五章 表と裏は紙一重

3.

 気絶した前世の乗客を調べてみることにした車掌たちは服装を確認した。彼は白衣を着て聴診器を身に着けており医者のようだった。


 「聴診器に白衣か~。どうやら彼は医者みたいだね。何科までは分からないね~」

 「なんで嬉しそうなんだ」

 「別に~?」

 「何で疑問形なんだよ...」

 「さあ~?見た感じは分からないね~。乗客は置いといて...彼と関連のある遺体を確認しよう~車掌!」

 「おい、引っ張るなよ」


車掌はマジシャンに引っ張られながらロビーへ向う。カーナが先にロビーへ行き遺体を調べていた。


 「遺体はどう?」

 「ロビーに遺体は置いてあったけど女の子だったわ」

 「女の子?」

 「そう、高校生くらいかしら」


乗客は年配の医者?のようで女子高校生とどんな関係があるのかは分からない。


 「乗客の彼との関係は何でしょう?」

 「娘かな~?」

 「そうか?医者だったら担当した人じゃないか?」

 「それも考えられるわね~」

 「もう一つあるよ!」

 「なんだマジシャン?」

 「この子が買春してるの~」

 「「......」」


マジシャンの一言でその場が氷つき車掌に殴られカーナがマジシャンから離れた。


 「...ありえないわ」

 「痛って!何するんだよ車掌」

 「お前...その口を閉じろ...二度と喋るな。同じことを言えば俺がお前殺す」

 「酷くない!!」

 「それはお前だ...この世のすべての女子高生に謝れ」

 「...分かったよ。ごめんなさい」


謝罪をしたマジシャンは再び調べ始め車掌はその様子を見て内心呆れる。


 「あら?マジシャン、前世を解明するのに興味があるの?」

 「そうなんだ。乗客の前世を解明すれば乗客も車掌たちも助かるし...」

 「そうなんですか。感心しま..」

 「それに一度やってみたかったんだ~これ。楽しそうだし~」

 「へえー...そうですか、感心して損しました」

 「感心してくれたの!!」

 「話が進まん...」


車掌が自身に感心したと聞いたマジシャンは目を輝かせて見つめる。そんなマジシャンを無視してロビーを調べ始めた。ロビーには壊れた携帯電話と遺体があり乗客の部屋を調べることにした。車掌が乗客の部屋を入る際に一声かけたが、マジシャンがお構いなしにドアを開けた。


 「寝ているのに思いっきり開ける奴があるか!!」

 「でも大丈夫よ。彼寝てるわ」

 「この人凄いね~もっと大きい音を立てても平気かな~?」

 「どこから持ってきたんだお前!」


マジシャンはどこから出したか分からないがシンバルを取り出して鳴らそうして慌てて止めた。


 「とりあえずこの部屋を調べて...うん?これはボイスレコーダーとメモ用紙かな。音が小さいけど確認してみないと...」


床に落ちていたメモ用紙とボイスレコーダーを聞いたマジシャンは態度が急変した。


 「もしかして...ならやることはひとつ」

 「マジシャン?どうした」

 「今すぐ、この部屋から出て」

 「なんで...どうして?まだ解明は」

 「それはいいから!!早く、カーナさんを連れてここから離れて、この乗客の前世は僕が証明するから」

 「ちょっと押さないで」


マジシャンは慌てて二人と部屋から追い出した。車掌に連絡が出来るよう自身の被っている帽子を渡す。マジシャンはグリンたちの様子を見に行くよう指示を出し眠る乗客の前世を調べて確信した。


 「なぜ...あのようなことを」

 「まだ何もわかってないわ~」

 「もしかしたら...」

 「車掌?マジシャンから連絡がきたわよ」

 「マジシャンから?繋いでください」


カーナは言われた通りに連絡を繋ぐとマジシャンの声が響いた。


 「ねえ?車掌...悪いけど今回の件は僕に任せてよ。こいつはだめだ」

 「...お前がそういうことは前世の乗客は地獄行きなんだな」

 「いや...大地獄。これからそっちも分かる様に情報を共有する。処罰はこちらでいい?」

 「構わない..お前がそこまで言うならいい」

 「ありがとう。それじゃあ目が覚めたらね。僕のショーを見ててね~...ってマジシャンたちは見えないか~。耳で聞いてね」

 「やかましい...頼んだぞ」


そう言うと一度マジシャンからの通信は途切れた。カーナは不安にあり車掌に声をかけた。


 「大丈夫なのかしら」

 「大丈夫ですよ。なぜなら彼の本職は地獄の門番です。地獄で罪人を裁くことなら誰より得意ですから。彼が怒っているということは過去に後悔した例の事件と関わりがあるのかもしれない」

 「例の事件ってまさか..あの!!」

 「はい。それがマジシャンになった理由で私が車掌になった理由でもありますから。彼は怒ると例え身内や乗客でも容赦はしません。彼が前世の乗客を裁くと度を越えてやりすぎてしまい裁くどころではなくなってしまうのです。ですから彼は私に任せているんです。」

 「今回の乗客はマジシャンが裁くみたいだけど大丈夫かしら...」

 「心配ですね...派手にやりすぎるなよ。マジシャン」


車掌は年のために鎌を出してマジシャンのいる部屋を見つめた。


4.

 そうとは知らない乗客は目を覚ますと椅子に両手が縛られていることに気が付いた。辺りを見回すと薄暗く当たりも見えにくい。乗客は慌てて叫ぶと突然風が吹き近くのろうそくに火が付いた。不気味な空間に乗客は再び叫ぶ。


 「一体何なんだ!!これは離せ!何でこんな目に合わなくちゃいけないんだ!!」

 「何でかって...知りたいか?」

 「誰だ!!」


後ろから声がした方へ首が動ける範囲で振り向くが誰もいなかった。しかし気のせいではない。確かに後ろから声がしたはずだ。後ろから声が..その時乗客はあることに気が付いた。乗客は壁に背がついているので後ろに人がいるはずがない。その事実に鳥肌が立った時何かが首元に当たっている感覚がする。それは鋭くまるで鎌のようだった。汗が止まらず震えていると、誰もいるはずがない後ろから声がした。その方へ顔を向けると黒い人型の影が立っている。黒い鎌を持ち不気味に笑うその姿は化け物そのものだ。


 「何でか知りたいだろ?それはお前の犯した前世の罪だ。今からそれを証明する。そしてお前に裁きを与える...逃げるなよ」


乗客を睨んだマジシャンの顔は暗く不気味であった。


 ドアの向こうを見つめていた車掌は前世の証明が始まるとため息をつきカーナに話しかけた。


 「始まりましたね。マジシャンの前世の証明が」

 「そうね。でも、どうして前世の証明なの?解明じゃなくて?」

 「ここに前提として説明しておきます。乗客の前世を解明し、天国と地獄へ魂を正しい場所へと導くことが私・車掌です。それと対称にマジシャンは前世の証明をします。乗客の前世の罪や行いを証明し、地獄へと強制追放するのがマジシャンです。ただし、留意するのはマジシャンが前世を証明する場合は前世の行いに関係なく乗客の魂を地獄へと連行することです。そのためマジシャンが乗客の前世を証明することはありません。もしも、証明するとすればその乗客は前世で大罪を犯した罪人かあるいは彼の過去に関わる人物のどちらかです。そして今マジシャンが前世を証明しようとしている。カーナさん、これがどういうことか分かりますか?」

 「え、どういうことなの?」

 「地獄ですよ。まさにこれから行われることは...私も正直、彼の前世の証明は二度と見たくないです。あれはおぞましいものです」


車掌が言う通りこれから始まる前世の証明はまさに地獄そのものだった。

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