第9話 その名は『クロコ』

「アバドンの地より来たれ…闇の眷属よ…彼の地から我が元へ来たれ‼」

 なにやらポーズを決めながら部屋で召喚術を決め込んでいるシルク。

 無料翻訳をフルに使って呪文の解読を終え、現在は実戦中である。

 無料翻訳にルーン文字が対応していたことは幸いであったといえよう。

 恵まれた容姿でビシッ‼とポーズを決めるシルク、色んな意味でキマっちゃっているわけである。

 色々、調べた結果、どうやら灰からの蘇生はハードルが高いと結論づけたシルク。

「……悪魔に頼もう…」

 カント寺院の場所が解らなかったのである。

 本店どころか支店も見当たらなかった。

 残念な事である。

 そんなわけで悪魔に頼もうと思いついたわけだ。

 2時間ほどで冒頭の召喚術に辿り着いたシルク。


「…………」

 シルクがビシッ‼とポーズを決めていた同時刻。

 隣の部屋でベッドで寝転がっていたチタン少年は絶句していた。

 壁からニュッと見たこともねぇ生き物が、いきなり生えてきたからである。

「オマエ…オレ…ヨンダ?」

「喋んのかい‼」

 壁から生えた見たこともねぇ生物はカタカナで話しかけてきた。

 しかも疑問形で。

 チタンも色々、驚いていたのだが、一番驚いたのは、壁からニュッと生えてきた生物が喋ったことである。

「喋るけどね…久しぶりだけど、一応大学でてるしね」

「急に流暢に喋りだすな‼」

「急に呼び出すわ、怒鳴りだすわ、なんちゅう教育受けてんのかね~人間界のガキは」

「呼んでねぇわ‼」

「はい? なんで呼ばれてないのに…オレ…出てきたん?」

「……隣じゃねぇかな…というか…絶対、隣だわ」

 バンッ‼

 チタンの部屋のドアが乱暴に開けられ、シルクが無言で入ってきた。

「姉ちゃん…」

 ドカッ‼

 細くて長い足で生えてきた謎の生物を蹴り戻そうとしているシルク。

「痛い…痛い痛いって‼」

 グボッン…

 なんかパイプの詰まりが解消されたような音と共に謎の生物が壁の中に消えた。

「ふ~っ…危ないところだった…」

 額の汗を拭うシルク。

「えっ? 俺、危なかったの? 姉ちゃん、俺危なかったの?」

 クルッとチタンの方に向き直ったシルク。

「大丈夫…ワタシ、なんかコツを掴んだ気がする…グフフ」

 ニタニタ笑いながら部屋に戻っていったシルク。


 ドキドキが止まらないうちに再びチタンの部屋のドアが開いた。

「いや~さっきは自己紹介も終わらんうちに、まぁ今後ともヨロシク」

 トコトコ喋りながら入ってきた黒猫のぬいぐるみ。

「なんなんだオマエは…」

「クロコ、シルクが名前をくれた、私はクロコであるらしい」

「クロコ?」

「そうだ、シルクに召喚された悪魔だ」

「悪魔?」

「契約満了までコッチで暮らすから、ヨロシクな」


 悪魔にヨロシクされるとは…人生とは解らないものである。

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