第10話 結局、ヒトは慣れるもの

 悪魔に憑依された猫のぬいぐるみ、シルクのお手製である。

 2足歩行する黒猫、その名は『クロコ』シルクが名付けた使い魔である。

「クロコ…お前、魔法でチャチャッとできねぇの?」

「チタン…シルクのバカな弟よ、悪魔の魔法は万能ではないのだよ」

「使えねぇ使い魔だなオマエ」

「チタン…シルクの残念な弟よ、悪魔の魔法でゴキブリに変えてもいいんだぞ」

「魔法使えるんじゃねぇか‼」

「使えるぞ、悪魔だからな」

「その魔法で、爺ちゃんの蘇生とかパパッとやって、サッサと魔界へ帰れや‼」

「チタン…シルクのダメな弟よ、悪魔が蘇生とか聞いたことがあるか?」

「出来ねぇんかい‼」

「うむ…蘇生とか? 聞いたことない」

 顔の前で手を横にヒラヒラと振り否定するクロコ。

「じゃあ、姉ちゃんは何のためにオマエと契約したんだ?」

「それは言えんな‼」

 食い気味で否定してくるクロコ。

「このクソ猫が…」

「猫? ワタシは猫ではない悪魔だ…ふぅ~、理解の悪い弟君だこと…脳みその代わりにスポンジでも入っているんじゃないか? チタンよ」

「頭に綿しか入ってねぇヤツに言われたかねぇ‼」

「やれやれ…綿と布の塊の中に悪魔が入っているのだよ…智天使クラスのな…やれやれだ」

「天使? オマエ…悪魔じゃねぇの?」

「はぁ~、悪魔だの天使だのと…我々を勝手に線引きするのが人間の悪いところだ、天使も悪魔も同じようなもんだ、お前等、人も人種やら性別やらで区別しているだろ、それと変わらん」

「さっぱりわからん」

「うんうん、所詮、チタンということだ、ワタシの存在はスポンジの理解の遥か外だ、気に病むな…バカらしく晴れやかに生きるがいい、それがチタンだ」

「燃やすぞ、この野郎…」

「入れ物が燃えても別に困らん…それにな、そんなことしてみろ、シルクに燃やされるぞオマエ」

 チタンは想像してみた。

 シルクが自分に火を放つ姿を…容易に想像できた。

「やりかねん…」

「そうだろう、そうだろう、シルクはやるぞ、己に正直、欲望まっしぐらだからな」

 パンパン‼

 隣のシルクの部屋から手を2回叩く音がした。

 チタンの部屋で寛ぐクロコ、その猫の耳がピクッと動いた。

「呼ばれたようだ、じゃあなチタン」

 テクテクとドアを開けて部屋を出ていくクロコ。


「アイツ…鯉みたいな呼ばれかたしてんのか…」


 よくは解らんが、悪魔の中でも偉い存在をパンパンで呼びつける我が姉シルク。

「姉ちゃんは、そんな悪魔とどんな契約を結んだのだろう?」


 そんな悪魔がシレッと同居人として生活している我が家族の呑気さ。

(許容量の大きさにも限度があるぜ…)


 召喚から数日で、その超常的非日常は通常運転となったのである。

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