第12話 青空の下 石の下

 シャッ…

 分厚いカーテンを開けたシルク。

 サンッと部屋に光が差し込む。

 漆黒の長い髪、陽に照らされ艶やかに光沢を放つ。

 綺麗な顔をニタッと歪めシルクが微笑む。

 ゾクッ…

 シルクの、その笑顔に鳥肌が立つチタン。

(綺麗なんだけど…怖い)

 例えるなら…夜中に見るフランス人形という感じだろうか?

「クロコ…ワタシ、散歩してくる」

 フラッと部屋を出ていくシルク。

「散歩? 私も行くのか?」

 グイッとクロコの前足を握って、引きずりながら階段を降りていくシルク。

 引きずられながらクロコはチタンにアイコンタクトを送った。

(付いてこーい‼ 一人じゃ抱えきれないナニカが起こる気がする)


 伝わったどうかはさておき、言われるまでもなくチタンはストーキング…尾行を開始した。

 薄いブルーのワンピースが陽に透けて、シルクの長い足のシルエットが浮かぶ。

 黒い猫のぬいぐるみを引きずってさえいなければ、美少女なだけで済むのだろうが、悪魔的なぬいぐるみのワンポイント、ソレをズリズリと引きずって歩くシルクは、ただの美少女では終わらない。

(近づきがたい美少女…いや近づいたらヤバイ美少女)


「あれじゃヤベェ人だよ…姉ちゃん…」

 弟ですら、ヤバイと呟いちゃうほどのデンジャラスが駄々洩れちゃってるシルク。


「シルク、聞きたいのだが?」

「なに?クロコ」

「どこに行くのだ?」

「グフッ…沢山いるとこ…」

「何がだ? 何を大量に欲しているのだ? 金か? 魂か?」

「コレ…グフフ」

 ポケットから白く細い指に摘ままれたものは

「ダンゴムシ…でいいのか?」

「違う…ワラジムシ」

「丸まらない方の蟲か…なんでコレが大量に必要なのだ?」

「大きくして…欲しいの」

「コレを大きくすればいいのか?」

 クロコの問いに無言でコクリと頷くシルク。

「沢山大きくして欲しい…叶う?」

「造作もないことだが…ロクなことになりそうにない予感が一択なんだが…主の命とあれば従おう」


「というわけだ、実の姉をストーキングする弟チタンよ」

「オマエが来いって言ったんじゃねぇか‼」

「いや…言ってはいない、都合よく過去を改ざんする弟チタンよ、ワタシは願っただけだ」

「伝わったんだよ‼」

「何よりだ」

 合流しちゃったチタンが山で石をひっくり返してはワラジムシを集めている。

「チタンよ、それはダンゴムシだ」

「うっせぇ‼ 一緒じゃねぇか‼」

「聞け、知恵無き弟チタンよ…丸まらないのがワラジムシだ、シルクが欲しているのはワラジムシだ」

「そこは大事…混ぜるな危険…グフフ」

「なんなんだよ…うぉっ…でけぇミミズ…気持ち悪っ…」

「腹が減ったら食うがいいぞ、そのミミズ、ゲテモノ食いの弟チタンよ」

「気持ち悪ぃって言ってんだろぉが‼ 食うかボケ猫‼」


「沢山獲れた…グフフ…」

 虫かごにミチッと詰まったワラジムシを眺めて満足そうなシルク。

 時刻は20:00を回っていた。


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