五章 表と裏は紙一重

5.

 マジシャンのよる乗客の前世の証明が始まった。マジシャンは近くの椅子に腰掛けて乗客にある物を見せた。それは大量のカルテで患者たちの診断書。


 「これからあんたの前世を証明する。まずは証拠から行くか」

 「前世の証明?証拠...何を言って」

 「誤魔化すならもっとうまくやれよ...っていても今のあんたは自分が何をやったのかすら覚えてないだろうけどな」

 「私は何もしてない!!こんなことをされる言われはな..」

 「ないっていう本気で思ってるのか?おめでたいやつだな本当に」

 「そんなこ..あがっっ!!」


乗客は喉元に何かが当たり血が流れる。見えない何かに触れただけなのに激しい痛みに襲われた。しばらく悶えているとその様子を見ていたマジシャンは笑いながらあるものを見せた。白い糸だった。その糸を見せたマジシャンは頭蓋骨を取り出した。頭蓋骨に糸がふれた瞬間バラバラになり影も形も残らなくなった。まるで武器のようにも思えるほど細く鋭いのに軽く触れただけで骨まで砕くような糸だった。


 「この糸すごいだろ?地獄ではよく罪人が逃げるからこの糸を使って殺すんだ。まあ、地獄に落ちた魂たちはいくら殺しても罪を償うまでは何度も蘇るからいいんだけど。あんたの喉元に触れたい糸もこれだ」


マジシャンに糸を見せられた乗客は恐怖からかまた暴れだし逃げようとするが逃げることは出来なかった。


 「暴れるなよ。言ったろう?逃げるなって...それにあんたを拘束しているのもそうだけどこの部屋全体はこの糸が張り巡らされているから下手に動けば君...死ぬよ?それにまだ前世の証明すらしてないんだから...もう一度言う逃げるなよ」


マジシャンは乗客の顔を掴みそう言いながら微笑んだ。しかし、その笑みは冷酷で背筋が凍るものだった。


 「そのじゃあ..始めようか。先ほどのカルテを見せた通りあんたは医者で精神科医だ。カルテからも精神外来と記載されているからな」

 「私が...精神科医。なら...なぜこのような目に合わなくちゃいけないんだ」

 「普通の精神科医なら俺もこんなことはしないさ。何故だと思う?問題はあんただよ。あんたの死が物語ってるんだ」


マジシャンはそう言うと乗客の目の前に今まで消していた乗客の死因となる遺体を見せた。乗客は気を失いそうになるがマジシャンはそれを許さなかった。乗客の髪を掴み遺体に顔を近づけて見せた。


 「ひぃっ!!」

 「いいからよく見ろ!!この死んでいるのが誰なのかを..」

 「これは...私...なぜ私が...」


マジシャンが見せた遺体は自ら猛毒の薬品を飲み自殺した遺体だった。


 「なぜ...私が...自殺を」

 「まだ思い出さないようだな。なら最後まで教えてやる。これを見ろ!最初にあんたが気を失った女子高生の遺体だ」

 「ひぃっ!!」

 「この遺体はな...あんたの患者だったんだよ」

 「私の患者のはずがない!彼女とはなんの関わりもない」

 「そうか...なら聞かせてやる。あんたとの関係を」


マジシャンは車掌たちの元へ壊れたテープを送った。車掌がテープを受け取ると【直して】と文字が表記された。車掌はそのテープを直すとマジシャンの元へ戻っていく。


 「これを直せばいいのか?」

 「復元したわ~、飛んで行ったこど」


復元したテープを受け取ったマジシャンは録音された音声を再生した。


(音声データ:録音されていた内容は以下の通り)


 「こんにちは、それでは診察をしましょうか」

 「はい...お願いします」


乗客が患者に話しかけている音声が残されており他にも流したが不可解なところは何もなかった。乗客はその音声を聞いて自分はやはり関係ないと反論したがマジシャンがあるものを見せると動揺したようにおとなしくなった。


 「なぜそれがここに...」

 「さあ?なぜだと思う。これはあんたの携帯電話だよ。車掌たちにもあんたにもあえて分かる様に復元させたからね。携帯電話まで復元されているなんて思わなかっただろう?これを流したらどうなるんだろうな~」

 「ま、待って!!私は...」

 「何もしていないならこの音源を流したっていいよね?」

 「おい、待っ..」


マジシャンは再生ボタンを押して音声が再生された。乗客は青ざめて下を向く。


 「待たないよ?問題はここからなんだから...よ~く聞けよ。あんたが犯した罪をさ...」


(携帯電話:復元データ)


 マジシャンは音量を上げて再生ボタンを押した。すると乗客と女子高生の会話がその場に流れた。


 「離してください!!やめて...私は病気じゃありません」

 「いや、君は治療が必要だよ。大丈夫...私が治療してあげるから」

 「やめてください...いや...いやああああああああああ!!」


聞くに堪えず音声を消したマジシャンは携帯電話を踏みつけ破壊した。青ざめた乗客に一枚の写真を見せた。その写真には抵抗する女子高生を殴り倒している写真だった。


 「これであんたが何をしたのかわかるよな?」

 「....っ!!」


乗客は突然暴れだし拘束されたまま廊下へ飛び出した。体のあちこちが傷ついたが気にせず逃げようとする。マジシャンは追ってこず乗客は安堵したが目の前に不気味な門が現れて後ろから誰かに引っ張られた。引っ張っていたのはマジシャンだった。マジシャンは乗客を踏みつけながら彼のカルテを廊下にばら撒いた。


 「おいおい..逃げるなって言っただろ?逃げなければよかったのに..あんたは逃げた。あんたは精神科医だがまともな仕事はせず適当に仕事をしていたみたいだな?同じ医学界でも目の敵にされていたんだろ?」

 「ち、違う...」

 「そうか?でもあんたは...それが気に食わなかった。だから診察に来た女子高生を襲って自分は逃げるように自殺した。罪を犯して償いもせず自殺するなんて万死に値する」

 「違う!!私は悪いことはしていない。私はただ自分の欲を満たしたいだけだ」

 「自分の欲を満たしたいだけで何も悪くないか...ずいぶんおめでたい奴だ。最後に聞きたいことがある。お前は*****の件の関係者か?」

 「*****の件の関係者?そんなの知らないし知っていたとしても関係ないだ」

 「そうか...もういい」

 「え?」

 「関係あっても無くてもどうだっていい...見つければいいだけの話だから。魂が黒く濁っていたからもしかしたらと思っただけだ。空振りならいい。*****の件と無関係でも。あんたは助けてくれとやめてくれと言った女子高生をどうした?」


青ざめる乗客をみてマジシャンは嘲笑った。


 「それが答えだ。安心しろ。楽には死なせないしさせない。あんたは苦しみ生き続けろ、地獄でな。閻魔聞こえるか?そっちに罪人を送るせいぜい裁いてくれ」

 「え、閻魔って...」


マジシャンは言うとどこからともなく低い声が聞こえてくる。その声は"わかった"と返事をした。その声の主はマジシャンに"門を開こう"と言うと同時に門が開いた。


 「なんだこれ...」

 「これは地獄の門だ...これで閻魔が犯した罪を裁いてくれる。自分の罪の重さを思い知りながら地獄で過ごすんだな...さようなら」


マジシャンは乗客に手を振ると拘束が解けて自由になるが地獄の門から出てきた鎖鎌に手足が絡みつき強制的に地獄に連行された。


 「嫌だあああああああああああああああああ...」

 「抵抗しない方が...ってもうしてるか。抵抗すればするほど自分の首を絞めるだけなのに...ああ、床が汚れた。車掌に怒られる...」


叫びながら抵抗するが身体中に鎖鎌が巻き付き血が流れる。巻き付かれた乗客は引きずられながら地獄の門に吸い込まれる。あと一歩のところで乗客を門に顔を挟めたマジシャンは笑い無言で蹴り落とした。蹴り落としたことで門が締まり消えた。門があった床には医師の資格書が落ちていた。資格書には黒木大河と記載され顔写真は乗客の血がこびり付いていた。


 「堕ちろ......これで一件落着~。さて、やることやったしみんなの元へ帰えろう~と!!」


そう言ったマジシャンの頬に血が付いており指で唇に着けると笑った顔が塗られた血が垂れて不気味に見えた。マジシャンは満足したのか舌で血を舐めとり車掌たちの元へ戻り同時に列車が動き出した。


 一方マジシャンと乗客のやり取りを聞いていた車掌たちは...


 「そうだったのか...だからカーナさんを遠ざけたのか」

 「マジシャンは乗客の前世があの時気づいて私たちを遠ざけたのね。マジシャンが地獄の門番として仕事をするときはあの子にも車掌にも見られなくないものね」

 「......」

 「あれ?また音声が聞こえるわ!!車掌、聞きましょう」


途切れ途切れだが聞こえてくる音声に耳を澄ましたが音声は切られてしまった。どうしたものかと二人で話していると突然意識を失った。


 「...い..お~い...車掌、大丈夫か?」

 「マジシャン...あれ?」

 「驚いたよ。戻ってきたら寝てるんだもん。カーナさんと二人で車掌室まで運んだんだ」

 「そうだったのか、悪いな...」

 「いいよ。それに僕も悪いし...乗客の前世を証明したから今は列車が動いてる」

 「そうか...いよいよ終点だな。三人が目を覚ます頃だ。三人の眠る部屋に行こう」

 「いいよ。僕の聞きたいことがあるから」


車掌はカーナ、マジシャンを連れて三人の元へと向かった。


6.

車掌たちが乗客の部屋に着くと三人は目を覚まし廊下を歩いていた。


 「よく寝た~」

 「コクコク...」

 「そういえば乗客はどうなったんだ?」

 「それなら~無事に終わって...ってそう言えば貴方は?」

 「そうだよ!それが聞きたかったんだよ。だって終点だよ。もう事件は起きないはずなのに...こんなケースは初めてだよ」

 「え?こういう場合どうしたらいい?」

 「あなたは...魂が不安定のようですね」

 「魂が不安定?」

 「そうです。貴方はどうやら自分が何者なのか知らず分かっていないようですね。そのせいか魂が定まらず不安定になっているようです。それでは前世を解明する以前の問題です。しばらくは事件が起きるまで様子を見るしかないでしょう」

 「なにか心当たりはある?」

 「心当たりと言えば...夢を見るんだ」

 「夢って具体的にどんな夢を?」

 「女の子が出てくる夢で、ただの夢じゃないような気がして...それにどこか懐かしくて何かを知っているような気がするんだ。けど思い出せず分からないんだ」

 「そうですか...もしかしたら夢が何かを伝えようとしているのかもしれもせん。それが分かれば前世を解明するための事件が起きると思います。」

 「事件は起きるまで...それまでこの列車にいてもいいのか?」

 「そうだね~。このケースは初めてだしどうしたらいいか迷うね。ねえ?こういうのはどうかな!ここは車掌の列車なんだし車掌に決めてもらおうよ」

 「いいわね~」

 「うんうん!」

 「コクコク」


マジシャンの提案に三人が賛成し反応に困る車掌はため息をついた。


 「そこ、うるさいですよ。すみませんねあの人たちは気にしなくていいです。事件が起きるまでは一緒に解明するのを手伝うと言うのはどうでしょうか?手伝うだけでのんびり休んでもらって構いませんし、部屋も同じ部屋を使ってもらっても構いません。どうですか?」

 「自分にできることはこのくらいだし、何もしないのは癪に障る。前世の事件が起きるまではここで前世の解明の手伝いをするよ」

 「ありがとうございます。これであなたもこの乗組員の一員ですね」


車掌はいいながら解明係と書かれたバッジを左肩につけた。


 「似合ってるよ、よろしく」

 「コクコク...」

 「よろしくお願いね~」

 「頼んだよ~」

 「これからよろしく。車掌、カーナ、グリン、ネム、マジシャン」


とんでもないことに巻き込まれてしまったような気がする。この畏敬の世界で前世の解明を手伝うことになった。この列車がどこに向かうのかは分からないが彼らと共に旅を続けよう。自分の事件が起きるその時まで... 


『五章 表と裏は紙一重』(終) NEXT→ 『六章 終点』

 


 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る