三章 女優の確執
4.
「おはようカーナ。何か変化とかあった?例えば乗客の前世についてとか」
「実はね。大変なことが起きたの」
「大変な事って何が?」
「乗客の彼女が亡くなったの」
「え?」
カーナに詳しい状況を聞いた後直ぐに乗客の部屋へと向かった。
「車掌!女性が亡くなったって..」
車掌に話かけようとしたが中の様子を見て絶句した。遺書が落ち傍には乗客の二人の人形と乗客の彼女の遺体は横たわっていた。男性の人形は首を吊り女性の人形は心臓を刺されていた。女性の人形のように女性の乗客は心臓を刺されて殺されていたことが判明した。車掌は魂を食らい彼女を成仏させた。車掌は不満そうにため息をついた。
「今みたいに前世を明かす前に死んでしまうケースがあるんだ...」
「全く最悪のケースですよ」
「珍しい。もしかして車掌..怒ってますか?」
「貴方は分かるんですか!」
「えっ...ええ」
車掌は突然跪いた。跪いた車掌に困惑した私は一応車掌に声を掛けた。掛けた瞬間、両腕を勢いよく掴まれた。
「あなた!」
「えっ...何、何、何、何、何、何!」
「あなたは分かってくれるんですね..誰も分かってくれないんですよ..」
「そ..そうなんですか。かっ悲しそうですね」
車掌に引き気味に言うと彼は悲しそうに頷いた。私と車掌のやり取りを見ていた乗組員たちは驚いた。
「ええー-!!なんでわかるの?そんな風に見えないよ」
「全然分からないわ」
「コクコク」
「ほら、皆分からないんですよ!」
「死神って...案外こんな感じなんだ..」
「はい。認識能力が他者から見て低くて」
「大変なんだな...」
車掌は常に表情が変わらないため他者から認識されにくいようだ。案外死神も大変なのかもしれない。車掌は一度落ち込んでいたがすぐに元の調子に戻った。
「とにかく彼女の魂を食らいます。そうすれば彼女の前世が分かりますから」
「え?なら前世を明かす必要ないんじゃ?」
「...あなた急にフランクになりましたね」
「すみません。何か..今まで一応車掌として接してきました。でも..よく考えたらこの人。人じゃないですけど仕事中に酒を飲んだり、酒を飲むために抜け出したり、途中から搔っ攫うかのように前世探しに参加するし」
「え..最後のやつくらい良くないですか?」
「分かるわ~。今までろくに仕事しないのにこちらが成果が出始めた瞬間に協力するとか言って手を出してくる人いるわよね~」
「はい!いますいます。そんな人...」
「...なんかごめんなさい」
私だけでなくカーナにも言われたことで追いうちをかけられ精神的に大ダメージを喰らった。表情はあまり変わらないが青ざめているように見える。
「...コホン。そろそろ本題に戻りましょう」
「「あっ話しを切り替えた/切り替えたわね」」
「いいですから!」
「先程の話しに戻りますよ」
「フフッそうね~。先ほどの続きだけど物事には決まりがあるように前世を明かす事は必要なのよ。」
「なるほど...」
「ちなみに車掌が乗客の魂を喰らわないのは何故だと思う?」
「考えたことなかった。...分からない」
「ギブアップね!死神は裁くことができるの♪こう見えても元々車掌は荒れてて~あのときなんか特に」
「カーナ?それは言わない約束ですよ」
カーナは車掌に揶揄うと車掌は慌てるように反応した。私のようにカーナに詰め寄ったが上手くかわされていた。昔の車掌は荒れてたのか...少し見て見たいし聞いてみたい。
「冗談よごめんなさい~。話を戻すけど車掌は乗客の魂を天国と地獄に導くことができるでしょ。車掌はねその魂たちに安らぎと最後の時間を満喫して過ごしてもらいためにやっているの。それが車掌の願いであり彼女の願いだから」
「彼女って?」
「それは...」
「...コホン。少しよろしいですか?乗客の話しにもどりますが..」
「「「あ...」」」
「あれ?皆さん何故ここに?」
「あっ...起きた」
「え?あ..はい。おはようございま..ってなんで彼女が死んで」
「一先ず...彼に説明しましょうか」
5.
目を覚ました乗客の彼は困惑していたが事情を話し車掌以外はバーへ戻った。車掌は一人残り彼女の魂からすべてを読み取った。
「さて、これですべて解明できますね。彼は彼女の姿を見た時に彼女が死んでいることに困惑していた。彼女について説明する前だったとはいえ彼の位置だと倒れているようにしか見えないはずだ。ではどうするか」
魂を読み取ったあと車掌は不敵に笑った。
「そういうことか...面白い」
車掌は消えていく魂を見届けてバーに向かった。車掌がバーに姿を見せると男性の乗客のもとへ駆け寄った。
「何かわかったんですか?」
「はい。分かりました。今回は推理する必要はない」
「車掌?推理する必要がないってどういう」
「それは直ぐに分かりますよ」
車掌が男性乗客に向き合い話しかけた。
「貴方は知っていたのでしょう?」
「何をですか」
「貴方の爪を見ればわかることです。これはあなたの部屋に合ったものです。よく見てください」
車掌はそう言いながら二つの遺書を見せた。よく見ると二つの内一つの遺書が汚れていた。何かが当たり擦れたような跡だった。
「ならこの遺書は前世で書かれた物と今書かれた物ってことか」
私の言葉に車掌は頷き肯定したが男性の乗客はそれを否定した。
「しかし...それがそうなら私の爪は汚れていません!遺書なんて書いて「でしょうね。彼女は自殺ですから。この遺書を書いたのは彼女自身んです」...えっ?今なんて言って...」
困惑する男性乗客とは対象に車掌は冷静で冗談を言っているように思えなかった。
「なっ自殺なんて彼女がするわけないでしょ!!」
「自殺って..なんで!彼女はそんな素振りは見えなかった。それに自分の前世が分かっていないのに何故」
「それは簡単な事だよ」
「そうなの。これはたまに起きるケースなのよ」
「はあ?」
グリンが手を挙げて話してカーナが賛同するように頷いた。
「グリン、カーナ?たまに起きるケースっていうのは?」
「私が説明します。本来ここは前世を明かす場所です。この列車を乗ってから前世を明らかにする際に前世の記憶を思い出すのは問題ない事なのです。しかし...もし列車に乗る前に乗客が記憶を取り戻してしまったらその事実に耐えられなくなってしまうのです」
「そうなったら乗客は」
「その場合は事実に耐えきれなくなりキャバオーバーを起こして前世と同様に死んでしまいます」
「つまり彼女は前世と同じように自殺した」
「はい」
「でっでも...ならなんでそんな死ぬと分かっていたのにそんなリスクをおかして彼女はどうしてここに...」
彼は跪いてその場に崩れ落ち車掌は跪いて話した。
「それはきっとあなたのためですよ」
「私の...なぜです」
「来栖というのはあなたの事でした」
「来栖って駅の名前だったはず。この人の名前だったのか」
「彼女は最初からすべて知っていました。彼女は死ぬつもりであなたの前世を明らかにするために死を覚悟して乗ったのです」
「なら..彼女が私に当たっていたのは」
「彼女は最後の別れとしてあなたに強く当たったようです。気の強そうな彼女だからでしょうか」
前世の魂を読み立った車掌によると彼女の前世は女優。来栖はマネージャーで二人は恋人同士だった。彼女はこの列車に乗った際にあることを口酸っぱく言っていたそうだ。最後くらい自分らしくしたいと。元々彼女は酒が好きだったこともあり来栖と最後の酒を飲んだようだ。
「そう言えば彼女は自分はやりたいことがあるから最後に飲みたいって言っていたわ」
「彼女のように思い出してしまった場合は死にたい衝動に駆られてしまいます。彼女は名女優と言えますね。その衝動や苦しみを一切表情に出すことは無かった」
車掌は彼女の前世について語りだした。彼女の話を聞いた時に私は勘違いしていたことに気が付いた。今思えば彼女は微かに震えていた。その恐怖が酒に酔っているのではなく死との葛藤だったのかもしれない。
「女優として彼女は輝いていた。マネージャーだった貴方のおかげもあるだろう。彼女は誰もが認める名女優だった。全て上手くいきはずだったが彼女は自身の限界について悩み苦しんでいた。マネージャーとして自身を支えてくれている貴方に上手く打ち解けることが出来なかった。貴方の前では強くて気品のある自分でいようと死という形で打ち明けようとした。しかし..ある問題が起きてしまった。死のうとしていた所を貴方に見られてしまった。彼女を止めようとして貴方は彼女に刺されてしまった。愛する貴方を刺してしまったことで彼女は生きる気力を失い"自ら死ぬ"と書き残した後自身の心臓と刺したのです」
「ちょっと待て..彼は首を吊って亡くなったはず。刺されたのならあの人形はおかしい」
「それなら..」
車掌が言いかけたが時来栖は止める。
「もういいです。僕が偽装しました。彼女を殺した風に見せて最後の力を振り絞って死んだように見せかけました。酒に酔ってしまった時すべてを思い出しました」
6.
(回想)
「私あんたのためにももっと輝いて見せる!」
それが彼女の口癖だった。気が強く口が悪いが演技に前向きで多くの人に慕われていた。彼女も演技やそれに向き合う姿勢と彼女自身を好きになり互いに恋に落ちた。壁に彼女はぶつかることもあったが何度も立ち向かいそんな彼女に惹かれていた。そんなある日事件が起きた。彼女が死のうとしていたのだ。いつものように彼女の楽屋に行きノックをしてドアを開ける。すると首にナイフを当てようとした彼女を目撃してしまい慌てて止めようとした。
「入るよ。今日もお疲れさ..何やってるんだ!!やめなさい」
「あんたどうして..離せ!あ..」
揉み合いになり武器を取り上げようとしたがそれがいけなかった。彼女のナイフが心臓に刺さってしまった。痛みのせいかその場で倒れてしまう。意識が途切れそうになるが彼女の泣き叫ぶ声が聞こえる。
「あんた!!ごめんなさい、ごめんなさい。私のせいで...」
「(上手く声が出せない)...君のせいじゃ...」
君のせいじゃないと言うことが出来たらよかったのに...彼女は目の前で遺書と書いた後自殺してしまった。痛みや血が流れることを気にせず彼女の遺体を抱きしめた後その遺書を処分し、彼女を殺したように細工して遺書を書き首を吊った。
「そんな...目を覚ましてよ...もう死んでる..待ってって僕も直ぐに行くからね..遺書を書き直しすから...ぐる...し」
首を吊って気が付けば知らない場所で彼女と立っていた。彼女は自分を見ると悲しそうな顔を一瞬したがすぐにいつもの笑った。
「遅いわよ。ほら行く!」
「わかったよ」
彼女に言われるがまま列車に乗った時彼女は立ち止った。
「貴方を巻き込んで悪かったわ」
「何言ってるの?」
「うっさいわね」
「ごめんごめん」
「謝んなくっていいの!いい加減にして」
「しかし」
彼女は後ろを向いていたため顔を見ることは出来なかった。しかし微かに震えていてその声は泣いているようだった。そんな彼女に声をかけようとしたが彼女は乗組員らしき人たちに声をかけ今にあたる。
「どうしてそこまでして」
「彼女と僕はパートナーなんだ。互いを支え合う女優とマネージャー。それ以前に恋人だ。彼女を助けようと思った。間に合わなかったけどね」
今なら分かる。来栖が呟いたあの言葉の意味を_来栖は自分自身の償いだと言う。
「あれはきっと彼女を救えず追い詰めた自分自身の罪に対しての言葉さ」
「彼女の魂は消えてしまいましたが、消えたものは新しく生まれ変わります。貴方も生まれ変わった彼女に出会うことが出来るかもしれません」
「そうですか。それは楽しみです。いろいろとありがとうございました」
来栖は笑ってそう礼を言い天国に行き二つの名刺がが落ちていた。来栖連と夏希凛と描かれていた。
「今回は二つの遺書と現れた首吊り死体のおかげで助かりました。これらのヒントが無ければ完全には彼らの前世を理解することは出来なかったでしょうね」
「そっか...彼らはまた会えるかな」
「きっと会えるのではないでしょうか。運命とは定まっておらず導かれるものだと思い願いたいものです」
「死神がそういうこと言っていいの?」
「死神でも運命は分かりませんよ。それにきっと会えます。彼らなら」
「そうだね」
するとまた列車が動き出した。彼らの部屋はすでに変わっていたが楽しそうに笑っている彼らの写真を見つけた。消える写真に写る彼らが天国でも会えることを願いたい。
「意外と車掌って乙女チックだよね~」
「そうですか?」
「そうね~フフっ」
「そこ!笑わないでください」
「ぷっあはははははは」
「何であなたまで笑うんですか」
笑うカーナとグリンにつられて笑った。私にも笑われると思っていなかったようで恥ずかしそうに怒った。列車の旅はまだまだ続く...
三章 『女優の確執』(終) NEXT→ 『四章 マジシャンは語る』
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