七章 異世界の異変

5.

 「ヒック...ヒック...」


 だれかの泣き声が聞こえてくる。気になり声の方へいくと少女が泣いていた。


 「どうしたんだ?泣いているのか」


声を掛けると泣いていた人物が顔を上げた。顔を上げると泣いていたのは見覚えもある少女だった。少女はこちらを見ると驚いて声を上げた。


 「あなたは****」

 「こんなところで何してるんだ?なんで泣いてるんだ?」


と言うと少女はまた泣き出してしまい慌てて声をかける。心配になり少女を見ると少女は答えた。


 「どうしたんだよ!ど、どこか悪いのか?」

 「実はね...私...」


少女が何かを言おうとした時ノイズが流れ我に返った。どうやらバーを出た後に倒れてしまったようだ。先ほど飲んだ酒薬の影響だろう。


 「まさか...ここまで影響が出ているとは...早く終わらせないといけませんね。影響を受けたのがあの日の出来事とは...もしもあの時気づいていれば良かったのでしょうか****」


車掌はそう言いながら少女がつけていたミサンガを握りしめると廊下から慌てた様子でグリンが走ってやってきた。


 「グリン?廊下は走らず静かにしてくれとあれほど行ったのに」

 「ごめんね車掌。でも大変なんだよ!」

 「??一体どうしたんですか藪から棒に」

 「乗客たちが大変なんだ!二人が厄身やくみに当てられたんだよ」

 「!!」

 「なんだって...一体どうして...厄身やくみは起きないはずなのに...とにかくここは危険です。乗客は既に部屋で眠っているので大丈夫ですが念の為私に任せてください。グリンはネムとカーナと合流して車掌室に待機してください」

 「分かった。車掌も気をつけて」


グリンはそう言うとネムとカーナと連絡を取り車掌室へ向かった。グリンが車掌室へ向かう姿を見届た。車掌は釜を持ちグリンが言った場所へ向かうと厄身が一段と広がっていた。


 「ここにも厄身が...今は二人の安否を確認しなければ」


意を決して二人がいる場所へ向かうと厄身に当てられ傷ついた二人が倒れていた。二人に声をかけ駆け寄ろうとした時一人の畏敬の存在に気が付いた。足で踏みつけにしている畏敬・堕天使は車掌に気づき声をかけた。


 「やあ~!こんにちは****。ああそうか!今は車掌なんだっけ~?久しぶりに会いに来たよ」

 「その子を離せ!その足をどけろ。ここは前世を明かし死後の道見定める場所だ。お前が立ち入っていい場所じゃないんだ!今すぐ出ていけ」

 「もう~そんなに怒らないでよ~あの時以来なんだからさ~。ねえ?親友」


”親友”と堕天使に言われた車掌は昔の事を思い出していた。


 「俺は***だから...が欲しい」

 「ならこの森に住みなよ」

 「いいのか?だって俺は****だから」

 「だってもう君と僕は友達でしょ?」

 「...ありがとうな」

 「お前はなんでも知ってるんだな」

 「天使にはな~んでもお見通し~だからね!」

 「助けてくれてありがとう」

 「当たり前だろ?だって俺達親友だからな」


 これは記憶_そう古い過去の記憶だ。堕天使がまだ天使だった頃の記憶。優しくてよく笑うやつだった。嫌われ者の俺にも話しかけてくれる奴だった。でも罪を犯した。残酷で許されない罪を...駆けつけた時にはもう手遅れだった。美しい天使の羽は漆黒に染まり天使のわっかの閃光の輝きも失われ変わり果てた堕天使となっていた。


 「****」

と名前を呼んだ堕天使は笑った。その笑みは天使とは違い優しいものではなく不気味で嘲笑うかのように見えた。

**


 車掌と同様に堕天使も昔のことを思い出していたようだった。


 「懐かしいな~あの時の君はとても不愛想でさ~。まあ今もそうだけど」

 「...昔のことを世間話でもしに来たんじゃないだろ」


堕天使のことを警戒しながら車掌は言いその様子を見た堕天使は笑い、車掌の後ろに回り込んだ。


 「!!」

 「そんなに警戒しなくてもいいのに~」

 「だて..」

 「天使には何でもお見通し~ってあの時君に言ったよね」

 「!!」


後ろに回り込んだ堕天使は車掌に耳元でそう呟いた瞬間だった。突然痛みを感じた車掌は釜を振り堕天使から距離を取る。確認すると右腹が刺されていた。正確にいうと堕天使に右腹を手で掴み取られ食い殺された。あいにく死なないが痛みは感じるため車掌は激しい痛みに耐えていた。


 「...あの時は天使でも...今は..堕天使...だ...うっ..うぐ...」


痛みに耐える車掌に対し堕天使は笑いながら車掌の掴んだ右腹の一部を食べていた。


 「うまいうまい!流石だ~君の肉はいいな~。その魂も実に美味しそうだ。ねえ?こいつも食べたら美味しいのかな~」

 「!!」

 「やめろ」

 「いただきま~す!」

 「やめろおおおおおおお!」


涎を垂らして手を伸ばし食おうとした堕天使を止めようとしたが食われた傷が広がり痛みで動けなくなってしまう。堕天使は車掌の様子を見て嘲う。堕天使の表情は不気味で顔中にこびり付き飛び散っていた。唇は飛び散った血が唇のように塗られている。しばらく車掌の様子を見ていた堕天使は踏みつけた足をどけて車掌に投げた。無事に車掌が受け止めたことを堕天使は確認するとため息をついた。


 「一体何のつもりだ」

 「いや、別に少し試したいことがあっただけだよ。久しぶりの再会なんだからこのくらいどうって事ないだろ?」

 「お前はそうかもしれないが俺は..」


車掌は言うが堕天使に言われた言葉に言い返すことが出来なかった。


 「俺はそうじゃないって言いたいの?君がそれを言うんだ~僕のことを裏切っておいてさ~。その点君はいいよね?生き延びてさ~僕なんかこんな姿に成り果てたっていうのに」

 「!!」

 「君は車掌になって優雅に魂で遊んでいるなんて信じられないよ。しかも彼女を連れてるなんて...彼女のためにここまでしてるんだろ?君がいくら頑張った所で彼女は覚えていないのにね」

 「...」

 「でもさ~マジシャンが言う通りもうすぐ門が開くみたいだよ?そうなったら君のそうだけど彼女もどうなるのかな~」

 「...」

 「今日はそれを言いに来たんだ~何が正しい事なのか君なら分かるよね」

 「...」

 「まあそんな顔をしないでよ。態々君に知らせてあげたんだからさ~」

 「その為にあそこから出て俺に伝えるためにこんなことをしたのか...態々厄身を出して乗客たちを巻き込んで...列車をここまで澱みで汚し対象の乗客の魂を黒く染めようと!」

 「怒らないで****」


 反論したが堕天使になだめられて余計に腹が立ち言い返そうとした時にマジシャンの声が聞こえてきた。どうやらマジシャンが来てくれたようだ。


 「車掌、車掌、どこだ!堕天使、いるんだろう!どこにいるんだ!」

 「マジシャン!」

 「ちっ、もう嗅ぎつけたのか...なら僕はもう行くよ」

 「車掌の声!そこにいるのか」


車掌の声を聞いたマジシャンは車掌の元へ走り、堕天使はマジシャンが来る前に立ち去るため厄身を払った。厄身を払ったことで車内の淀みは解かれる。


 「車掌、無事か。乗客たちが厄身に当てられて...車内もこんない淀んで...!!」

 「マジシャン駆けつけるのが早いね~」

 「貴様!堕天使、許さないぞ。もう逃がさない大人しく」

 「悪いけど君の捕まる気はないよ~さようなら~じゃあね、マジシャン!」

 「待って逃がすか!」

 「僕を捕まえるよりもやらなきゃいけないことがあるんじゃない?」

 「!!」


堕天使が顎を動かした時に車掌が倒れた。堕天使にやられた傷が相当ひどいのだろう。耐えられず倒れてしまったのだ。倒れた車掌から血が流れている。マジシャンが何度も呼びかけるが返事が返ってこない。焦るマジシャンとは裏腹に堕天使は余裕そうに笑った。


 「車掌、車掌!!」

 「また会おうね****」

 「待て!消えた...くそ、逃がした!またあいつを探さないと」


堕天使は逃げるようにいなくなりマジシャンは堕天使が逃げたことを連絡した。


 「ひとまずこれでいいとして...大丈夫か車掌!」

 「ああ...大丈夫...っっ!!」

 「大丈夫じゃないだろ」

 「だけど...列車が...車内は淀みにやられ乗客たちは厄身にあてられてしまった。前世探しの者が黒く染まって...」

 「考えるのは後だ。とりあえず今は少し休め。後のことは俺がやるから」

 「でも、カーナたちに伝えないと」

 「俺がやっておくからお前は休め」

 「...分かった。後は頼みます」


マジシャンは車掌を連れてカーナたちに事情を説明した後、列車内に残っている淀みや当てられた厄身を払った。厄身を払うのに手を焼いたが片腕が負傷する程度で済んだ。


 「やはり一筋縄ではいかないか...くそ..痛..なんと払うことが出来た...」


全てを浄化したマジシャンは片腕を抑えながらカーナの元へ行き自分も含めて休息を取る様に言った。カーナたちはそれぞれ休憩室で休み、マジシャンは車掌を車掌室で寝かせた後に休憩室に向かい一眠りすることにした。






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