第2話 友達
友達ができた、と言っても柏野からしたら俺は何十人目かの友達なわけでただの席が隣同士なだけで前より会話する量が増えたわけじゃない。
証拠に俺は今、一人で休み時間を過ごしている。
三限目と四限目のこの暇な時間。
柏野はいつもと同じように陽キャのグループで会話をしている。
その光景を遠目に見ながら俺は図書室から借りてきた本を読む。
どちらかと言えば、本を読むのが嫌いなのだが、一人でぼーっと机の前に座っているのは不気味だし客観的に見ても相当きもい。
何かをやってますよー、ただの陰キャぼっちですよー、というアピールの為に俺は本を読んでいる。
結果、多少なりとも活字を読むことに抵抗はなくなった。まあ、本を読むことはまだ嫌いだけどな。
「なに読んでるの」
「うわぁっ!?」
思わず大きな声をあげてしまって恥ずかしい。
一度咳払いをしてから尋ねる。
「柏野さん、なぜここに」
「なぜって私の席が十夜くんの隣の席だから当たり前じゃん。もうあと少しで授業も始まるし普通に自分の席に戻っただけだよ」
「そうだけど……」
さっきまで柏野が喋っていたグループの方を見るといつの間にか散開していた。だがただ一人、ショートの女の子、名前は……
少し訝しむような顔をしていたのが気になるが今はいいだろう。
まだ柏野が俺に告白をしたという噂は広まっていないようで隠し通せるならこのまま隠し通していきたい。
理由は特にないが、強いて言えば目立ってしまうのがなんか嫌だ。それと柏野の評価が下がってしまうだろうから。
何の意味があるかわからないが、一応俺は何にもなかったと装って柏野と接している。
「で、なに読んでるの」
「普通の本だよ」
本が嫌いと言えど、ある程度は興味のある本を選んで読んでいるが、好みの文体とかジャンルは別になんでもいい。
もし柏野が本好きで色々と言及してくるようだと苦しくなっていく。
「本、好きなんだね」
然して興味がなさそうに話を右から左へ流していく。
助かったと言うべきかわからないが、ひとまずセーフ。
「いや、俺もそこまで好きじゃないんだけど図書室によく行くから」
「へ? なんで?」
本は嫌いだ。
でも図書室は好きだ。
理由は単純、図書室は静かにしなければいけない場所だから。ぼっちの俺としてはノイズが入らずに昼休みを過ごせる図書室はベストプライス。
……なんてことを言えたらどれだけメンタルが強いことか。
柏野は俺のことが好きなようだが、どうして好きになったかわからない。つまり好感度のコントロールが難しい。
余計なことを言えば、友達ですらなくなってしまう可能性も存在する。
「本を勧めてくる人がいてね。この本もその人に無理やり読まされて……ははっ」
「…………その人って女?」
「お、女?」
聞き返したつもりだったのだが、柏野はゆっくりと頷くだけ。
「女の子。へぇ」
どうやら勝手に女の子になってしまった。
もちろん人と接してない俺にそんな過去があるわけもない。だからこそ男か女か俺は選ぶことができたがその二択を間違えてしまったかもしれない。
「どれくらい図書室通ってるの」
何かに怯えるように
「週五」
「毎日じゃない!」
だって俺は毎日ぼっちなんだから、毎日図書室に逃げるしかないじゃん。
「じゃ、じゃあ毎日そそその女の子と仲良くあ、あんなことやこんなことを」
あわあわと取り乱し始める柏野を見ていてちょっと可愛いと思ってしまったが、そんなことを考えてる場合ではない。
恥ずかしいが、友達だからこそ伝えなければならないこともある。
小さく俺は息を吐いた。
「あー実はだな」
「禁止」
「はい?」
俺の言葉を遮って柏野が堂々宣言した。
禁止、って聞こえたような。
「図書室には金輪際近づかないでね」
「な、なんで」
「私が嫌だから。図書室、という単語を聞くだけで吐き気を催すの。新しい本が欲しいなら私が買い物に付き添う、寧ろ一緒に行こう。だからもう図書室には行かないで」
ちょっと待ってくれ。
そしたら俺は昼休みどうやって過ごせばいいんだ。
図書室で過ごすことだけが学校生活の中でも唯一の生きがいだったというのに。
「……さっきまでの話、全部嘘だ」
柏野は何を考えてるかわからない顔のままフリーズしている。
ちゃんと俺の言ってることが伝わってるのかわからない。
暫くしてようやく柏野が動き出した。
前のめりになって俺の耳元に近づき呟く。
「じゃあ、私と付き合ってくれれば図書室には行ってもいいよ、でも友達のままなら行っちゃだめ。これでどうかな」
直感で付き合った方がメリットが多いと思った。
それは間違ってない。
でも問題点はある。
俺は柏野の彼氏に足り得る人間だろうか、普通に考えれば昼休みに図書室に逃げるような奴とクラスでの中心人物である柏野綾が釣り合うはずはない。
昨日からモヤモヤしていたものが晴れた気がする。
俺はどうなりたいのか。
柏野綾と付き合えるのなら付き合いたい、でも恥は掻きたくない。見栄っ張りの陰キャぼっちのできること、それはなんだろうか。
「……わかった、図書室には行かない」
手始めに逃げ道を潰すところから始めよう。
「そっか。……私、焦らされるの
まるで俺の何かを見透かしたようなセリフ。
小悪魔めいた笑顔を見せつけて柏野は隣の席に座った。
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