第15話 青き衣を纏いて…
「ぶはっははっ、何? 何それ? 俺が風呂に入っている間に何があったのオマエ?」
自室に戻ったチタン、部屋のベッドの上でポチョンッと蹲るクロコ。
「笑うな、己の容姿を忘れ他人の姿を笑う、身の程知らずなチタンよ」
「オマエ、ホント何が起きたの?」
「話せば長くなるが…まぁ外を一人で歩けるようにしてくれと頼んだ結果、こうなったのだ…スポンジブレインのチタンよ」
「人を狂牛病みたいに罵るなよ」
悪魔クロコは召喚の際に30cmほどの黒い猫を、シルクがオリジナリティ溢れるdokuシルク独自の解釈で制作されたフェルト製のぬいぐるみである。
2足歩行を前提として制作されているため、デッサンの時点で本家である猫を骨格的に凌駕しているのだ。
「簡単に言うと在り得ん存在ということだな」
チタンが2本目のゴリゴリ君ソーダ味をコキッと歯で割った。
「ウグッ…チタンよ、その音はやめてくれ、ゾワッとする」
「この音がか?」
コキッ‼
「性格の悪さが顔にまで影響を及ぼしているトタンよ、魔界へ送ってもよいのだぞ」
「トタンじゃねぇ‼ ランクを下げるな‼」
とりあえず改造手術を終えたクロコ。
なんか青いジャージを着せられていたのだ。
「うん…まぁ…な…いいんじゃねぇ? 服着たくらい」
「そうなのだがな…」
改造という割には無難に落ち着いたことで安心はしたクロコ。
裸の黒猫に追加された装備は首輪(連絡先記入済み)と青いジャージである。
コレが絶妙に似合わないだけで、無難に着地はしたのだ。
ガチャッ…
チタンの部屋に入ってきたシルクがクロコの腕(前足)を掴んで引きずって出ていった。
無言でチタンにも付いてこいと顎で促して…
猫の額ほどの庭に出ると、まずチタンの顎が外れた。
「姉ちゃん…コレ…」
「黒魔術…使うの…金色の野が必要…」
再び青いワンピースを着たシルクが、おそらくはスプレーを噴射したと思われる金色の芝生の真ん中に背中を丸めたまま素足で降り立つ。
そしてブツブツと呟いた。
「その者、青き衣を纏いて金色の野に降り立つべし…」
「呪文かシルク?」
クロコが尋ねた。
「早く…ワラジムシを巨大化させて…」
「ハッ‼」
チタンが気づいた。
「姉ちゃん…先週のフライデー・ロードショー…『風の丘のウマシカ』」
「………その者、青き衣を纏いて金色の野に降り立つべし…」
「姉ちゃん‼ そのために…ワラジムシを?」
よく見りゃ、シルクの足元でモゾモゾと蠢くワラジムシ。
「……早く‼」
「……いいのかチタン?」
クロコがチタンに尋ねる。
「ダメだろう…ワラジムシが巨大化したらダメだろう…」
「ラン♪ランララ♪ランランラン♪」
目を閉じて両手を広げてソワソワしているシルクを置き去りにチタンとクロコは部屋へ戻った。
「シルクちゃん‼」
7分ほど経って素足のまま庭からリビングへ入ってきたシルク。
金色の足跡を残して部屋へ戻る途中、母に怒られていた。
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