第9話 パパ達の過去
「師匠とおっさんが異世界の魔王を倒した英雄様。星歌が魔王の孫娘で、異世界の魔王の部下達に狙われてる…………」
昨夜のこととパパ達の過去を話し終わった直後、
蛙男を実際に見ていないと、ラノベを愛読書にしている太でも簡単に受け入れられない。
でも信じられないんじゃなく、信じようとしている。
それはやっぱり太にとって神的の存在である龍くんの説明に、大切な妹である陽が蛙男を見ていたからだろう。
私はと言えば、初めて知るパパの過去になんて言って良いのか分からないでいる。
パパと龍くんは異世界に英雄候補として召喚されるまでは、親同士は仲が良くても子供同士は面識がある程度のただのクラスメイトだったそうだ。
パパは大人しくて頼まれたことは断れないお人好し。成績優秀で運動もそれなりだったけれど地味で目立たない男子。
龍くんはその頃から剣道では無敗を誇り成績もそこそこ優秀で、明るく頼りになる人気者。
そんな二人以外にも英雄候補として四人召喚され、計六人で一年武者修行を行い最後まで残った四人は能力を開花させ魔王討伐の旅が始まった。
パパは格闘家。龍くんは魔導剣士。サーシャさんと言う女子高生は僧侶。充さんと言う大学生はハンター。
最初のうちは順調に旅は進んではいたものの一年修行しただけでは経験の差が目に見えてきて、頑丈で自然治癒のスキルを持つパパが自ら特攻隊を勤めようやく勝てる崖っぷちの日々が続くようになった。
そこでもう一度修行をして一年後合流しようと言うことになり、一年後全員が見違える程のレベルアップをして合流。
しかし喜びを分かち合ったのも束の間、かって英雄候補仲間だったが性格が残忍だったため強制送還されたはずのネクロマンサーである青年が魔王の腹心になって現れたそうだ。
そして戦いは始まったものの、まったく歯が立たず全員瀕死状態になり、ネオロマンサーはあざ笑いながら消え去って行ったそうだ。
その時彼らは魔王の腹心でさえまったく歯が立たないのに、魔王討伐なんて夢のまた夢。
当然異世界を見捨てて地球に戻ろうと言う話になるも、パパだけがこの世界を見捨てられないと猛反対。一人になったとして魔王討伐の旅を続けると固い意志を示した。
それでもサーシャさんと充さんは賛同してくれず二人離脱。
龍くんはその時パパの芯の強さに感動し、一生着いて行こうと決めたとか。
二人になり二人の師匠がパーティーに加わり修行しつつ魔物退治に明け暮れていた中、吟遊詩人のエルフと魔導師のお母さんとハンターの女性が加わった。
パパとお母さんはお互い一目ぼれだったらしいけれどなかなか進展しなかったから、第三者には随分微笑ましい日々を送っていたらしい。
旅の方も順調で中ボスレベルでも難なく倒せるようになりようやく魔王討伐さいかいの目途が経った頃、再びネクロマンサーが現れた。師匠の犠牲のおかげでなんとか勝利するも、ついに一度も弱音を吐かなかった鋼の精神力を持つパパの心が折れてしまい鬱状態に陥ってしまった。
そんなパパに寄り添い続けたのがお母さんで、二人は必然的に愛し合うようになり私を妊娠。
パパは私が生まれる時には平和な世の中になって欲しいと願うようになり、龍くんと吟遊詩人の三人で魔王討伐を再開。
その途中でも数え切れない困難があり吟遊詩人を失うも、魔王を倒した二人は英雄となった。
その後龍くんは魔術戦士として、世界のために活躍。
パパはお母さんが魔王の娘と知っていたため、首都から離れた自然豊かな小さな村の領主となり親子三人で暮らし始めた。
物語ならハッピーエンドで終わるはずが、リアルはそうではなかった。
約二年後、聖都への出張中、再び妊婦となっていたお母さんと私は村人達に襲われお母さんは死亡。
私はお母さんに庇われた状態で見つかり九死に一生を得たが、魔王の孫娘だと知られたため異世界では生きて行けなくなり、パパは私を連れ地球へ戻ることを決意した。
そして精神崩壊寸前であろうパパを一人で地球に戻せないと判断した龍くんも、一緒に戻ることになり立ち直るまで一緒に住み私を育ててくれていた。
私の存在は異世界を救った特典なのか戸籍があり、高二の少年が二歳の子持ちであっても誰も疑問を抱かなかったらしい。
海外赴任中の祖父母さえも疑問視しないで、最初から私を受け入れてくれ可愛がってくれている。
私も年に二回しか会えないけれど、おじいちゃんとおばあちゃんのことが大好きだ。
「昼食の買い出しに行ってくる」
「じゃぁ私も一緒に行く」
過去を話し尽くしたことで辛い気持ちになっているだろうパパの台詞に、思わず席を立ちあがりそう言ってしまう。
空気を読んで一人にさせるのが正解かも知れないけれども、ただ私が今パパと一緒にいたいだけ。
「そうだな。なら十分後玄関に集合な」
「え、あうん?」
と言って、パパは先にリビングから出て行く。
断れなくて良かったけれど、なぜ十分後なのだろう?
今すぐ……。
「あ、私まだパジャマのままだった」
今更自分の服装がパジャマだったことに気づいて、着替える時間をくれ
「あれ、私一体いつ着替えたんだろう?」
「あ、それなら星夜が着替えさせてた」
「は、パパが?」
考えが二転三転していて思わず間抜けな自問自答を呟くと、龍くんがあっけらかんと答えるからさぁ大変。
年頃の太くんは何か疚しい想像をしたらしく、鼻血を出しそのままテーブルに沈む。
それが余計恥ずかしくってパパに文句の一つや二つ言いたくもなるけれど、パパのことだから百パーセント善意で着替えさせてくれただけ。
何も落ち度は……いやある。
十分ある。
どんな理由があったとしても娘の着替えをする父親がどこにいる?
さっきは必要以上に動揺していたのに、なぜ娘の着替えの類いは平気?
娘は女ではない?
「星ちゃん、大丈夫? 喜怒哀楽激しいよ」
「私これからのために一言文句を言ってくる」
同性である陽に同情されることによりやっぱり、これは一言言わなければ私の気持ちが収まらないと思い、そう言い残しリビングを飛び出し階段を駆け上る。
「パパ、話があるの」
「星歌? 後でいいか?」
「え、あ、うん。……邪魔してごめんなさい」
気が立ったまま話す事ではなく大きく深呼吸してから声を掛ければ、まさかの拒否回答にショック所か呆気に取られたまま話そのまま自室に直行する。
なんとなくクローゼットを開け、目についた夏らしい水色のワンピースを選んで着替える。
気持ちを高めようとして、今日は暑そうだから久々にポニーテールで涼しげな風鈴のピアスをチョイス。
…………。
…………。
初めてパパに拒否をされてしまった。
今まではどんなに忙しくても、私のことを最優先にしてくれたのに……。
お前はお子様かよ?
と突っ込みを入れて笑って流したいのに、どんどん気持ちは沈んでいくのだった。
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