陰キャぼっちの俺が幼馴染にフラれた結果、隣の席に座る陽キャな彼女が告白してきた。~俺のことが好きすぎて堪らないみたいなんだけど、愛が重すぎる~
志摩夕禍
第1話 告白
「ずっと探してた、好き。大好き」
まだ部活動をしている人たちの声が聞こえてくる時間帯。もう少しすれば夕陽をバックに理想的なシチュエーションになっていただろう。
だがそんなことはどうでもいい。
なぜなら俺、
首筋を流れる一粒の汗を感じながら大きくゆっくりと深呼吸をする。
何か言わなければいけない、そう思って俺は真っ白の頭の中から言葉を引っ張り出す。
「
その瞬間、時が止まったような気がした。
告白してきた相手に向かって名前を確認する、失礼極まりない行為。
どっと汗が流れ出した感覚に陥りながらも俺はフォローの言葉を探す。だがそれよりも先に彼女は笑いながら言った。
「私の名前、知ってくれたんだ」
ズキズキっと胸が痛くなった。
折角、告白してくれたのに変なこと言ってしまった後悔。でも仕方がない、彼女の告白が本気かだなんてわからないのだから。
一応、確認しておかなければならない。
「一つ聞きたいんだけど、これって」
「本気だよ」
「えっ」
最後まで言うことなく彼女は凛とした表情で告げる。
「からかってるわけじゃない、嘘で告白してるわけじゃない、私は本気であなたが好き」
淡々と真っすぐに柏野綾はもう一度告白してきた。
でもやっぱり、嘘かどうかはわからない。
ただこれが演技だと言うなら一流女優にも引けを取らないレベルと言っておく。
どうやら俺は人生で初めての告白イベントを経験したようだ。
◇ ◇ ◇
という夢を見ていた、ならどれだけ良かっただろう。
いや、本当に夢ではないのだろうか。
昨日の柏野の表情や言葉が瞼の裏に焼き付いて全く眠れはしなかった。
結局、返事は何もせずに今日になっている。
付き合った方がいいのか、付き合うべきではないのか。
片やクラスの中心人物で見た目が可愛い女の子と、片や彼女はもちろん友達すらロクにいないメガネで根暗な陰キャの俺。
釣り合うわけがねえじゃん。
てか何で俺のことが好きになったんだよ、一年の時も同じクラスだったけど接点は全くなく二年の五月の昨日まで会話すらしたことない気がする。
メガネを外して自分の二の腕に頭を置く。
取り敢えず、寝たふりをして彼女がどんな行動をするのか確認する。もし何も声掛けて来なかったら昨日返事を出さなかった俺の負けだ。
声をかけてきたらまだチャンスあり。
……よく考えたら最低だな、俺。
相手の行動を見て返事をするか決めるって、恋愛弱者が過ぎる。男なら女の子の気持ちにきちんと応えてやらなきゃいけねえ、ってどこかの漫画の主人公が言ってたぞ。
そんなカッコいいことできりゃ苦労しねえってな。
あー、だから俺は幼馴染にフラれたのか。
古傷を掘り返してしまい、メンタルが既にヤバい。
まだ教室にはクラスの半分くらいしか登校していない。
柏野が普段、一緒にいる連中も一人二人くらいか。少なくとも後五分くらいは精神統一する時間がある。
とその時、忘れもしない昨日の夜に頭の中で何度もリピートした声が風に乗って聞こえてきた。
教室の扉の近くで誰かと談笑して段々と近づいてくる。
トントンと肩を優しく触られた気がした。
顔を上げると照れた表情をした柏野が立っている。
「お、おはよー。
「あ、ああ。……おはよう、
ぎこちない挨拶。
高校生活一年と一ヵ月、先生以外の人間と初めて朝の挨拶を交わした瞬間だった。
「メガネかけてないんだね!」
テンション高く嬉しそうなのが直に伝わってくる。……だけど、何でメガネを外していると嬉しそうなのかわからない。
「寝てたから、メガネは外してただけ」
すると柏野は少し残念そうな顔をして「そっか」と呟いた。
でもすぐに普段見る明るい表情へと戻ってまた話しかけてくる。
「コンタクトにはしないの。してたよね?」
「そうだけど、……どうして柏野が知ってるんだ」
たった一日だけ俺はコンタクトで学校に来たことがある。その日、コンタクトを落として無くした為、もう二度とコンタクトはしないと誓った。
その一日というのは高校登校初日のことだ。
柏野とは高校で初めて会ったわけだから、コンタクトのことなど覚えてるはずはない。
「私、記憶力だけはいいんだよ。勉強はできないんだけどねー」
ここで笑ってあげるのが陽キャへの道なのだろう。でも俺は陰キャだ。引き攣った笑いすらできずに目を逸らしてしまった。
「ごめん、なんか変なこと聞いちゃったかも」
「いや柏野さんは悪くない。俺はあまり人と喋ることに慣れてないから」
本当にいつからお喋りが苦手になってしまったのだろう。
「確かに、十夜くんが誰かと喋ってるの見たことないかも」
「……ははっ、まあな」
もっとうまく笑えよ、と自分にため息を吐きたくなる。
会話がここで終了して、昨日の告白の件が踏み出せなかった。
また次の機会、そう諦めていると柏野は何かまだ言いたいことでもあるのか、俺の方をじっと見ている。
柏野は俺の視線に気づいた後に静かに呟いた。
「昨日のことだけど」
あれ、これヤバくないか。
昨日のことは聞かなかったことに……、という展開が読める。
だがここで付き合います、と開き直るのも間が悪い。
「あ、あ、あの! 俺と友達になってくれませんか」
柏野は一瞬、ぽかんとした表情をしていたがすぐによく見る笑顔に戻って頷いた。
「はい、お願いします」
高校二年の五月、ようやく一人目の友達ができました。
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