七章 異世界の異変

4.

 嫌な予感がした。当たらねばいいと思っていたが嫌な予感に限って的中してしまう。列車内の光景を見た時あり得ない状況に驚愕し同時に戦慄した。夢であって欲しいと願うが目の前の光景は決して夢ではない。目の前にいる人物に話しかけられ夢ではないと突き付けられた。


 「やあ~!こんにちは****。ああそうか!今は車掌なんだっけ~?久しぶりに会いに来たよ...親友」


と言い目の前で微笑む彼の笑顔はほほえみではなく嘲笑っているように見えた。彼の笑みから目線を外すと彼に踏まれている人物に目が行った。


 「その子を離せ!その足をどけろ。ここは前世を明かし死後の道見定める場所だ。お前が立ち入っていい場所じゃないんだ!今すぐ出ていけ」

 「ええ~~~。」

 「...」

 「もう~そんなに怒らないでよ~あの時以来なんだからさ~。ねえ?親友」


なぜここにかれがいる。...目の前にいるはずのない招かれざる乗客に車掌は驚きを隠せなかった。彼_堕天使を。 事の始まりは車掌と堕天使が再開する数時間前に遡る。


車掌と堕天使が再開する数時間前_車掌は乗客の前世を解明するため動いていた。


何度繰り返したのだろう...その数は数えきれないほどだった。やり直しもいつかは効かなくなってしまう。例の件...あの扉が開く前に終わらせなければならない。なぜこの列車ができたのか、その意味も無くなってしまう前に...焦っても仕方ない。この仕事をやり通すまでだ。始点に乗客がやってくる。貴方と共に...乗客を案内する。


 「皆さん長旅お疲れでした」


説明するのも乗客たちに話すのも内心疲れる。耐えられるのは...あなたがいるからでした。なんとしても今回は必ずやり遂げようとしても思いとは裏腹に終点になると失敗する。必ずやり遂げると決めていたのに...


 「もう失敗はしない..今回こそ必ず成功させる」


と誓った。列車はまだ止まらない。止まればまた事件が起きて、解決してやがて終点に...この時はそう思っていた。しかし終点になった時悲劇が起きるとは思わなかった。数分後_列車は止まりアナウンスが流れた。


 『大倉~大倉~列車が止まりま~す』


この列車が止まると殺人事件が起きる。だが本当に殺されるわけではなく魂を借りているだけだ。今回も以前のようにあなたに声をかけた。ただイレギュラーだったのは私のことを微かに覚えていることだった。なら_今回にかけてみよう。この終点に。悲鳴が上がり乗客の一人とあなた以外は皆眠りについた。この列車や乗客のことを説明するとあなたは納得した。


 「今回は大倉さんですか」

 「なら解明しないといけないですね。手伝うとしても何をしたらいいですか?」

 「そうですね。まずは現れた遺体から調べてみましょう」

 「分かりました。それにしてもこのロビーに現われた遺体は酷い」

 「そうですね...乗客の死後に関係する遺体ですから。場合によっては目視出来ないほどの遺体があります」

 「そ.そうなんですね」

 「まあ今回はまだましな方です。ちなみに遺体が現れるのはランダムなんです。なのでバーや料理長室にも現れる可能性があるのですよ。そこにも証拠があるので探してください」

 「ランダムなんだ。調べるにしても遺体を見るなんて気分が悪い...乗客のあなたは大丈夫ですか?」

 「い、いや...ただ...これは...夢だと思っている」

 「夢って...大丈夫ですか?顔真っ青ですよ」

 「だだだ大丈夫だ!」

 「大丈夫か...?」

 「そうですね...この調子ですと彼もしかしたら..」

 「もしかしたら?」

 「二人を見て気絶するかもしれません」

 「二人???」


私が言ったことが分からないあなたは首を傾げた。現実逃避している乗客をつれてカーナさんのバーに向かった。カーナさん以外にグリンも居た。案の定二人を見た乗客は気を失った。


 「もしもし~大丈夫?」

 「ああ~目を覚ましたのね。良かったわ~」

 「具合はどうで..」

 「く、首があ、あ、あ、あ、あ、あ、もう...ダメ...」

 「あ、また気を失った...大丈夫ですか?」

 「起きないですね...」


首が取れた状態でグリンが振り向いたのでそれを見た乗客はまた気を失った。私とあなたがしゃがんで乗客の頬をつついたが顔は見えないので変化は分からずあまり意味ない気もした。乗客を再び寝かしてカーナさんから酒を貰い飲んでいると乗客は目を覚まし苦笑いをして気絶した。


 「また気絶した!本当に大丈夫なのかなこの人...激しく倒れたけど」

 「彼にはきつかったのでしょうか...」

 「そんなに僕ら怖いかな~?」

 「まあ、確かに死んだのに殺人事件が起こったり首が取れたゾンビや血を流して飲み物に変えて提供する私は...現実離れしているからかしら?おまけに彼、気絶しながら寝言言ってるわ~」

 「これは夢だ...これは夢だ...これは現実じゃない...」

 「本当だ...なんか悪夢にうなされている人に見える」

 「しかし!彼が目を覚ました時それが変わることは無かった...アハハ~」

 「グリン..笑い事じゃない気が」

 「そうですね。どうしましょうか?彼を..あっ起きた」


乗客は目を覚まし辺りを見回すした。グリンの言ったように乗客は私たちに囲まれていることを理解し叫んだ。


 「う、ううm...これは夢だ...きっと目を覚ませば...」

 「どっどうも」

 「おはようございます。よく眠れましたか?」

 「...なんで変わってないんだ。クソッタレーー-----!!」


乗客は頭を抱えて悩んでいる様子で彼の前世を明らかにするにはまだまだ時間がかかりそうだ。現実逃避した彼は何とかこの状況を受け入れた。


 「これは現実だ...現実...」

 「現実という現実逃避をしていますね」

 「大丈夫なのかな。無理もない気がするけど..取り上げず調べてみますか?」


あなたは乗客に声をかけて前世探しを始めた。二人がバーから出る様子を見て深いため息が出る。乗客たちを見るといつも思うことがある。人間とは罪深い生き物であるという事に。ここに来る者たちはまともな人間がいない。前世といえそれなりの理由で人は死ぬ...それがどんな理由かは関係ない事だがここに来る乗客たちのことを思うと思わず口がこぼれた。


 「やはりまともな人間はいない。もはや彼もそうなのだろうか...」

 「ダメよ~人を見かけで判断しちゃね~!考え事かしら?」

 「...そうですね。カーナさん、貴方なら乗客の前世をどう見ますか?」

 「どうもこうも分からないわ。私は飲み物を提供する妖夢だから」

 「そうでしたね...」

 「でも...そうね~アドバイスとしたらだけど私がなぜ彼らに飲み物を提供するのか分かるかしら?」

 「それは...」

 「仕事って言うのは無しよ。それは無し。それもあるけどそうじゃないわ。そうなると車掌だってそうでしょう?ただの仕事だけでこんなことをしているわけじゃない。私達にはそれぞれ目的がある。そのために互いに協力しているだけ...でしょ?」

 「...そうですね。互いの目的のために私たちは協力しこうして集まった。全ては目的のためですから...」

 「目的のため...ねえ」


カーナは深いため息を吐き飲んでいたグラスを手で軽く押した。退屈そうなカーナに対して車掌は真剣な表情でカーナを見た。


 「退屈そうですね」

 「ええ...退屈よ。所でさっきの答えを聞いていなかったのだけど..理由は分かりかしら?」

 「さっきの答えですか?そうですね...カーナさん、あなたは選別しているのでしょう」


車掌に選別していると指摘されたカーナは分かりやすく驚いた。余裕そうな表情が一変し驚いた様子を見せたが直ぐにいつものように微笑みの表情を浮かべる。表情は驚く前と変わりないが面白いおもちゃを見つけた子供のように楽しそうだ。退屈さからではなく好奇心や興味から車掌の話しを聞いている。カーナは楽しそうに車掌に話しかけた。

 

 「驚いたわ。まさかその答えが来るとは予想していなかったわ」

 「そのわりには楽しそうですね」

 「まあね~!さすが車掌ってことかしら」

 「褒めていただいてありがとうございます」

 「いいのよ。じゃあさっきの続き...選別っていうと?」

 「分かりました。あくまで私の考えです」


車掌は酒を一飲みして深いため息をつき目を閉じた。目を閉じ再びため息をついてを開けて語りだした。


 「あなたの血には乗客の前世の罪や行いから地獄か天国行きかと判別することが出来ます。あなたは自身の血を提供し飲ませることで判断することが可能です。カーナさんが提供した飲み物のグラスを持った時一瞬だけ色が変わりますよね?例えば...地獄は青で天国は黒色に変化します。私やグリンたちに入れたカクテルたちは無色でした。あなたが乗客に提供したカクテルを以前拝見した時一瞬でしたが色が変わりました。最初は見間違いだと思いましたが他の乗客にも同じことが起こり確信に変わりました」

 「確信...面白いことを言うわね。それで...あなたは何が分かったのかしら?」


先程とは違いカーナの表情に笑みは無く辛辣な表情で車掌を見た。その笑みは冷酷で普通の人間なら背筋が凍り付いているだろう。しかし、ここ人間はいない。辛辣な表情を見せるカーナとは対象に冷静な表情を車掌は見せた。


 「カーナさん、あなたは妖夢ですよね」

 「そうよ。妖夢だけどそれと何が関係あるのかしら?」

 「妖夢は本来、夢と人の記憶に詳しい特性をもっています。そのため、あなたは乗客たちの前世を解明する前から知っていたんですよ。」

 「あなたの行う上での選別とは乗客の魂の行き先の確認ですね。本当に地獄か?天国か?乗客はどうして死んだのかを自身の血で確かめて確認したうえで我々に黙っている。例え乗客が地獄行きでも人を殺した殺人鬼でもはたまた善人や被害者であってもあなたは前世を解明するどころか手を貸したり差し伸べたりはしません。あなたはただ黙認している...違いますか?」

 「黙認ね...嫌な言い方をするのね。確かにあなたの言う通り私はバーメイドよ?前世を解明するわけでないの。それが仕事でもない、しようとも思わないわ...残酷というならそうかも知れないわね」

 「なら認めるんですね。あなたが選別をしていることを」

 「そう思いたいならそう言うことにしておくわ~。でもね、車掌..その話だと意味が違ってくるんじゃない?あなたは選別と言ったけど話を聞くにそれは選別ではなく判別よ。それなら選別ではなく判別というのが正しいんじゃなくて?」


カーナの問いに車掌は間を開けた。その間車掌はカーナと目が合い数秒見つめ合った後目を反らして言った。


 「私もはじめはそう思いました。あなたは判別をしていると。しかし...なぜか間違っていると感じたのです。これは判別ではなく別のものだと...そう思った瞬間、鳥肌が立ちましたよ。あなたには別の目的があるのではないかと...そう思っていた時でした。例の事件が起きたのは...」

 「例の事件?」


 例の事件とは、乗客の魂が抜かれていた事件のことだ。乗客の魂が抜かれたことはなく皆は騒然とした。魂が抜かれた乗客は直ぐに消え冥界送りとなった。魂が抜かれた乗客を目撃したのはグリン。グリンは声をかけたが反応は無く既に手遅れの状態だった。グリンが声をかけた時にカーナがいることに気が付きカーナにも声をかけた。その時のカーナは口元が血だらけでグリンが心配したものの怪我はしていなかった。車掌は駆けつけた時には乗客も冥界に行ってしまい何も分からなかった。

 

 「カーナ、この件で聞きたいことがあります。以前一人の乗客が魂が抜けた状態で殺されていたのですが何か知りませんか?その乗客のカクテルは白いカクテルでしたが赤く染まりました。」

 「赤く染まった...」

 「それとこれは聞いた話しですがその乗客とあなたが話したのを最後に彼は殺されています。」

 「車掌は私が彼を殺したと言いたいのかしら?」

 「そうだと言ったらどうしますか?」

 「......」

 「それとずっとあなたに聞きたいことがあったんです...あなたはいつ食事をしましたか?」

 「食事?」

 「ずっと気になっていたのですよ。あなたはいつ食事をしているのだろうと。グリンに聞いてもあなたのことは知らないと言いていました。むしろ食べていないので心配していましたよ。それに...私が妖夢のことを知らないと思いましたか?」


車掌がそう言った時一瞬だがカーナの顔色が変わった。直ぐいつもも様子に戻っていたが車掌を伺っているようにも見える。


 妖夢の食事は人の魂を食らうことを糧としている悪魔で一つの魂を食べると数百年は生きられると言われている。しかし妖夢は厄介な悪魔で暴食であるため多くの魂を食らう習性がある。そして妖夢は食べた魂の数に乗じて変化する。最上位の妖夢は刻印の入った角が生えると言われている。


 「あなたは選別を通して乗客の魂を食べていますよね?」

 「さあ~どうでしょうね」

 「...まあいいです。この列車の中であなたが一番信用・信頼できませんから...」

 「ええ~ひどいわ~」


車掌の言葉を軽く流して誤魔化すようにカーナは笑った。


 しばらくバーでギスギスした空気が流れた。二人は無言で向き合っていたがカーナがため息をついて空気が変わった。


 「もう~そんなに見たって何もでないわよ」

 「えっそんなつもりじゃないんですが...」

 「冗談よ。冗談~」

 「あなたと話すと調子狂います」

 「そんなことないでしょ~?それにあの子に感謝しないとね。私たちを作ってくれたくれたあの子にね?」

 「...そうですね」


暗い顔をした車掌の頬をつつき弄った。カーナに弄られた車掌は対抗すると楽しそうにカーナは笑った。


 「やめてください!」

 「ごめんなさ。ついね~」

 「もう!」

 「もうしないわ。降参!」

 「次やったらやり返しますよ」

 「怖いわ~」

 「絶対思ってない」


笑うカーナをに呆れた車掌は再び酒を飲んだ。カーナも傍にあるワインを飲むと車掌に言う。


 「こんなことを言うのはがらじゃないけどいつまで続けるの?」

 「時が来るまでです。まだ現れないその駅が現れるまで...」

 「そう..」

 「繰り返しを許していただいてありがとうございます」

 「堅くならなくていいのよ。私たちも感謝しているから。あなたとあの子に...でもマジシャンの言う通りこのままいけばあの子は...」

 「分かっています。しかし...これしか選択の余地がないんです」

 「でもまあ~今はこの駅はあの子の駅ではないのだから安心して気楽にやって前世を解き明かしましょう」


そう言ったカーナは車掌の肩に手を置くといつもの酒を手渡した。


 「はいこれ!いつもの必要でしょ」

 「ありがとうございます」

 「ねえ車掌。あの子との生きた記憶を留めておくのに必要な事とはいえ死神のあなたがこの酒薬を飲むのは良くないわ。知っていると思うけど妖夢の作る酒は死者には飲んでも何にも影響を出る事はなく娯楽として飲んだり楽しんだりすることが出来る。けど、特に畏敬の中でも死神は影響を受けやすい傾向にあるの。いくら死なないとはいってもこのままいけば消滅する危険さえある。あの子を助ける以前にあなたが死んでしまったら意味ないでしょ?そうなることは許さないから...それを言おうと思ったの」

 「...」

 「じゃあ...私は少し休むから貴方も頑張って!前世探し」


カーナはそう言い残しバーを出るとopenと掛けられた看板の向き変えcloseにした。看板を変えたカーナはバーを後にした。


 「...分かりました。今度こそ...今度こそ終わらせます」


車掌は小さくそう呟いた。カーナに渡された酒薬を飲むと今まで飲みすぎて身体に毒を蓄積したせいか飲み始めた頃と比べて全身に激しい痛みを感じた。痛みでその場に蹲り痛みを必死に耐えた。


 車掌が今まで飲んでいた酒はカーナが言った通り毒なのだ。このまま飲み続ければ更なる苦痛を味わいしまいには消滅さえしてしまう禁酒だ。車掌は早く乗客の前世を解明するためバーを後にした。

 

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