同幕 かごめかごめ 参





「という事でやって来ました桜木大学付属高等学校!


 いやぁ矢張り昼間と夕刻の合間と言えどという事だけあってややおどろおどろしい雰囲気が漂ってますね〜


 ねぇ?百先生、聡司さとしさん」






 校庭の地面を擦りながら大きく股開き腕を広げある方向から見たら校舎を紹介してるかのような絵面になるポーズを取る桃瑚少女。


 はしゃぐような案件ではないけれど気持ちはわからなくもなく、多分今私の表情は彼女と同じくランランとしているだろう。隣に立っている聡司君の顔が物語っている。

 なんというか、いい歳した大人が何ワクワクしてんだって軽い軽蔑の顔を浮かべてるのが顔を向けてなくてもよく伝わるよ。泣きたい。





「というか、俺何も説明受けずに呼ばれたんですけど……何事?何故御二方は俺を連れて通学先の学校まで?」






 火を見るより明らかな程頭上に?を浮かべている聡司君に笑いがこぼれる。


 この唐突に現れた人物はゆずりは 聡司さとし君。


 それなりに私と付き合いのある新聞記者で23歳の私より年上の28歳で独身男性だ、腐れ縁から出来た仲だが以降は偶にこうして共にネタを探しに歩いてくれている気の良いお人好し。兼桃瑚少女が来れなかった時の家政婦的存在でもある、この人世話好きなんだよね。

 ガッシリとした大きな体格で私よりデカく筋肉質でガタイも良い、何でも昔は家の意向で武術の習い事をしこたまさせられていたとか。やぁね、厳しいお家は。

 端正でどちらかと言うと凛々しい顔立ちだが左上半分を覆う火傷の跡とこげ茶とベージュのハンチング帽と眼鏡でそのイケメンを隠す残念な男。

 自身の顔の価値を理解していない代表者と私は思っているよ。綺麗な黒髪で清潔感のある短髪、所謂日本男児のような容姿だ。

 基本的に書生服の様な和装を好んで着る人物だが、今日の様に黒のタートルネックにきなり色のベスト、その上に紺色のジャケット。という洋服を着る時もある。

 正直和装姿ばかり見てる私達からしたら洋装の彼の方が新鮮、凄い違和感がある。


 彼を呼んだのは私だが、つい説明をするのを忘れていたんだよね、ほら私ってばうっかりな所があるから。


 私達がいるのは桜木大学付属高等学校、宣言した通り本当に桃瑚少女に腕を引っ張られながら途中で聡司君と合流し、表門をくぐった。中に入るやいなや出迎えたのは広々とした中央通りで地面はコンクリートレンガやアスファルトで綺麗に模様を描かれながら整備されている。

 少し目の前を歩けば大きな噴水もあると来た。流石はお金持ち校と言ったところかな?



 今回の対象となる幼児や少年少女達が遊ぶとしたら間違いなく校庭だと、意見が全員合致し校庭の方に何かないかと校舎の中よりもまず先にそっちに足をむける。


 広い故にそれなりにかなりの距離をあるいたが、出迎えたのは少し手入れを忘れられた校庭だ。


 子供が遊ぶにはちとゴツゴツし過ぎてはないか?高等部とはいえここは初等部中等部の各校舎が敷地内にある、だからここは幼子も使う。というのによく見なくてもそこかしこに些細な雑草は生えているし大小様々な石が落ちてる。

 これ幸いには遊具など設備等はきちんと定期的にメンテナンスされているのか新品同様に綺麗だったりする。衛生面の問題を加味した上だろう。



 だがしかし困った事に、今私の足元の砂と石には誰が転んだであろう血がついてる。言わんこっちゃない。


 いやまぁ何も言っていないのだが。

 

 所でさてどうしようか、この私達の隣に立っている何も知らかい聡司君は。説明しなかった私が悪いのだが……如何せんここまで来て一から説明するのは面倒く、時間の無駄だと思うんだ!うん!





「百先生説明しなかったんですか?」



「面倒くさくて、つい」



「桃瑚ちゃん説明お願い」



「例のかごめかごめ事件がついに殺人したと最新情報を耳にしたので、深堀しようと調査しに来ました!まる!」



「日記かな?……それ、まさかの危険な案件とかじゃないよね?


 百矢君はまだしも桃瑚ちゃんはまだ子供だから危険な真似は駄目だよと何時も言って…!」



「あ!あんな所に初等部の子が!おーーい君ーーーー!!!!」



「せめて最後まで聞いて!?」





 聡司君の言葉を何も聞いてないかのように、というか本当に聞いてなかったのか一度も目をやることなくわざとらしく話を変えて遠くに見える校庭の隅を歩く少年に掛けていく桃瑚少女。


 こーゆう所あるんだよな、あの子、やっぱり私に似てきたなぁ…おばあ様から怒られなければいいんだが…俺が。


 しかしそうか、桃瑚少女の学年が午前授業なだけで他の学年……ましてや校舎が違う中等部と初等部なんてまだ授業やってるかもしれない。ならここの生徒であり制服を着ている桃瑚少女なら幾らでも生徒から情報を聞き出せるわけだ。


 

 でも奇妙だな……校舎の方からは一片たりとも人の喋り声が聞こえないってのに。

 なんて脳内に浮かんだ小さな疑問を内に秘めて聡司君と一緒に少年の方に駆け寄って行ってしまった桃瑚少女の後を追う。


 その少年は歳の割に少し小柄で、華奢とまではいかなくも幼さが滲み出た短髪の利発そうな印象を受ける大きい瞳に猫のようなみ空色の三白眼にも似た目、困ったかのように後方が下がり気味の眉。


 桃瑚少女に聞いた話だが


 初等部の制服は男子だと白いカッターシャツに黒いサスペンダーと半ズボン、ジャケットはこの季節だと着る着ないの生徒が分かれるからかこの少年は着用していない。

 靴下と靴は各々自由にしていいようで少年は黒の学校指定の靴下に黒のスニーカー。


 そもそも学校の服装規定が割と自由らしく私達の目の前にこじんまりと立っている少年のカッターシャツも程よい灰色だ 。

 お金持ち校と言えど生徒各々の個性と限度ある自由を尊重する校風らしい。






「ねぇ君、初等部の子だよね?名札見せてくれる?」



「……うん!お姉ちゃんこーとーぶの人?!スゴい!ボク初めて見た!!」



「ふふっありがとう!梅影うめかげ しん君、だね?小6かぁ!おにーちゃんだね!


 お姉ちゃんはひいらぎ 桃瑚ももこって言うの、実は聞きたいことがあるんだけど時間良いかな?」






 幼子の視線に合わせるように桃瑚少女はその場にしゃがんで梅影少年と顔を合わせる。


 少年もそんな桃瑚少女に警戒心を完全になくしたのか、はたまた同じ学校の年上で先輩という事で安心したのか年相応の笑顔を浮かべて思い切り頷いた。






「実はお姉ちゃん達かごめかごめの噂について調べてるんだ、真君は何か知ってる?


 例えば友達の誰かが消えちゃった、とかかごめかごめをした、とか」



「んーん、ボクの周りにはそんな事起きなかったよ?


 かごめかごめって神隠しにあうぞって言われてるあの七不思議のかごめかごめだよね?放課後に学校のとある場所でそれをするとって」



「うん、実はお姉ちゃんの友達がそれに巻き込まれちゃったみたいで調べてたんだ、ともかく君達に何も無くて良かったよ、答えてくれてありがとう!


 何かあったらお姉ちゃんのクラスにおいで?お姉ちゃんはだから、何も無くても遊びに来たかったら友達連れておいでね!」



「うん!ありがとうももこお姉ちゃん!!」






 梅影少年、いかにも桃瑚少女が好きそうな性格だな……ぐぬぬ、侮れん。


 手を振りながらタッタッとまだ短い足を必死に動かして走っていく少年を見送り、桃瑚少女の手を取ってそっと立たせる。


 ふむ、そうか……あの子の周りではそーゆう騒動に巻き込まれた話はない。けれど七不思議としてかごめかごめの噂の危険性は出回っている、と…。






「…………所で、かごめかごめの噂って何?」



「「え?」」



「────……え?って俺、一から十まですべて何も聞かされてないんだけど?」



「「…………え?」」



「えぇぇ……???」






 真逆の事実に思わず桃瑚少女と顔を見合わせ「言った?」「言ってない、先生は?」「いや」等とアイコンタクトをする。



 ………まじかよ、忘れてたわ。シンプルにごめん、悪い、すまなんだわ聡司君。


 わざとでは無いんだ、と無言で気付くと桃瑚少女と一緒に聡司君に手を合わせながら頭を下げていた。



「「ゴメン」」


「……うん、まぁ、うん。御二方がそういう所あるってのは知ってたし、慣れていたけれどさ?うん」

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