028.あのときの犯人は
「そういえば奈々未ちゃん」
「ん?」
少女が駆け落ちとかいって迫ってきてからしばらく。
なんとか両者とも落ち着きを取り戻し、奈々未ちゃんは俺の隣で、少女は真正面でゆったりとした時間を過ごしていると、ふと気になることを思い出して彼女に声をかけた。
「まだ待ち時間だから」とスマホをつついていた彼女はその手を止めてこちらを見上げてくる。
「そういえばさっき歩いてるときに……えっと……リサちゃんだっけ? この子が隣にぴったりついてたんだけど、写真見せてたの?」
尋ねるのはさっきのこと。
ここらを歩いていたのは完全に偶然だが、そんな中彼女が俺を見つけたのは心底驚いた。
なんの示し合わせのない邂逅、リサちゃんが俺の顔を知っていることは明白だ。
過去に俺たちは会っていないことから奈々未ちゃんが教えたとしか考えられない。いや、それでも奈々未ちゃんも俺が近くにいることなんて知らない様子だったが。
「そういえば確かに……私、写真一枚も見せてない」
「えっ?」
「それどころか付き合ってるって言ったのもついさっき。しかもリサに詰め寄られる形で」
「!?」
どういうことだ……それは……?
つまり少女はどことも知れぬ情報源から俺たちが付き合ってると断定したと?
「どういう事? リサ」
「えぇっと……それはですね……それはぁ……」
奈々未ちゃんの視線を受けた彼女は冷や汗をダラダラと垂らしながら目を泳がせて次の言葉を探している様子。
しかし待てどもその言葉を見つけることが出来ず、しびれを切らした奈々未ちゃんが立ち上がって彼女の元へと歩いていく。
「……もしかしてリサ、マスターさんも尾けてた?」
「うっ!!」
「…………尾けてた?『も』……?」
真横に立った奈々未ちゃんからの問いかけに、身体をビクンと揺らせて何も言えなくなってしまう。
俺を尾行してた……?それと、俺『も』ってなんだ?まるで前科があるような言い方じゃないか。
「ん。 前に言ってたでしょ? 誰かにストーカーされてたって。それ、リサのことだった」
「そういえば、あの時俺の店を覗き見してたのって…………」
覚えがある。灯が修学旅行から帰った日とお好み焼きを食べた日。2度において彼女から尾行の旨は聞いていた。
俺たちは揃って無言でリサちゃんに目を向ける。
「~~~~!! はい……。どちらも私がやったことです……すみません……」
ずっと口を一の字にしていた彼女は、もう無理だと悟ったのか観念したように自白する。
思い出した。灯とあかりちゃん(ネコ)がやってきた日、誰か俺の店を見てたな。あの時は背丈で灯と勘違いしたけど彼女だったのか。
「尾けてたから私が付き合ってることを知って、他の人たちを浮気だと勘違いしたの?」
「はい……そのとおりです……」
なるほど。そういうことか。
つまり奈々未ちゃんを尾行した結果、俺と付き合ってることを知り、今度は俺を尾行。そうしたら他の女の子とも仲いいことを知って浮気と勘違い。
それで今日、奈々未ちゃんに付き合ってることを問い詰め、俺にも別れるようと言ったと。
なんだか欠けていたピースが埋まったような気分だ。
浮気……浮気ねぇ。まぁそう思われても仕方ない……仕方ないのだが……!
「やっぱり。 どうする?マスターさん」
「え? なにが?」
ここのところの不思議な出来事をようやく理解できてスッキリしていると、ふと奈々未ちゃんの問いが俺に飛んでくる。
どうするとはなんぞや?
突然の問いかけに疑問符を浮かべると彼女は座っている少女の両肩を背後からつかみ、まるで立ち上がらせないように押さえつけてみせる。
「マスターさんにまでストーカーしてたこの子への、バツ。 この子のことを好きにならないなら、おっぱい揉んでもいいよ?」
「おっ……!? いやいやしないから……リサちゃん?も嫌でしょそういうの」
「い……嫌……ですけど、それで許してもらえるなら……」
胸を隠すように抱き、少し涙目になりながらも彼女の言葉に思わず目を丸くする。
いや奈々未ちゃん、俺をどういう男だと思ってるのさ。女の子なら誰でもいいってわけじゃないんだからね?
「奈々未ちゃんがいいなら俺がどうこう言うつもりないよ。怒ってもないし」
もはやストーカーされてたところで「へぇ」で終わるのも耐性だろうか。
灯にもされてたしな。そもそもストーカーされていたという自覚すら無かったわけだし。
「でもいいの? マスターさん、せっかくのグラビアアイドルの胸、触り放題なんだよ?」
「そんなグラドルだからどうこうってわけでも……普通のアイドルじゃなくって?」
「そうですよ? ……そういえば自己紹介すらまだでしたね」
そういえばと思い立った彼女は今までしっかりと着ていた黒いコートのファスナーを外し、その姿を露わにする。
紺のミニスカートに白いセーラー服。どこかの学校のような姿を晒した彼女は自信満々に胸を張ってそれを強調させる。
奈々未ちゃんや灯と同じくらいの背丈とは思えぬ、大きく前に突き出した胸部。それは遥に匹敵するほどの大きさ。
背丈の小ささも相まって遥よりも大きく見えるそれはまさしくグラドルと言うべきか。体型の出にくいセーラー服なのに胸部が盛り上がったてタイが変な傾斜をつけ、腹部に広い空間が出来上がっていた。
更にその顔もさることながら、まさしく可愛い女の子、といった容姿をしている。
茶色い髪の毛先はが全体的に内側に丸まり、丸顔ということもあって奈々未ちゃんより幼く感じられる。
そんなちっちゃ可愛らしい彼女はこちらに1つウインクしたあと小さな口をゆっくりと開かせる。
「順番が前後してすみません。 私、
キラッと星の出るようなウインクをした彼女はまさかの16歳。
あれ?そういえば奈々未ちゃんって…………
「もしかして、奈々未ちゃんのほうが年下?」
「そう。 でもこの世界はあんまり年齢とか関係ないから」
「ですね。 歴で言えばナナさんのほうが長いですからねっ!」
へぇ、そういうものなのか。
でもその年齢でその体型はやばすぎる。
顔が幼くって背丈も奈々未ちゃんレベル、しかし胸部は遥レベルって無敵か。
「……やっぱりマスターさん、胸見てる」
「っ――――!? いや……これは……!」
「どこがいいんでしょうねぇ。 こんなの、重くて邪魔なだけなのに……」
ちょっとちょっと。
目が行ってた俺も悪いけどリサちゃん、その言葉は色々と危ないよ。
いま背を向けててわからないと思うけど奈々未ちゃんがすごい顔してるから、抑えて抑えて。
何か意識を逸らすのにいい話題は……
「あ、あー。 でもグラドルってアイドルと接点あるんだね。今回は同じ仕事?」
「そうですね。 学生用アイテムの撮影ってところでしょうか。」
「だからその姿に……。2人が知り合ったのも仕事で?」
そういえば撮影スタジオらしき場所でポーズ撮ってた子も同じ制服だったな。今回はこういうコンセプトなのか。
1人で服について完結していると2人はさっきの問いに応えるかのように同時に首を横に振る。
「いえ、ナナさんとは偶然知り合ったんです。あの屋上で……」
「うん。あの時はリサも大変だった……」
「ですね~。ナナさんがいなければ今頃どうなってたことでしょう~」
なにやら思い出すように二人して懐かしがる様子に思わず気になってしまう。
大変って、なにかハプニングでもあったのだろうか。奈々未ちゃんの美しさに見とれた的な?
「大変ってなにかあったの?」
「まぁ、ままある事なんですけどね。 あなたも聞いたことあると思いますよ?」
そう軽い口調で出た言葉は信じ難いもの。
しかし誰もが一度は頭をよぎる、心のなかでなんとなく予想はついていたもの。
「私……クラスのみんなからイジメられてまして、自殺寸前までいってたんです」
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