第13話 青い衝動と切なる願い

 帰り道、両手で大事そうに虫かごを持ちニタニタと笑うシルク。

 嬉しそうな顔でワサワサと蠢くワラジムシがミチッと入った虫かごを眺めているシルク。

「ホラーだ…ホラー映画の序盤に感じる気味悪さだ」

 シルクの後ろを歩くチタン、背筋がゾクッとなる。

「心配するな、地を這う虫と同等な弟チタンよ、バカは風邪をひかない」

「そういう寒気じゃねぇんだよ‼」


「あらっ、お帰り」

「ただいま…」

 パンプスをスポンッと脱いで笑みを浮かべたまま部屋に戻るシルク。

 シルクの脱ぎ捨てたパンプスを揃えて並べるチタン。

「なんかアレだな…チタンよ、オマエがシルクの靴を触っていると変質的な空気を感じるな」

「そういう趣味はねぇ‼ 大体、使い魔ならクロコがやれよ‼」

「うむ…そういう趣味はないんでな」

「どういう趣味だよ?」

「趣味というか嗜好というか…まぁ人間みたいに性別がないしなワタシ達は」

「そうなの? 男とか女とかないの? 悪魔ってそうなの?」

「うむ…性別とかない、むしろオスメスが存在する意味が解らん、必要か?」

「オマエ達ってどうやって増えてるんだ?」

「ん? 考えたことないな…産まれるとか、育てられるとか…う~ん、考えると怖いな」

 自身の存在に漠然とした不安を覚えるクロコであった。

 己の今が揺らぐような錯覚に襲われながら、よくよく自身を鏡に映せば個性的なデザインの黒猫である。

 それも主な構成素材はフェルトである。

 あまり自身の姿など気にしたことはないクロコだが、ぬいぐるみというのはどうだろう?

 なかなかにシュールな現実、玄関の鏡に映る人間界での姿は魔界のソレとは比べるべくもない。

「あんまり気にしたことなかったが…コレはどうだろう」

「おい…どうしたクロコ?」

 何やら鏡の前でブツブツ言っている黒い猫のぬいぐるみの様子を気にして話しかけるチタン。

 オスだのメスだので悩み多き下等生物の気遣いなど完全に無視してフェルトでできた前足をグッと握って自称上位悪魔クロコは階段を上り契約者シルクの部屋に前に立った。

「シルク‼ 話がある」

 フェルトの前足ではノックもできないので、ヌルッとドアを通り抜け入室したクロコ。

 一応、契約者であるシルクに敬意を払い一声かけてから入室するようにしている。

 さすが悪魔でも上位悪魔となると違うのだ。律儀な悪魔である。


「なに?」

 暗めの部屋でカサカサ動くワラジムシを眺めているシルク。

「シルク、器の改善を要求する‼」

「器? 身体のこと…気に入らないの?ソレ…私の手製なんだけど」

 ジト目の美少女シルク、クルッと振り返り無言でクロコに圧をかけてくる。

「気に入らないとかではないのだ、もう少し、外を歩いても違和感のない身体が欲しいというかだな…いや、この身体で人目に付くのもマズイのではないかという私なりの気遣いというか…だな」


 しばし考えたシルク…一言

「解った…」

 どうなるクロコの身体?

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