八章 恋は人を狂わせる

2.

 列車は進み続けているがまだ止まる気配はない。


 「列車は進んでいるみたいだけどどうなっているのかな?今頃地獄はきっと大騒ぎだな。こちらとしてはとても楽しいからいいんだけどさ~!」


堕天使は笑いながら傍にある水晶から様子を見ていた。先ほどの地獄の門が開いた件は厄身を通して堕天使が仕組んだことだった。


 「まさか諭しただけでここまで上手くいくなんて思わなかったな~!さて~君がモタモタしてると乗客の前世もそうだけど彼女の前世は一体どうなるのかな~まったく面白いね。退屈しないな~」


堕天使は水晶に映る車掌を見ながら楽しそうに笑った。

 

 その頃地獄では堕天使が言った通り大変な事態に見舞われていた。堕天使の逃亡、地獄の門が開いたことで地獄に送られた魂たちが揺らぎだしそれを抑える事、地獄に先ほど送られた元乗客の魂の処理に追われていた。


 「くそ!やらなきゃいけないことがやまずみだ。あの堕天使め...」


マジシャンもその処理に追われる作業を強いられ怒り、列車や車掌たちのことが気になり焦っていた。


 「だから、今大変なんだよ!門番様に言われただろ!」

 「動ける奴は誰でもいい手の空いてるやつから動いてくれ」

 「門番様こちらにご指示を」

 「そっちのほうは二組になって動いてくれ!」

 「「かしこまりました門番様!!」」

 「はあ...しかしきりがないな。よりによって何であいつが...こんな時に!」


マジシャンは地獄で働く悪魔たちに指示をしていた時に閻魔に話しかけられた。


 「少しいいか?お前に聞きたいことがある」

 「??なんだよ閻魔こんな時に」

 「実はな...さっき開いた地獄でのことだがこいつが分かるだろう?」

 「ああ...それがどうした?」


閻魔が手に持っていたのは先ほど無数の手から地獄に送られてきた元乗客の魂だったものだ。地獄で罰を受けたことでその魂が耐えられず肉片の塊となってしまった。それを見せた閻魔は続けて言う。


 「こいつは乗客で前世を解明し地獄に送るはずなのになぜこのような事態になっている。何か不具合でもあったのか?」

 「別にそんなことないさ...でもなんでそんなことを聞くんだ?」


マジシャンの話しを聞いた閻魔は地獄を見回して言った。


 「地獄にいる魂たちが騒いでいるんだ」


閻魔の言葉を聞いた時マジシャンは確信した。きっと地獄の魂たちが騒ぐ影響を与える魂は****だということに。しかし閻魔にこのことを明かすわけにはいかない。言ってしまえば閻魔は問答無用で地獄送りにしてしまうだろう。そうなれば車掌がしてきたことが無駄になってしまうからだ。マジシャンは何も知らないふりをした。


 「分からないな...こちらも原因を探してみるが」

 「そうか...ならお前に任せる...頼んだぞ」


その言葉を最後に閻魔はその場からいなくなりマジシャンは深いため息をついた。


 「まずいな。何とかしなければ...このままだと****が地獄行きになるのも確実で、気づかれるのも時間の問題だ。早く手を打たないと!人と死神が手を取り合うなんてことあってもいいわけが...」


マジシャンはその時一瞬だが過去の出来事を思い出したし言おうとした言葉を言うのを辞めた。


 「やめよう...そんなこと言うのは...例えイレギュラーでも...人と死神が手を組むことだって...できるかもしれない...」


マジシャンは地獄でやるべき仕事を終わらせて車掌たちの元へ急いだ。


3.

 それは遠い昔の記憶だ。


 「あはははははは~来て来て」

 「お~い!待ってくれ」


声の主の二人は楽しそうにはしゃいでいた。


 「ねえねえ!これが星っていうんだよ」

 「そうなのか?」

 「そうなんだ!星にはね願いを叶える意味があるんだって!」

 「願いを叶えるか...なあ?もしも****だったら何を願うんだ?」

 「私はね*********」


その言葉は何と言ったのか分からなかった。


 「じゃあ?****は何を願うの?」

 「俺?俺は...」


あの時なんて答えたんだっけ...もう忘れてしまった。いつも一緒にいた。二人仲良くずっと一緒にいられると思っていた。しかし...それは叶うことは無かった。誰かに悲しそうに言われる度に一瞬だけ思いだす。何を抱きしめているのかは分からない...もう覚えていなかった。けれどこれだけは覚えている忘れられない記憶がある。


 「嘘つき...****なんか...友達じゃない...」

 「...フジニアとなんか出会わなければ良かった」

 「私を...殺して...」


 それは遠い遠い昔の忘れたい...忘れられない...悲しい戒めの記憶だった。


 「なら...私はあの時...一体どうしたらよかったのでしょうか」


と呟いた車掌は自身が一粒の涙を流していることに気が付かなかった。涙が零れ落ちた時車掌がそのことに気づき顔に手を当てると手は涙で濡れた。車掌が涙を拭った時にちょうど列車が止まりアナウンスが流れた。


 『え~上野~上野~列車が止まりま~す』


同時刻_部屋に戻ってきたカーナとグリンと共にアナウンスを聞いていた。


 「どうやら列車が止まったようね」

 「今回は上野駅か。列車が止まった訳だし遺体が出てくるはず」

 「ねえ?何か音がしない?」


グリンに言われた通り耳を澄ませるとポタポタと何かが落ちる音が聞こえてくる。


 「この音どこから聞こえてくるんだろう?」

 「何かが落ちてくるような音じゃない?」

 「??...!!」


ネムはあたりを見回すと何かに気づいたのか****のことを指さした。


 「ネム、****がどうしたの...って!****、頭どうしたの!いつの間に怪我をしたの」

 「何言ってるのカーナ。怪我なんて...え?これ血だ!」

 「見た感じ怪我はないわね」

 「うん。さっき目を覚ましはばかりだから怪我なんてないよ。これは私の血じゃない」

 「じゃあ誰の血なの?」

 「私の血じゃないってことは...まさか...!!」


恐る恐る天井を見ると天井に釘を打たれたように串刺しのように張りつけにされ頭から血を流している女性を見つけた。


 「うわあああああああああ!」

 「まさか...此処に現れるなんて...」


誰も乗客の前世に関係する遺体が現れるとは思っていなかった。あまりの出来事に驚きすぎたグリンは自身の上半身を置いて走り出し、置いて行かれた上半身はずっと叫び続けている。


 「うわあああああああああ!」

 「グリン!落ち着いて」

 「うわあああああああああ!」

 「これじゃあ埒が明かないわね~ネム、捕まえてきて~」

 「コクコク...」


頷いたネムはグリンを引きずりながら連れて戻り泣いて嫌がるグリンの体を元に戻した。グリンの体を元に戻している時****は遺体の様子を確認した。


 「この遺体笑ってる。苦しみや痛みどころかなぜだろう...とても幸せそうに見える。なんでなんだろう」

 「そうね~調べてみないとなんても言えないわね~」

 「コクコク...ガシ!」


会話をしながら逃げないようにグリンを捕まえている二人に感心した。


 「とりあえず探しに行くよ...証拠とか」

 「先に行っててくれる?グリンが逃げないようにするから」

 「...分かった。先に言ってるよ」

そう言って先に調べに行こうとしたがグリンに足を掴まれた。

 「お願いだよ~僕も、僕も連れてって~」

 「あなたは先にやることがあるでしょ!大人しくしなさい!」

 「ああああああああああ...カーナが怒った」

 「埒が明かない...じゃあねグリン」

 「置いてかないで~あああああああああああああ~」


グリンを無視して先へ急ぐことにした。車掌のことが気になったが車掌は現在休んでいる。廊下で車掌室の前を通り声をかけるべきか悩んだ。しかし疲れている車掌に声をかけるのもどうかと思ったがドアが少し開いていた。すきま風で合いたようだが暗くて中は見えなかった。気になり入ろうとも考えたが体が抵抗した。もしこの中に入ってしまえばもう戻ってこれない気がしてやめて代わりに声をかけた。


 「具合はどうかわからないけどゆっくり休んで...これから乗客の前世を明かすために調べようと思うんだ。列車がちょうど止まったから..ゆっくり休めたら気晴らしにきてほしい」


と言い車掌室を後にした。その言葉をドア越しに聞いていた車掌は立ち去る影を見守るしかなかった。


 「ここでドアを開いてくれれば良かったのになんて...思ってもいけないことを考えてしまった。もう少し...休もう。体がまだ怠い...この怠さが治るまで...」


車掌はため息をついた後にそう呟いて目を閉じた。

 

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