第10話 嵐の前の静けさ
「それでさっきの話って言うのは?」
運転中のパパが不意に聞いてきた。
さっきからパパは少し元気がなく悲しそう。
「え、あうん。お母さんってどんな人だったのかなって?」
まさかここでなんで私の着替えをパパがしたのとは言えず、とっさに思いついたお母さんの事について聞いてみる。
「……そうだな太陽みたいな笑顔が素敵な子かな? 何事にも全力投球でたまにありえないドジをするんだよ。自分が魔王の娘であることを随分悩んでいてね。いつか魔族と人間が手を取り合える平和な世の中を夢見てた」
少しの沈黙の後沈んだ声で語りだす。
パパは今でもお母さんを愛している。
そしてきっとお母さんを助けられなかったことを今も悔やんでいるんだね。
もっとお母さんのことを知りたくなったけれど、これ以上根掘り葉掘り聞いたらパパは傷つかないかな?
「……写真って異世界にはなかったの?」
「あるよ。異世界と言っても物語のようにそこまで文明は遅れてないんだ。ここに入っている」
胸ポケットから取り出したパスケースを渡され、中身を見ると写真が二枚入っている。
一枚目は結婚式だろうか?
タキシード姿の若かりし頃でどっから見ても自信に満ちあふれているパパと、真っ赤なドレスを着た赤髪で腰まで伸びたソバージュで私に少し似ているけれど、尖った耳に八重歯と言うより牙を持つ少女。この人がお母さん?
二人とも溢れんばかりの笑顔をしている。
二枚目はパパとお母さんそれから一歳前後の私が映っていて、こちらも三人とも幸せそう。
パパにとってはこの頃が一番の幸せな頃だっただろうから、私の記憶にはない心の底から満悦な笑顔を浮かばせている。
こんなのを見せられたら嫉妬と似た感情が芽生え複雑な気持ちになるけれど、最愛の妻と子供を亡くしているのだからしょうがない。
心の奥底にはけして消えることのない傷が深く刻まれている。
私には何か出来ることはないのだろうか?
ほんの少しでも傷を癒やしてあげたい。
「私が結婚するまで、一緒に暮らそうね。なんなら婿養子をもらって、一生仲良く暮らすのも良いかもね?」
そんなパパを一人にさせたくないと思ってしまい、ちょっと気が早い話をしてしまう。
これが私の思いつく最善の手。
「星歌は好きな人はいるのか?」
「まだいないよ」
「
「あれは友達でいいの」
娘を溺愛する父親なら彼氏なんて認めないと言うのが普通なのに、パパは何を血迷ったのかよりにもよって太を薦める。
太をよく知らないと言うことはないはずだから、何か理由があると思いながらもあれ呼ばわりで却下。
陽が好きだと言っているから紛らわしくなることは言わないけれど、だったら龍くんの方がすべてにおいていいかな?
しかしそう言えば龍くんが父ちゃんではないと知った時、なら結婚すると言ったら珍しく機嫌が悪くなって
絶対やめろ
と言っていたっけぇ?
親友が義息子になって、“お義父さん”と呼ばれるのは流石に嫌だったんだろうか?
もし私がパパの立場だったら…………死んでも嫌かも。
「だったらもし好きな人が出来たらすぐに教えてくれよ」
「え~、そりゃぁ彼氏が出来たら教えるけれど、好きな人が出来ても教えたくないな。それともパパはおばあちゃんに教えていたの?」
「うっ……、教えたことがない。龍ノ介にもすぐには教えなかったな。……速攻バレたが……」
考えなしであろうパパの発言にすねた口調で喩え付きの正論を言い返せば、解ってくれたのかしょげることなく納得し失笑する。
どんな時でも娘の味方で物分かりもいいのだけれど、乙女心はまだまだなんだよね?
お母さんと恋愛していたはずなのに、とことん鈍い。
「でしょ? だから内……え?」
突然昨夜と同じ張り詰めた空気に変わり、町並みに溶け込んでいた人々や自動車がさっと消え、太陽の明るさは何かに遮断されたのか薄暗くなっていく。
嫌な胸騒ぎがしかしてこなくて、昨夜のことを思い出すと怖くもなりパパの服の袖を掴む。
私はまだ狙われている。
もちろん忘れていたわけではないけれど、もう少し時間を空けてから来て欲しかった。
まだ心の準備が出来ていない。
パパ曰く蛙男は雑魚ではなく、中級魔術を使用できる実力の持ち主だったそうだ。
だから蛙男の親分の強さはそれ以上……パパと龍くんは英雄だったから余裕?
なのになんでこんな胸騒ぎがするのだろう。
「星歌、大丈夫。父さんがいる」
「うん。だけどこれってどうなっているの?」
「魔力結界だな。魔術やスキルの能力を強化させることが出来る」
「じゃぁ人が消えるのは?」
「認識能力が優れている人以外は、その間構築された仮想空間へと飛ばされるらしいが、実際の所は俺も良くは知らない。魔術系は専門外なんだ。とにかく龍ノ介と合流しよう」
パパは至って冷静に私の問いに知っている限りを答えてくれ我が家に戻るためUターンし、他に車が走っていないからだろうかパパにしては珍しくアクセル全開で車を飛ばす。
一体何が……。
「え、バイク?」
誰もいないはずなのに、バイク音が近づいてくる。
「龍ノ介か?」
「龍くんのバイクじゃないから違うと思う」
「!?」
バイクに乗っているのだから異世界人ではないと高を括っていたのもあって、暢気に席を乗り出し後ろの窓から詳細を確認。
バイクも黒ければ、服も黒ずくめ。
私が見ていることに気づき、不気味に笑い私達を追い越す。
その時とてつもない殺気を感じ恐怖を感じた。
そしてパパもまるで幽霊を見たかのような信じられない顔に変わり、一気に血の気が引き青ざめていく。
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