第11話 絶体絶命

「……忍?」

「お父さんの知り合い?」

「ああ。でも師匠が確かにとどめを刺したはず」

「!?」


 予想もしていない大物と言うよりヤバい人でした。


 私がさっきから感じていた胸騒ぎの正体。

 ネクロマンサーと言っていたぐらいだから、生き返ることはありえる話。

 なんで今更なのかは分からないけれど、ネクロマンサーが魔王復活をさせようとしているのは想像が付く。


「星歌」


 バーン


 パパの尋常ではない声が私の名を呼び私を護るように抱き寄せられた途端、車は何かに衝突したのか激しい揺れとガラスが割れる音がする。

 なのに私は昨夜同様痛みを感じることはなかった。


「パパ?」

「大丈夫だ。それよりも少し我慢してくれ」

「え?」


 またパパが大けがをしていないかと心配で声を掛けても今回は無事らしくホッとしたのも束の間で、そう言われた後シートベルトを外され乙女の憧れお姫様抱っこをされ近くのビルの壁を垂直に駆け上がり屋上に辿りつく?


 ????

 

風を切って上るのは、気持ちが良い。

 お姫様抱っこをパパにしてもらって、なんか複雑な気分。

 なんて思う暇などなく、人間離れしている能力に驚くばかり。


 魔力結界の中だから、格闘家のスキル…………?



 バァーン

 


 私達が乗っていた車が大破して激しく燃える。

 あと少し脱出が遅かったら、私達は間違えなく死んでいた。


「パパ、私達助かるよね? 最初から飛ばしすぎている気がするけれど、でも大丈夫だよね?」

「ああ。何があっても星歌は護り抜くから」

「それってもう死亡フラグだよね?」

「死亡フラグ? ……そうかもな。二人で生き残る勝算はきわめて低い。龍ノ介と合流すればそれなりに対策もあるが、それを許すほど甘い男じゃないからね」


 恐怖は一気に起こり過ぎて嘘でも良いから大丈夫と聞きたかったのに、命の保証をされたのは私だけ。

 相手の強さがどれほどの物かを聞かされ、ますます恐怖は上積みされ手の震えも止まらなくてパパにしがみつく。

 パパの心臓の音も高鳴ってはいるけれど、心地よく暖かい。

 私と違ってこんな状況なのに、恐怖は一切感じられない。 


「パパは死ぬのが怖くないの?」

「父さんにとって一番の耐えられない恐怖は、星歌がいなくなることなんだ。だから今はそんなに怖くない」


 なんの迷いもなく答えられ微笑みまでくれ、ほんの少しだけ心にゆとりが出来そうだったのに、次なる巨大な恐怖はすぐに訪れバイクに乗っていた黒ずくめの男がどこからどもなく現れ再び不気味な笑みを浮かべた。


 空気は更に重くなり気持ち悪さを感じ、本能的に逃げろと赤信号で警告される。

 逃げたくても逃げられない。


「そうだな。龍ノ介がいればお前の勝算があるかも知れないが、あいにくこの結界は強力で、合流するのは無理なんだよな」

「……。なぜお前が生きている?」

「オレのスキルに記憶保持転生って言うのがあってな。魔族に転生後オレは魔王様を復活させるためにまたネクロマンサーの道に進み武道もかじった。そして地球でのほほんと暮らしてる器である魔王の孫娘を迎えに来たんだよ。まさかお前のような英雄候補の落ちこぼれの娘だったとはな?」

「娘は渡さない」

「は、渡す渡さない以前にこうしてほらよ」

「え、パパ?」


 一瞬で私は男に連れ去られ、縄で締め付けられ動きを封じられてしまう。


「娘を返せ」

「無理。この虫けら」


 ダーン


 パパの気迫は一気に上昇し男に詰め寄り攻撃を仕掛けるが、男はさらりと受け流し逆にパパを吹き飛ばす。

 それだけでは終わらず真っ黒な矢が無数に現れ、パパの身体を次々と貫き血で染めて行く。


 英雄の攻撃が何一つ決まらず、男にやられる。

今すぐ近寄って手当てをしないといけないのに、身動きが出来ない自分が情けない。


「パパ!! パパになんてことをするのよ?」


 今の私には声にしか出せなくて、怖い気持ちを押し殺し男を睨み付ける。


「力の差を見せただけだ。安心しろお前には選択肢が二つある。魔王の器として殺されるか、オレと結婚し新たなる魔王を産むか」

「!?」


 私が生き残る選択肢は聞かされるもそれはぞっとするような物で、考える余地もないほど嫌な選択肢だった。

 だったら死んだ方がマシだ。


「は、それで気配を消してるつもりなのかよ。雑魚の癖してゴキブリ並みの生命力」


 あんな攻撃を受けたにも関わらずパパはいつの間にか男の背後を取るけれど、男にはお見通しのようで頭を鷲掴みし今度は地面へと叩き付け、惨い音が響き渡る。


「英雄候補時代からオレはお前が嫌いだった。どんなにズタボロにしてもお前は立ち上がる。キショいんだよ」


 ドッズ


それでも立ち上がり攻撃の隙を狙おうとするパパに、男は苛立ち見下す台詞を言い捨て今度はかかと落としで沈められる。

 地面にひびが入るほどの衝撃なのにそれが何度も何度繰り返され、ポロシャツは原型がなくなるほど引き裂かれ赤く染まり目の色は死んでいないものの、血とアザで顔は最早無残なことになっていた。

 男にとってのパパは虫けら同然で、本気にもならない相手。

 一瞬で仕留めることも容易いはずなのに、よっぽど恨みがあるようで弄ばれている。


 地獄絵と言うのは、こう言う景色を言うのだろう。


 これ以上ううんもう限界なんてとうの昔に超えていて、男にどうあがいたって勝ち目がないのはパパ自身良く分かっているはず。


 でも私だから、

 ここで諦めたら、

 何もかもが終わってしまう。

 師匠を失い、最愛の人も失い、生まれて来るはずだった我が子も失い、私まで失ったら死ぬことより地獄でしかない。

 だからパパは死んでも諦めない。


 だけど…………。


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