気のせいだと思ったが後ろから堕天使が現れた。


 「一体どこから!」

 「何言ってるの?ずっとここにいたよ?ねえ?何してるの?」

 「...」

 「??」


突然現れた堕天使に動揺したが乗客は堕天使も人形にしようと考え無防備な堕天使に痺れ薬を打ち込んだ。


 「な、何を」

 「痺れ薬さ!これで生きたまま人形になるんだ。君も馬鹿な奴だ、自分からなりに来るなんて」


倒れた堕天使を押し倒しそのまま人形にした。満足した乗客は立ちそろうとしたが人形なったはずの堕天使が突然起き上がり乗客の腕を掴んだ。


 「ねえ...待ってよ。僕はまだ何をしてるのかおしえてもらっていないし...生きたまま人形になってないけど?」

 「な、なぜだ!人形にしたはずなのにどうして動ける!なぜ生きたまま人形にならない!」

 「だって...僕人間じゃないしーそんな薬が効くと本気で思っていたのー?そんなもの効くわけがないじゃんー」

 「じゃあ...僕が人形にしたのは?」

 「ああーこれ?君が人形にしたのもほら」


堕天使が指を鳴らすとカーナが消えた。


 「これは...ま、幻!」

 「そう!僕が作ったんだー本当は本物の彼女でよかったんだけどーそうするとマジシャンが怒るから...僕が作った霧で偽物を作っておいたんだーどう?本物みたいだったでしょ?でもさー楽しーい?生きたまま人形にするのって?」

 「ああそうさ!楽しいぞ」

 「へーそんなに楽しいんだ。なら僕にしたくなっちゃったな~人を生きたまま人形に人形にするの...君がで試そうかな」

 「え...」

 「気づいてないの?君は最初から既にもう生きたまま人形になってたんだよ」


堕天使が霧を解いて乗客に指を指した瞬間乗客は生きたまま人形になった。


 「な、なんだこれ...」

 「それが生きたまま人形になる感覚だよ」

 「嫌だ!死にたくない...生きたまま人形になりたくない」


と言った乗客を堕天使は嘲笑った。


 「おかしいねー君。以前自分も剝製にしたくせに...そう言えば君はそう言って助けを求めた人間たちをどうしたんだっけ?何人そう言った人間たちを人形にしたのかなー」

 「そんな...うぐ...あがっ...あああああああああああああああああああ」

 「自業自得だねー!まあもう死んでるから関係ないかー」


堕天使は動かなくなった乗客にそういうと息を吹きかけた。すると乗客は消えてなくなり、足元には桐谷創きりえそうという名刺が落ちていた。乗客がいなくなったことで列車が動き出した。


 「よくやった。今回は見逃してやる」

 「地獄の門番さんがこんなことしていいの?」

 「言っただろ?今回はってな!俺は何も見ていないしお前は何もしていない。それでいいだろう?」

 「まあいいけどさー!だからあらかじめに乗組員たちを別の部屋下待機させたんだね。僕を使うことが彼らに見られないようにするために。あと彼らを守るために」

 「分かったならさっさといけ!」

 「おおー怖い!ハイハイーじゃあ行くよ。車掌によろしくね」


と、堕天使は言い残し消えた。


 「この列車で死ねばその人は地獄や天国にもいかずその存在自体が消えたことになる。あの乗客は我々の記憶では存在するが生きていた現世ではもう...」


車掌はそう呟くと車掌室から出て歩き出し、乗客の部屋を少し見つめたがとバーへ向かった。列車はまだ止まりそうもない。


『八章 恋は人を狂わせる』(終)NEXT→ 『本は真実のみ語る』



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