025.とーへんぼく
「ホントごめんねぇ~。 驚かすような真似しちゃって」
「大丈夫だった? 怪我とか……?」
「怪我はないけど……ビックリしたよ。ホントに……」
街灯が点々と地を照らす、真っ暗闇な世界の帰り道。
俺は愛子と愛梨の2人を連れて、最寄り駅へと向かっていた。
俺の隣を歩くのは双子の姉妹、愛子と愛梨。どちらも小さく可愛らしい女性だ。
この状況だけ見れば両手に花という状況だが2人に関してはそういう関係では決して無い。さっきは本当に焦ったが、それも杞憂事項だった。
「もしかしてぇ……ホントに私達に気があったとかぁ? 何なら内緒で付き合っちゃう?」
「……ったく、何いってんだ。 そんな事するわけ無いだろ。なぁ愛梨」
「もうっ、お姉ちゃんったら……」
からかい口調で笑いかける愛子にフイと顔を背ける。
まったく、そんな事になったら本当に修羅場になってしまうじゃないか。愛梨も呆れてるし、前だって奈々未ちゃんが聞いた話だけで服脱ぎそうになって大変だったんだから。
しかし愛子は俺の言葉を聞いていないのか、今度は口元を手で覆い隠して驚いたような表情を見せる。
「はっ!もしかして無理矢理襲われたいとか!?」
「えっ――。 大牧君……ホント……?」
「ないない! 俺はノーマルだから!」
「ほんとぉ? 聞いたよ優佳から。大牧君ったら何人も囲って誰にも手を出したことないって」
優佳は一体何を…………!
この3人は普段何を話してるんだ。
もしかして、彼女である5人みんなから本当にそう思われてるのか?俺が手を出さないのは逆に襲われるの待ちっていうフリ的な――。
――いやいや、ないない。 みんな頭いいんだからそういうのはキチンとまだ早いって理解してるだろう。…………してくれてるよね?
なんだか彼女たちへの信頼に少しだけ揺らぎが見え始めていると、ふと左袖が引っ張られる感覚に気がついた。
愛子だ。彼女は控えめながらも確かに俺の袖を引っ張ってこちらを見上げている。
「愛子?」
「その……私たちはいいけど優佳ちゃんを責めないであげてね。大牧君を想ってのことだったから……」
彼女の優佳をかばう様はまさしく切実だった。
上目遣いながら街灯に照らされた彼女の瞳が微かに光り、その思いを表しているかのよう。
俺はそんな心配ないと軽く笑顔を見せながら首を横に振る。
「わかってる。優佳からちゃんと聞いたから。 やり方は確かにアレだったけど……」
優佳の計画についてはあのあと直ぐに知ることができた。
本妻という部分についてはツッコミをいれたが、その他に関しては確かに懸念されて然るべきだ。
俺にはそのつもりは全く無いのだが、言葉だけで理解はすれ納得することは難しいだろう。
……でも、お風呂入ったからとは言え頑張った2人を送るの付き合ってくれていいんじゃないですかね?
俺だってお風呂入ったのに、それに夜道の運転はできないからこうやって徒歩になっちゃってるじゃないか。
「でも愛梨、嫌じゃなかったか? ウチの姉とソッチの姉の変な計画に巻き込まれて」
「ちょっと~! 誰が変な姉よ~!」
そうは言って無いのだが、あながち否定もし辛いのでスルー。
すると愛子は首を横に振り、俺と同じくはにかんだ笑顔を見せてくる。
「ううん、優佳ちゃんと大牧君の助けになりたかったし、計画しててちょっと楽しかったから」
くぅ……!その無垢な笑顔は可愛いねぇ……。
愛梨はこんな純粋なのに、愛子は真逆の性格しちゃって……。双子なのに人ってホント不思議だ。
「……なんかよからぬ念を感じる」
「き、気の所為じゃない? そういえば2人は良い相手いないのか?大学とか」
突然キッと睨んでくる愛子に俺は慌てて話題を変える。
ふー。危ない危ない。危うく心の中を見透かされるところだったよ。
「いるわけ無いじゃない。いたらさっきみたいな計画やらないわよ」
「それもそうか。 愛梨は?」
「私も……居ないかな……?」
「ふぅん……」
愛子はまぁ理解できる。いたら襲う演技なんてなかなかハードル高いだろう。
でも愛梨は意外だ。計画にもあんまり関与してなかったし、何よりその庇護欲を掻き立てる性格は男に好まれそうなものなのだが。
「そんな事言ってぇ。 愛梨ったらしょっちゅう告白されてるくせに~!」
「そうなの?」
「う、うん……。 断って!ちゃんと断ってはいるんだけどね……なんでか……」
当時のことを思い出したのか、愛子に指摘されて顔を真っ赤にしてくる愛梨。
あぁ、なかなかお眼鏡に叶う人に出会わないとかそんな感じか。
こういうのって難しいからなぁ。あんまり踏み込んでも地雷源に突っ込むだけだし、程々で切り上げないと。
「そっか。 でも愛子、教育実習で年下の生徒狙わないようにな」
「誰がするのよっ! そもそも行くこと女子校に決まってるわ!」
あ、そうなんだ。
教育実習で行った伶実ちゃんらと同じシンジョかな?
公立は学校選べないみたいだけど、私立だから融通きくのかも?
「お姉ちゃん、そろそろ……」
「え?あぁ、ホント。 それじゃあ大牧君、ここでいいわ」
「ん、もういいのか?」
「えぇ、もうすぐそこだもの。助かったわ」
愛梨の言葉に全員が正面を向けば、一際明るいライトに照らされた駅が目に前に見えた。
少し遅い時間で住宅街の駅ということもあり人はまばらだが、まだ終電には余裕がある。
「優佳に伝言頼める? 『今日はありがとう。また飲もう』って」
「あぁ、もちろん」
「それと『大牧君をからかいたくなったら呼んで。襲う以上のいいネタ考えておくから』とも」
「おい」
何を言ってるんだこの友人は。
襲う以上って一体何が起こるというのだ。考えたくないよ。
「冗談よ。冗談。でも、大牧君もありがとね。 みんなと喧嘩したら言いなさい。私が優しく抱きしめてあげるから」
「そうだな。 そんな日は来ないと思うけど」
全員と喧嘩って早々考えられないぞ。5人という、誰かしら諫める存在がいるんだから。
それこそ別れるとか言い出さない限りは……。
「ほら、愛梨も」
「う、うん。 ……大牧君、また遊ぼうね?」
「もちろん。 大学生活もまだ長いし近いうちにな」
俺はもちろん、彼女らの大学生活はまだまだ続く。時間だってたっぷりあるだろう。
就職までのモラトリアム、有効に使ってほしいものだ。
「それと、ちょっとは治るといいね。 その……とーへんぼくっ!」
「あぁ、ありが…………って、えっ?」
最後、愛梨はなんて言った?
とーへんぼく……唐変木?
「ほらほら、本当こと言ったら傷つくでしょう? それじゃあまたね。また連絡頂戴」
「ちょっ――――! さっきのって!な……に……」
俺が呼び止めるよりも早く、人の流れに乗り駅に消えていく姉妹。
唐変木ってなんなんだ……?俺は家へと引き返す最中、その謎の言葉に頭を悩ませるのであった。
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